「だーかーらー! 嘘じゃないって言ったでしょうがぁ!」
「嘘だ……ほんとにS級だったなんて……」
ムサシの西寄りのスタジアムで、吉政は自身の専用マシーン『双星連理』にあぐらをかいて泡を飛ばしていた。
話し相手は緑川を始めとした「宝緑院組」の皆々様方。揃いも揃って全員が単色緑使いなので正直吉政は一種の宗教なんじゃないかと最近薄々感じ始めている。
そしてついこの間までその皆々様方に「俺はS級だぞ!」と言っても、バトルの腕で証明しても相手にされなかったので、早速証明しに来たわけであった。
「どうする……?」
「これはマズくないか……?」
「──ひとまず兼続様に報告だ!」
宝緑院組は吉政をよそに密談を交わし始めかと思いきや、突然スタジアムの外へ駆け出していった。
「ちょっとぉ! この前の借りを返さなくていいんですかー!」
「まぁいいや」
1人置いてけぼりにされたことを根に持ちつつ、吉政は頭を切り替えた。
「よっしゃあ! この"S級バトラー"蘇芳吉政とバトルしたい奴はじゃんっじゃんっかかってきな!」
新しいものはそれとなく自慢したい年頃であるからである。
ただしやってることは原付を手に入れて同級生に自慢している中坊と同じである。 違いがあるとすれば法に触れているかいないかぐらいだ。
「誰であろうと関係ない! バトルしたい人は遠慮なく受けてやる!」
「さすがに調子乗りすぎた……」
そしてすぐに吉政は後悔した。
もっと詳しく言えば、トイレの個室の中で頭を抱えていた。
バトルは連戦連勝。順調に勝ち星を増やしていった吉政であった。
そこまではいい。問題は気分よく勝ち上がっていた吉政の前に挑戦者が募っていったことだ。
最初の見物人はそこそこだったが、バトル中横目でもわかるほどにわかに増え、そのうち挑戦者の順番待ちは1人並ぶと後ろに1人、そのまた1人と列が引き伸ばされていった。
最終的に列の後方に並んでるのはもはや「何の列なのかわからないけどとりあえず並んどこ」の有様であった。
その様を目撃した吉政は「手洗い休憩」と称してトイレに逃げ込み、現在に至る。
「なんか騒ぎが騒ぎを呼んでエライことになってるし……」
個室に入って間もなく10分が過ぎようとした頃であった。当然他の利用者もいるわけであって、薄い扉1枚を隔てた向こうでは話し声など筒抜けである。
『あの吉政ってやつ、バトルに勝ったら問答無用で負けたやつのカード奪うんだってさ』
『このムサシ全域を縄張りにするためにやってきた戦闘民族の末裔だとか』
『実はドラゴンフェチでキースピリットが恋人だって話だぞ。いや、実際に「見た」ってやつがいるんだって』
入れ替わり立ち替わりで聞いた吉政の評判は尾びれ背びれ背中に羽生やして頭に角を生やした感じであった。
「てかなんだよ!? 『ドラゴンフェチ』って?! そいつは『なに』を見たんだよ!? なにを!? 俺はそんなアブノーマルな性癖は持ってねぇ!」
人のいないタイミングを見計らって、吉政は個室のドアを勢いよく開けた。
「あーどうしよう。ほんとどうしよう」
石鹸を泡立て爪の先から肘まで洗い流した吉政は気重にハンカチを取り出す。
気前よく言った手前、後には引けんし、かといって残り人数分のバトルをする体力なんてないんだけど。
「けど『残り何人まで』って言ったら並んでた後ろの方が不公平になるし……いっそのこと整理券でも作って後日に持ち越すか……?」
「っておい、俺はラーメン屋か」
手を拭きながら1人ボケ1人ツッコミをかまして廊下を歩いている間にスタジアムの光がうっすら見えて来た。
今の吉政にとっては断頭台へ向かう絶望の兆しにすら思えていたが。
しかしスタジアムに戻るとさっきまでの熱気は収まり、誰もが息を潜ませているかのようだった。
なんだ、集団食中毒でも起こしたか?
張り詰めた空気を肌で感じ取っていたその時だった。
どこかへ行っていた宝緑院組が帰ってきており、吉政を見つけるなり全員で指を差した。
「兼続様! あいつです! 我ら全員を打ち倒したそこの専用マシーンの持ち主は!」
「おまえがそうか。蘇芳吉政というカードバトラーは」
そして宝緑院組の中から緑の羽織を両肩に乗せた一際恰幅のいい男が歩きながら吉政へ問いかける。その体躯といい、貫禄がある姿に吉政も一瞬たじろいだ。
「そ、そうですけど……」
「相手が誰であれ、この西ムサシで勝手な振る舞いをする者を俺は見過ごすわけにはいかん」
「ここまで人目を集める形の
なんのこっちゃ。
「果たし状なんて書こうと思い立ったこともないんですけど」
吉政は素直な感想を投げかけるが、目の前の巨漢は眉を潜めて問い返した。
「なに? 『西ムサシの覇権が危うい』と俺は耳にして来たのだぞ」
吉政は口を真一文字に閉じ、腕を組んで悩みにふけった。
さて、どうしよう……。とりあえず誤解だということを──
「やれぇ! 吉政! 兼続を倒すためにここへ来たんだろ!?」
1人の野次が火種となってバチバチと会場が沸き立つ。
やめて。俺、同調圧力に弱いんだから!?
だが吉政に電流走る。
いや待てよ? これは見方によっては願ったり叶ったりじゃないか?
勝ったらなんか「良いバトルでした」的な雰囲気出して帰れる。
負けても「良いバトルでした」的な雰囲気で帰れる。
並んでいた人をうやむやにするのはちょっと心苦しいが、兼続といえばかなり腕利きのS級バトラーだと聞いてる。
そんな人とバトルすれば結果はどうであれ、この雰囲気は丸く収まる、上手くいけばこの1回のバトルで現状を打破できるんじゃないか?
頭の中でピースがピタリとハマった音がした吉政は、への字顔から途端に凄みを見せた表情へ顔を変えた。
「──ああ、そうだッ! 俺はあんたにバトルを申し込みに来たんだッ!」
「いいだろう。ならば相手になってやる──来いっ緑風神!」
スタジアム向かいからカマキリを模したバトルマシーンが入り込み、会場はさらに盛り上がりを見せた。
こうしてひょんなことからムサシ切っての緑使い──『
「「ゲートオープン、開放!」」
吉政の第1ターン。
吉政はマジック『双翼乱舞』を使用。手札を2枚増やし、ターンエンド。
兼続の第2ターン。
兼続はカッチュウムシ、シノビコガネを召喚。
シノビコガネの召喚時効果でコアを2つ増やし、増やしたコアでカッチュウムシをLv2へ上げる。
そしてシノビコガネでアタックし、吉政のライフを1つ砕きターンエンド。
吉政の第3ターン。
「宝緑院兼続……聞いた通りの緑デッキの使い手か」
「メインステップ。ブレイドラをLv1、ソウルホースをLv2で召喚」
「さらにマジック『ソウルドロー』で手札を3枚追加」
「バーストセット」
「これでターンエンド」
ムサシ切っての緑のS級。正直疲れを忘れるくらい楽しみだ。
兼続の第4ターン。
「動かないならこちらから行くぞ」
カッチュウムシをLvダウンし召喚。
「蜂王フォン・ニードを召喚!」
四つ手に一本の槍を携え、武人のような出で立ちのスピリットが現れる。
「フォンニードの召喚時効果、ボイドからコア3個をこのスピリットへ置く!」
「またコアブーストか!」
コアが追加されたフォンニードは自動的にLvアップ。Lv2、BP10000となる。
「アタックステップ。蜂王フォンニードでアタック!」
「まずいな……確かフォンニードのアタック時効果は──!」
動揺する吉政だったがすでに手遅れであり、フォンニードが槍を振りかざしていた。
「フォンニードのアタック時効果発揮! 合計BP10000まで相手のスピリットを好きなだけ疲労させる!」
フォンニードは槍を回し、そこから巻き起こした風で吉政のブレイドラとソウルホースを地面へと押しつぶした。
そしてフォンニードは一直線に吉政へ槍を突き立てる。
「そんなんライフしかないだろ!」
吉政の2つ目のライフを削ったフォンニードはフィールドを旋回し、兼続のもとへ戻らず再び吉政の前で重低音の羽音を響かせた。
「フォンニードの効果。このスピリットのコア3個をトラッシュへ送ることでフォンニードは回復する!」
「そして再びフォンニードでアタック!」
「ライフで受ける!」
ホバリングをしていたフォンニードが空気抵抗を全く感じさせない軽快な動きで吉政に2度目となる斬撃を浴びせる。
「フォンニード……単体で性能が自己完結した、無駄のないスピリットだな。正直嫌いになりそうだ」
「カッチュウムシでアタック!」
「ライフで受ける!」
カッチュウムシの攻撃を受け、残りライフ1と追い込まれる吉政だったがこの瞬間を待ち望んでいたかのようにバーストを開く。
「今だ! ライフ減少によりバースト発動!」
「マジック『妖華吸血爪』! デッキから2枚ドロー」
「さらにコストを支払い、フラッシュ効果発揮!」
吉政はソウルホースをLv1へダウンさせ、妖華吸血爪のフラッシュ効果を使用。
「妖華吸血爪は自分の手札を好きなだけ破棄することでその破棄した枚数分、相手のスピリット1体からコアを外す!」
吉政は手札から『百識の谷』を破棄。
「手札を1枚破棄! これでシノビコガネからコア1つをトラッシュへ送る!」
「これであんたのフルアタックは防いだ!」
「ターンエンドだ」
吉政の第5ターン。
「さすがに1ターンでライフ3つ失うのはキツイな……」
「けど、ライフ1に追い込まれた土壇場にこそ星は輝く!」
「メインステップ。マジック『ビッグバンエナジー』を使用! このターンの間、手札にある系統『星竜』を持つスピリットが自分のライフと同じ数になる」
「まずは雷皇龍ジークヴルムを召喚!」
「続けて滅神星龍ダークヴルム・ノヴァをLv2で召喚!」
「まだまだ! 同じくLv2で召喚! 超神星龍ジークヴルム・ノヴァ!」
「不足コストはブレイドラから確保!」
「さらに【転召】の効果で雷皇龍ジークヴルムのコアをすべてボイドへ置く!」
吉政の必勝コンボが満を持して炸裂。2体の龍が並び立ち、さらにジークヴルムを【転召】したジークヴルムノヴァの効果が発揮。
「ジークヴルムノヴァの召喚時効果発揮。ライフを5まで回復」
「フォンニードの攻撃はヒヤリとさせられたけどこれで形勢逆転だ!」
「アタックステップ! 今度はこっちのフルアタックを受けてもらうぞ、兼続!」
「まずは超神星龍ジークヴルムノヴァでアタック!」
「Lv2のアタック時効果発揮! 合計BP10000分のスピリットを破壊する!」
「フォンニード、カッチュウムシをまとめて破壊! 蜂の巣にしてやれ!」
雄々しく翼を広げたジークヴルムノヴァはフォンニード、カッチュウムシ共々へ無数の風穴を開けていく。
そして破壊し終えたあと、立て続けに兼続へと迫る。
「そしてこれがジークヴルムノヴァ、メインのアタック!」
「ライフで受ける!」
「ジークヴルムノヴァはダブルシンボル! よってライフを2つ破壊する!」
ジークヴルムノヴァが兼続のライフを一気に2つ破壊し、残りライフ3へと削る。
「ソウルホースでアタック!」
勝機を逃さんとばかりに吉政がアタックする。第5ターンという早い段階だったが、バトルフィールドは内も外も熱気が渦巻いていた。
「ライフで受ける」
しかしその熱気に当てられることなく兼続は仁王立ちでライフを差し出す。
──なんだ、兼続のこの余裕は? ここまで攻められているのに全く動揺していない。
さっきのジークヴルムノヴァのアタックは少し顔色を変えたけど、今回はなにひとつ顔色を変えなかった。
むしろアタックするごとにこっちが追い詰められてさえ感じる。
邪推する吉政はかぶりを振って向き直した。
「なんにせよ、俺の優勢は変わらない」
兼続のライフは残り2。対して吉政のライフはジークヴルムノヴァの召喚により5まで仕切り直した。
「滅神星龍ダークヴルムノヴァでアタック!」
「──フラッシュタイミング!」
やっぱりあったか……! 反撃のカード!
カウンターのマジックか……それとも緑の【神速】か。
あらゆる可能性を思案する吉政だったが、その思惑は外れ、兼続のソウルコアを取った手は想像の斜め上をいっていた。
「【ソウル神速】発揮!」
「
聞いたことがない効果に動揺する吉政へさらに緑の烈風が揺さぶりをかけた。
暴風でフィールド全体が覆い隠されてる中でそのスピリットは姿を現す。
「出でよ我が愛の化身ッ! 烈風忍者キリカゲ!」
「コスト7の【神速】!? Lv2で召喚できるほど──というか召喚するコアの余裕なんてなかっただろ!」
事の状況を飲み込めない吉政は半ば野次を飛ばす形で兼続に疑問を投げかけたが、兼続は諭すように冷静に答えた。
「いいや、キリカゲのコストはすでに支払い済だ」
「キリカゲの【ソウル神速】に要するコストはリザーブに置かれたソウルコアただ1つ」
「ソウルコア──!」
兼続のソウルコアはフォンニードへ置かれていた。それはつまり、ジークヴルムノヴァの破壊力が仇になったことを意味する。
吉政は歯噛みした口元を見せながら、ようやく兼続の態度に納得がいく答えを得た。そして次に出る状況の答えも自ずと知れた。
「【ソウル神速】を知らなかったとはいえ、俺は墓穴を掘ってたわけか……」
「そういうことだ」
反撃の切り札を切った兼続は守りという名の攻撃に出る。
「そしてそのアタック! キリカゲが迎え撃つ!」
【神速】の名の通りに現れたキリカゲは背部から大型の手裏剣を取り出して放つ。
孤を描いて迫るそれをダークヴルムノヴァは体をよじって避けるが、目を離した隙にキリカゲは眼前から消えていた。
「【ソウル神速】で召喚されたキリカゲのBPは10000! ダークヴルムノヴァよりBPは上だ!」
そして標的を見失って狼狽するダークヴルムノヴァ。その背後からキリカゲが的確に急所を貫いた。
「ターンエンド……」
【ソウル神速】……なんて突拍子もない効果を持つスピリットだよ。まさかフォンニード以上のスピリットが潜んでいたなんて。
一矢報いることもできず、呆気なく破壊されたダークヴルムノヴァを尻目に見ながら、吉政は自分のターン終了を宣告するしかなかった。
「赤と紫。2つの色を使い分けるその手腕は確かに見事だ。瞬間的な爆発力なら利家をも超えているのかもしれん」
「だがおまえには俺は超えられない」
兼続が羽織を宙に投げ捨てると、その背中を吉政に見せつけた。
「なぜならば、俺には愛があるからだッ!」
背中には『愛』の一文字があった。
「愛……愛ッ!?」
「かつてこの西ムサシの秩序は崩壊していた。おまえのように自分の腕のみを良しとする者たちが──」
待って、ちょっと待って。その前に『愛』ってなに? さも当然のように話を続けないでくれる?
突飛な話に吉政は軽く頭にエラーを起こしていたが、兼続は話を続ける。連れの仲間が涙を流しているところを見るとたぶん良い話なのはわかった。
「──だから俺は負けん! この『愛』を背負い戦う限り、なんびとたりとも俺を踏み越えさせはしない!」
「(よくわからなかったけど)よくわかった! ならかかってこい!?」
「我が愛の全力をもって──蘇芳吉政! おまえを打ち倒す!」
兼続の第6ターン。
「メインステップ。カッチュウムシを召喚」
「ネクサス『吹き荒ぶ旋風』をLv1で配置」
「マジック『ネオ・ハンドリバース』を使用! 手札を破棄し、デッキより3枚ドロー!」
コアを増やして手札もキッチリ回す。理屈はどうであれバトルの実力は上品な感じだ。
「蜂王フォンニードを召喚! 召喚時効果! コアブースト!」
コアを増やす動作で、台へバァンと叩きつける兼続。
「違った!? 全然上品じゃねぇ!」
「さらにキリカゲをLv3へアップ!」
「アタックステップ。カッチュウムシ、フォンニードでアタック!」
「2体ともライフで受ける!」
2体の攻撃をライフで受けるしかない吉政だったが、兼続は先ほど見せたフォンニードLv2を使用しなかった。
「フォンニードを回復させない……? コアを温存」
ライフ回復効果のおかげでこのターンは凌ぎきれそうだけど……。
けど、それは兼続もわかってるはずだ。次のターン、俺がジークヴルムノヴァでアタックすることを見越しているはず。
なにを狙ってる?
「キリカゲでアタック!」
「ライフで受ける!」
兼続の怒涛の攻撃で吉政のライフは瞬く間に2まで削られた。
一進一退の攻防により互いのライフは残り2。戦況としてはイーブンとなる。
「エンドステップ。ネクサス『吹き荒ぶ旋風』の効果。自分のターン終了時に系統『忍風』『殻人』を持つスピリット2体を回復させる」
「よってキリカゲとフォンニードを回復」
「ターンエンド」
吉政の第7ターン。
「攻める半面、守りもきっちり固めてきたか……」
攻防一体の構えを目の前にして吉政は気を引き締め直す。
「メインステップ。マジック『双翼乱舞』を使用。デッキから2枚ドロー」
「ネクサス『百識の谷』をLv2で配置」
ソウルコアを残している以上、なにが起きるかわからない。
もしかすると【ソウル神速】以上のカウンターが残されている可能性だってあるんだ。
「ソウルホースを新たに召喚」
「さらに超神星龍ジークヴルムノヴァをLv3にアップ」
だけど攻めないと兼続の守りは崩せない!
「アタックステップ。ジークヴルムノヴァで攻撃っ!」
相手フィールドへ強襲をかけたジークヴルムノヴァ。勢いは劣らず、むしろ数段ギアが乗っているようにも思える躍動を見せた。
「アタック時効果でBP10000までスピリットを破壊する!」
「よって蜂王フォンニードを破壊!」
そして成すがままにフォンニードの頭を掴み、地面へと沈める。
「そしてジークヴルムノヴァLv3のアタック時効果【激突】!」
疲労状態のカッチュウムシの頭上をかすめてジークヴルムノヴァがキリカゲへ迫りかかる。
自身のフィールドにキリカゲしか回復状態のスピリットがいない兼続はブロックせざるを得ない。
「キリカゲでブロック!」
「わざわざキースピリットを起こしてくれたんだ。あんたのキースピリットを破壊してからこのバトルに勝利させてもらう!」
「確かにあんたのキリカゲにはしてやられた。だからこそ俺はその上をいく!」
紙のような薄い繊細な動きでジークヴルムノヴァの攻撃をかわし続けるキリカゲ。
だが一撃でも食らえば致命傷になりかねない緊迫感がスタジアム全体を包む。
「なるほど……単なる荒くれ者かと思ったが、おまえにも信念があると見た」
「だがそうはさせん! フラッシュタイミング!」
「マジック『畳返之術』!」
「なに!?」
「畳返之術の効果で相手スピリット1体を疲労。さらに自身のフィールドにいる系統『忍風』を持つスピリット1体を手札へ戻す」
あと少しでキリカゲに触れられそうになったジークヴルムノヴァ。
しかしそのキリカゲの足元から突如として畳が跳ね上がり、ジークヴルムノヴァは顔から畳に激突し、尻餅をつく形になった。
「ソウルホースを疲労。そしてブロック中のキリカゲを手札へ戻す」
尻餅をついたジークヴルムノヴァは頭を振りかぶって前方背面をくまなく見回すが、ダークヴルムノヴァの時と違いキリカゲは完全にフィールドから姿を消していた。
「【激突】が躱された!?」
「さらにフラッシュタイミング! 【ソウル神速】!」
「もう一度巻き上げろ! 我が愛の雄叫び!」
「烈風忍者キリカゲ、再びッ!」
意味もわからず吉政のもとへ帰ろうとしたジークヴルムノヴァだったが、その背後へようやくキリカゲが姿を現す。
悠々と腕を組んで現れたキリカゲに咆哮を放ちながら臨戦態勢を取るジークヴルムノヴァだったが、すでにシステム上のバトルは終了しており、すごすごと戻る他なかった。
一度ならず二度までもしてやりやがったな宝緑院兼続……!
「ターンエンドっ!」
兼続の第8ターン。
「勝負あったな。このターンで決めてやる」
「シノビコガネをLv2で召喚!」
「さらにネクサス『吹きすさぶ旋風』をLv2へ」
「アタックステップ。カッチュウムシでアタック!」
「ライフで受ける!」
残りライフ1となった吉政。
「これでトドメだ! キリカゲでアタック!」
「させるか! フラッシュタイミング! マジック『リミテッドバリア』!」
「コストはジークヴルムノヴァより通常コア4つを使用!」
「そしてリミテッドバリアの効果でコスト4以上のスピリットでは俺のライフは減らされない!」
「キリカゲのアタックはライフで受ける」
「この局面で防御マジックか……!」
「こっちの切り札もなかなか乙なもんだろ?」
ぶっちゃけ余裕かましてるけど、コスト3以下がもう1体いたら普通に負けていたな……。
「エンドステップ。吹き荒ぶ旋風の効果でキリカゲを回復」
吉政の第9ターン。
「ドローステップ。ネクサス『百識の谷』のLv1、2の効果でデッキより3枚ドローし、1枚破棄」
「メインステップ。マガツドラグーンをLv3で召喚」
「そしてジークヴルムノヴァを再びLv3に!」
ダークヴルムノヴァを
「コケにされたままこのバトルをが終われせてたまるか! アタックステップ!」
「超神星龍ジークヴルムノヴァ、Lv3でアタック!」
「アタック時効果でシノビコガネ、カッチュウムシを破壊!」
三度兼続のスピリットを破壊するジークヴルムノヴァだったが、その瞬間ネクサス『吹きすさぶ旋風』のLv2効果が発動。
その効果は相手によって自分のスピリットが破壊されたとき、相手のスピリット1体を疲労させる。
「だがネクサスの効果でマガツドラグーンには疲労してもらう!」
「構うもんか! ジークヴルムノヴァ! キリカゲにもう一度【激突】だッ!」
「ブロックだッ! キリカゲ!」
再び攻守がはっきりした交戦が始まり、キリカゲが打ち負かされるのも時間の問題かと思われたが、今回は違った。
「俺の愛は屈したりなどしない! マジック『風遁之術』!」
「相手スピリットを1体疲労。さらにこのターンの間キリカゲにBP+5000!」
ソウルホース1体が疲労させられ、さらにキリカゲLv3、BP13000に+5000が加算。合計BP18000となったキリカゲは防戦一方の状況から一転、火の出るような攻めに出た。
様々な小技や搦め手てジークヴルムノヴァを切り崩すキリカゲだったが、ジークヴルムノヴァも負けじと力の勝負に持ち込もうとする。
「ならこっちのフラッシュタイミングだ!」
「マジック『ソウルドロー』を使用! このターンの間スピリット1体にBP+4000を加算する!」
ジークヴルムノヴァLv3、BP15000へ+4000。これにより合計BPは19000。
ジークヴルムノヴァはキリカゲの背後を取った攻撃を読み切ってキリカゲの腕を掴み取り、力を溜めた虹色の翼でキリカゲの周囲を囲む。
「これでジークヴルムノヴァのBPは19000!」
「さらにおまけだ! 追加のフラッシュタイミング!」
「マジック『メテオストーム』をジークヴルムノヴァに使用!」
「このターン、ジークヴルムノヴァが相手スピリットとのバトルに勝利したとき、ライフを2つ破壊する!」
逃げ場を失ったキリカゲへジークヴルムノヴァは至近距離の爆発を起こす。
そして煤にまみれたジークヴルムノヴァは右手左手と兼続の最後のライフを砕いた。
「俺の負けか……」
バトルに敗れた兼続は片膝をついて項垂れる。
その兼続に吉政は言いたいことを簡潔に言った。
「あんたの言うような理想は俺にないかもしれないけど、俺にも『ノヴァを最大限引き立てたい』って気持ちがある」
「ノヴァは俺にとって特段の思い入れがあるスピリット。だからこいつらを思う存分使うのが俺のバトルだ」
「……それがおまえのカードバトラーとしての矜持か」
「『愛』があるだろ?」
歯を見せて笑う吉政に兼続も静かに笑って立ち上がった。
しかしなんか良い雰囲気であるが、吉政の内心はそれどころではなかった。
「いいバトルだったよ。今日はあんたと帰りたい──じゃない、戦えてよかったよ」
帰りたい。帰りたい。帰りたい。今すぐ帰って風呂入ってベッドにダイブしたい。
「これ以上のバトルは(体力的に)できそうにないから、今日のところはこれで帰らせてもらうよ」
なんか良い感じの雰囲気で颯爽とスタジアムをあとにしようとする吉政だったが、それを拒むように立ち塞がった者がいた。
「ならば次は自分とバトルしてもらおう」
青い髪に凍てつくような鋭い目つき。
それは『浜の鬼姫』と呼ばれる
そしてさらなる強者を目の前にした吉政は、静かに口角を上げた。
──今日はもう閉店だって言ってんだろッ!?
吉政くんのバトルの魅せ場がな"ぁ"ィ゙!
ダブルノヴァって戦法がワンパターンってのもあるけど、すでに新デッキの95%は出しちゃってるせいでゲーム展開が似たり寄ったりになる……
まぁ対戦相手が個性出せば大丈夫っしょ!(安定のガバ)