──時はまさにバトスピ戦国時代!
バトルスピリッツの運営機関『IBSA』はついにバーチャルシステムによるスピリットの3Dバトルを実現させた。それによりバトスピ人気は爆発的に全国を席巻する。
だがそれにより各地に強豪バトラーが群雄割拠する火種にもなってしまった。
そしてバトラーたちが目指すのはただ一つ、バトスピの天辺──すなわち、天下布武!
バトスピの天下統一をかけて乱世を駆け巡るバトラーはなにを目指し、そしてなにを得るのか。
「よし、行くか」
そしてこの男──
「よっしゃぁッッッ!!!」
そう、その戦場とは言うまでもなく──
「はい受かった! はい
高校入試発表である。
蘇芳吉政。性別(男)年齢15歳。好きな食べ物は少し湿気った煎餅。好みの異性は建前上『おしとやかな子』と言うが本音は真逆の『勝ち気な女性』
バトスピ人気が佳境を迎えるとか迎えないとか、3Dバトルとか戦国時代とかなんて一切合切気にする暇がなかった"元”受験生。
そしてたった今、その高校入試の合格発表を見に行き、結果は言わずもがな桜咲く。
そうして吉政はこの数年の思いを吐き出しながら自転車を漕ぐ現状に至る。途中途中、通行人から視線が送られるが吉政は気にする余裕などなかった。
「長かった……ほんとに長い戦いだった……」
感傷に浸るのもこの帰宅路でさえ何度目か。少なくとも数えるのがめんどくさいほどには浸っていた。
「さぁ! そうと決まったら欲望解放タイムだ!」
「……解放? なんだっけこの、なんか引っかかる感じ」
雨で衣服が体に張り付いたような不快感が体の内側で広がる。
吉政は先ほどまではしゃいでいた人間とは別人のように黙り込んだ。
──なんだっけなぁ。
思案を巡らしながら表向きは黙々と自転車を漕ぐ。ゆっくりと一時停止で止まり、右左を確認してからまた自転車を漕ぎ出す。
そしてギアをもう一段上げようと手が反射的に動いたところで、吉政はブレーキを強く握りしめた。
「あ、そうか」
「バトスピだ!」
「思い出したなら家に急ぐほか──って、ギア重!?」
「ただいまー。高校受かってたよ、おばあちゃん」
店の裏口玄関から入って居間に声をかけるが、当然のごとく返事は返ってこない。
そんなの当たり前だ。
「おばあちゃーん! ちょっと上でうるさくしてるかもだけど気にしないでねっ!?」
なぜなら祖母は昼ドラに夢中になっているからであった。吉政が声を張り上げても祖母は返事どころか見向きもしない。
吉政はこの家に来てもう十数年が経っているのでこの状況にも慣れてはいるが、時々本当に死んでいるのではないかとたまにヒヤヒヤさせられている。
とかく恒例行事をかいくぐり、自分の部屋へ入った吉政は暖まった上着を脱ぎ捨て、押し入れの左半分を開放する。さらに下段部から厳重にテープが貼られたダンボールと中身がそこそこ詰まった紙袋を取り出した。
「うっわ、めっちゃホコリっぽい……」
取り出したダンボールはホコリを被っており、軽くティッシュで拭いてやると『触るなキケン』と赤マジックで書かれた文字が鮮明に浮かび上がった。
そのダンボールには吉政が高校受験に本腰を入れたあの日、毎日のようにバトルへ明け暮れていたデッキを封印。もといバトスピ断ちをしたものだった。
最初こそ周囲だったり昔の思い出だったりが吉政の勉強意欲をゴリゴリと削っていたが次第にバトスピの存在を忘れていったことで難を逃れた。
「懐かしいなぁ。けど」
──もう、このまま引退してもいいんじゃないかな。今まで忘れてたぐらいだし。
そんな下火な思いが吉政の脳裏をよぎり、誰に止められたわけではないのに開封する手を躊躇させた。
「だけど、このかつてない一大ブーム……乗るしかないだろ!」
だが吉政の熱はまだ完全には冷めていなかった。いや、むしろ受験から解放された空気で再燃したと言ってもいい。
そしてテープを勢いよく剥が──そうとしたがテープにテープを重ねたせいでどこから剥がしたらいいかわからず、チマチマ爪で剥がし口を作ろうとしたが結局ハサミの刃先で一刀両断した。
「なっつ、よくやってたなぁこれ」
幸い、過去の自分がギッチギチに封印してくれたおかげで中身は傷んでいる様子がなかった。
そしてなにより、開けた瞬間に昨日のことのように記憶が蘇る。
「あ~、この掌にデッキがフィットする感じ、めっちゃしっくりくるわ〜。ノスタルジー的っていうか? 今はなき実家に戻る感じ的な?」
吉政はコピー用紙とは違う懐かしい質感をめくっていくと過去の自分が使っていたデッキを一見した。
そしてその過去デッキを見て思わず笑ってしまった。
「これまた節操のないデッキなことで……」
それは赤と紫をメインにしたデッキだったが、タッチで別の色も混ざっていて、どこかチグハグな印象を受けるデッキであった。当時はそれが「強い」と思っていたのだから、なおのことおかしく思えてしまう。
「よっし、これで俺も晴れて復帰勢。レッツエンジョイ!」
「けどたぶん……このまま持ち込んだらジャッジキルされるよな」
今の制限改定を見なくてもわかる。
「じゃじゃ~ん。今流行りの禁止制限カードたちは〜、セイリュービ……やはりお亡くなりになってましたか……」
まぁ、おまえはこの世に爆誕したこと自体がおかしいと思ってたけど。
おそらく2度とデッキにカムバックすることはないであろう『烈の覇王セイリュービ』をデッキから差し抜く。
そしてかつての窮地を救ってくれたこと数多くの窮地に陥れやがったこと、2対8の感情割合で合掌。できれば同じ過ちを2度と繰り返さないことを祈る。
「あー、インビジブルクロークも制限から禁止に入ったのかー。これも時代の流れってやつなんかな」
「あとはペンドラと……あ、双光気弾も制限入りしてるのか」
「さて……どうすっかな」
ひとまず禁止制限をクリアするためにルールに引っかかるカードはすべて外し、空いた枠には他のカードの枚数を調整し、差し替えカードでかさ増しするなどして応急措置を加える。
「とりあえずこれなら今のルールでも問題はないはず」
ただし問題がないだけであって、デッキとして強いかは別の話である。吉政もそのことを理解しているので一人回しプラス調整をしてからショップに出向こうかなとも考えたが、
「カードとコアがあればなんとかなるか! 今はとにかくバトル! バトルだ! しかも3Dバトル! 人生初の!」
飢えた人間が突飛な行動に出るように。この男もまた正常な思考回路ではなくなっていた。
「たのもぉ! 勝手知らざる身で申し訳ないが誰か腕に自信がある人! 俺とバトルをしてもらいたい!」
「おい貴様! ここは兼続様が取り仕切るスタジアムだ! 勝手は許さんぞ!」
かくして、その日は吉政が初陣を飾った日でもあり、
この天下分け目の乱世に、二龍一