なるべく1話1バトルを心がけていきたい(でないとゲーム展開を忘れた)
「別に否定したいわけじゃないけど、こんなん見せ られたら認めるしかないだろ」
「──けど! だからってむざむざ負ける道理なんてない!」
「『バトルをする以上は勝ちにいく』それが勝負事の最低限かつ最大のルールだ!」
そしてアルデウスヴァイパーの攻撃目前で吉政がカードを切る。
「マジック『リミテッドバリア』!」
「このターン、自分のライフはコスト4以上のアタックでは減らされない」
「そしてそのアタックはライフで受ける!」
ライフを削らんとしたアルデウスヴァイパーだったが、霊剣を振りかぶった瞬間に吉政のライフへ半透明のバリアが張られる。
振り下ろした霊剣は吉政のライフを砕くことはなく、阻んだバリアに金切り声をあげて終わった。
「この攻撃を防いだか……」
「『防御マジックは最低2種類積め』それが俺の師匠の教えなんでね」
「なるほど、良い師に巡り合ったようだな」
「だが、そのマジックで防げるのはコスト4以上でのアタック!」
くそっ、気づかれた!?
なんかいい感じにターンを流してもらおうと思ってたのに!
勝家のフィールドにはスピリットが4体。
そしてコスト1のソードールでは『リミテッドバリア』の効果ではアタックを防げない。
「確かにな。俺のライフは残り2。十分このターンで削りきれる」
「けど、ライフが残り2つなのはあんたも同じだ。このターンを凌がれたら逆にピンチなのはあんたの方だ」
「そんでもって──ライフを1にまで追い込んだ俺がなにをしでかすか……わかるだろ?」
自信に満ちた発言の裏には滲み出る策略があった。それはバトルしている勝家にも、端から見ているお市にもわかるものだった。
「そんな虚仮威しで怯むと思われたならこの私も見くびられたものだな」
「ソードールでアタック!」
「いいや、狙い通りだ!」
「ライフで受ける!」
「ライフ減少によりバースト発動!」
「『アルティメットウォール』! このバトルであんたのアタックステップを終わらせる!」
「ターンエンド。すんでの所で守り切ったか……」
「忠告はしたからな! 」
第7ターン。
「ドローステップで
ここまでコアとターンを費やしてドロー&交換に努めていた吉政の手札は既に逆転の準備が終わっていた。
しかしそれでも吉政は策に移すまでの踏ん切りがつかなかった。
逆転には十分だけど、最後の切り札が揃わない。
揃えるためのコアは──ギリギリいけるか?
それでもやるしかない!
「ダブルノヴァで勝ってこそ本当の勝利だっ!」
「メインステップ。ソウルホースを召喚」
「そしてマジック『ビッグバンエナジー』!」
「このターンの間、手札にある系統『星竜』を持つスピリットのコストを自分のライフと同じ数、つまりコスト1にする」
「雷皇龍ジークヴルムをノーコスト召喚!」
「そして真打登場の前に
「マジック『ソウルドロー』を使用!」
ソウルコアを支払い、3枚ドローする吉政。その中に待ち望むカードが来るかどうかは時の運。
「──よしっ! 切り札は揃った!」
「愛想尽かされたかと思ったぜ。滅神星龍ダークヴルム・ノヴァをLv2で召喚!」
暗雲立ち込める中から現れ出でたのは、合体スピリットだけを撃滅するためだけに存在するよう漆黒の竜。
「そして雷皇龍ジークヴルムを──転召!」
そして赤い龍は炎の渦と化して、新たな力の源として変わる。
「Lv2で召喚! 超神星龍ジークヴルム・ノヴァ!」
「不足コアはソウルホースから確保」
燃えたジークヴルムの塵から爆発し、生まれたのは煌々の龍。
対となる2体の龍が古びた渓谷をバックに降り立つ。
「ジークヴルムノヴァの召喚時効果。『ジークヴルム』からの転召によりライフを5まで回復」
「……2体のノヴァを操るカードバトラー。これが蘇芳吉政か」
更地から並び立った2体の龍を目の前にした勝家は称賛とも呼べる眼差しで臨んでいた。
「ノヴァの真髄はここからだッ! アタックステップ! 覚悟しろ勝家ッ!」
「まずは滅神星龍ダークヴルムノヴァでアタック!」
ダークヴルムノヴァは翼を広げ、体勢を低くしたかと思えば一心不乱に吉政のそばから飛び出した。
その向かうところはただひとつ。
「ダークヴルムノヴァ、Lv2・3のアタック時効果発動。相手の合体スピリット1体を指定してアタックできる」
そして吉政が捉えているものもただ1つ。偶然か否かダークヴルムノヴァと同じものだった。
「さぁ来いっ、一騎打ちだッ! アルデウスヴァイパー!」
端から2人のバトルを見ていたお市は子供のいたずらを見たように微笑ましげな顔をした。
「まぁ、疲労状態のスピリットにわざわざアタックするなんて。勝家に清々しいまでの意趣返しなのです」
そう、それは吉政の100%純粋な報復である。
あいつだけはブチのめなさいと気が済まない!
合体スピリットとなっているアルデウスヴァイパー目掛けて飛び出したダークヴルムノヴァはその首根っこを掴もうと腕をかざす。
アルデウスヴァイパーも咄嗟に霊剣を振るうが、即座に間合いを詰められたせいで霊剣の柄──半ば拳で殴り飛ばす形でダークヴルムノヴァを引き離すことになった。
そして間合いを確保したアルデウスヴァイパーは霊剣を振りかざし、ダークヴルムノヴァを
「そしてダークヴルムノヴァ、Lv2のバトル時効果が発動!」
「相手合体スピリットとのバトル時、そのBPに+10000!」
勝家のアルデウスヴァイパーはLv2、BP14000。
対して吉政のダークヴルムノヴァはLv2、BPは18000。
バトルフィールド中央で相対する蛇と竜。
常に攻撃を仕掛けるアルデウスヴァイパーとそれを防ぐダークヴルムノヴァ。
しかしアルデウスヴァイパー優勢だと思われた戦況は徐々に崩れ去っていった。
攻撃を見切り始めたダークヴルムノヴァは霊剣が届かないギリギリかつ最小限の動きで躱し始める。
そしてアルデウスヴァイパーが振り下ろした隙に詰め寄り、顎下から強烈なアッパーを突き上げた。
さらに顔が跳ね上がり、伸び切った腕を蹴り飛ばして霊剣をはたき落とす。はたき落とされた霊剣はフィールドの隅に転がるように投げ出された。
霊剣を失ってもなお、アルデウスヴァイパーは尻尾を使って巻き着き、丸呑みする勢いで自身の牙を立てる。
だが、ダークヴルムノヴァは体に巻き付かれ、噛みつこうとするその首を逆に掴み取り、そのまま握り潰して破壊した。
スタジアム天井の埃を落とさんとばかりに高くまで上がった爆炎から、ダークヴルムノヴァは翼を広げて狂騒を叫ぶ。
「ぐ……ライトニングシオンはスピリット状態でフィールドに残す……」
「本当はLv3で召喚してブレイヴもろとも破壊したかったんだけど……破壊はおまえに任せる!」
「次! 超神星龍ジークヴルムノヴァでアタックッ!」
フィールド中央の爆炎を避けるように羽ばたいたジークヴルムノヴァ。
しかしその本当の理由は経由地点に目的があったからであった。
「ジークヴルムノヴァのLv2アタック時効果! 合計BP10000分のスピリットを破壊する!」
「ライトニングシオンのBP5000、ソードール2体のBP2000、合計BP7000を破壊する!」
フィールド端に取り残された霊剣を折り砕きつつ、そのまま勝家の目端から目端へ映るようにしてソードール2体をかっさらっていくジークヴルムノヴァ。
「あくまでも合体スピリットの完全破壊を選ぶか……ならば、氷の覇王ミブロックバラガンでブロック!」
「このターンで決着をつけなかったこと、次のターンで後悔するな!」
フィールド上空で態勢を立て直し、次の標的を捉えたジークヴルムノヴァは炎の鎧を纏ってその爪を立てる。
「いいや! あんたのキースピリットを倒して!」
腰を落としサーベルを両手で構えていたミブロックバラガンだが、降り注ぐジークヴルムノヴァの勢いを止められずに片膝がついてしまう。
「そんでもってこのバトル! 俺のキースピリット達で完膚なきに決めるっ!」
「フラッシュタイミング!」
「ダークヴルムノヴァからコア2つを用いて、マジック『メテオストーム』を使用!」
「そのマジックは……!」
「効果は知ってるだろ? 『ヴルム』と名のつくスピリットがBP勝負に勝ったとき、そのスピリットが持つシンボル分相手にダメージを与える」
「あんたのライフは残り2。そしてジークヴルムノヴァもダブルシンボル!」
さらに勢いづいたジークヴルムノヴァはミブロックバラガンを勝家の目の前まで押しやり、破壊した。
そして勝家の眼前──ライフへ顔を向ける。目は力強く輝き、口端からは燃え盛る炎がほとばしっていた。
「最後のライフ! 打ち砕けノヴァ!」
蓄えていたすべての力を吐き出すように、ジークヴルムノヴァは灼熱のブレスを吐いた
「してやったぜッ!!!」
「見たかダブルノヴァの力! そしてこれが蘇芳吉政の謳歌無双バトルだ!」
「これで後腐れはないよな」
これで正真正銘自身のものになった専用マシンから降りた吉政は腕を回しながら歩き寄った。
勝家も専用マシンから降り立ち、両者は自然にお市がいる場所で落ち合うように足を進める。
負け惜しみの一つでも返ってくると予想していた吉政だったが、勝家から返ってきた答えはあまりにも淡々としていた。
「ああ、いいバトルだった」
「え?」
「久しぶりに手応えがある相手と戦えた。礼を言う」
差し出された手の意味を理解するのに何秒かかかるほどには意外だった。
「こっちこそ。実力を引き出せたのか引き出されたのか、気が気でならないよ」
なんか調子狂うなぁ……。いや、別に褒められることが嫌なわけじゃないんだけど。
晴れた空に雲が差し込んでいく気分になっていく吉政だったが、お市が両手を合わせて2人の注意を引いたことで思考は止まった。
そしてお市も一見穏やかではあるが満足気な表情で口を開いた。
「はい、これで勝家も納得できたことでしょう」
「確かにこの者のバトルからは戦略、戦術、なにより最後まで意思を貫き通す気概なるものを感じました」
「ここまで顕示されてはこの勝家も認めざるを得ません」
「現S級からのお墨付きなら……そりゃあもう、嫌って言っても頂戴しとくしかないよなぁ!」
高笑いをする吉政に鋭い眼光が突き刺さる。
「1度勝ったぐらいで調子に乗るな、蘇芳吉政」
ひとまず話がまとまったことで部屋に戻る3人。行きと帰りでは雰囲気はだいぶ変わり、吉政も自然な疑問を口に出すようになった。
「そもそもIBSAってなにをするところなの? 大会の運営とか制限改定とかだけだと思ってたんだけど」
ぜひセイリュービを提案した人とは話がしてみたいな。あんなの禁止にするつもりで刷ったとしか考えられない。
「それも当然あるが、S級という誉れある称号、それを決めるのが我らIBSAの責務の一つ」
「S級バトラー認定には公式大会での戦績はもちろんとして地方の上層部から回り、最低でもIBSA幹部1人の承認が必要なのだ」
「S級になるだけでそんな根回しがいるんだな。それだけ手間があるならなんか特別措置とかあるの? 経費的な」
カードの支給とか補助金とか出ないのかな。
「バトスピの発展に貢献する者はある程度の援助などは認められるが、その実例はまだまだ少ない。なにしろ大元の運営はIBSAの指揮下で行う。そもそもの話、個人が出る幕などない」
「へぇー、じゃあS級もまだ漢検みたいな扱いなんすねー」
その言葉に勝家は立ち止まり、ゆっくりと言葉の意味を噛み砕いているようだった。
「漢……検……?」
もしかして英検派だったか?
「しっかし年下の女子に仕えるなんて、あんたも苦労してるんですね……」
「こんな子どもに気配りをされるとは、私も先行きが思いやられる……」
「おい今チビって言ったかおい、オォ!? ちょっと図体でかいからって人のこと舐めてるんじゃないでしょうかぁ!?」
「そんなこと一言も言ってはいない」
その後も吉政は「この服なんLだよ!? 特注か!? 特注なのか!?」などと勝家に食って掛かった。
「ふふ、2人はバトルを通してとっても仲良しさんになったのです」
「お戯れはよしてくださいお市様」
「そうだよ。これで仲がいいんだったら俺は全人類お友達になっちゃうね」
「あの……もう書類はこれで全部ですよね」
そしてようやく話の出発点に戻った吉政だったがその話はバトルよりも険しい道であった。
「はい、滞っていた分も含めすべて終わりました」
「ほんとに終わったんだよね? 『あ、やっぱりありました』とかもう無理だよ」
名前のサインはいいが、住所を連続で書くのは吉政にとって地味にキツかった。住所が少し長いこともあり、最後の方はゲシュタルト崩壊寸前だった。
「はい、終わりも終わり。デッキアウトなのです」
「じゃあそろそろ帰っても……? 散歩の時間なんです」
「まぁそれは大変。ワンちゃんか、ネコさんでも飼っていらっしゃるのです?」
「いえ、俺の散歩です」
「じゃあ大丈夫でしょう」
今なんか畜生以下の扱いを受けた気が。
「すいません、年が近いお客さんというのは中々珍しくて……」
「あー、そういえば最年少幹部って言ってたっけ? それでも年が近い客ってそんなに──まぁいないか」
「はい、年が近い話し相手もいるにはいるのですが……今は修行の方が多忙を極めているらしくて」
……修行? まぁ運営機関なら育成にも力は入れるのは当然か。
なんか超理論的な形で英才教育をしてるんだろうな。あれ、それは北海道だっけ? なんかニュースで垣間見たような……まぁいいや。
「じゃあもしかして、俺がここに呼ばれたのも単なる遊興的な? 言ってくれれば手品の一つでも引っさげてきたのに」
「いえ、決して遊興というわけではないのですが……正直に答えるとちょっとした興味です」
「そうなのか。まぁ確かに俺は興味を持たれることは多かったかな。その昔、転校してきた時に『名字が珍しい』って興味持たれたぐらいだし。1日限定だけど」
「冗談がお好きなんですか?」
「冗談ってか笑うのは好きだよ」
「じゃあ少し歩きながらお話しましょうか、お招きしたその理由も含めて。私も書類続きで息抜きをしたかったのです」
「結構あけすけに言うね」
そうして書類を整えて立ち上がったお市にちょうど別件で戻ってきた勝家が声をかける。
「お市様、どちらに?」
「吉政さんがせっかくの機会、中を見て回りたいとおっしゃるので」
嘘ではないけど、中々いい人の使い方すんなこの人。
「それならばお市様の手を煩わせることはありません、この私が──」
「私にも威厳というものがあるのです。自身の組織である案内一つ出来ないとならば、それこそ天魔家の恥」
「さ、左様でございますか……それならば」
ナイスブラフ。わかっていながらも俺もちょっと気圧されちゃったぜ。
勝家の目配せが来た。「粗相はするなよ」とでも言いたげな顔で。吉政もにこやかに返した。
「失礼しまーす。俺に完敗したかっついっえさーん☆」
「小僧」
「アハハッ!!!」
勝家の反撃を受ける前に走り逃げた吉政はエレベーターの前で立っており、お市が来たのを見て扉を開けて先に乗り込んだ。それに続きお市も乗り込む。
エレベーターの下降のせいか、それとも手狭な空間で女子と2人きりという状況に気まずくなったせいか、吉政は開閉ボタンを横目に見つつ唾を飲み込んだ。
「どうですか、ムサシにおけるバトスピの雰囲気は? ムサシは全国の中でも特に苛烈な区域だと耳にしますが」
一方、吉政の対角線に位置したお市は差し障りのない話題を持ち出した。狭い空間だとごく小さな声量でも反響して耳に残る。
しかし吉政にとっては渡りに船だった。少なくとも逃げ場がないこの状況ではそれに乗るしかなかった。
エレベーターの壁に背中を預け、数秒天井を見あげた後に吉政はお市の方へ顔を向けて答えた。
「……正直よくわからないかな。ご存知だと思うけど、俺最近まで冬眠中だったからさ。それこそ運営を任されてる側の方がよく知ってるんじゃない?」
「一度離れていたからこそ見える意見もあるのです。『岡目八目』ということわざもあるぐらいですから、ぜひその視点からの話をお聞かせ願いたい、と思いまして」
吉政が逡巡して答えた内容にお市は屈託のない微笑みで返した。まるでそう答えるのが分かっていたようにも思える。
……なーんか、表向きな言い方というか含みがあるというか。
吉政はここに来るまでに感じていた違和感に直面した。
一個人に幹部、それも運営機関を代表する人間がここまでする理由がわからないことだ。
手続きを済ますだけなら支部でもできたのになぜそうしなかったのか。それこそ気にかける要素もわからない。
まぁ、わからないならわからないでいいか。尋問されてるわけでもないし。
エレベーターが1階に到着し、自然と先ほどまでいたスタジアムの道をたどることになった。
「強いて言えば、まぁこれはムサシに限った話じゃないのかもしれないけど、3Dバトルが出てくる前と後で人との繋がりは変わった気がする」
「繋がり、ですか?」
お市が黒髪を揺らして首を傾げる。吉政も前を見ながら頷く。
「前はショップの常連、大会の参加者とか知ってるだけの人はいるにはいた。けどそういう人はぼんやり覚えてるだけで実際の繋がりは薄かった」
「けど今は『どこそこは誰のテリトリー』『あそこは誰それが争ってる』って話が増えたと思う。特にムサシははっきりしている方かな」
「誰かが『バトスピ戦国時代』なんて言ってて聴いたときは笑ったよ。けど単なる揶揄だと思ってたけど、それはあながち間違っていないのかなって」
強いか弱いか。求められるものが純粋にそれに集約されていくのは復帰したての吉政にとっては少し寂しく感じることであった。
「うわっ、なにあれ!?」
そんなことを考えて歩いている時だった。
1つ目のスタジアを抜け、隣接したもう1つのスタジアに差し掛かったとき、吉政は奇妙な光景を目にした。
「あれなに!? あのスピリットの側にいる人!」
バトルフィールドでスピリットが召喚されている。刀を持ったTHE・侍といえるスピリットだ。
だがバトルをしているわけではなく、バトルフィールドは展開していてもマシンは浮上してもいない。
しかし吉政の興味を引き立てたのは、そのスピリットの傍らで奇妙なぴったりタイツを着た人間が竹刀に似たものを振っているからであった。
そしてなにより吉政を驚かせたのは竹刀を持った人間と、バトルフィールドにいるスピリットが完全に動きが一致しているからである。
フィールドの端でその人が竹刀を構えれば、スピリットも同じように構え、竹刀を振り下ろせばスピリットもそれを追随する。
その珍しい光景に吉政はスタンドに手を置いてピョコピョコ体を上下させていた。さながら動物園で初めてペンギンを見たようなはしゃぎようである。
「あぁ、あれはバトルシステムのモーションキャプチャー開発部門ですね。そういえば先ほどのバトル中も作業してらっしゃいましたよ」
騒ぎ立てる吉政からお市が横から説明を加えた。
「モーション? あれってパソコンとかで動かして作ってるんじゃないの」
「はい、確かに一部はデジタル上でのモデルを作り、それをもとに3D化します。ですがよりリアルな、よりスピリットとして精度を上げる方法として人や動物を使うこともあるのです」
「今は刀を使うスピリット『サムライドラゴン』の3D化の精度向上をしてらっしゃるようですね」
事の状況を飲み込めた吉政は感嘆の息をもらした。
「サムライドラゴンかぁ、まだ実際にバトルしたことはないけど見る限りは『THE・剣豪』って動きしてるよなぁ」
「今あちらでモーションアクターを務めている方も現代の剣豪と呼べる方で剣道の有段者──確か6段らしいですよ」
「6段?! 友達に剣道やってるやついるけど『4段以上から紛れもないバケモン』って言ってたよ?」
「各部門の方含め、研究職の方は鋭意努力され、多くの情熱をかける素晴らしい方が多いんですよ」
「だからスピリット1つとっても手抜かりはしないのです」
「はぁ……たかがカードゲームにそこまでするもんかね……」
驚かされてばかりの吉政はスタンドに両肘をかけてもたりかかり、半分ため息のような息を吐く。
目線の先にはモーションアクターとサムライドラゴン。
その2つを均等に見ているとこれまた不思議だ。人が動いていると知って見てみると、それは人間のような生々しさも感じられるが、どこか架空生物らしい非日常感も滲み出ている。
「たかがゲーム。されどバトスピなのです」
そう言われた吉政は白旗を上げるしかなかった。
「ははっ、違いない」
「少なくとも、そのたかがゲー厶に散々浮かされた奴がここにいるんだから」
そんなことを口にしていると、ふと昔のことを思いだした。
『──男ならシャキッとしろ! 勝負をするなら絶対勝つって気持ちを持ってやりなさい!』
今思うと、あれは半ば理不尽であったような気もしなくはないが、同時に不器用な優しさも確かにあった。
そしてそれを
「てか、俺がバトルフィールドで初めて召喚したのはヴェロキハルパーだったけどさ。あいつにも3Dモデルがあったりするのかな? あるとすればニワトリとか?」
「ヴェロキ……よりリアルにするため実物の恐竜とかでしょうか?」
「ご冗談を」
「結構まじめに答えたのです」