ようこそ喫茶パンドラへ! 作:とくめい
あと独自解釈も含みます。
それでもご覧になっていただけたら嬉しいです
「うへぇ~今日は随分あついねぇ~。」
ジリジリと太陽が私のことを照らし続ける。先ほど出てきたばかりなのに、もうシャーレの部室が恋しい。
”もう少しで着くからね”
先生は苦笑しながら私に話しかける。
「楽しみだね~先生おすすめのお店。もちろんおごってくれるんだよね?」
”...うん、もちろんだよ”
「さすが先生、ふとっぱら~」
肩を落とす先生に少し申し訳ない気持ちがわく。せめて心から感謝していただこう。
”あっ、ほら見えてきたよ”
先生が指さした方向には一つの喫茶店があった。お店の前で、白い髪の従業員さんが玄関を掃除している。噂の店長さんかな。
”こんにちは”
「おっ!先生じゃないですか!!」
にこにことした笑顔が印象に残る、そんな人だ。
「————————!」
「アロナもいらっしゃい。新しいお菓子も作ったから食べっててよ」
店長は先生のタブレットへと話しかけた。
アロナちゃんが見えるというのも本当らしい。先生と彼にしか見えない不思議な存在。私もいつかお話してみたい。セリカちゃんを助ける時も手伝ってくれたらしいしね。
「あと君も——」
こちらに目が向けられる。
こっちから自己紹介した方がいいかな、なんて考えていたけど
「エ゛?!」
いきなり奇声をあげたものだから思考は中断されてしまった。
「いきなりどうしたの?おじさんの顔になんかついてる?」
「いや、違う違う!そういうわけじゃないよ…」
確か、初対面のはずだ。少なくとも私は覚えていない。
「もしかして会ったことあったりするのかな~。ごめんね、おじさん最近記憶もあいまいでさ」
「いや、初対面だよ…。うん、初対面」
どうやらそれも違うらしい。動揺しているのは明らかだ。多分私のせいだと思うんだけど…本当に心当たりがない
「いやぁ今、今かぁ。どうしよう…会わせてあげたいけど。まだ早いよなぁ。一応仮面もつけてるし、バレなかったりしないかなぁ…」
何やらぶつぶつとつぶやいているが聞こえない。
”えっと、どうかしたの?”
たまらずといった様子で先生は尋ねた。
「うーん、ま、いいや!何とかなるか!すみません、ちょっと考え事してまして。」
”それならいいんだけど…”
「君も!いきなりごめんね、びっくりしたでしょ」
「ぜーんぜん大丈夫だよぉ。こう見えても年長者だからね~、並大抵のことじゃあ驚かないよ」
…誤魔化しているのは明白だ。こういうときに人を疑ってしまうのは私の悪いところなんだろうか。でも先生は子供には優しいから、騙されてしまっている可能性もある。
私の中での警戒心を少し上げる。
「自己紹介がまだだったね~おじさんは小鳥遊ホシノっていうんだ、よろしくね~」
「俺はこの店の店長!店長かマスターって気軽に呼んでね。よろしく、ホシノ!」
表面上は穏やかに、お互いの自己紹介を終えた。
「ささっどうぞ入ってください、今はお客さんもいないから貸し切りですよ!」
”それ大丈夫なの…?”
「夕方で帳尻合わせるので問題なしです!」
扉を開けた瞬間冷たい風が流れ込んでくる。
そして
「いらっしゃいパンドラにようこ——」
その人を見て、私は動けなくなった。
”どうしたの、ホシノ?”
返事をする余裕なんてない。時が止まったような錯覚にさえ陥る。
ありえない。だってあの時行方不明になって、死んだはずだ。死んだ人は生き返らない…そんなこと誰にでも分かる当たり前のこと。希望をもっても裏切られるだけだって、わかってる。
でも、それでも、
「ユメ先輩、なんですか?」
確かめずにはいられなかった。顔もわからないし、まるで存在に靄がかかったようにうまく認識できない。だけど私の心が彼女はユメ先輩だと叫び続けている。
「…ホシノ、ちゃん」
「ユメ先輩ッ!」
その声を聴いた瞬間私は胸に飛び込んでいた。
とくんとくんと心臓の動く音がきこえる。確かに、生きてる。
「会いたかったです…」
二度と会えないと思っていた。こうして再会することを何度願ったかわからない。
話したいことだっていっぱいある。
それなのに
「先輩…?」
なんで、何も言ってくれないんですか。
「ち、違うの。私…」
それを見て思い出す。私がいったい何をしてしまったのかを。
『あなたはアビドスの生徒会長なんですよ!もう少し、その肩に乗った責任を自覚したらどうなんですか!』
「…急に、すみませんでした」
「えっ…?」
先輩から距離をとる。
そうだ。何を浮かれていたんだ。私のせいで先輩はいなくなったのに…受け入れてくれるとでも思っていたのか。
…謝らないと。そんなことしても許されないけど、やらなきゃ駄目だ。そうしないと私は…
「ユメ」
不意に声がした。
「店長…」
「もういいよ隠さなくて。せっかく会えたんだからさ、言いたいことちゃんと伝えないと」
罪を裁かれるのを待つ罪人のような気分だ。
いったい何を言われるんだろう。罵られるだろうか、助けられなかったこともなにもかも。でもそのすべてを受け止めなきゃいけない。その責任が私にはある。
「……」
仮面がゆっくり外される。
あの日から何も変わらないユメ先輩がそこにはいた。
でも先輩は泣いていた。いつも笑顔で、太陽みたいに輝いていたあの先輩が。
「私も、会いたかった」
「ずっとずっと会いたかった」
今度は私が抱き寄せられる。
「せん、ぱい」
意味が分からない。「お前のせいだ」って責められてもおかしくないことをした。私が憎いはずだ、恨んでいるはずだ。
「ごめんね私がバカなせいで…離れ離れになっちゃった」
「そんなわけ、ないじゃないですか。」
その言葉は即座に否定する。私が全部悪いんだ。やさしさに甘えて、一方的に自分の言いたいことだけ言って先輩を追い詰めた。
「私のせいです…私が先輩を傷つけたから。本当に、ごめんなさい」
私がどれだけ救われていたのか、当時の私には理解できていなかった。後悔してもしきれない。
「それは違うよ」
「私はホシノちゃんに傷つけられたことなんてない。絶対に」
…こんなことあっていいのか。私は先輩と一緒にいても、いいのか?
「こんな私を許して、くれるんですか…」
「当たり前だよ。だって私は」
「ホシノちゃんが大好きなんだから」
あれからどれぐらいたっただろう。私はずっと抱き着いたままだった。
「えっと、ホシノちゃん?そろそろ」
「…もう少しだけ、ダメですか?」
だってやっと会えたんだ。できるならずっとこうしていたいくらい。
「ほら、二人も見てるし…私もちょっと恥ずかしいかも」
「え?」
あ
完全に忘れていた。じゃあ今までの全部見られて——
ぎぎぎと壊れた人形のように振り返る。
”あはは…”
「あ、終わった?」
そこには愛想笑いを浮かべる先生とコーヒーを飲む店長がいた。
◇◇◇
「終わりです…」
ホシノは顔を真っ赤にして机にうなだれている。
「いやぁ~感動したねぇ。俺がもうちょい若かったら泣いてたね、確実に。」
”そのくらいにしてあげて…”
なぜか追い打ちをかける店長。ああ、ホシノの顔がさらに赤く…
”というか知り合いだったんだねユイ、じゃなくてユメとホシノって”
とにかく話題を変えよう。あまりにもホシノが可哀そうだ。
「私はもともとアビドスの生徒だったので」
”そうなの?”
「はい。少し前の話なんですけど…」
そういえば、アビドスには行方不明になった生徒会長が居たって聞いた気がする。あまり触れてほしくなさそうだったから詳しくは聞かなかったけど、それがユメだったのか。
”ユメは行方不明になったって聞いてたんだけど、そこからなんでここで働くことに?”
見たところホシノはユメが生きていたことすら知らなかった。それにユメもホシノに会いたがっていたことも確実だ。わざわざ正体を隠してまでここに来た理由が見当たらない。
「それは——」
「そこは俺が説明しますよ」
ユメの話を遮るように店長が言葉を重ねる。
「と言ってもそこまで複雑な話じゃありません。俺がたまたまユメを見つけて、そのまま保護しました。それを誰にも話さなかったのはカイザーがいたからです。」
…その名前をここで聞くとは。
「俺がユメを連れているとき、カイザーが無理やり連れ去ろうとしました。」
「まあそこは何とかしたんですけど、やっぱり正体は隠してた方がいいと思ったんです。」
”なるほど…”
言いたいことはわかった。つまり店長はユメを守りたかったんだ。正直に言ってしまえばアビドスはそれほど力を持っていない。ユメがカイザーに狙われているとしたらたとえ戻ったとしても安全とは言えない。
「…カイザー」
ぎり、手を握り締める音がホシノから聞こえた。きっと私と同じ気持ちだ。
店長は頭を下げて告げる。
「せめてアビドスにだけは伝えたかったんだけど、ごめんね」
もしかしたらユメに正体を隠させていたことに負い目を感じていたのかもしれない。ユメから話を聞いたとしたら、ホシノがアビドスで一人になったことを知っていたとしても不思議じゃない。
でもきっとホシノは気にしていない。
「…店長が謝ることなんてなにもありませんよ。あなたのおかげでユメ先輩は助かった。」
「それが全部です。だからありがとうございます」
ホシノにとって店長は恩人といえる。そんな人を糾弾なんてしないのはわかってた。ホシノはとってもいい子だからね。
「そっか。どういたしまして、でいいのかな」
これで店長の抱えていた負い目もなくなった。
次はこれからのことを考える必要がある。
”それで、これからユメはどうしたい?”
「どう、って」
”アビドスに戻りたい?”
生徒から青春が奪われたのなら、取り戻すのは私の役目だ。多分、死亡扱いにはなっているけどシャーレなら何とかできる。リンちゃんも事情を説明したら手伝ってくれるはず。
”今のアビドスにはシャーレもついている。やつらも迂闊に手を出してこないはずだよ”
それにカイザーは一度アビドスに手を出して失敗している。少なくともしばらくは大丈夫だ。
「できるなら戻りたいです。またホシノちゃんと一緒にアビドスで過ごしたい…」
「先輩…」
「でも」
ユメは店長に目をやる。
「もし私がアビドスに戻って、店長が危険な目にあうなら私はこのままの生活を続けます」
カイザーが店長に危害を加える可能性はある。復讐するとか、人質にするために拘束するとか。
しかもユメが狙われている目的も分かっていない。カイザーがいったいどんなことをするのか、予想できない。
「俺のことなんて気にしなくていいのに」
「そんなことできないよ。まだ恩返しすら、できてないのに」
「何かしてほしくて助けたわけじゃなんだけどなぁ...ほらホシノだって戻ってきてほしいでしょ?」
「…私は先輩の意思を尊重します」
「えぇ~?」
お互いのことを思いあってるがゆえに話が拗れてしまっている。でも大丈夫だ、私に考えがある。
”そのことなら大丈夫”
”店長はシャーレの所属にするから”
「え?」
これならよほどのことがない限りは表立って危害が加えられることはなくなる。ユメの懸念もこれで大丈夫。
”私が守る、約束するよ。”
「…店長はそれでいいの?」
それでも結局は店長の意思次第だ。
”シャーレに入って特別なことをしてほしいわけじゃないんだ。店長は今まで通りの生活を送ってくれればいい。”
”それでもダメかな?”
こんなことを聞いてはいるが、このあとどう答えるかの予想なんてついている。彼の人となりを私はもう知っている。
「そんなことしなくても元々否定するつもりなんてありませんよ。」
ユメのことを心の底から大事に思っているのはわかってる。
「…ほんとうにいいの?」
「当たり前でしょ。俺はさ、ユメには今までの分まで幸せになってほしいんだ」
「…ありがとう」
そんな店長がアビドスに戻りたいという願いを否定するわけがない。だから私がすべきことは何の被害もださずに、彼を守る方法を考えることだ。それもすでに思いつている。
「先生もありがとうございます」
”うん!あとは任せて”
カイザーには二度と手を出させない。私が必ずやり遂げて見せる。
◇◇◇
最近なんだか風紀委員の子たちと会うことが多くなったなぁ…モテ期か?、なんてのんきに考えてたせいでホシノが目の前に来るまで気づかなかった馬鹿ってだーれだ
そう俺だ
いや別にいいんだよ、いつか会わせる予定だったから。でもいくら何でも早すぎる…!せめて最終編が終わるまでは待って欲しかった…
「ハァ…」
あの後、ユメは普通に働いた。もう帰っていいいって言ったのに、そんなわけにはいかないよ!の一点張りのごり押し。なんならホシノにも手伝ってもらった。仕事が終わってようやく二人で一緒にアビドスへと戻っていった。今日はホシノの家に泊まるらしいから、今頃は二人で楽しくおしゃべりでもしてるだろう。
先生は割とすぐに帰った。俺たちに関する手続きやらなんやらをやるつもりらしい。ユメの生徒としての身分を取り戻すことも、俺をシャーレ所属にすることも可能だと言っていた。電話してただけなのに…断言できるくらいには話が進んだっぽい。
それだけ先生の力は強い。権力が強いのはもちろん連邦生徒会からの信頼度が高いことも相まって、たいていのわがままは通ると考えていい。そのわがままが全部生徒のためというのも、リンちゃんら生徒会に許されている理由かもしれない。
というわけで今の時刻は夜、俺はパンドラのカウンターに立っている。なぜ営業時間外にも関わらずここに残っているかといえば
「ため息なんてらしくもありませんね。」
この通り黒服さんがお客さんとして来てくれたからだ。
「ため息もでますよ。今日は本当に、いろいろとありましたから」
「ククッ、本当にあなたらしくない。私で良ければ話を聞きますよ」
「黒服さん…!」
やはりできる男は違う。これで倫理観がしっかりしていたら言うことなしなのに。
「実はですね、俺シャーレの所属になるらしいんですよ」
加えて俺はシャーレの一員になるにあたり連邦生徒会にもなる。これも俺の頭を悩ませる原因だ。
ちなみに連邦生徒会になったとて何の仕事もしないけど大丈夫なのか問題も存在したが先生が解決した。
まず先生がパンドラのオーナーになる。これで店の仕事=シャーレの仕事という扱いにできるらしい。こうなれば俺は店の仕事をしているだけで、シャーレの仕事を手伝うという連邦生徒会としての業務もこなしているということになるわけだ。すごいね!
「そこに何の問題が?むしろ喜ぶべきことでしょう」
当然の疑問だ。シャーレに所属することは一般の生徒にデメリットなんて存在しない。そもそも希望制だし、手伝いだって強制じゃない。
「うーん、そこまで悪い話じゃないのも間違いじゃないですよ。」
言うまでもないかもしれないが俺は先生のファンだ。シャーレの一員になれることはもう飛び上がるぐらい嬉しい。先生と一緒に仕事とかめっちゃしてみたい。ほかの生徒と一緒とかだったらもう最高。
「でもそれ以上のデメリットがありましてですね…」
「…ああ、なるほど」
どうやら察しがついたらしい。
「この世界から消えるというあなたの目的、それが先生によって阻止されることを危惧しているわけですか」
「…正解です」
「確かに彼は生徒となったあなたが犠牲になることはよしとしないでしょうね」
「ですよね~」
何のために学校に行かなかったと思っているんだ全く…
「生徒のためなら先生は何でもします。もちろん俺も含めてね」
今までの俺は生徒ではなかった。ゴルゴンダさん風に言うなら「生徒」というテクストがついていない状態だろうか。だからこそ先生の庇護下には入っていなかった。だって「生徒」じゃないんだから「先生」に守られないのは当たり前だ。
しかしこれからは違う。生徒であり、シャーレの一員だ。別に先生が何でもできるって言いたいわけじゃないが、生徒を守ることにおいて無類の力を発揮する先生のお膝元じゃ目的の達成は難しい。
「でもそれじゃあ困るんですよ。俺のことは見捨ててもらわないと」
「この権能に呑まれた時、対処できない」
無論暴走したとして、先生に勝てるとは限らない。むしろ手も足も出ずに負ける可能性がずっと高い。
だがそれは先生が本気で敵対した場合だ。たとえどんな悪であろうと生徒を救うことをあきらめない。それが先生だ。
…殺す気じゃなきゃ、虚飾の魔人となった俺には勝てない。これも先生に負けず劣らずのチートなんだから。
まあ、つまりは俺の暴走を先生でも止められないかもってことだ。だったら先に居なくなっておいた方がいい。この世界から消えたいというのはそういうことだ。別に死にたいわけじゃない。
俺がシャーレになったことでそれが失敗する可能性が高くなった。これはまずい。
「先生ならばあなたをその権能から解放することもできるのではないですか?」
「うーん、どうですかねぇ、大人のカードでも使えばいけると思いますよ。でも、あれに頼る危険性はわかってますよね」
「えぇ。先生に忠告をしたのは私ですから」
「そんなものを俺程度を救うために使わせるわけにははいきません。」
何の代償もなしに手放せるほどこの力は甘くない。迷惑をかけるくらいなら死んだ方がマシ。
「なるほど。確かにあなたにとっては災難ですね」
「でしょ」
俺は生徒の幸せのためにこの力を使い続ける。その果てで俺が消える。それでハッピーエンド、なんだけど…予定が狂った。
「プランの見直しも必要ですかねぇ」
実はすでに目的を達成できる方法は考えてある。しかもこれなら俺が起こしたズレを最大限減らすことも可能だ。唯一の懸念は権能のきかないアロナだが、彼女は先生を通してしか現実に干渉できないから問題ない。が、念には念を入れてほかのプランぐらいは用意したい。
幸いまだ時間はある。一応最終編が終わるまでは見届けるつもりだし。というかその先は知らんからそこが限界。
「こちらで別の案も考えておきましょう…期待はあまりしない方が良いですが」
「お、マジすか!ありがとうございます」
そうはいっても黒服さんなら何とかしそうな気がする。
「じゃあ今日は俺のおごりですね!」
「おや、よろしいのですか」
「もちろん。俺なりの感謝の気持ちです」
「それではお言葉に甘えましょう」
はーい、難しい話終わり!
久しぶりに来てくれたんだ、腕によりをかけて作っちゃうぞ!
評価していただきありがとうございました。
モチベになってます。