異世界から帰還した勇者、ダンジョンに挑む   作:くろい

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第3話普通にバレる

 つい最近まで無職だったと言ったことで、お金が必要で無理なダンジョン攻略をするかもしれない。

 そう勘違いされてしまったようで、たまたま出会った先輩冒険者である雅《みやび》さんが心配して少しでも俺の生存率を高めるためにか、初心者におススメのトレーニング方法を俺に教えてくれた。

 そして、それも終わったころのことだった。

 雅さんは対人戦を想定した広々としたトレーニングルームで剣を手に取った。

 

「少しだけ手合わせしてみませんか?」

 

 異世界帰りの俺はどこまで本気を出していいものか気になっていたところだ。

 俺は雅さんの胸をお借りすることにした。

 ……女性の胸をお借りするってセクハラか?

 口にしてなければセーフだよな? とか思いつつも、俺は訓練用の剣を手にして構えてみせた。

 

「乗り気ですね」

「お手柔らかにお願いします」

「では、いきます!!!」

 

 雅《みやび》さんはそう言ったあと、距離を一気に詰めて俺に剣を振りかざした。

 俺はそれを軽く避ける。

 

「っと、ルールは?」

「ルールなんてありませんよ。実践を想定して何でもありです」

「なるほどっと」

 

 雅さんの攻撃を俺は躱し続ける。

 異世界帰りの俺からしてみたら、赤子の手をひねるようなもので、雅さんの攻撃に恐れを感じることはない。

 

「……トレーニング中にも思ってたんですけど、神宮寺《じんぐうじ》さんって普(・)通(・)に(・)強(・)い(・)ですよね?」

「そうでもないですよ」

「では、こういうのはどうですかっ!」

 

 雅さんの剣を振る速さはより激しく力強くなっていく。

 異世界帰りであることは隠しておきたい。

 

 ここら辺が潮時だろう。

 

 強いからって世界を救ってくれなんて言われ、都合の良い奴隷のようにダンジョンを攻略する英雄として崇められる気は今のところはない。

 

 

 

「いたっっ!!!」

 

 

 

 俺はわざとらしく叫びながら、雅さんの攻撃を真正面から食らった。

 すると、雅さんはどこか不満げな顔で、攻撃を受けてわざとらしく尻もちをついた俺に手を伸ばしながら言う。

 

「深くは詮索《せんさく》しませんけど、新米冒険者は私の攻撃をあんなに躱せませんからね。実力を隠しておきたいのなら、もっと手を抜いたほうがいいですよ」

「あははは……。なんのことで?」

「まったくもう! 新米冒険者でお金に困ってると聞いたので、死なないようにちょっとした稽古をつけてあげたんですからね。心配して損しちゃいましたよ。で、どうしてそんなに強いんですか?」

 

 俺は明らかに一般人とは思えない強さをしている。その理由を教えるのは説明が長くなりそうだし、のらりくらりと躱させてもらおうか。

 

「それは企業秘密で。てか、なんか色々と心配してくれてたのにすみませんでした」

「いえいえ、私が勝手にお節介を焼いただけなので。あ、でも、私にちょっと悪いなって思っているのなら……」

「なら?」

「今度、私と一緒にダンジョンを攻略しましょう。強い人と組んだ方が稼げますし、何よりも安全なので」

 

 一緒にダンジョンを攻略しようと誘われた。

 悪い子じゃなさそうだし、ここは断るのもアレだよな。

 

「はい、お願いします」

 

 騙してしまった後ろめたさもあり、俺は深々と頭を下げて言った。

 

「神宮寺さんの方が年上ですし私に敬語を使わないでもいいですよ」

「んー、そういうことなら、ちょっと砕けた感じで話させて貰おうかな」

「それにしても、わざわざ力を隠そうとしてるあたり何か理由でも?」

「強いことがバレると面倒ごとが増えるだろ?」

「それはそうかもですね。冒険者なんてBランクなのに、Sランクよりも強い人はゴロゴロと普通にいますし」

 

 強すぎる力を持っていると面倒ごとに巻き込まれるのは、こちらの世界でもあちらの世界と同じなようだ。 

 俺の予想通り、高ランク冒険者には面倒くさいアレコレがあるっぽいし、なるべくランクを上げるのは控えないとな。

 というか、口ぶりからして雅さんも実力を隠してそうな気がする。

 

「っと、そろそろ研修の時間だ」

「あー、初回研修ではステータスの測定があるので気を付けてくださいね。おそらく、冒険者として高ランクを目指す気はありませんよね? もし、初回研修でステータスが高いと、強制的に高ランク冒険者育成コースに進ませられて色々と大変な目に遭いますから……」

「雅さんはそうだった感じ?」

「はい。なので、私はもうBランク冒険者なんです。ステータスが高いのを良いことに、高ランク冒険者育成コースに進まされたせいで何度も死にかけましたよ……」

 

 雅さんはどこか遠い目でそういった。

 まだ出会って間もないが、ここで出会ったのも何かの縁だ。

 

「色々と教えてくれたし、何か困ったことがあったら助けるよ」

「荒事でも?」

「もちろん。俺はそういうの得意な方だ」

「……あははは。ほんと、何者なんです?」

「うーん。それを説明するにはもうちょっと親しくなってからで。っと、本当にそろそろ初回研修が始まるから行ってくる。それじゃ、また今度……」

 

 研修までの時間は少ない。

 雅さんとの会話を強引に終わらせ、俺は研修の現場へと向かうのであった。

 

   ※

 

 新しく冒険者になった者は必ず参加しないといけない研修に参加した。

 ダンジョンに入るための申請方法やら、魔法の習得方法やら、武器屋での買い物のしかたやら、基本的な冒険者に必要な知識を教えてもらった。

 その後、今の自分がどれくらい強いのか調べるためのステータス測定があったのだが……。

 

「神宮寺さんはダンジョンに入る際はくれぐれも気を付けてくださいね」

 

 初期のステータスが高すぎすると、強制的に高ランク冒険者育成コースに進まされると聞いたこともあり俺は手加減しまくった。

 

 しかし、どうやらやりすぎたらしい。

 

 ステータス測定でほぼ最(・)底(・)辺(・)を記録した俺はというと、めちゃくちゃ心配されてしまった。

 

「あははは……。わかりました」

「ダンジョンでモンスターを倒すと人によって成長度合いは違いますが、必ず強くなれますのでステータスが低いうちは安全に立ち回ってくださいよ?」

 

 無職であり収入のない俺が無理する可能性は非常に高いと思われている。

 しつこいくらいに職員さんは俺に注意をしてくれた。

 

「あの、俺、じゃなくて、僕にオススメのダンジョンってどこがありますか?」

「神宮寺さんの場合、F等級のニュービーという名前のダンジョンがお勧めです。ゴブリンとコボルトしか出現せず、マージンを守れば怪我無く帰ってこれますから。それと、ステータスが弱いので必ず防具は買ってください。お金が足りないときは、冒険者協会でローンを組めますので」

「はい。買います……」

「あと、モンスターを倒し始めると、目に見えて強くなったと実感できる日が来ると思いますが、それでもその力を過信しないこと。多くの冒険者はそうやって実力を誤って死んでいくんです。いいですか、神宮司さんは弱(・)い(・)んですから、本当に無理しちゃだめですからね?」

 

 あまりにもステータスが低かったからか、凄く心配されている。

 ちょっと手を抜きすぎたなと反省していたときだった。

 俺が異世界に行っていた10年の時を経て、超進化したスマホと呼んでいいのかわからないスマホにメッセージが送られて来た。

 

 

雅《みやび》

『研修終わりましたよね? 私が使おうと思ったものの、ほぼ新品な防具とか武器とかいります?』

 

 先ほど仲良くなった先輩冒険者の雅さんからだ。

 ありがたいことに、お古の装備をくれるとのこと。

 

 おそらくだが、短期間で高ランク冒険者になったこともあって、装備の更新頻度がとんでもなく早かった。

 で、綺麗なまま残っているから、俺にプレゼントしてくれるって感じか。

 

「職員さん。知り合いがお古だけど、そこそこ良い装備をくれるそうなんで安心してください」

「それは良かったですね。ただまぁ、メンテナンスだけは欠かさないように。中古品は破損率が高く、メンテナンス代をケチったことで死亡事故が起きることもそう珍しくありませんから」

「わかりました。今日は研修ありがとうございました」

「いえいえ、これが私のお仕事ですから。それではお気を付けておかえりください。くれぐれも無茶だけはしないでくださいよ?」

 

 職員さんに親切丁寧なお見送りをされて、俺は東京第2冒険者協会の建物を出た。

 昼頃にやってきたのだが、もうすっかりと外は暗い。

 

 っと、そうだった。雅さんに返信をしないと。

 慣れない手つきで俺は雅さんのメッセージに返信した。

 

神宮司『貰います! どこに受け取りに行けばいいですか?』

 

 俺が送信ボタンを押した瞬間だ。

 背後から誰かの気配を感じたので、俺は後ろを振り向いた。

 

 

「うわ~、ほんとに神宮司さんって何者なんです? 気配を消して、神宮寺さんにそ~~~っと近づいたんですよ?」

 

 

 俺が振り返った先には雅さんがいる。

 

「警戒してたら、もっと遠くでも察知できるぞ」

「こわっ……。なんか、仲良くするのも怖くなってきたんですけど」

「まあまあ、そう言っても自慢じゃないが俺の力は結構凄いんだぞ?」

「わかってますって。だから親切にすると決めましたし。死にたくないのなら、高ランク冒険者には媚びへつらえってのが常識ですから」

「それでさ、お古の装備をくれるってことだけどさ、どこに受け取りに行けば?」

「収納魔法、もしくはアイテムボックスを持ってますか?」

 

 アイテムボックスだと!?

 あっちの世界には収納魔法はあったが、それを付与した魔道具はなかった。

 

「アイテムボックスはないけど、そこそこ収納できる収納魔法なら使えるよ」

「んじゃ、ここでパパっと出しちゃいますね~」

 

 雅さんはそういうと、どこからともなく良さそうな防具を取り出して俺の方にどんどん押し付けてくる。

 それにしても、こっちの世界の防具を初めて手にしたけど……

 期待はしてなかったが、防具の性能はあっちのものと比べてかなり良さそうだ。

 

「ありがたく貰うけど、お金は?」

「大丈夫ですよ。稼いでますから」

「んじゃ、そういうことなら遠慮しないで貰おうかな」

「さてと、これで全部です。防具には防御の付与術式が付いてますので使う際は軽く魔力を流してくださいね。ま、そもそも神宮司さんは防具なんて必要ないくらいに本当は強いんでしょうけど。ですが、低ランク冒険者のうちはその装備がないと、難易度高めのダンジョンには入場許可が下りないと思うので気を付けてくださいね。とまぁ、これだけ親切にしてるんですし、何かあったらよろしくお願いします!」

 

 うん、凄いなこの子。

 俺が実力者だと見抜くや否や、凄い媚を売ってくるんだけど。

 

「あははは……。でさ、明日からダンジョンに入ろうと思うんだけどさ、手始めにFランクダンジョンのニュービーってところに行こうと思ってる。雅さん的にもそれでいいと思うか?」

「それでいいと思います。急にランク高いダンジョンに潜るのなんて、どこからどう見ても怪しさプンプンですから」

「俺も当分は様子見でランクも上げる気はないし、雅さんのダンジョン攻略を手伝うのはもうちょっと先になりそうだけど大丈夫か?」

「はい全然大丈夫です。では、今日はこれから友達と遊びに行く予定なのでこのくらいで失礼しますね!」

「今日は色々と教えてくれて助かったよ。それじゃあまた」

 

 

 そそくさと雅さんは去っていく。

 その背中を見ながら俺は反省した。

 

「実力を隠しとこうと思ってたのに、早速バレたなぁ……」

 

 どうやら俺は手加減や隠し事が苦手なようだ。

 さてと、俺も家に帰ろうかな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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