# 第7話 初航海――船長、海へ出て三日で船を沈めかける
海へ出て、三十分。
俺は早くも、船長として重大な問題に直面していた。
「おええええええええ!!」
……。
……。
副船長が死にかけとる。
「ダグ! しっかりせえ! まだ島見えとるぞ!?」
「うるせえええ!! 島が見えとるうちに戻れえええ!!」
「お前、昨日あんなに海へ出たがっとったやん!」
「昨日の俺を殴りてえええ!!」
……。
……。
何やねん、こいつ。
十三年間、俺と一緒に海へ出ることを楽しみにしとった男やぞ。
その夢が叶って、わずか三十分。
現在、甲板に這いつくばって海へ向かって絶叫中。
……。
……。
俺の右腕、大丈夫か?
「ガルド! そこで突っ立っとらんと、ダグを船室に運んで!」
「お、おう!」
ネネに怒鳴られ、俺はダグを抱え上げた。
四百五十六センチの俺からすれば、ダグなんか軽いもんや。
……いや、武器が重い。
こいつ、何で船の上でも錨と鎖を抱えとんねん。
「おい、ダグ。その錨、いったん置いてけや」
「嫌や……! 俺の相棒や……!」
「船酔いで死にかけとるくせに、武器への愛着だけは一人前やな!」
仕方なく、ダグと錨をまとめて担いだ。
……。
……。
あかん。
船長としての初仕事が、副船長の介護になるとは思わんかった。
―――
俺の名前は、ウラガン・ガルド。
十八歳。
身長、四百五十六センチ。
悪魔の実は、アラアラの実。
風、雲、雨、雷。
いわゆる嵐そのものになれる、自然系の能力者や。
そして本日。
俺は十八年間暮らした凪岩島を離れ、ついに大海原へ飛び出した。
父ちゃんから借りた船、白羊号。
ゴルドに鍛えてもらった大太刀、荒凪。
長年一緒に過ごした仲間たち。
……。
……。
完璧や。
完璧な船出やった。
唯一の誤算は、右腕が海に弱かったことくらいやな。
「ガルドォォォ!!」
操舵輪の方から、ミラの声が飛んできた。
「何や!?」
「ダグは!?」
「ネネに任せた!」
「ほな、こっち来い!」
「おう!」
俺は船首へ向かった。
ミラは海図を広げ、難しい顔をしとる。
その横では、ガロが操舵輪を握っていた。
魚人のガロは、船の揺れなんか気にもせず、鼻歌まで歌っとる。
……。
……。
ダグと交換できへんかな。
「で、船長」
ミラが俺を見上げた。
「次、どこ行くん?」
「……」
「……」
「……海?」
「今おる場所を聞いとるんちゃうわ!!」
……。
……。
いや、そんな怒らんでも。
だって、俺は自由を求めて海へ出たんやで。
最初の目的地なんか、そんなん――。
「自由のある方へ!」
「方角で答えろォォォ!!」
……。
……。
あかん。
航海って難しいな。
「とりあえず、次の港に寄るで」
ミラが海図を指さした。
「ベルカ。ここなら食料も水も補給できるし、船の整備もできる」
「おお! ええやん!」
「せやろ。ほんで、寄港する前に決めなあかんことがある」
「何や?」
「……うちら、何者なん?」
……。
……。
は?
何者って。
そんなん、決まっとるやろ。
「俺らは、俺らや!」
「そういう哲学的な話は聞いてへん!!」
……。
……。
何やねん。
難しいことばっかり聞くなや。
「港に入ったら、所属を聞かれるやろ」
「せやな」
「海軍の船でもない。商船でもない。どっかの国の軍艦でもない」
「せやな」
「ほな、何なん?」
「……」
「……」
「……海賊?」
ミラが、じっと俺を見た。
俺も、じっとミラを見た。
……。
……。
何や。
自分で言うて、ちょっと違和感あるな。
俺、別に略奪したいわけちゃうし。
海賊王になりたいわけでもない。
ただ、自由に海を渡りたい。
困っとる奴がおったら助けたい。
悪い奴がおったら、ぶっ飛ばしたい。
政府が理不尽なことをしとったら、それも止めたい。
……。
……。
あれ?
俺ら、海賊ちゃうやん。
「ミラ!」
「何や?」
「海上自警団や!」
「……は?」
「海上自警団! 海の平和を守る、正義の組織や!」
「……」
「……」
「……あんた、政府の艦隊五隻ぶっ飛ばしたやろ?」
「あれは正当防衛や!」
「活動許可は?」
「自由や!」
「資金は?」
「……借金や!」
……。
……。
最後の質問、嫌やな。
俺の胸に突き刺さるわ。
「理念だけで海賊と区別できると思っとるんか?」
「できるやろ!」
「できへんわ!!」
……。
……。
何やねん。
まだ結成もしてへんのに、解散の危機や。
―――
その日の昼。
白羊号の甲板に、仲間全員を集めた。
記念すべき、第一回海上自警団会議である。
……。
……。
何や。
めっちゃ格好ええ響きやな。
俺、こういうの一回やってみたかってん。
「全員、集まったな!」
俺は船首に立ち、腕を組んだ。
目の前には、俺と一緒に凪岩島を出た十二人の仲間たち。
ダグ。
ミラ。
ゴルド。
ネネ。
バオ。
キット。
ガロ。
ゼン。
ボンゴ。
トーマ。
トーラ。
イヴォ。
……。
……。
おお。
こうして並ぶと、なかなか壮観やな。
ちなみにダグは、甲板に敷いた毛布の上で横になっとる。
……。
……。
副船長、早くも戦線離脱。
「ほな、第一回海上自警団会議を始めるで!」
「……その名前、ほんまに採用するん?」
ミラが、ものすごく嫌そうな顔をした。
「当たり前や!」
「海賊団でええやん」
「何でや!?」
「政府の艦隊と戦った時点で、どうせ海賊扱いやろ」
「扱われるんと、名乗るんは別問題や!」
俺は胸を張った。
……。
……。
ええこと言うたな、俺。
ちょっと名言ちゃう?
「団長」
イヴォが手を挙げた。
「ひとまず、その名称でよろしいかと」
「おお! 分かっとるやん!」
「ただし、我々が海賊ではないと主張しても、海軍が認める保証はありません」
「……せやな」
「その点だけは、理解しておくべきでしょう」
「おう!」
……。
……。
何や。
イヴォが喋ると、急にまともな組織になった気がするわ。
「ほな、次! 役職を決めるで!」
「……今決めるんか?」
ゼンが帳簿から顔を上げた。
「当たり前や! 組織には役割分担が必要やろ!」
「それはそうだが……」
「まず、団長は俺!」
「異議なし」
全員、あっさり頷いた。
……。
……。
おお。
満場一致。
何や、ちょっと照れるな。
「ほんで、副団長はダグ!」
「おおおおおお!!」
毛布の上から、ダグが飛び起きた。
「ついに来たか! 俺の時代が!」
「お前、さっきまで死にかけとったやろ!」
「副団長の名を聞いたら復活したわ!」
「ほな、もう船酔い治ったんか?」
「……」
「……」
「……おええええええ!!」
……。
……。
あかん。
副団長、再び死亡。
「ダグは副団長兼戦闘隊長や! 俺がおらんときは、こいつが戦闘の指揮を執る!」
「……おう!」
「ただし、船酔いしてへんときに限る!」
「余計な条件つけんなァァァ!!」
……。
……。
いや、重要やろ。
戦闘中に副団長が吐いとったら、士気に関わるやん。
「次、ミラ! 総航海士兼気象管理!」
「まあ、それはええわ」
「航路と天候の判断は、全部お前に任せる!」
「……あんたが勝手に嵐を起こさんかったらな」
「……」
「……」
「……善処します」
……。
……。
何やねん。
俺の能力、天候操作なんやけど。
航海士と相性最悪やん。
「ゴルド! 造船と鍛冶!」
「任せとけ。ただし、白羊号を壊したら修理費はお前持ちや」
「……」
「……ガルド?」
「……はい」
……。
……。
あかん。
まだ何も壊してへんのに、すでに修理費の話になっとる。
「ネネ! 医療担当!」
「ええけど、怪我人を増やさんといてな」
「おう!」
「敵も味方も、助けられる命は助ける。それが条件やで」
「分かっとる!」
ネネが満足そうに頷いた。
……。
……。
まあ、こいつは昔からそうや。
俺が怪我して帰ってきたときも、まず治療して、それから死ぬほど怒られた。
……。
……。
あの順番、逆にしてくれへんかな。
「バオ! 兵糧と民間人保護!」
「食料庫に勝手に入る奴は、誰であろうと許さんからな」
「……」
「……」
「……ガルド?」
「……はい」
……。
……。
何でみんな、俺を見るん?
「キット! 索敵と狙撃!」
「おう! 遠くの敵は任せとけ!」
「ただし、見つけた瞬間に撃つなよ!」
「それはお前に言われたないわ!!」
……。
……。
何やねん。
俺、そんなに信用ないんか。
「ガロ! 操舵と海中戦!」
「任せとけ。海に落ちた奴の救助も俺がやる」
「おお! 頼りにしとるで!」
「特に、お前が落ちたときな」
「……」
「……」
「……絶対助けてな?」
ガロが、ニヤリと笑った。
……。
……。
怖い。
こいつ、たまに俺を海へ突き落とすからな。
悪魔の実の能力者にとって、海は洒落にならん弱点やねん。
「ゼン! 会計と交易と補給!」
「異議なし。ただし、予算の最終決定権は俺が持つ」
「……え?」
「持つ」
「……」
「……ガルド?」
「……はい」
……。
……。
あかん。
団長なのに、財布の紐を握らせてもらえへん。
「ボンゴ! 通信と情報伝達!」
「おう! 港の噂も任せとけ!」
「頼むで! 情報は大事やからな!」
「酒場に行く必要があるときは、経費で落としてええか?」
「ええで!」
「却下だ!!」
ゼンの声が、甲板に響いた。
……。
……。
何やねん。
まだ酒場に行ってへんやろ。
「トーマ! 右舷斬り込み隊長!」
「おう!」
「トーラ! 左舷斬り込み隊長!」
「任せろ!」
双子が同時に立ち上がった。
「何で俺が右なんや!」
「俺こそ右がええわ!」
「ほな、入れ替わるか?」
「嫌や!」
「どっちやねん!!」
……。
……。
あかん。
こいつら、どっちでもええことで喧嘩しすぎや。
「最後、イヴォ! 外交と諜報と記録!」
「承知しました」
「お前、難しい話できるやろ?」
「ええ。団長の発言を、相手に伝わる形に整えるのも仕事に含めておきます」
「……」
「……」
「……俺、そんなに説明下手なん?」
イヴォが、にこやかに微笑んだ。
……。
……。
何で答えてくれへんの?
「よし! これで役職は決まりや!」
俺は、全員を見渡した。
団長、俺。
そして、十二人の仲間たち。
……。
……。
おお。
何や。
ちょっと感動してもうた。
俺ら、ほんまに海へ出たんやな。
「ほな、次は活動方針や!」
俺は、拳を握った。
「困っとる奴を助ける! 悪い海賊を倒す! 理不尽なことをしとる奴がおったら、相手が誰でも止める!」
「……海軍相手でも?」
ミラが尋ねた。
「当たり前や!」
「……また政府艦隊と戦うことになるかもしれへんで?」
「そんときは、そんときや!」
「……」
「……」
「……まあ、あんたならそう言うと思ったわ」
ミラが、深いため息をついた。
「ただし、無駄な戦闘は避けるべきです」
イヴォが口を開いた。
「我々の目的は、海軍と戦争することではありません。困っている人々を助けることです」
「……せやな」
俺は頷いた。
……。
……。
そうや。
俺は、戦争がしたくて海へ出たんちゃう。
自由に生きたいだけや。
それに。
父ちゃんにも、言われたからな。
『恩は返すものやない。受け取ったものを、次の奴へ渡せ』
……。
……。
俺は、あの島で育ててもらった。
父ちゃんに剣を教えてもらった。
みんなに助けてもらった。
ほな、今度は俺が、誰かを助ける番や。
「よし!」
俺は、立ち上がった。
「海上自警団、正式結成や!!」
全員が、拍手した。
ダグは、毛布の上から拳を突き上げた。
……。
……。
お前、ほんまに大丈夫か?
―――
「……で、旗はどうするん?」
キットの一言で、会議は第二段階へ突入した。
……。
……。
旗。
そうや。
組織には旗が必要や。
しかも、俺らは父ちゃんの船を借りとる。
白羊号には、ワカバの白い羊の意匠が残っとるけど、そのまま使うわけにはいかへん。
俺は、故郷を巻き込みたくないんや。
「ほな、嵐や!」
「嵐?」
「真っ黒な雷雲! そこから雷が落ちとる絵!」
「……それ、海賊旗っぽない?」
ミラが、眉をひそめた。
「海上自警団の旗や!」
「……ドクロは?」
「要らん! 海賊ちゃうし!」
「ほな、雷雲の下に荒凪を入れようや!」
キットが提案した。
「おお! それや!」
俺は、思わず手を叩いた。
……。
……。
めっちゃ格好ええやん。
「ついでに、錨も入れようや!」
ダグが、毛布の上から手を挙げた。
「何で錨やねん」
「俺の武器やからや!」
「……まあ、ええか」
「よっしゃ!」
……。
……。
何や。
こいつ、錨への愛情だけは異常やな。
「ほな、雷雲の下に、交差する荒凪と錨!」
「ええんちゃう?」
トーマが頷いた。
トーラも、腕を組んだ。
「でも、ちょっと寂しないか?」
「ほな、俺の顔も入れよか」
「旗がうるさなるわ!!」
……。
……。
何やねん。
俺の顔、そんなにうるさいんか。
「とりあえず、図案は私がまとめておきます」
イヴォが紙に描き始めた。
黒い雷雲。
その下に、交差する大太刀と錨。
……。
……。
おお。
ええやん。
めっちゃ格好ええやん。
「これや! これが俺らの旗や!!」
俺は、完成した図案を掲げた。
ミラが、何とも言えん顔をした。
「……ドクロがないだけの海賊旗やな」
「海上自警団の旗や!!」
……。
……。
何回言わせんねん!
―――
翌朝。
海は、驚くほど穏やかやった。
空には白い雲。
風は弱く、波も小さい。
……。
……。
最高の航海日和やな。
俺は船首に座って、海を眺めていた。
いやあ。
自由や。
何や、この開放感。
島を出たばっかりやけど、すでに人生最高の日々やで。
「ガルドォォォ!!」
マストの上から、キットの声が響いた。
「何や!?」
「前方に船! 三隻!」
「おお! 商船か!?」
「一隻は商船! 残り二隻は……海賊旗や!!」
……。
……。
おお。
海賊や。
ついに来たか。
俺の人生初の、海上自警団としての仕事や!
「ミラ! 商船の方へ向かうで!」
「待て! 状況を確認してからや!」
「分かっとる!」
俺は、船首に立った。
見聞色の覇気を広げる。
……。
……。
おる。
商船の上には、怯えとる人間が大勢。
海賊船の上には、武器を持った連中。
そして。
……。
……。
あかん。
このままやと、商船が砲撃される。
「ミラ!」
「何や!?」
「俺、先に行くわ!」
「……は!?」
……。
……。
次の瞬間。
俺の体は、雷になった。
―――
轟音。
閃光。
そして。
……。
……。
ドッゴオオオオオオン!!
「ぎゃああああああ!!」
……。
……。
あっ。
やってもうた。
俺は、海賊船の甲板に立っていた。
……。
……。
いや。
正確には。
海賊船の甲板に、でっかい穴を開けて立っていた。
……。
……。
おかしいな。
もっとこう、格好よく着地する予定やったんやけど。
「な、何だてめえええ!!」
海賊たちが、悲鳴を上げた。
……。
……。
いや、俺もびっくりしとるで。
まさか、着地しただけで甲板が爆発するとは思わんかったわ。
「お、お前ら! ちょっと落ち着け!」
「落ち着けるかァァァ!!」
……。
……。
せやな。
俺も、逆の立場やったら無理やと思う。
「てめえ、何者だ!!」
奥から、巨大な男が現れた。
身長、三メートルくらい。
顔には大きな傷。
腕にはドクロの刺青。
そして、手には巨大な斧。
……。
……。
おお。
めっちゃ海賊っぽい。
「俺は、『裂斧』のバルガン! 懸賞金三千二百万ベリーだ!!」
……。
……。
おお。
三千二百万。
……。
……。
高いんか?
低いんか?
この時代の相場、よう分からんな。
「で、てめえは何者だ!!」
バルガンが、斧を構えた。
俺は、胸を張った。
「海上自警団団長! ウラガン・ガルドや!!」
……。
……。
沈黙。
「……は?」
「海上自警団や!」
「……海賊か?」
「ちゃうわ!!」
……。
……。
何やねん。
海賊って言葉しか知らんのか、こいつら。
「とりあえず、お前ら、あの商船を追いかけるんやめえや」
「……は?」
「困っとるやろ。見たら分かるやん」
「……」
「……」
「……てめえ、舐めてんのか!!」
バルガンが、斧を振り上げた。
……。
……。
あかん。
話が通じへん。
ほな、しゃあないな。
俺は、背中の荒凪に手をかけた。
「……ほな、ちょっと痛い目見てもらおか」
巨大な大太刀を抜き放つ。
武装色の覇気をまとわせる。
さらに、風を巻きつける。
……。
……。
おお。
ええ感じや。
これで、相手の武器だけを吹き飛ばして――。
「おらァァァ!!」
バルガンが、斧を振り下ろした。
俺は、荒凪を横薙ぎに振るった。
……。
……。
ゴオオオオオオオ!!
「ぎゃああああああ!!」
……。
……。
あっ。
やってもうた。
バルガンの斧が、吹き飛んだ。
……そこまではええ。
問題は、その後や。
風をまとった斬撃が、船の手すりを吹き飛ばした。
さらに、マストをへし折った。
帆を引き裂いた。
そして。
……。
……。
船の横腹に、でっかい穴を開けた。
「俺の船がァァァァ!!」
バルガンが、絶叫した。
……。
……。
あかん。
めっちゃ怒っとる。
「……すまん」
「謝って済むかァァァ!!」
……。
……。
せやな。
俺もそう思うわ。
―――
一方、そのころ。
白羊号では、ミラが頭を抱えていた。
「……あいつ、もう敵船に乗り込んどる」
「……早いな」
ガロが、遠くの海賊船を見た。
その瞬間。
海賊船のマストが、吹き飛んだ。
「……」
「……」
「……やりよったな」
ゴルドが、ため息をついた。
「……あいつ、船を壊さんと戦うって言うとったやろ」
「……言うとったな」
「……」
「……」
「……無理やったな」
……。
……。
何や。
みんな、俺のこと信用なさすぎちゃう?
「キット! もう一隻の位置は!?」
「商船の右後方! 砲撃準備しとる!」
「ガロ! 白羊号を商船の側へ!」
「了解!」
ガロが操舵輪を回した。
ミラは海図を押さえ、風向きを確認する。
「トーマ! トーラ! 右舷の警戒!」
「おう!」
「任せろ!」
双子が、それぞれ斧を担いで走り出した。
「ボンゴ! 商船に信号を送って!」
「了解! こっちが味方やって伝えるで!」
ボンゴが旗を取り出した。
……。
……。
おお。
ちゃんと組織として動いとるやん。
俺がおらん方が、まともに機能しとるんちゃうか?
……。
……。
いや。
そんなことないやろ。
たぶん。
―――
「撃てェェェ!!」
海賊船の甲板で、誰かが叫んだ。
……。
……。
ん?
撃つ?
何を?
俺が振り返った瞬間。
大砲が、火を噴いた。
……。
……。
いや。
ちょっと待て。
お前ら、自分の船の上で大砲撃つん?
しかも、俺に向かって?
……。
……。
危ないやろ!
「うおおおおお!!」
俺は、荒凪を振り上げた。
刃に雷をまとわせる。
飛んできた砲弾を、真っ二つに斬り裂いた。
……。
……。
おお。
決まった。
今の、めっちゃ格好よかったやろ。
……。
……。
バチバチバチバチ!!
「ぎゃああああああ!!」
……。
……。
あっ。
やってもうた。
荒凪にまとわせた雷が、甲板を伝って広がっとる。
……。
……。
あかん。
このままやと、海賊たちが感電する。
俺は慌てて、風を起こした。
「うおおおお!!」
雷を、空へ向かって押し上げる。
……。
……。
ドッゴオオオオオン!!
……。
……。
あっ。
今度は、雷鳴の衝撃で甲板が割れた。
……。
……。
何やねん。
俺、船と相性悪すぎへん?
「沈むぞォォォ!!」
海賊たちが、悲鳴を上げた。
……。
……。
えっ。
沈む?
……。
……。
あかん。
それはあかん。
俺、こいつらを殺すつもりなんかないねん。
俺は、船の下へ風を送り込んだ。
船体を、海面から持ち上げる。
……。
……。
おお。
浮いた。
いけるやん。
これなら、沈没せずに――。
「うわああああああ!!」
……。
……。
あっ。
浮きすぎた。
船が、海面から十メートルくらい持ち上がっとる。
……。
……。
あかん。
ちょっと風を弱めよう。
「……よし」
俺は、風の出力を落とした。
……。
……。
ドッバアアアアアン!!
……。
……。
あっ。
船が、海に落ちた。
しかも。
……。
……。
真っ二つになった。
「俺の船がァァァァァ!!」
バルガンの絶叫が、海に響いた。
……。
……。
ごめんなさい。
―――
その後のことは、正直あんまり覚えてへん。
いや、覚えとるで。
覚えとるんやけど。
……。
……。
忙しかってん。
まず、海に落ちた海賊たちを助けた。
風で浮かせて、船の残骸の上へ運ぶ。
バルガンも、ちゃんと助けた。
……。
……。
めっちゃ泣いとったけど。
「てめえええ!! 俺の船を返せえええ!!」
「……すまん」
「謝って済むかァァァ!!」
……。
……。
せやな。
俺もそう思うわ。
で。
もう一隻の海賊船が、逃げようとしとった。
……。
……。
あかん。
逃がしたら、また誰かを襲うかもしれへん。
俺は、雷になって飛んだ。
……。
……。
ドッゴオオオオオン!!
「ぎゃああああああ!!」
……。
……。
あっ。
またやってもうた。
今度は、船首にでっかい穴を開けた。
……。
……。
何やねん。
雷の瞬間移動、めっちゃ便利やけど、着地が難しいな。
「ま、待て!!」
「何や?」
「降参する!!」
「……え?」
「もう戦わねえ!! だから船だけは壊さないでくれ!!」
……。
……。
何や。
話の分かる奴らやん。
「ほな、降参するんやな?」
「する!!」
「もう商船を襲わへんな?」
「襲わねえ!!」
「よし!」
俺は、荒凪を鞘に納めた。
……。
……。
おお。
初めて、ちゃんと戦わずに解決できたんちゃう?
俺、ちょっと成長したな。
……。
……。
ミシッ。
「……ん?」
船の下から、嫌な音がした。
……。
……。
ミシミシミシッ。
「……あ」
さっき開けた穴から、亀裂が広がっとる。
……。
……。
あかん。
「船がァァァァ!!」
海賊たちが、また絶叫した。
……。
……。
ごめんなさい。
―――
戦闘終了。
海賊船、二隻。
航行不能。
商船、無事。
海賊たち、全員救助。
……。
……。
よし。
結果だけ見たら、大成功やな。
俺は、雷になって白羊号へ戻った。
……。
……。
今度は、ちゃんと着地したで。
甲板も壊してへん。
……。
……。
成長や。
「ただいまァ!!」
俺は、元気よく叫んだ。
……。
……。
全員が、俺を見た。
……。
……。
何や。
その顔。
「……ガルド」
ミラが、ゆっくり口を開いた。
「……何や?」
「……あんた、何隻壊した?」
「……」
「……」
「……二隻?」
……。
……。
沈黙。
「二隻ともかァァァァ!!」
ミラの絶叫が、海に響いた。
……。
……。
いや。
待て。
俺、ちゃんと商船は守ったやろ。
そっちを褒めてくれてもええやん。
「ガルド」
ゼンが、帳簿を開いた。
「……何や?」
「……あの二隻、拿捕できたら、どれだけの金になったと思う?」
「……」
「……」
「……すみません」
……。
……。
あかん。
海賊船を沈める前に、積荷や財宝を確保するべきやったんか。
……いや、待て。
それやったら、俺らが海賊みたいやん。
「ゼン! 俺らは海上自警団やで! 海賊の財宝を奪うんは――」
「拿捕した船を港の当局に引き渡すなり、商船から正当な護衛報酬を受け取るなり、やり方はあるやろ!!」
「……ああ」
……。
……。
なるほど。
正当な報酬か。
海上自警団、意外と商売の余地あるんやな。
「荒凪の刃、見せろ」
ゴルドが手を差し出した。
……。
……。
あっ。
そういえば。
雷、めっちゃ流したな。
「……ちょっとだけやで?」
「見せろ」
「……はい」
ゴルドが、荒凪の刃を確認した。
……。
……。
眉間に皺が寄った。
……。
……。
あかん。
怒られる。
「お前、剣に雷流しすぎや」
「……」
「刃は丈夫に作っとるけど、限度がある」
「……」
「あと、風をまとわせるときは、周囲の船体も考えろ」
「……はい」
……。
……。
何や。
俺、船長やのに、めっちゃ怒られとるやん。
「まあ、商船を守れたんは事実や」
ガロが、肩をすくめた。
「それに、海賊たちも全員助けたんやろ?」
「おう!」
「ほな、ええんちゃう?」
「せやろ!!」
俺は、思わずガロの肩を叩いた。
……。
……。
お前だけや。
俺のこと、ちゃんと評価してくれるんは。
「ただし、次は船を壊す前に俺らに相談せえよ」
「……」
「……」
「……善処します」
……。
……。
あかん。
結局、怒られた。
―――
その後。
白羊号の甲板は、救助活動で大騒ぎになった。
ネネは、怪我をした海賊たちの治療。
バオは、商船の乗組員と救助した海賊たちに食料を配った。
キットは、周囲にほかの敵船がおらんか警戒。
ボンゴは、商船と連絡を取り、救助した海賊たちの引き渡しを調整した。
イヴォは、商船の船長から事情を聞き、事件の経緯を記録。
ガロは、海に残っとる残骸を確認し、逃げ遅れた奴がおらんか調べた。
トーマとトーラは、救助した海賊たちを甲板へ運び上げた。
ゴルドは、白羊号に損傷がないか点検。
ゼンは、救助活動に使った食料や医薬品の数まで帳簿につけとった。
……。
……。
何や。
みんな、めっちゃ働いとるやん。
俺も、何かせなあかんな。
「ネネ! 俺も手伝うで!」
「ほな、あっちの怪我人を運んで!」
「おう!」
俺は、海賊の一人を抱え上げた。
……。
……。
めっちゃ震えとる。
「お、お前……!」
「何や?」
「……俺を、どうする気だ……!」
「治療するんや!」
「……は?」
「怪我しとるやろ。ネネに診てもらえ」
「……」
「……」
「……お前が怪我させたんだろォォォ!!」
……。
……。
せやな。
それは、ほんまにそうや。
ごめんなさい。
―――
夕方。
商船の船長が、俺のところへやってきた。
五十歳くらいの、髭を生やしたおっちゃんや。
「……あんたが、船長か?」
「おう! ウラガン・ガルドや!」
「……今日は、本当に助かった」
おっちゃんが、深々と頭を下げた。
……。
……。
おお。
何や。
めっちゃ嬉しいな。
「いやいや! 困っとる人を助けるんが、俺らの仕事やからな!」
「……仕事?」
「せや!」
俺は、胸を張った。
「俺ら、海上自警団や!!」
……。
……。
おっちゃんが、首を傾げた。
「……海上自警団?」
「せや! 海の平和を守る、正義の組織や!」
「……海軍ではないのか?」
「ちゃうで!」
「……では、海賊?」
「ちゃうわ!!」
……。
……。
何やねん。
どいつもこいつも。
海賊と海軍の二択しかないんか!?
「……まあ、何でもいい」
おっちゃんが、苦笑した。
「……あんたたちのおかげで、俺たちは助かった。それだけは、間違いない」
「……おう!」
俺は、笑った。
「ほな、また困ったことがあったら、俺らを呼んでくれや!」
「ああ。その前に、ひとつ受け取ってもらいたいものがある」
おっちゃんが、後ろに控えとった船員へ合図した。
すると、船員二人が、何やら重そうな木箱を運んできた。
……。
……。
何や?
お土産?
「これは、今回の救助に対する謝礼だ。大した額ではないが、受け取ってほしい」
おっちゃんが木箱の蓋を開けた。
……。
……。
おお。
ベリーや。
めっちゃベリーや。
「……ええの?」
「もちろんだ。積荷も船も無事だった。あんたたちが来なければ、全部奪われていただろう」
「……そっか」
俺は、木箱を見た。
……。
……。
何や。
ちょっと照れるな。
人を助けたら、感謝されて。
そのうえ、報酬までもらえる。
……。
……。
これや。
これが海上自警団や!
「ゼン!!」
俺は、全力で叫んだ。
「何だ!?」
ゼンが帳簿を抱えて走ってきた。
「謝礼や! 商船のおっちゃんがくれるって!」
「……何!?」
ゼンの目が、初めて輝いた。
……。
……。
おお。
こいつ、そんな顔もできるんやな。
「失礼。金額を確認しても?」
「ああ、もちろんだ」
ゼンが木箱の中身を数え始めた。
……。
……。
めっちゃ速い。
何や。
こいつ、金を数えるときだけ手が残像になっとるで。
「……五百万ベリー」
ゼンが、ゆっくり顔を上げた。
「……五百万?」
「そうだ。少ないかもしれんが、今すぐ用意できるのはこれだけでな」
おっちゃんが、申し訳なさそうに頭を下げた。
……。
……。
いやいやいや。
五百万やぞ?
俺、そんな大金、初めて見たわ。
「十分や! ありがとう、おっちゃん!」
「……そう言ってもらえると助かる」
おっちゃんが、笑った。
……。
……。
おお。
何や。
めっちゃええ人やな。
「ゼン! これで借金、ちょっと返せるんちゃう!?」
「……」
ゼンが、帳簿を開いた。
……。
……。
あっ。
嫌な予感。
「まず、今回の航海で使った食料費」
「……」
「飲料水」
「……」
「医薬品」
「……」
「それから、ベルカでの補給費と停泊料」
「……」
「さらに、今後の予備費を確保して――」
「……」
……。
……。
「……ゼン」
「何だ」
「……五百万、もう無くなった?」
「まだあるわ!!」
……。
……。
よかった。
海上自警団、初収入や。
しかも、ちゃんと人を助けて稼いだ金や。
……。
……。
何や。
ちょっと誇らしいな。
―――
その夜。
白羊号の甲板。
俺は、船首に座って、星空を眺めていた。
……。
……。
綺麗やなぁ。
凪岩島で見た星と、同じ星や。
……。
……。
でも。
俺は、もう島にはおらへん。
父ちゃんも、島の連中も、あそこにおる。
俺は、ここにおる。
……。
……。
何や。
ちょっと不思議な気分やな。
「……ガルド」
背後から、声がした。
ダグや。
……。
……。
おお。
生き返っとるやん。
「ダグ! 船酔い治ったんか?」
「……ちょっとだけな」
「ほな、座れや」
ダグが、俺の隣に腰を下ろした。
しばらく、二人で海を眺めた。
「……なあ、ダグ」
「何や?」
「……俺、今日、船二隻壊してもうたな」
「……せやな」
「……」
「……」
「……ちょっと、やりすぎたかな?」
「……ちょっと?」
……。
……。
何やねん。
そこは、ちょっとくらい慰めてくれてもええやん。
「でも、商船は守れたやろ?」
「せやな」
「海賊たちも、全員助けたやろ?」
「せやな」
「しかも、謝礼までもらえたやろ?」
「せやな」
「……ほな、まあ、ええか」
「……お前、ほんまに前向きやな」
……。
……。
いや。
反省はしとるで。
ほんまに。
ただ。
俺の能力は、嵐や。
風も、雷も、雨も、雲も。
全部、めちゃくちゃ強い。
……。
……。
強すぎるんや。
せやから、ちゃんと使いこなさなあかん。
……。
……。
でも。
使わへん、なんて選択肢はない。
俺は、これからも雷で飛ぶし。
荒凪に風も雷もまとわせる。
嵐だって起こす。
……。
……。
ただし。
次は、もうちょい上手くやる。
……。
……。
たぶん。
「……なあ、ダグ」
「何や?」
「……お前、何で俺についてきたん?」
「……は?」
ダグが、俺を見た。
「……今さら何やねん」
「いや、ちょっと気になって」
「……」
ダグは、しばらく黙っとった。
そして。
「……お前と海へ出たかったからや」
「……」
「……それだけや」
……。
……。
何や。
急に格好ええこと言うやん。
「……ダグ」
「何や?」
「……お前、ほんまに俺の右腕やな」
「せやろ!」
ダグが、胸を張った。
「……でも、副団長の仕事、ちゃんと覚えとる?」
「……」
「……」
「……何やったっけ?」
……。
……。
あかん。
副団長、就任二日目で職務忘れとる。
―――
翌朝。
俺らは、次の港を目指して航海を続けていた。
……。
……。
いやあ。
海って、ほんまに広いな。
どこまで行っても、海。
右を見ても、海。
左を見ても、海。
……。
……。
何や。
ちょっと飽きてきた。
「ミラァァァ!!」
「何やァァァ!!」
「次の港、まだなん!?」
「まだや!!」
「あと何時間!?」
「夕方には着くわ!!」
「……」
「……」
「……遠ない?」
……。
……。
あかん。
俺、海に出る前は、もっとこう、冒険が次々に起こると思っとったわ。
……。
……。
いや。
昨日、海賊船二隻と戦ったばっかりやけどな。
「ガルド」
ミラが、俺を呼んだ。
「何や?」
「……港に着いたら、まず補給やで」
「おう!」
「その次、船の整備」
「おう!」
「それから、今後の航路を決める」
「おう!」
「……勝手にどっか行ったらあかんで?」
「……」
「……」
「……善処します」
……。
……。
何やねん。
俺、十八歳やで。
もう大人やで。
ちょっとくらい自由にさせてくれてもええやん。
「……あ、そうや」
俺は、ふと思い出した。
「……なあ、ダグ」
「何や?」
「……俺ら、手配書とか出たりせえへんよな?」
……。
……。
ダグが、しばらく俺を見た。
そして。
「……ぶははははは!!」
盛大に笑い始めた。
……。
……。
何やねん。
「……何がおかしいん?」
「お前、政府の艦隊五隻ぶっ飛ばして、昨日は海賊船二隻も壊したやろ!」
「……せやな」
「……手配書くらい、出るんちゃうか?」
「……」
「……」
「……まさかなぁ」
……。
……。
いや。
待て。
……。
……。
ほんまに、出たりせえへんよな?
俺、まだ海へ出て三日目やぞ?
……。
……。
しかも。
もし出るんやったら。
……。
……。
写真、ちゃんと格好よく撮ってくれるんやろな?
自分で修正しながら笑ってます。こういうコメディは俺には書けない。