大海の大嵐   作:近所の戦闘狂

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# 第9話「黒檻島――女帝様、第一印象が最悪」

 

 黒檻島の街は、俺が想像しとった以上に賑やかやった。

 

 港には大型商船が並び、通りには香辛料や宝石、見たこともない工芸品を売る露店が軒を連ねとる。

 遠くには、立派な宮殿まで見えた。

 

 ……。

 ……。

 何や。

 

 普通に観光できそうやん。

 

「ダグ! あそこの串焼き、めっちゃ旨そうやで!」

「おお! 買うか!」

「買おか!」

「二人とも、何しに来たんです?」

 

 イヴォから、冷たい声が飛んできた。

 

 ……。

 ……。

 せやった。

 

 観光ちゃうわ。

 俺らは、競売場に捕まっとる奴隷たちを助けに来たんやった。

 

「分かっとるわ! 腹が減っては戦ができぬ、って言うやろ!」

「先ほど、船で昼食を召し上がったばかりですが」

「……」

「……」

「……成長期やからな!」

 

 イヴォが、実に上品な笑みを浮かべた。

 

「十八歳で四メートル五十六センチ。これ以上の成長は、船の設計上困りますね」

「何でやねん!」

 

 俺の成長期が、船の設計に左右されてたまるか。

 

 ……いや。

 

 白羊号の船室、俺が立つと頭ぶつかるんやけどな。

 確かに、これ以上でかくなったら困るかもしれへん。

 

 ……。

 ……。

 よし。

 

 串焼きは帰りにしよう。

 なお、俺の隣ではダグがすでに三本目を食っとった。

 おい。

 いつ買うたんや、お前。

 

「団長。少々、こちらへ」

 

 イヴォに促され、俺らは商人街から一本外れた路地へ入った。

 

 ……。

 ……。

 途端に、空気が変わった。

 

 華やかな表通りとは違って、こっちは妙に静かや。

 窓には鉄格子。

 倉庫の扉には、いかつい錠前。

 通りの端には、首輪をつけられた男が荷車を引いとった。

 

 その後ろを、鞭を持った奴隷商人らしき男が歩いとる。

 

「おい! さっさと歩け!」

 

 鞭が振り上げられた。

 

 ……。

 ……。

 あかん。

 

 俺の足が、勝手に前へ出た。

 

 と、その瞬間。

 

 ガシッ

 

 ダグに腕をつかまれた。

 

「待て」

「……何や」

「今は調査中やろ」

「……分かっとる」

 

 分かっとる。

 

 分かっとるけど。

 

 ……。

 ……。

 あの鞭、めっちゃ腹立つな。

 

「ガルド。あの奴隷商人の顔、覚えとけ」

 

 ダグが、小さな声で言った。

 

「……何でや?」

「あとで競売場に乗り込むとき、あいつの逃げ道も塞いだる」

 

 ……。

 ……。

 おお。

 

 何や。

 俺より怖いこと考えとるやん。

 

「お前、たまにめっちゃ悪い顔するよな」

「お前にだけは言われたないわ」

 

 ……。

 ……。

 何でやねん。

 

 俺、めっちゃ善良な顔しとるやろ。

 

 ……。

 ……。

 手配書は別として。

 

 

―――

 

 

 しばらくして、俺らは港の北側にある倉庫街へ向かった。

 

 イヴォによると、ここには奴隷商人が使っとる倉庫が集中しとるらしい。

 競売に出される人間は、一度ここへ集められてから、街の奥にある競売場へ運ばれるそうや。

 

 ……。

 ……。

 なるほど。

 

 ほな、ここを押さえたら、捕まっとる連中を助けられるんやな。

 

「団長。まだ突入はしませんよ」

「……分かっとるわ」

「倉庫の場所と警備の人数を確認するだけです」

「……分かっとる」

「それから、くれぐれも――」

「分かっとるっちゅうねん!!」

 

 何やねん。

 

 俺、そんなに信用ないんか。

 

 ……。

 ……。

 まあ、昨日の輸送船の件があるからな。

 

 ちょっとは仕方ないか。

 

「ガルド」

 

 ダグが、急に足を止めた。

 

「……何や?」

「……尾けられとる」

「……ん?」

 

 俺は、見聞色の覇気を広げた。

 

 ……。

 ……。

 おるな。

 

 しかも、一人や二人ちゃう。

 路地の入り口に二人。

 倉庫の屋根に三人。

 さらに、前方の角を曲がった先にも複数の気配。

 

 ……。

 ……。

 何や。

 

 めっちゃ人気者やん。

 

「……ダグ。俺ら、もう有名になったんかな?」

「そんな嬉しそうに言うとる場合ちゃうやろ」

 

 ダグは、肩に担いどった巨大な錨を下ろした。

 

 ゴウン、と重い音が響く。

 

 ……。

 ……。

 おお。

 

 その音だけで、周りの気配が一斉に動いたで。

 

「イヴォ。お前は下がっとけ」

「……承知しました」

 

 イヴォが、さりげなく倉庫の陰へ移動した。

 

 ……。

 ……。

 そして。

 

「動くな!」

 

 頭上から、鋭い声が響いた。

 

 ……。

 ……。

 おっ。

 

 来たな。

 

 屋根の上に現れたのは、弓を構えた女たちやった。

 

 それも、一人や二人ちゃう。

 四人。

 五人。

 

 ……。

 ……。

 おいおい。

 

 どんだけおるねん。

 

 しかも、全員めっちゃ殺気立っとる。

 

「貴様ら、何者だ!」

 

 前方の路地から、槍を持った女が現れた。

 

 ……。

 ……。

 何や。

 

 女ばっかりやな。

 

 しかも、全員武装しとる。

 

 ……。

 ……。

 あっ。

 

 もしかして。

 

「……お前ら、九蛇か?」

「……っ!」

 

 女たちの表情が変わった。

 

 ……。

 ……。

 あら。

 

 正解やったみたいや。

 

「何故、我らの正体を知っておる!」

「いや、何となく……」

「何となくで分かるか!!」

 

 ……。

 ……。

 せやんな。

 

 これは完全に俺が悪い。

 

 でも、しゃあないやん。

 前世の記憶って、説明すんの難しいねん。

 

「答えろ! 奴隷商人に雇われた用心棒か!」

 

 槍を持った女が、俺の荒凪を指さした。

 

 ……。

 ……。

 は?

 

 用心棒?

 

 誰が?

 

「ちゃうわ! 俺らは――」

「その男を捕らえろ!」

 

 ……。

 ……。

 聞けやァァァ!!

 

 

―――

 

 

 女たちが、一斉に動いた。

 

 屋根の上から矢が降り注ぎ、路地の前後から槍を構えた戦士たちが迫ってくる。

 

 ……。

 ……。

 おお。

 

 連携、めっちゃ上手いやん。

 

 前後から挟み撃ち。上からは弓。

 逃げ道まで、きっちり塞いどる。

 

 ……。

 ……。

 ただな。

 

「ガルド。手ぇ出すな」

「……は?」

 

 ダグが、俺の前に出た。

 

「ここは俺がやる」

「……おお!」

 

 ……。

 ……。

 何や。

 

 めっちゃ格好ええやん。

 

「ただし、怪我させたらあかんで?」

「分かっとるわ。こいつら、たぶん俺らと同じ目的やろ」

「……せやな」

 

 ……。

 ……。

 そうや。

 

 九蛇の連中も、仲間を助けに来たんやろ。

 

 ほな、ここで本気でやり合う必要はない。

 

 ……。

 ……。

 とはいえ。

 

 向こうは、そう思ってへんらしい。

 

「放て!」

 

 矢が、一斉に飛んできた。

 

 ……。

 ……。

 速いな。

 

 しかも、矢じりに黒い光沢が見える。

 

 ……。

 ……。

 覇気か。

 

 おお。

 

 さすが九蛇。

 

 普通の矢やないんやな。

 

「ガルド。そこから動くなよ」

「……おう」

 

 ダグは、巨大な錨を地面に突き立てた。

 そして、手首に巻きつけとった鎖を勢いよく引いた。

 

 ジャララララッ!!

 

 ……。

 ……。

 おお。

 

 錨と鎖が、まるで生き物みたいに動き始めた。

 まず、ダグは錨を横に振った。

 

 ガギギギギン!!

 

 飛んできた矢が、まとめて弾き飛ばされる。

 

 さらに、鎖を頭上で回した。

 

 ……。

 ……。

 おお。

 

 残りの矢まで、全部落としたで。

 

「……なっ!?」

 

 屋根の上の女たちが、目を見開いた。

 

 ……。

 ……。

 せやろ。

 

 驚くやろ。

 

 俺も最初に見たとき、驚いたもん。

 

「次、右から二人やな」

 

 ダグが、ぽつりと呟いた。

 

 ……。

 ……。

 えっ。

 

 見分色の覇気使えんの?

 

 そう思った瞬間。

 

 右側の路地から、槍を持った女が二人飛び出した。

 

「はああああ!!」

 

 

 ダグは、錨を振り回さへんかった。

 

 代わりに、鎖を地面すれすれに走らせた。

 

 ジャラッ!!

 

「……っ!?」

 

 女たちの足元に、鎖が絡みついた。

 

 二人は勢いを殺せず、そのまま前へ倒れ込む。

 

 ……。

 ……。

 おお。

 

 何や。

 

 めっちゃ器用やん。

 しかも、鎖を引く力まで調整しとる。

 

 骨を折ることもなく、武器だけを手放させた。

 

「くっ! こいつ!」

 

 別の女が、背後から斬りかかった。

 

 ……。

 ……。

 おっ。

 

 今度は後ろや。

 

 俺が声をかけようとした、その瞬間。

 

「見えとるわ」

 

 ダグが、鎖を引いた。

 

 ゴウンッ!!

 

 地面に転がっとった巨大な錨が、凄まじい勢いで戻ってくる。

 

 ……。

 ……。

 あっ。

 

 後ろの女、完全に死角から錨が来とる。

 

 ……。

 ……。

 いや。

 

 待て。

 

 あれ、当たったら死ぬやろ!!

 

「ダグ!!」

 

 俺が叫んだ瞬間。

 

 ダグは、手首をひねった。

 

 巨大な錨が、女の直前で軌道を変えた。

 

 そのまま、槍の柄だけを引っかけて吹き飛ばす。

 

 ガランッ!!

 

 武器を失った女は、呆然と立ち尽くした。

 

 ……。

 ……。

 おおおお。

 

 すげえ。

 

 今の、めっちゃ難しいやろ。

 

 あんな馬鹿でかい錨で、槍だけ狙うとか。

 

「……ダグ」

「何や?」

「……お前、器用やな」

「当たり前やろ!」

 

 ……。

 ……。

 何や。

 

 ちょっと悔しい。

 

 俺、荒凪であれやろうとしたら、たぶん壁ごと斬ってまうわ。

 

 

―――

 

 

 九蛇の戦士たちは、すぐに陣形を変えた。

 

 ……。

 ……。

 おお。

 

 まだ来るんか。

 

 今度は、前方の三人が盾を構え、後方の弓兵が距離を取った。

 

 さらに、屋根の上の二人が左右へ移動する。

 

 ……。

 ……。

 なるほど。

 

 ダグの錨が届かへん距離を保ちながら、矢で攻撃するつもりやな。

 

「……賢いな」

 

 ダグが、ニヤリと笑った。

 

 ……。

 ……。

 おお。

 

 こいつ、楽しそうやな。

 

「せやけど、ちょっと遅いわ」

 

 ダグが、地面に鎖を放り投げた。

 

 ……。

 ……。

 ん?

 

 何するん?

 

 次の瞬間。

 

 ダグは、錨を真上に放り投げた。

 

「なっ!?」

 

 女たちが、思わず空を見上げた。

 

 ……。

 ……。

 あっ。

 

 なるほど。

 

 視線が、全部上に向いた。

 

 その隙に、ダグが地面の鎖を一気に引いた。

 

 ジャララララッ!!

 

 鎖が、路地の左右に転がっとった木箱をまとめて巻き込む。

 

 ……。

 ……。

 おお。

 

 木箱が、盾みたいに持ち上がった。

 屋根から飛んできた矢が、木箱に突き刺さる。なにそれ俺にも教えてや。

 

 その間に、ダグは一気に前へ踏み込んだ。

 

「おらァッ!!」

 

 盾を構えとった三人が、同時に吹き飛ばされた。

 

 ……。

 ……。

 いや。

 

 吹き飛ばされた言うても、殴られたわけちゃう。

 

 ダグが、鎖で盾を絡め取って、まとめて横へ引っ張ったんや。

 

 ……。

 ……。

 うわ。

 

 えげつな。

 

 あの三人、完全に同じ方向へ体勢を崩しとる。

 

 そこへ。

 

 ドゴンッ!!

 

 空から、さっき放り投げた錨が落ちてきた。

 

 ……。

 ……。

 おお。

 

 ちゃんと、三人の目の前や。

 

 しかも、当たってへん。

 

 ただ、逃げ道だけを塞いどる。

 

 ……。

 ……。

 何や。

 

 こいつ、最初から全部計算しとったんか?

 

「……ダグ」

「何や?」

「……お前、今の狙っとったん?」

「せやで」

「……すげえな」

「せやろ!」

 

 ……。

 ……。

 いや。

 

 ほんまにすごい。

 

 俺やったら、最初の矢が飛んできた瞬間に、全員まとめて吹き飛ばしてまうやろ。

 

 こいつは違う。

 

 相手の動きを読んで。

 

 逃げ道を塞いで。

 

 武器を奪って。

 

 しかも、誰も大怪我させへん。

 

 ……。

 ……。

 何や。

 

 うちの副団長、めっちゃ有能やん。

 

「……あかん。俺、ますます荷物運び専門になってまう」

「何の心配しとんねん!」

 

 ……。

 ……。

 いや。

 

 切実な問題やで、これ。

 

 

―――

 

 

「……化け物め」

 

 九蛇の戦士の一人が、悔しそうに呟いた。

 

 ……。

 ……。

 おい。

 

 それ、俺の専売特許やぞ。

 ダグまで化け物扱いされたら、俺の個性がなくなるやん。

 

「……貴様ら、何者じゃ!」

 

 先ほどの槍使いが、ダグを睨みつけた。

 ダグは、錨を肩に担いだ。

 

「海上自警団、副団長のダグや」

「……海上、自警団?」

「せや。俺らは、奴隷市場を潰しに来た」

 

 ……。

 ……。

 おお。

 

 格好ええ。

 

 ちゃんと自己紹介まで決まっとる。

 

 ……。

 ……。

 俺も何か言わな。

 

「ほんで、俺が団長の――」

「貴様は黙っておれ!!」

「何でやねん!!」

 

 ……。

 ……。

 何や。

 

 俺、まだ何もしてへんやろ。

 

「奴隷市場を潰すじゃと? そのような言葉、信用できるものか!」

 

 女たちが、再び武器を構えた。

 

 ……。

 ……。

 あかん。

 

 全然信用されへん。

 

 まあ、分かるで。

 俺みたいな四メートル半の男と、巨大な錨を持ったダグが、奴隷商人だらけの島をうろうろしとったら、そら怪しいわな。

 

 ……。

 ……。

 いや。

 

 待て。

 

 これ、もしかして俺らが悪いんか?

 

「ダグ。どうする?」

「……これ以上やり合うても、しゃあないな」

 

 ダグが、錨をゆっくり下ろした。

 おお。

 

 話し合いの時間やな。

 

「聞いてくれ。俺らは、本当に奴隷を助けに来たんや。昨日も、海で奴隷輸送船を――」

「黙れ!!」

 

 あかん。聞く耳持ってへん。

 

 そのとき。

 

「そこまでじゃ!!」

 

 凛とした声が、路地に響いた。

 

 ん?

 

 何や?

 

 俺が振り返ると。

 

 おお。

 

 女や。

 

 ……。

 いや。

 

 また女やな。

 

 九蛇やから、当たり前なんやけど。

 

 ただし、今度の女は、明らかに雰囲気が違った。

 

 長い黒髪。

 

 鋭い目つき。

 

 腰には、立派な剣。

 

 しかも、歩き方からして堂々としとる。

 

 ……。

 ……。

 何や。

 

 めっちゃ偉そうやな。

 

 ……いや。

 

 偉いんやろな。

 

 九蛇の戦士たちが、一斉に道を開けた。

 

「グロリオーサ様!!」

 

 ……。

 ……。

 ん?

 

 グロリオーサ?

 

 ……。

 ……。

 あれ?

 

 俺、今、めっちゃ聞き覚えのある名前を聞いたぞ。

 

 グロリオーサ。

 

 九蛇。

 

 女帝。

 

 ……。

 ……。

 ああああああ!!

 

 ニョン婆やん!!

 

 ……。

 ……。

 いや、待て。

 

 ニョン婆!?

 

 この女が!?

 

 ちっちゃい婆ちゃんちゃうん!?

 

 若いころ、こんなに美人やったんか!?

 

 ……。

 ……。

 あかん。

 

 俺の脳内で、将来のニョン婆と目の前の美女が、まったく一致せえへん。

 人間、年取ると変わるもんやなぁ。

 

「……何じゃ、貴様らは」

 

 グロリオーサが、俺らを見上げた。

 

 まず、ダグ。

 

 その肩に担がれた巨大な錨。

 

 地面に散らばる鎖。

 

 そして、武器を奪われた九蛇の戦士たち。

 

 おお。何や。

 

 めっちゃ険しい顔しとる。

 

「……貴様が、我が戦士たちを倒したのか」

 

 グロリオーサが、ダグに尋ねた。

 

「せや。けど、全員無事やで。怪我はさせてへん」

 

 ダグが答えた。

 余裕やな。

 

 さすが、うちの副団長や。

 

 グロリオーサは、しばらくダグを見つめた。

 

 そして。

 

「……なるほど。相当の使い手のようじゃな」

 

 ……。

 ……。

 おお。

 

 ダグ、褒められとるで。

 

「せやろ! こいつ、めっちゃ強いんやで!」

 

 俺は、思わず口を挟んだ。

 

 ……。

 ……。

 その瞬間。

 

 グロリオーサの視線が、ゆっくり俺に向いた。

 

 おお。何や。

 めっちゃ見られとる。

 

 ……。

 ……。

 そらそうか。

 

 四メートル五十六センチもあったら、嫌でも目立つわな。

 

「……貴様は?」

 

 グロリオーサが、俺を睨んだ。

 

 おお。

 

 自己紹介のチャンスや。

 

「俺は、海上自警団団長! ウラガン・ガルドや!!」

 

 ……。

 ……。

 沈黙。

 

 ……。

 ……。

 グロリオーサの目が、わずかに細くなった。

 

「……ウラガン・ガルド?」

 

 おっ。

 

 知っとるんか?

 

 さすが、二億八千万ベリーの男や。

 

 ……いや、ちょっと待て。

 

 今の俺、指名手配犯やん。

 

 有名になって喜んどる場合ちゃうかった。

 

「……海軍の艦隊五隻を撃退したという、あの男か」

 

 おお。

 知っとるやん。

 

「せやで!」

「……なるほど」

 

 グロリオーサが、再びダグを見た。

 

 そして、俺を見上げた。

 

 ……。

 ……。

 何や。

 

 めっちゃ考え込んどるな。

 

「海軍艦隊を撃退した男と、その部下……」

 

 グロリオーサが、ゆっくり剣の柄に手をかけた。

 

「……この島で、何をしておる」

 

 ……。

 ……。

 あかん。

 

 何か、めっちゃ警戒されとる。

 

「奴隷市場を潰しに来たんや!」

「……ほう」

 

 グロリオーサの目が、鋭くなった。

 

「……それは、誰に命じられた?」

「……は?」

 

 誰に?

 ……いや。

 俺、自分で決めたんやけど。

 

「誰にも命じられてへんで?」

「……嘘を申すな」

 

 何やねん。

 またか。

 

「貴様ほどの男が、何の利益もなく、この島の奴隷市場に手を出すはずがなかろう」

 

 えっ。

 そうなん?

 

 いや、待て、そんなん人それぞれやろ!

 

「俺は、奴隷商人が嫌いやから来たんや!」

「……」

「凪岩島でも、逃げてきた奴隷たちを助けた。ほんで、ここにも捕まっとる連中がおるって聞いたから、助けに来たんや!」

 

 グロリオーサは、黙って俺を見とった。

 

 

 おお。

 

 今度こそ、伝わったか?

 

「……よくできた話じゃな」

 

 あっ。

 

 伝わってへん。

 

「そのような大義名分を掲げて、競売場の利権を奪おうという腹か」

 

 いやいやいや。

 

 何でそうなるん!?

 

「ちゃうわ!!」

「ならば、何故この島に来た!」

「今、説明したやろ!!」

「その説明が信用できぬと言うておる!!」

 

 あかん。

 会話が平行線や。

 俺が一生懸命説明しとるのに、まったく通じへん。

 

 何や。ちょっと腹立ってきたぞ。

 

「……なあ、グロリオーサ」

「……何じゃ」

 

 俺は、荒凪を肩から下ろした。

 

 ……。

 ……。

 その瞬間。

 

 九蛇の戦士たちが、一斉に武器を構えた。

 

 おいおいおいおい、ちょっと待て。

 

 まだ抜いてへんやろ!

 

「……お前らも、奴隷市場に用があるんやろ?」

「……っ!」

 

 グロリオーサの表情が変わった。

 

 おお。

 

 当たりやな。

 

「……何故、そう思う」

「九蛇の少女が競売に出されるって聞いたからや。お前ら、仲間を助けに来たんちゃうん?」

 

 グロリオーサの顔から、笑みが消えた。

 

 あっ。

 これは、完全に地雷踏んだな。

 

「……貴様」

 

 グロリオーサが、ゆっくり剣を抜いた。

 

「……その情報を、どこで手に入れた」

「ベルカの酒場やけど?」

「……」

 

 何や。めっちゃ怖い顔しとる。

 待てよ? 俺、今、何かまずいこと言うたんか?

 

「……仲間を商品として扱う連中の手先が、我らにその話をするとはな」

 

 ……。

 ……。

 あかん。

 

 完全に誤解されとる。

 

「何で俺が奴隷商人の手先やねん!!」

「その巨体。その武装。そして、海軍すら敵に回すほどの実力……」

 

 グロリオーサが、俺を睨みつけた。

 

「……貴様のような男が、偶然この島に現れたとは思えぬ」

 

 何や。

 めっちゃ論理的に疑われとるやん。しかも、否定材料が全部俺の特徴や。

 

 あかん。反論が難しい。

 

「ガルド」

 

 ダグが、俺の隣へ来た。

 

「……何や?」

「……あの女、やる気やぞ」

「……せやな」

 

 ……。

 俺も分かっとる。

 

 グロリオーサの剣から、嫌な圧力が伝わってくる。

 

 しかも、周りの九蛇の戦士たちとは、明らかに気配が違う。

 

 おお。

 こいつ、ほんまに強いな。

 

「……ダグ。お前は下がっとけ」

「……何でや?」

「九蛇の連中は、お前がもう制圧したやろ」

「……まあな」

「ほな、次は俺の番や」

 

 ダグが、俺を見上げた。

 そして。

 

「……やりすぎるなよ」

 

 何や。

 お前までミラみたいなこと言うんか。

 

「分かっとるわ!」

 

 俺は、荒凪の柄を握った。

 グロリオーサが、ゆっくり剣を構える。

 

 その瞬間。

 

 スゥーーーーーー

 

 

 空気が変わった。

 

 ……。

 ……。

 おお。

 

 やっぱり、さっきまでの戦士たちとは別格や。

 

 見聞色で探ったけど、さすがにダグには荷が重すぎる。

 

 ……。

 ……。

 これは。

 

 ……。

 ……。

 久しぶりに、ちょっと面白そうやな。

 

「……最後に聞く」

 

 グロリオーサが、静かに言った。

 

「……貴様、本当に奴隷商人の手先ではないのじゃな?」

「せや。俺は、捕まっとる奴らを助けに来ただけや」

 

 ……。

 グロリオーサは、しばらく黙っとった。

 

 そして。

 

「……ならば」

 

 剣先が、俺に向けられた。

 

「……その言葉、貴様の実力とともに確かめさせてもらおう」

 

 おお、何や。決闘のお誘いやん。

 

「ええで!」

 

 俺は、ニヤリと笑った。

 

「ただし、街は壊さんようにな!」

「……それはこちらの台詞じゃ!!」

 

 あかん。

 初対面から、めっちゃ怒られとる。

 

 まあ、ええか。

 とりあえず。この女帝様が、どれくらい強いんか。

 

 ほんで俺が、いま世界基準でどんだけ強いんか。

 ちょっと、見せてもらおうやないか。

 

 俺は、荒凪をゆっくり抜き放った。

 

 グロリオーサの剣に、黒い覇気がまとわりつく。

 

 おお。やっぱり覇気使いか。しかもなかなかの練度や。

 

 ……。

 

 めっちゃ楽しみになってきた。

 

「……行くぞ、ウラガン・ガルド!!」

 

 グロリオーサが、地面を蹴った。

 

 速い。さっきの戦士たちとは、比べもんにならん。

 

 おお。

 

 これは。

 

 

 久しぶりに、ちゃんと剣を振るえそうやな。

 

 俺は、荒凪を構えた。

 

 そして。

 

 若き九蛇の女帝との、最初の一戦が始まろうとしていた。

 

 

――第9話 了

 

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