海へ出て、三日目。
俺は今、人生で初めて見る異国の港町を前にして、猛烈に感動していた。
「おおおおおおおお!!」
でっかい。
めっちゃでっかい。
海岸沿いには赤い屋根の倉庫がずらりと並び、何十隻もの船が港にひしめいとる。その向こうには白い建物が立ち並び、街の中央には大きな時計塔。
しかも、まだ朝やというのに、港からは人の声や荷車の音がひっきりなしに聞こえてくる。
……。
……。
すげえ。
これが、外の世界か。
「ミラ! あれがベルカか!?」
「せやで」
「でっか! 港だけで凪岩島の村より広ない!?」
「交易都市やからな」
「船もめっちゃおる!」
「港やからな」
「人もめっちゃおる!」
「街やからな」
「お前、もうちょい感動を共有してくれへん!?」
何やねん。
俺の人生初の異国訪問やぞ。
もうちょっとこう、一緒に興奮してくれてもええやん。
「感動するんは勝手やけど、あんた、昨日のこと忘れてへんやろな」
「昨日?」
「……ほんまに忘れとるんか?」
いや、覚えとるで。
商船を助けた。
海賊船二隻を撃退した。
一隻は真っ二つになった。
もう一隻は、まあ、ちょっと航行不能になった。
……。
……。
あれ?
昨日の出来事、ほぼ全部俺が船を壊した話やん。
「昨日助けた商船、うちらより先にベルカへ向かったやろ」
「せやな」
「あの船の人らが、港で昨日の出来事を話しとったらどうなる?」
「……俺が英雄になる?」
「海賊船を二隻とも粉砕した四メートル半の巨人がおる、って噂になるやろ!!」
……。
……。
何やそれ。
めっちゃ格好ええやん。
「なあ、ミラ。『海賊船二隻を粉砕した謎の巨人』って、新聞の見出しに使えへんかな?」
「使われたら困るから言うとんねん!!」
何やねん。ちょっとくらい有名になってもええやん。
俺が故郷を離れた理由の一つは、政府の目を凪岩島から逸らすためや。
……まあ、新聞に載るんやったら、できれば格好ええ写真にしてほしいけど。
「団長」
背後から、イヴォが声をかけてきた。
「港に入る前に、一つ確認しておきたいことがございます」
「何や?」
「入港手続きの際、我々の所属を尋ねられた場合ですが」
「海上自警団やろ?」
「ええ。ですが、まだどこの国家からも活動許可を得ておりません」
「……せやな」
「したがって、港の登録上は民間船舶として扱ってもらうのがよろしいかと」
「……なるほど」
……。
……。
何や。
めっちゃまともな話やな。
「ほな、俺が堂々と海上自警団って名乗ったらええんやな!」
「……」
イヴォが、ゆっくり目を閉じた。
「……団長。私の説明の、どの部分をお聞きになっておられました?」
「全部やで!」
「……」
……。
……。
何やねん。
何でそんな悲しそうな顔するん?
―――
ベルカへの入港は、思っていた以上に大変やった。
まず、港の入り口で係員に船の名前と所属を尋ねられた。
そこまではええ。
問題は、その次や。
「船長のお名前は?」
「ウラガン・ガルドです!」
「ご年齢は?」
「十八歳です!」
「……十八?」
「十八です!」
係員の男性が、俺を見上げた。
俺の身長、四百五十六センチ。
係員の身長、たぶん百七十センチくらい。
……。
……。
めっちゃ首しんどそう。
俺は気を遣ってしゃがんだ。
「これでええ?」
「……あ、ありがとうございます」
何や。
礼儀正しい人やな。
「所属は?」
「海上自警団です!」
「……海上自警団?」
「はい!」
「……どちらの国の?」
「無所属です!」
係員がペンを止めた。
ミラが額を押さえた。
ゼンが帳簿を閉じた。
イヴォが、静かに俺の肩を叩いた。
「団長。ここは私に」
「何や? 俺、ちゃんと答えとるやろ?」
「ええ。実に正直で結構です。ですが、世の中には正直に答えると説明が長くなる質問がございます」
「……そうなん?」
「ございます」
イヴォは係員に向き直ると、にこやかに話し始めた。
「失礼。我々は凪岩島を拠点としていた民間の船舶です。現在は独立した海上警備活動を行っておりますが、国家機関には所属しておりません。停泊区分は私有船で結構です」
「……ああ、なるほど! では私有船として登録しますね」
……。
……。
おお。
すげえ。
何か知らんけど、めっちゃ話が早い。
「イヴォ、お前、何したん?」
「団長の説明を、相手が理解できる言葉に置き換えただけです」
「俺の説明も分かりやすかったやろ?」
「ええ。団長のお考えは、実に明快です」
「せやろ!」
「明快すぎて、誤解を招くのが難点ですが」
……。
……。
褒められとるんか、これ?
―――
停泊場所が決まると、白羊号の甲板が一気に騒がしくなった。
「右舷、岸壁まであと三メートル!」
「了解!」
キットがマストの上から叫ぶ。
その声に合わせて、操舵輪を握るガロが船の向きを微調整した。
魚人であるガロは、水の流れを読むのが抜群に上手い。
昨日の戦闘でも、海に落ちた連中を助けるために大活躍してくれた。
……俺が海に落ちたら、こいつに頼るしかないからな。
大事にせな。
「ガロ! そのまま右や!」
「分かってる! お前は余計な風を吹かせるなよ!」
「分かっとるわ!」
……。
……。
信用ないなぁ。
昨日ちょっと海賊船を壊しただけやのに。
「係留索、投げるぞ!」
「おう!」
トーマが太いロープを肩に担いだ。
隣では、双子のトーラが同じようにロープを持っとる。
二人とも斧を武器にする、うちの斬り込み担当や。
「兄貴! そっち引っ張りすぎや!」
「お前こそ緩めすぎやろ!」
「どっちがや!」
「お前がや!」
……。
……。
朝から元気やな、こいつら。
仲がええのか悪いのか、いまだによく分からん。
「二人とも! 喧嘩しとらんと、さっさと結べ!!」
ミラの一喝で、双子が同時に動いた。
……すげえ。
ミラ、船の上では父ちゃん並みに怖い。
「ガルド! お前も手伝え!」
「おう!」
俺は係留索をつかんだ。
よし。
この程度のロープ、俺の腕力なら余裕や。
「ふんっ!」
ブチッ。
……。
……。
あっ。
「ガルドォォォォ!!」
……。
……。
ごめんなさい。
―――
ようやく停泊できたころには、もう昼前になっとった。
ゴルドは船を降りるなり、港の造船所へ向かう準備を始めた。
「ガルド。俺は船材と鍛冶場を見てくる」
「おう! 何か要るもんあるん?」
「山ほどある」
「……そんなに?」
「昨日の戦闘で船体に負担がかかっとる。お前が甲板から飛び出すたびに、船が揺れとったからな」
「……」
「あと、荒凪の手入れもせなあかん」
「……」
「お前、剣に雷を流しすぎや」
「……」
「聞いとるか?」
「……はい」
何やねん。
朝から反省会ばっかりや。
俺、昨日めっちゃ頑張ったやろ。
「ゴルド! 俺も行こか!?」
「お前が来たら鍛冶場が壊れる」
「何でやねん!!」
……いや。
否定しきれへんのが悔しい。
「ほな、俺とトーラで荷物運ぶわ!」
トーマが斧を肩に担いだまま手を挙げた。
「何でお前が勝手に決めとんねん! 俺は市場に行きたいんや!」
「お前、昨日も食料庫の干し肉勝手に食うとったやろ!」
「あれは味見や!」
「三十本も味見する奴がおるか!!」
……。
……。
三十本?
バオがゆっくり振り返った。
「……トーラ」
「……何や?」
「……ちょっと来い」
「……」
「……来い」
トーラが、目に見えて青ざめた。
……。
……。
頑張れ。
俺は助けへんぞ。
食料に手を出した奴をバオから救える人間なんか、この船にはおらん。
―――
結局、初寄港の買い出しは三班に分かれることになった。
ミラ、ゼン、バオ、ネネは市場で食料と医薬品の調達。
ゴルド、トーマ、トーラは造船所で船材の確認。
キット、ボンゴ、イヴォは港町の情報収集。
ガロは白羊号に残って船の管理。
……で。
「俺とダグは?」
「荷物持ち」
ミラが即答した。
……。
……。
「なあ、俺、団長やで?」
「せやな」
「ダグ、副団長やで?」
「せやな」
「……何で二人とも荷物持ちなん?」
「一番力があるからや」
……。
……。
正論や。
反論の余地がない。
ダグが、俺の肩を叩いた。
「まあ、ええやん。港の街、見て回れるんやろ?」
「……せやな!」
そうや。
初めての異国や。
何があるか分からん。
冒険や!
……。
……。
なお、このときの俺は知らなかった。
このあと、人生で初めて自分の顔が印刷された紙を見て、心底絶望することになるとは。
―――
ベルカの市場は、凄まじかった。
肉。
魚。
野菜。
果物。
香辛料。
見たこともない食材が、そこら中に並んどる。
「おおお! ミラ! あの果物何や!?」
「知らん!」
「バオ! あの魚、めっちゃでかいで!」
「見えてる!」
「ネネ! あの薬草、何に使うん!?」
「説明するから、勝手に食べんといて!」
「ゼン! あの剣、格好ええな!」
「買わんぞ!!」
……。
……。
何やねん。
まだ何も言うてへんやろ。
俺はただ、ちょっと欲しいなと思っただけや。
「兄ちゃん、いい体してんな!」
露店の親父が声をかけてきた。
「せやろ!」
「港で働かねえか? その体なら一日で相当稼げるぞ!」
「……給料は?」
「ガルド!!」
ミラが俺の袖を引っ張った。
「何や! 話聞くだけやろ!」
「あんた船長やろ!!」
「副業や!」
「初寄港で転職すんな!!」
……。
……。
ちぇっ。
魅力的な求人やったのに。
そのとき。
市場の向こうから、騒がしい声が聞こえてきた。
「号外だァァァ!!」
新聞売りの少年が、束になった新聞を抱えて走ってくる。
「政府艦隊襲撃事件! 凪岩島沖で謎の巨人が大暴れ!!」
……。
……。
……ん?
「ダグ」
「何や?」
「今、凪岩島って言わへんかった?」
「……言うたな」
新聞売りの少年が、さらに叫んだ。
「政府艦隊五隻が壊滅! 首謀者とみられる巨人に高額懸賞金!!」
……。
……。
あかん。
めっちゃ嫌な予感がする。
「坊主! 新聞一部くれ!」
俺は少年を呼び止めた。
少年が振り返る。
「はいよ! 一部――」
そして。
俺を見上げた。
……。
……。
少年の顔から、血の気が引いた。
「……あ」
「……ん?」
「……あああああああ!!」
少年が新聞を放り投げ、全力で逃げ出した。
「何でやねん!!」
俺、まだ何もしてへんやろ!
何や!?
俺の顔、そんな怖いんか!?
「ガルド」
ゼンが、地面に落ちた新聞を拾った。
「……とりあえず、これを見ろ」
俺は新聞を受け取った。
一面。
そこには、でかでかと見出しが載っていた。
『政府艦隊襲撃事件!』
『凪岩島沖にて、政府船団が武装集団と交戦!』
『首謀者とみられる巨人に高額懸賞金!』
……。
……。
「……襲撃?」
俺は首を傾げた。
「……俺ら、襲撃したんやっけ?」
「向こうから来たやろ」
ダグが答えた。
「せやんな?」
「せやで」
「……何で俺らが襲撃したことになっとんねん!!」
俺は新聞を握りしめた。
いや。待て。
落ち着け。
新聞の見出しなんて、多少は大げさになるもんや。
本文を読めば、ちゃんと事情が書いてあるかもしれん。
俺は続きを読んだ。
『政府船団は、凪岩島周辺海域における治安維持活動中、武装集団と交戦した』
『首謀者とみられる巨人は、悪魔の実の能力を使用し、艦隊に甚大な被害を与えた』
『海軍は当該人物および共犯者の行方を追っている』
……。
……。
「……治安維持活動?」
俺は、ゆっくり顔を上げた。
「……あいつら、逃げてきた奴隷を追いかけて来たんやろ?」
「せやな」
ミラが頷いた。
「……で、俺らが止めたんやろ?」
「せやで」
「……それが、何で俺らの襲撃事件になっとんねん」
……。
……。
あかん。
俺、ちょっと腹立ってきた。
新聞には、逃げてきた奴隷たちのことが一言も書かれてへん。
俺らが何で戦ったのかも、書かれてへん。
ただ、政府の艦隊が襲撃されたことだけが、でかでかと載っとる。
……何やねん、それ。
「ガルド」
ミラが俺の腕をつかんだ。
「今ここで暴れても、何も変わらへんで」
「……分かっとる」
せや。
分かっとる。
腹が立ったからって、街中で暴れてどうすんねん。
俺は新聞を畳んだ。
「……まあ、ええわ。俺らが何したかは、俺らが知っとるしな」
「せやな」
ダグが、ニヤリと笑った。
……。
……。
よし。
気を取り直そう。
「で、懸賞金はいくらや?」
俺は新聞を開き直した。
……。
……。
「……あれ?」
新聞の中に、別の紙が挟まっとった。
俺は、それを引っ張り出した。
……。
……。
そこには。
見覚えのある顔が、でかでかと印刷されていた。
……。
……。
「……誰や、これ?」
俺は首を傾げた。
ダグが横から覗き込んだ。
そして。
「……ぶはっ!!」
盛大に吹き出した。
……。
……。
「……何や?」
「お、お前……!」
「何やねん!!」
俺は、もう一度その紙を見た。
四百五十六センチの巨体。
凄まじい形相。
背後には雷雲。
……。
……。
「……あ」
俺や。
……。
……。
いや。
待て。
何や、この顔。
俺、こんな怖い顔しとったっけ?
目つき、めっちゃ悪いやん。
口、めっちゃ開いとるやん。
しかも、何で鼻の穴までこんなにでかく写っとんねん!!
「……ダグ」
「何や……ぶふっ!」
「……これ、俺?」
「お前以外に誰がおんねん!!」
……。
……。
あかん。
納得いかん。
俺は手配書を掲げた。
『WANTED』
『DEAD OR ALIVE』
『URAGAN GALD』
『B 280,000,000』
……。
……。
「……二億八千万?」
俺は目を瞬かせた。
……。
……。
「……高ない?」
ダグが笑いながら頷いた。
「高いな!」
「……俺、そんなに悪いことしたっけ?」
「政府の艦隊五隻撃退したやろ!」
「……ああ」
……。
……。
せやった。
でも。
二億八千万ベリー。
……。
……。
「なあ、ゼン」
「何だ」
「これ、白羊号を何隻買えるんや?」
「……」
ゼンが、ゆっくり俺を見た。
「……お前、まさか」
「いや、ちょっと気になって」
「懸賞金は、お前がもらえる金じゃないぞ」
「……知っとるで?」
「じゃあ、何で船の値段と比べる!?」
「……夢があるやん」
「ないわ!!」
……。
……。
何や。
夢のない話やな。
せっかく高額賞金首になったのに。
「それより、この写真や!」
俺は手配書を掲げた。
「これ、撮り直しできへんかな?」
「できるわけないやろ!!」
ミラが頭を抱えた。
……何やねん。
一生残るかもしれん写真やぞ。
もうちょい格好よく撮ってくれてもええやん。
―――
「……あれ?」
ダグが、別の紙を拾い上げた。
「……何や、これ」
俺は横から覗き込んだ。
そこには、巨大な錨を肩に担いだ男が、でかでかと印刷されていた。
……。
……。
「……ダグ」
「何や?」
「……お前やん」
ダグが手配書を見た。
『WANTED』
『DEAD OR ALIVE』
『DAG』
『B 64,000,000』
……。
……。
「……六千四百万?」
ダグが、ゆっくり呟いた。
「……俺、六千四百万?」
「……せやな」
……。
……。
次の瞬間。
「よっしゃあああああ!!」
ダグが両手を突き上げた。
……。
……。
「……お前、嬉しいん?」
「当たり前やろ!! 六千四百万やぞ!!」
「俺は二億八千万やで?」
「分かっとるわ!!」
ダグが手配書を掲げた。
「しかも写真、めっちゃ格好ええやん!!」
……。
……。
確かに。
巨大な錨を肩に担ぎ、鋭い目つきで正面を睨むダグ。
背後には荒れ狂う海。
……。
……。
「……お前、何でそんな格好ええ写真なん?」
「知らん!」
「……俺なんか、鼻の穴めっちゃでかいんやけど」
「ぶははははは!!」
……。
……。
あかん。
腹立ってきた。
「……なあ、ダグ」
「何や?」
「……写真、交換せえへん?」
「できるかァァァ!!」
……。
……。
世の中、不公平や。
―――
白羊号に戻った俺らを待っていたのは、港で集めた情報を抱えた三人やった。
キット。
ボンゴ。
イヴォ。
……そして。
なぜか、船の甲板に立つガロまで、ものすごく険しい顔をしとる。
「……何や?」
「お前、手配書出とるぞ」
「知っとるで!」
「……何でそんな嬉しそうなん?」
「いや、嬉しくはないんやけど……」
俺は手配書を見せた。
「……写真がなぁ」
「そこか!!」
ガロが頭を抱えた。
……何やねん。
みんな同じ反応やな。
「団長。港では、すでに噂になっております」
イヴォが口を開いた。
「政府艦隊を壊滅させた巨人。昨日、海賊船二隻を撃退した巨人。そして、本日ベルカに入港した巨大な男。……情報がつながるのは時間の問題でしょう」
「……なるほど」
俺は頷いた。
……。
……。
「……ほな、変装するか?」
「その身長で!?」
キットが叫んだ。
……。
……。
確かに。
四百五十六センチの男が帽子かぶったところで、何も変わらんか。
「でも、まだ海軍は動いてへんみたいやで」
ボンゴが口を挟んだ。
「港の海兵に聞いたら、今朝になって手配書が届いたばっかりらしいわ。現場は大騒ぎやけど、正式な命令はまだ来てへんみたいや」
「おお。よう聞けたな!」
「そら、港の酒場は情報の宝庫やからな!」
ボンゴが胸を張った。
……。
……。
「……お前、朝から酒飲んどったん?」
「情報収集や!」
「ほんまか?」
「ほんまや!」
「……」
「……ちょっとだけ飲んだ」
「飲んどるやないか!!」
……。
……。
まあ、ええわ。
情報は手に入ったんやし。
俺は甲板を見渡した。
全員、揃っとる。
ちょうどええ。
……。
……。
「よし!」
俺は手を叩いた。
「第2回海上自警団会議を開催するで!!」
……。
……。
ミラが、ゆっくり俺を見た。
「……昨日、第1回やったばっかりやで?」
「今日は第2回や!」
「……議題は?」
「俺らが指名手配された件について!」
……。
……。
ゼンが帳簿を開いた。
ネネが椅子を持ってきた。
バオが全員分の茶を用意した。
ゴルドは鍛冶場から戻ったばかりで、まだ腕に煤がついとる。
トーマとトーラは、さっきまで荷物運びをしとったらしく、汗だくや。
キットはマストの上から降りてきた。
ボンゴは港で仕入れた情報をまとめた紙を持っとる。
イヴォは何やら地図を広げ始めた。
ガロは操舵輪のそばに腰を下ろした。
ダグは、なぜか俺の隣で腕を組んどる。
……。
……。
何や。
めっちゃ組織っぽいやん。
俺、ちょっと感動してもうた。
「ほな、会議を始めるで!」
俺は立ち上がった。
「まず、我々海上自警団は、本日をもって正式に――」
「ちょっと待って」
ゼンが手を挙げた。
「何や?」
「議題を確認する。手配書の件だろ?」
「せや!」
「なら、まず全員に見せろ」
「……ああ、せやな!」
俺は手配書を掲げた。
……。
……。
全員が、それを見た。
……。
……。
沈黙。
……。
……。
最初に口を開いたのは、トーラやった。
「……ぶっ」
……。
……。
次にトーマ。
「……くっ」
……。
……。
そして。
「ぶはははははは!!」
二人が同時に爆笑した。
「何やねん!!」
「お、お前……顔!!」
「鼻の穴!! めっちゃでかいやん!!」
「うるさいわ!!」
……。
……。
あかん。
こいつら、絶対に許さん。
「団長。写真はともかく、懸賞金は相当な額です」
イヴォが冷静に言った。
「二億八千万ベリー。政府は、あなたを明確な脅威として認識したということでしょう」
「……せやな」
「そして、ダグ副団長が六千四百万ベリー」
「おう!」
ダグが胸を張った。
……。
……。
こいつ、まだ嬉しそうやな。
「ほかの連中は?」
ゴルドが尋ねた。
「今のところ、手配書はこの二枚だけや」
ボンゴが答えた。
「政府艦隊との戦闘で、特に目立った二人を優先したんやろな」
「……なるほど」
俺は頷いた。
……。
……。
「……ほな、俺とダグだけ有名人やん!」
「喜ぶな!!」
ミラとゼンの声が重なった。
……。
……。
何や。
ちょっとくらい喜んでもええやろ。
「問題は、これからや」
ガロが口を開いた。
「お前らの顔が知られた以上、港に寄るたびに海軍と揉める可能性がある」
「……せやな」
「俺らは船で生活しとるんや。港に入れへんようになったら、食料も水も手に入らん」
「……」
「それに、傘下の船が増えたら、そいつらまで巻き込むことになる」
……。
……。
ああ。
そうか。
俺とダグが指名手配された。
それだけなら、まだええ。
でも、白羊号には仲間がおる。
これから先、俺らについてきてくれる船も増えるかもしれへん。
俺が無茶をしたら、そいつらまで危険にさらすことになる。
……。
……。
「……分かった」
俺は、ゆっくり頷いた。
「ほな、これからは港に入る前に、ちゃんと情報集めよか」
「……おお」
ミラが、少し驚いた顔をした。
「……あんた、ちゃんと考えとるやん」
「何やねん! 俺だって考えるわ!」
「……いや、いつもやったら『海軍が来たらぶっ飛ばせばええやん!』とか言いそうやから」
「……」
「……」
「……ちょっと思った」
……。
……。
あかん。
ミラの観察眼、鋭すぎる。
―――
会議の後半。
ゼンが、帳簿を広げた。
「では、次の議題。今後の活動資金について」
「……」
「……ガルド?」
「……」
「目を逸らすな」
……。
……。
嫌や。
俺、この話嫌いや。
「借金は完済した。昨日、商船から五百万ベリーの謝礼も受け取った。だが、これで安心できるわけではない」
「……」
「今後の補給費、停泊料、船の維持費、それから医薬品の購入費。活動を続けるなら、継続的な収入が必要だ」
「……」
「……ガルド?」
「……」
「聞いてるか?」
「……はい」
……。
……。
俺は、ゆっくり手を挙げた。
「……海賊を倒して、懸賞金もらうとか?」
「お前が懸賞金を受け取れると思うか!?」
「……」
「……」
「……無理やな」
……。
……。
あかん。
海上自警団、資金繰りが厳しすぎる。
「まあ、護衛の仕事を受けるんが現実的やろな」
バオが口を開いた。
「商船の護衛とか、海賊に襲われとる村の救援とか。金を払える相手からは、ちゃんと報酬をもらう」
「……おお!」
俺は手を叩いた。
「それや! めっちゃええやん!」
「昨日みたいに、助けた商船から謝礼をもらう形やな」
「せや! それなら海上自警団っぽいやん!」
「ただし、船を壊さんことが条件やで」
「……」
「……ガルド?」
「……はい」
……。
……。
昨日の件、まだ引きずっとるんか。
いや、分かるで。
分かるけど。
俺だって、好きで船を壊しとるわけちゃうねん。
……たぶん。
「あと、負傷者を助けるための医薬品も確保せなあかん」
ネネが口を開いた。
「昨日みたいに、敵も味方も怪我人が出ることはあるやろ。うちは、助けられる命は助けたい」
「……せやな」
俺は頷いた。
……。
……。
そうや。
俺らは海上自警団や。
悪い奴を倒すだけが仕事ちゃう。
困っとる人を助ける。
それが一番大事や。
「ほな、決まりや!」
俺は立ち上がった。
「我々海上自警団は、これからも海の平和を守る! 困っとる人を助ける! 悪い奴はぶっ飛ばす! ただし、船はできるだけ壊さん!!」
……。
……。
ミラが、ゆっくり手を挙げた。
「……最後のところ、もうちょい強く言えへん?」
「……船は壊さん!!」
「……ほんまに?」
「……できるだけ!!」
「戻すなァァァ!!」
……。
……。
あかん。
海上自警団、理念の統一が難しい。
―――
その夜。
ベルカの港は、昼間とは違う顔を見せていた。
酒場からは笑い声が響き、岸壁にはランタンの明かりが並んどる。
俺は白羊号の甲板に座って、手配書を眺めていた。
……。
……。
二億八千万ベリー。
……高いなぁ。
いや、金額もそうやけど。
問題は、これで俺らが正式に海賊扱いされたことや。
「……なあ、ダグ」
隣で干し肉をかじっとったダグが、顔を上げた。
「何や?」
「……俺ら、海上自警団やんな?」
「……まだ言うとんのか」
「いや、俺ら、悪いことしてへんやろ?」
「……まあ、せやな」
「ほな、何で海賊扱いされとんねん」
ダグが、しばらく考えた。
そして。
「……政府の艦隊、ぶっ飛ばしたからちゃう?」
「……」
「……」
「……それやな」
……。
……。
あかん。
めっちゃ分かりやすい理由やった。
「でも、俺は海賊王になりたいわけちゃうしなぁ」
「知っとる」
「略奪もせえへんし」
「せやな」
「……ほな、やっぱり海上自警団やろ?」
「……お前がそう言うなら、そうなんちゃう?」
……。
……。
何や。
適当やな、こいつ。
「……なあ、ダグ」
「何や?」
「……お前、何で俺についてきたん?」
「……は?」
ダグが、俺を見た。
「……今さら何やねん」
「いや、ちょっと気になって」
「……」
ダグは、しばらく黙っとった。
そして。
「……お前と海へ出たかったからや」
「……」
「……それだけや」
……。
……。
何や。
急に格好ええこと言うやん。
「……ダグ」
「何や?」
「……お前、ほんまに俺の右腕やな」
「せやろ!」
ダグが胸を張った。
……。
……。
「……でも、副団長の仕事、ちゃんと覚えとる?」
「……」
「……」
「……何やったっけ?」
……。
……。
あかん。
副団長、就任三日目で職務忘れとる。
―――
翌朝。
俺は、ボンゴとイヴォに呼び出された。
二人とも、何やら真剣な顔をしとる。
「団長。ちょっと気になる話を聞きまして」
「何や?」
イヴォが、地図を広げた。
そこには、ベルカから少し離れた海域に、一つの島が記されていた。
「黒檻島、という島をご存じですか?」
「……黒檻島?」
……。
……。
知らん。
何や、その物騒な名前。
「世界政府に加盟してへん国の島や。交易港としてはそこそこ有名なんやけど……」
ボンゴが、声を落とした。
「……裏では、でっかい奴隷市場が開かれとるらしい」
「……」
俺は、ゆっくり顔を上げた。
「……奴隷市場?」
「せや。しかも、近いうちに大規模な競売があるらしいわ」
「……」
俺は、地図を見た。
黒檻島。
……。
……。
奴隷市場。
……。
……。
ああ。
何や。
次の目的地、決まったやん。
「……ミラ!」
俺は、船室に向かって叫んだ。
「何やァ!?」
ミラの声が返ってきた。
「……次の航路、決まったで!!」
「……は?」
……。
……。
俺は、地図の一点を指さした。
「黒檻島や!!」
……。
……。
船室の奥から、ものすごく嫌そうな声が聞こえた。
「……また、ろくでもないこと考えとるやろ!!」
……。
……。
何やねん。
まだ何もしてへんやろ。
……。
……。
まあ。
これから、するんやけどな。