本編終了までは書きたいな(願望)
3Dバトルをするにはバトルシュミレーターを内蔵したマシンが必要らしい。そしてそのバトルマシンが置かれていて、なおかつ使える場所がスタジアムという施設だった。
吉政はその数ある中でも1番近く、なおかつ規模が大きいバーチャルバトル専用のスタジアムへ足を運んでいた。
「ひっれぇ……外だけ見ても立派な造りしてんのに中もどんだけ広いんだよ。東京ドーム何個分?」
吉政もここ数年、なにか大きな建築工事がタケノコのように進んでいたことは知っていたが、まさかそれがバトスピ専用の建築物だとは思いもよらなかった。
「けどこれだけでかいスタジアムなら相当な猛者が通い詰めたっておかしくない」
スタジアムの中心を囲んでいる観客席にはチラホラと人がいる。どこも腰掛けてバトスピをしているようだった。
ここに来る道中、路上でバトルする子もいたぐらいだったので、バトスピブームはかなり世の中に浸透していると言える。
しかし肝心の3Dバトルは誰もやっておらず、その空いた場所の寂寥感といったらなんだ。
もしかして3Dバトルって予約制だったりすんのかな? いや、どうなんだろう。聞いた方が早いか。
「たのもぉ! 勝手知らざる身で申し訳ないが誰か腕に自信がある人! 俺とバトルをしてもらいたい!」
久しぶりに胸が高鳴っているせいか一段と声を張り上げてしまったが、その甲斐あってスタジアム内にいる人の視線を集めることができた。
「おい貴様! ここは兼続様が取り仕切るスタジア ムだ! 勝手は許さんぞ!」
誰か名乗りを上げてくれないかと少し気まずくなった頃に、階段の下から緑の道着を着用した男が吉政に向かって声をかけた。
「じゃあその兼続様さん? ていう人に言ってくれる? 対戦させてほしいやつがいるって」
「兼続様が相手をするまでもない! この
率先して今流行りのバトルを教えてくれるのか。いい人だな、この人。
「じゃあ対戦よろしくお願いします」
なんだか変な空気で始まることになったバトルだが、吉政は気にすることなく、スタジアム中央から見える高い天井と空調の効いた澄んだ空気を存分に感じた。
そして期待に胸を膨らませるながら、目の前に置かれている軽自動車ぐらいの大きさのバトルマシンに目をやった。色は試験的な色合いの鈍色でアクセントに少し水色が入っている。
「これが噂の3Dバトルのマシンか」
「準備はいいか?」
相手はすでにそのマシンに乗り込んで浮上していた。互いがこのバトルマシンに乗ってバトスピをする。仕組みは至って単純だった。
「ちょっと待ってよ。今機械の取説読むから」
「早くしろ!?」
しかし単純だからこそ慎重になるのがこの男、蘇芳吉政である!
ははぁん? さてはこの人「ゲームのストーリー進行で会話をスキップしようとボタン連打したあげく、うっかり2週目を聞いちゃう系」の人だな。
「よしオッケー。大体わかった」
「浮上がこれで……降りるときはこれ。緊急ボタンは──あ、プレイフィールドの下にあるのね」
いざ始動、といってもマシンの操作ボタンは簡素化されており、エレベーターのボタンを押すのとそう大差なかった。
しかし浮上ボタンを押してみれば思った以上にマシンは浮上する。しかもホバリング状態のせいか少し体重を傾けただけでマシン自体も機敏に反応する。
いや、普通に怖いんだけど。高所恐怖症ではないけどこの高さは普通に怖いってっ!?
「これは……あれだ、きっと武者震いってやつ」
「ああくそ、ビビっても仕方ねぇ! 乗りかかった船だ!」
「待たせたな!」
「本当に待ったが……まぁいい」
なんだかんで戦いの火蓋が切って落とされた。
「「ゲートオープン開放!」」
吉政の第1ターン。
「スタートステップ、コアステッ──プは飛ばして、ドローステップ。続いてメインステップ」
「まずはヴェロキ・ハルパーを2体召喚」
フィールド上にカードとコアを乗せた瞬間、眼前のバトルフィールドにも青白い光が輝き、鋭い鉤爪を身につけた小型恐竜が甲高い声を上げながら現れた。
「うぉぉぉ!!! めっちゃかっけぇ!!!」
声と姿に感動してこっちを見てくれないかと身を乗り出して、手をブンブン振る吉政。
しかしヴェロキハルパーは吉政の熱烈な視線に見向きもせず、体を揺らしたり、短い前脚を動かすだけだった。
「よし満足っ。これでターエ──あ、バーストセットしてからターンエンド!」
「完全な素人じゃないか……」
呆れた緑川の第2ターン。
「カッチュウムシをLB1で召喚」
「さらにソウルコアをコストに使ってシノビコガネを召喚」
相手フィールドにも大小の青緑に輝く虫が現れる。少し動くだけでバトルフィールドのライトがその甲殻を照らし、金属光沢の反射光がきらめく。
「緑のスピリット、そんでさっそくソウルコアを使ってきた……」
「シノビコガネの召喚時効果、ボイドからコア1個をこのスピリットへ置く」
「緑の得意分野コアブーストか」
年月は経っても根本的な立ち回りが変わっていないことに少し安堵する吉政。
「さらに召喚コストにソウルコアを使用したことで他のスピリットへさらに一つコアを増やす」
「後攻2ターン目でいきなり2つ増えるのかよ!? タマムッシュ先輩の存在を忘れたか!?」
「けど! その召喚時効果もらった!」
「相手スピリットの召喚時効果発揮でバースト発ど──うぇ!?」
バーストを開こうと手をかざした途端にカード自体が勝手に捲れた。
変なとこでハイテクだなおい!? 今の音声入力か!?
「ま、マジック……双翼乱舞! バースト効果でデッキから2枚ドロー!」
まるで過去から現代にタイムスリップしたときみたいな反応をしながら、吉政は恐る恐るドローした。
「少し読みが当たったからなんだ」
「増えたコアでカッチュウムシをLB2へパワーアップ!」
「アタックステップ!」
来るか……!
「シノビコガネでアタック!」
緑川がアタック宣言をするとシノビコガネが自陣を飛び出し、吉政めがけて一直線に駆け出した。
シノビコガネが吉政の陣地に入るまでに要する時間は10秒にも満たない。
「初めての3Dバトルで出した記念すべきスピリットだ。そう簡単に破壊させるか!」
なら選択肢はひとつの中のひとつ!
「ライフで受ける!」
宣言をした瞬間、吉政の目の前には巨大化したコアの結晶が浮かび上がり、シノビコガネがその半透明のコア越しに見えた。
意外とデケェ!? まっ──!?
反射的に顔を肘で覆い隠すが、空いた隙間から両腕の鎌を振り下ろすシノビコガネの姿が見える。
「キッツ……!」
攻撃に耐えきれず砕け散ったライフが吉政に振りかかる。正確に言えばなにかが当たった感触はないが、それでもライフを砕かれる衝撃は背筋を凍りつかせるには十分な錯覚だった。
「続けてカッチュウムシでアタック!」
どうする──どうしよう。
頭が白くなる。
一直線に迫りくるスピリット。
考える時間などない。
体の芯に残る、ライフを失う鮮烈な衝撃。
ヴェロキハルパーは2体いる。なら1体ぐらいは……。
しどろもどろにヴェロキハルパーへ手をかけようとした寸前、吉政はその手を握り込んで顔を上げた。
「──いや、ライフだッ!」
シノビコガネより小柄な体格のカッチュウムシでのアタックのせいか、衝撃は先ほどより多少マシだと言える。
しかし、それでも両手をつけていないと立っていられないほどの衝撃が骨の髄まで響いた。
「怖じ気ついたか。降りるなら今のうちだぞ」
降りる? ここで?
「いいやっ! 気分爽快って感じだね!!!」
この瞬間、吉政の中でとある感情が奮い立った。
吉政の第3ターン。
「メインステップ!」
「まずはバーストセット!」
「またバーストか!」
「悪いけどこれが俺のバトルスタイルだ」
「座して待つ。それがバースト黎明期の中、しこたまバトルして学んだことの1つ!」
「ということで! 今度はカグツチドラグーンをLB1で召喚!」
こがね色のボディをした4足歩行の竜が、トゲのある赤い翼を広げて乾いた鳴き声を上げる。
その効果もさることながら、存在感があるそのスピリットは吉政にとって頼りがいしかなかった。
「さらにヴェロキハルパーの1体をLB2へアップ!」
「アタックステップ! やられたんならやり返すまでっ!」
「まずはカグツチドラグーンでアタック!」
翼を広げて低空飛行するカグツチドラグーンが一瞬だけ全身が赤く発光する。
「カグツチドラグーンのアタック時効果が発揮! デッキから1枚ドロー!」
そして緑川のライフめがけて角を突き立てる。
「ライフで受ける!」
「さらにLB2のヴェロキハルパーでアタック!」
鉤爪のせいかリズミカルな足音を立てながら闊歩するヴェロキハルパーも、目指す場所はカグツチドラグーンと同じ。
「ライフで受ける!」
「ヴェロキハルパーLB2.3の効果発揮。このスピリットのアタックで相手のライフを減らした時、デッキから1枚ドローする」
緑川のライフを2つ減らした吉政。これでイーブンかと思われたが、
「まだだ! もう1体のヴェロキハルパーでアタック!」
当の本人は収まるところを知らないらしい。
「そうはさせん! フラッシュタイミング!」
ヴェロキハルパーの行く手を遮るように、丸いフォルムの羽虫が突如として弾丸のように召喚される。
「ムシャメガを【神速】召喚!」
「そしてムシャメガでブロック!」
「【神速】召喚! 手札に握ってたのか」
「さらにムシャメガは自身の召喚時によってBPを+1000する」
現れた敵を叩き落とそうとかかったヴェロキハルパーだったが、ムシャメガの挙動の方が一足早く、ヴェロキハルパーは無防備な状態でムシャメガの突進を食らい、小爆発を上げてバトルフィールドから消えていなくなった。
「返り討ちか……」
「ターンエンド」
緑川の第4ターン。
緑川はネクサス『No.22サイレントヒル』をLB2で配置。なにより注目すべきはネクサスにソウルコアを置いたことだった。
今度はネクサスにソウルコア?
「マジック『ネオ・ハンドリバース』手札をすべて破棄し、デッキより3枚ドロー」
「こちらもバーストセット」
「コアを増やしてきっちり手札も入れ替える。徹底した緑デッキか」
素直に関心してる吉政だったがその裏腹には大きな懸念点が1つあった。
──けどあれだな、昔よりも1ターンで進行するスピードがずっと速い。
こっちだって理想の動きができているはずなのにそれでも出遅れてる感じがする。
「アタックステップ! ネクサス『サイレントヒル』の効果でこのネクサスにソウルコアが置かれている間、【神速】で使用するコアはフィールドからも使用が可能になる!」
「ブラフブラフ。さっきのカウンターはもろに食らったけど次はそう上手くもらってやるもんか」
けど、これがソウルコアの使い方か……コストに消費して発揮するタイプや置くことで発揮するタイプ、他にもあるんだろうけど大きく分けてこの2つ。
ただの「コアの延長線」だと思っていたけど案外奥が深い。あえて使わず別のカードのために温存する作戦も選択肢の1つになるわけだから。
「シノビコガネでアタック!」
「やっぱ実戦の方が勉強になるな」
「そんでもってそのアタックはライフで受ける!」
再度シノビコガネが吉政のライフを砕く。
少し違うのは吉政が衝撃に耐えながらも相手フィールドから目を離さないことだった。
ライフダメージにはまだ慣れないけど、バーストは今度こそビシッと決める!
「そして自分のライフ減少によりバースト発動!」
吉政の声に反応してバーストがひとりでに開く。
「マジック『絶甲氷盾』!」
「バースト効果でボイドからコア一つを自分のライフへ」
「さらにヴェロキハルパーをLB1にダウンさせてフラッシュ効果を発揮」
「このバトルでアタックステップを──」
フラッシュ効果は発揮させた途端、吉政の視界前方に氷壁がせり上がってきた。
「おお……」
バトルマシンで浮上してなお、その見上げるほどの氷壁をみて吉政はよどみなく進行させていたバトルを忘れて見入ってしまう。
臨場感すごいなこれ。そりゃブームにもなるし、みんな夢中にもなるわけだ。
「けど、ちょっとリアルすぎない? 鳥肌たってきた……」
体が寒さを訴えているのも束の間、氷壁はあとかたも無くどこかに消え去り、元通りのバトルフィールドへと戻った。
「ターンエンド。まさかあらかじめ白のマジックを仕込んでいたとは……」
「さっきの俺のフルアタック、初心者にありがちな怖いもの知らずだと思ってたでしょ?」
初心者に違いはないけど。
吉政の第5ターン。
「ドローステップ」
きた。
ドローしたカードは吉政がバトスピを始めて最初に決めたキースピリット。いうならば吉政のオリジン。
けどこいつをここで召喚するのはセオリーじゃない。
「メインステップ。バーストセット」
それでも引いたからには召喚するしかないだろっ!
「そして──雷皇竜ジークヴルムをLB2で召喚!」
バトルフィールドに現れた赤のシンボル。
その赤のシンボルにヒビが入り、すぐに砕け散る。そしてその中から身にまとった炎を霧散させて赤い竜が雄叫びを上げた。
「会いたかったぞっ! ジークヴルム!」
吉政の呼びかけに応えるようにジークヴルムも再度胸を震わす声を上げる。
その様子を見た吉政は早る思いを胸に、腕を伸ばして両肩均等に軽くストレッチをした。
「よっし、じゃあいこうか! アタックステップ!」
「雷皇龍ジークヴルムでアタック!」
「ジークヴルムのアタック時効果【激突】! 相手は可能ならば必ずスピリットでブロックしなければならない!」
「カッチュウムシでブロックっ」
「コアブーストだろうが【神速】だろうが気にはしない! こいつで1体ずつ削っていく!」
紅蓮の炎をまとったジークヴルムがカッチュウムシの反撃をもろともせずに破壊する。
「だが、これで条件は整った! スピリット破壊によりバースト発動!」
「あ……それは!?」
オープンされたカードに見覚えしかない吉政だったが、すぐさま突風がバトルフィールドを駆け巡りそれどころではなくなった。
「バースト効果で相手スピリット2体を疲労させる!」
吉政のヴェロキハルパーとカグツチドラグーンが緑を帯びた突風によってぐったりと疲労させられる。
「さらにこの効果発揮後、自分のリザーブ、フィールド、トラッシュのコアが合計8個以上ならば、このスピリットを召喚できる!」
そして、緑の突風が止むと同時に緑川の自陣へ悠然と羽を舞い降ろすスピリットが現れる。
「召喚! 風の覇王ドルクス・ウシワカ!」
「やっちまったなこりゃ……」
ブロッカーを削るどころか逆にブロッカーを消し飛ばされた。
しかもこの手札、伏せてあるバーストだと次のターン──。
「ちょっとはしゃぎすぎたかな」
「ターンエンド」
緑川の第6ターン。
「シノビコガネを召喚。召喚時効果でボイドからコア1つ、ソウルコアの使用でさらにもう1つコアをスピリットへ追加!」
「増やしたコアを使ってシノビコガネ2体とドルクスウシワカをLB2へパワーアップ!」
「はっ、万全を期してやがんな」
「アタックステップ! このターンで終わりだ!」
「ドルクスウシワカでアタック!」
「ライフで受ける!」
ドルクスウシワカの緩やかな予備動作からの鋭い飛び蹴りで吉政は残りライフを2まで追い詰められた。
「ドルクスウシワカのバトル時効果発揮! バトル終了時、自身を手札に戻すことでこのターンの間シノビコガネにBPを+3000」
「まだ終わったわけじゃない! 自分のライフ減少によりバースト発動!」
「マジック『妖華吸血爪』!」
「紫のマジック!?」
「バースト効果で2枚ドロー!」
このドローにかかってる。頼むっ、俺のキースピリット達を拝まずにこのバトルを終わらせたくないんだ。
「このドローに今年1年分の運勢を込めるッ!」
「ドロォッ!!!」
「手札が増えたからなんだ、残りライフは残り2。シノビコガネでアタック!」
「いいや間一髪だった。フラッシュタイミング!」
「マジック『ブリザードウォール』を使用!」
「コスト確保のため、ジークヴルムをLB1へダウン。ならびにカグツチドラグーン、ヴェロキハルパー、この2体を消滅させる」
カグツチドラグーン、ヴェロキハルパーの2体が青白い粒子となって姿を消し、フィールドにはジークヴルム1体だけになった。
そしてその残ったジークヴルムも隠すように吉政の自陣に猛吹雪が押し寄せる。
「ブリザードウォールの効果。このターンの間、相手のスピリットのアタックでは自分のライフは1しか減らされない」
「今のバーストで引き込んだというのか!?」
「ビギナーズラックって言うのかな。なんにしろ、これで首の皮1枚残った!」
「でもってシノビコガネのアタックはライフで受ける!」
「これ以上はアタックをしても意味がない……ターンエンドだ」
「しかしこれで貴様のライフは残り1、風前の灯だ! 次のターンで確実に吹き飛ばす!」
「見たか! これが格の違いだっ! 自分とのバトルに苦戦している貴様が兼続様とバトルがしたいなど十年早い!」
確かに、昔の俺と現環境の差がここまであるなんて正直舐めていた。この人も十二分に強いのにまだまだ上がいるなんて笑っちゃうよ。
──『俺が1番強くなってその後どうすんだ』
「あーくそ、嫌なこと思い出した」
ドミノ倒しによって掘り起こされた記憶で少しナーバスになりかけた吉政は思わず首をつねっていた。
しかしさらに吉政へ追い討ちをかける言葉が聞こえてきた。
「そもそも赤デッキを使う奴なんて気が知れない」
「はぁ?」
「そうだろう。赤属性を使うものは傲慢不遜で秩序がない。秩序なきバトスピなど必要はない!」
「俺が劣勢なのは認めるけど、そこからどう転んだらいきなり赤ディスが始まるんだよ」
耳を疑うような発言に吉政も雑に焦点を合わせていく。
「いつからバトスピは性格診断の材料になったんだ。それも今の流行りか?」
「流行りなどというちゃちなものではない。今や荒くれ者がのさばるこの時代は誰かが統治しなければならないのだ。そしてこのムサシを治められるお方はただ1人、兼続様だ!」
「なるほど……わかんねぇー」
この一大ブームの弊害で腕に物を言わす荒くれ者が出てきた。だから縄張りやらで自然に仕切られるようになった。
だが理解はできるが納得はできない。
吉政の第7ターン。
スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ──機械的にこなす吉政は徐々に鬱憤が溜まった。
『強い』『弱い』とか『勝てないから』『負けたくないから』とか。そんなのはもう飽き飽きだ。
俺はただ、自分がしたいバトルが出来ればそれでいいんだ。
そうだ、とにかく今は俺のやりたいバトルをするしかないんだ。
「メインステップ。ソウルホースを召喚」
今までの荒々しい赤のスピリットとは根本の毛色が違う、死靈のように浮遊した馬が現れる。
「……紫のスピリット?」
「さらにマジック『ビッグバンエナジー』を使用!」
「このターンの間、手札にある系統『星竜』を持つスピリットが自分のライフと同じ数、つまり1になる」
待たせたな! 俺のキースピリット達!
「よってコスト1で召喚! 滅神星龍ダークヴルム・ノヴァ、LB3!」
一段と存在感がある紫のシンボルから暗雲が漏れ出し、地面に沿って流れ始めた。
そして砕けたシンボルから漆黒にまみれた巨龍が地面を震わせて降り立つ。暗闇をまとうような姿で翠眼を際立てながら息を吐く姿は美しくも禍々しかった。
「また紫のスピリット!? 赤色の使い手じゃなかったのか!?」
「俺は純粋な赤デッキを使ってるなんてひとっっっ言も言っていない!」
「その証拠にさらにもう1体!」
「雷皇龍ジークヴルムを転召させ!」
「超神星龍ジークヴルム・ノヴァをLB2で召喚!」
炎の渦がジークヴルムの体を包み込み、その練り上げられた炎が新たなシンボルへと集約していく。
集約されたシンボルはジークヴルムの時と同様にヒビが入り、しかし放出される規模は全く比較にならないほど煌々と輝いていた。
「ノヴァ……」
2体の似て非なる龍を目の前にして、吉政は感嘆の声すら忘れて拳を握り込んだ。
ノヴァを出した以上──この勝負はもう負けられない!
「ジークヴルムノヴァの召喚時効果発揮。『ジークヴルム』からの転召によりライフを5まで回復」
「ライフを回復!?」
「俺の身勝手な憂さ晴らしで悪いけど、あえて言わせてもらうよ」
「俺とあんたの格の違いってのを見せてやるッ!」
「アタックステップ。確かにバトスピは色といいデッキといい人によって趣味と性格が出る」
「けど使っていた色で測れるほど人は浅くねぇし! 測れたら苦労はしねぇ!」
「超神星龍ジークヴルムノヴァでアタック!」
ジークヴルムノヴァが翼を大きくはためかせ、バトルフィールド中央へ旋回して飛び上がった。
「ジークヴルムノヴァのLB2アタック時効果発動! 相手のBP10000分のスピリットを破壊する!」
上空に位置したジークヴルムノヴァは翼を広げたまま滞空し、そこから七色に輝く光が星のように相手フィールドに降り注ぐ。
「よってシノビコガネ2体とムシャメガ1体、合計BP7000を破壊!」
緑川のフィールドにいたシノビコガネ2体、ムシャメガ1体、計3体のスピリットが逃げる暇なくフィールドをえぐりながら砕け散った。
「そしてこれがジークヴルムノヴァのメインアタック!」
フィールドに立ち込める硝煙を突き抜けてジークヴルムノヴァが爪を掻き立てる。
突如現れた2体の大型スピリット、さらには焼き尽くされる自身のフィールド、もし自分の立場でこの状況ならきっと──。
「ら、ライフで受ける!!!」
やっぱりそうだ。この3Dバトルはただ座ってターンを進める、今までのバトスピとは違う。
眼前の事象に揺らぐ、その一瞬の判断ミスが命取りになるんだ。
そしてこれがスピリットで戦うバトル。
「だがっライフが減ったことでネクサス『サイレントヒル』の効果が発揮! 減ったライフの数だけデッキからドローする!」
「2枚ドロー!」
「けど、これであんたのライフもあと1つだな」
「続けて滅神星龍ダークヴルムノヴァ、LB3でアタック!」
今度は黒い翼が吉政の視界を遮った。ジークヴルムノヴァのときは違って地面すれすれの低空飛行で緑川のライフを削りにいく。
しかし緑側も黙って殺られるほど甘くも無かった。
「フラッシュタイミング! ドルクスウシワカをLB3で【神速】召喚!」
「そしてドルクスウシワカでブロック!」
緑の疾風がダークヴルムノヴァの前に立ち塞ぎ、両者は超接近戦での乱打戦に全霊を尽くした。
加えて緑川のフラッシュ宣言。
「さらにフラッシュタイミング! マジック『トライアングルトラップ』を使用!」
「ソウルホースを疲労させる!」
緑川側のバトルフィールドにマジック『トライアングルトラップ』が標示され、またしても緑を帯びた風が吉政のスピリットを疲労させる。
「これで次のターン貴様を守るスピリットはいない!」
「いいやっ、次のターンなんて来やしないッ!」
「今度はこっちのフラッシュタイミング! マジック『メテオストーム』を使用! 対象はダークヴルムノヴァだ!」
今度は吉政側のフィールドからマジック『メテオストーム』が発動。表示されたカードから眩い炎がバトル中のダークヴルムノヴァを包み、やがて溶けいるように消えた。
「このターンの間カード名に『ヴルム』と入っている自分のスピリット1体に──くそっ説明すんのまどろっこしいなこれ!?」
メテオストームの効果。
このターン『ヴルム』と名のつく自分のスピリット1体がBPを比べ相手のスピリットだけを破壊したとき、そのヴルムが持つシンボルの数だけライフへダメージを与える。
そしてダークヴルムノヴァもダブルシンボル。
最初はその機敏な動きで翻弄していたかと思われたドルクスウシワカも、ダークヴルムノヴァの粗野で急所を狙った大振りの攻撃に間合いを取らざるを得なかった。
ドルクスウシワカのLBは3、BP10000。
対してダークヴルムノヴァはLB3、BPは13000,
ドルクスウシワカが間合いを取った隙をダークヴルムノヴァは見逃さない。その片足を掴み、下から上へと一周円を描いてから地面へ叩きつける。
受け身も取れずに背中からフィールドへ叩きつけられたドルクスウシワカは、痛みに悶えながらもすぐさま態勢を立て直そうとする。
しかしダークヴルムノヴァも続けざまに急降下して仰向けた腹へ蹴りをかまし、ドルクスウシワカを地面へと縛り付ける。
そして拳に力を溜め、一瞬の迷いもなく振りかざした。
「要するに、ダークヴルムノヴァがあんたのスピリットを破壊すれば最後のライフ2つを破壊する!」
爆炎の中からダークヴルムノヴァは顔を上げ、緑川の最後のライフ2つへ狙いを定めた。
「やりー! 華々しいカムバックで参っちゃうね」
バトルを終えた吉政は清々しい気分でアドレナリンを大量分泌させていた。
「兼続様の統治する場所で何たる無様か……」
「いやいや、別にバトルで負けることぐらいは誰だってあるでしょ。その……兼続様さん? っていう人にも言っといてよ。別に荒らしに来たとかそういうじゃないんだからさ」
「あ、でも一応俺が勝ったこのスタジアムは出入り自由ってことにさせてね」
釈然としない、といった様子でいた緑川もようやく吉政のズレを理解したらしく、慌てふためいて問いかけた。
「まさかとは思うがきさまっ、この西ムサシを束ねる緑のS級バトラー『宝緑院兼続』を知らないのか!?」
「え……ごめん。本当に知らない」
自分、今日数年ぶりに復帰ですよ?
巷の有名プレイヤーどころか今の環境もルールすら危ういよ。
「時事問題ならそれなりに対策してたけど……さすがにバトスピ関係は面接でも聞かれなかったしなぁ」
『西が〜、東が〜』とは道端で耳にすることはあっても吉政のなかでも英単語1つの方がよっぽど重要だったので覚えていない。
そしてその覚えた英単語も今のバトルで3割は抜け落ちている。
「あ、待って。そういや『S級』って言えば──」
「そうだろう。噂くらいなら耳にしたことがあるはずだ。なにしろここらでは西の宝緑院。東の──」
「『S級』といえば……俺も引退最後の大会だったかでぇ……そんなライセンスをもらったような気がぁ……」
「……は?」
まだ身長も伸びておらず、発展途上の中学生時代を思い出す。
テスト期間で部活も休止していた頃にちょうどその大会があって、そこに学年主任が対戦相手として出てきた時は肝を冷やした──って違う、この話じゃない。
確かその日は何度目の大会優勝で、表彰式のあとに別室で賞状持たされて、その姿を写真カシャカシャされたような気がする。
「S級バトラー? 貴様が兼続様と同じ……?」
というか、過去の記憶遡ってるけど俺あの日からさほど背格好が変わっていないような……? 身長が伸びるのを見越して買った制服も結局3年間ブカブカだったし……。
──もしかして成長期すぎた? 高校もこのまま?
そしてしばしの沈黙のあと、「由々しき事態だ」と、2人の声が重なった。