「はぁ...」
陸八魔アルは憔悴していた。
理由は単純。
アビドス高校襲撃、及び奪取を失敗した彼女たち便利屋68は使い切ってしまった資金の調達のためにブラックマーケットにある闇銀行に融資を受けに来ていたが...ここに到着し、既に受付を済ませてから5時間が経過していたからである。
既にアルを除く便利屋社員たちは夢の中におり、アルはただ永遠にも思えるこの待ち時間をただひたすら待ち続けていた。
「陸八魔アル様、大変お待たせいたしました」
だが、神...いや、ブラックマーケットの銀行員はアル達を忘れた訳ではなかった。
銀行員の声を聞き、長時間の待機によりふらつく足を何とか奮い立たせ彼女は受付へ足を運ぶ。
「まったくよ...5時間よ...!?」
「申し訳ございません。こちらとしても色々と手続きがございますので、ご了承ください」
文句は出てしまったが、アルは半ば納得、半ば八つ当たりであった。
自分たちはこれといった成功例があまりないまだ駆け出しの便利屋。
調査に時間がかかることは理解しているつもりだし、融資を受ける以上、待つだけでお金が借りれるならば5時間程度誤差でしかない。
「ま、まぁいいわ...それで、融資の件は...?」
「大変申し訳ございません。残念ですが、こちらから融資は出来兼ねます」
だが、現実とは残酷である。
銀行員から発せられたのはアルが求めていた答えではなくはっきりと拒否の言葉だった。
「ど、どうしてよ!?」
「第1に、収入がはっきりしておりません。融資をしたとして、返金の目処がありませんので...次に、事務所が高額すぎます。もう少し場所を選んだ方が良いのでは...?さらに...」
「くっ...!!」
次々と並ぶ否定の言葉に、アルは下唇を噛みながら思考を巡らせる。
もういっそ、銀行を襲ってお金を奪って逃げる...?...いえダメね。ブラックマーケットの闇銀行を相手にそんなことして、無事で済むはずがない...
それに、外には大量のマーケットガードがウロウロしてる...逃げられるかも分からない以上、みんなを危険に晒すだけ...
そもそも、そんなこと出来る人なんてこのキヴォトスにいる訳が――
アルがそんな思考を巡らせた、その時だった。
バンッ!!
「ッ!?な、なに..!!?」
会話に夢中になっていたため気が付かなかったが、気づけば窓は防災シャッターが締まり切り、バンッ!!という音とともに照明が落ちる。
そして、何も見えない暗闇の中、入口付近から鈍い打撃音と共に何かが崩れ落ちる音が聞こえたかと思うと再び照明が復旧される。
復旧された明かりの中で、アルは目にする。
カラフル目出し帽を被った数人の生徒が、マーケットガードを倒し、銀行に攻め込むその瞬間を。
ダンダンダンッ!!!
「全員、無駄な抵抗はやめてその場に屈んで!!」
青色の目出し帽を被った生徒が高らかに銃を掲げ、数発の銃弾を天井へ放つと声高らかに宣言する。
その姿はまさに強盗。...いや、見る人が見れば目立つカラーの目出し帽な時点でふざけた集団にしか見えないだろうが、アルの目には全く異なるものとして映り込んでいた。
(か...かっこいい...!!闇銀行を相手に、銀行強盗...!?そんなの...アウトローすぎるわよっ...!!)
「...ぐっ...!!」
っ...!?あのマーケットガード、まだ意識が...!!
バンッ!!!
「っ!?」
「無駄な抵抗はやめてって、聞こえなかったかしら?」
「手荒な真似はしたくないんだが、しばらく寝ててもらうぞ」
アルが声を上げ、謎の覆面集団に伝えようと1歩を踏み出すより早く1発の銃声が鳴り響き、マーケットガードの銃を弾くように銃弾が地に落ちたアサルトライフルにヒットし抵抗しようとしたマーケットガードはもう1人のメンバーにより気絶させられ、力なく再び血に伏せる他無くなった。
流れるような制圧。
そして、個々に周囲を警戒し素早く金を奪うその姿はまさにその道のプロであった。
だからこそ、偶然その場に居合わせたアウトローに憧れる1人の少女の脳を焼くのに十分な火力が彼女たちにはあったのだ。
***
「...何とか上手くいったか」
闇銀行を脱出し、包囲網を完全に抜けた俺たちは人目のない場所で目出し帽を外し、状況を確認する。
こちら側に負傷者、行方不明者なし。当然ながら死者もなし。
目的であった集金記録も何とか手に入れることができた。
あとは無事ブラックマーケットからアビドスへ帰還するだけだ。...と思っていたのだが...
「...?どうしたシロコ。まさか、集金記録が違うやつとかか?」
「違う。集金記録は間違いなかった。...それより、これ...」
「ん...?」
どこかバツが悪そうにシロコが集金記録の入ったカバンを開けると、そこには山のような現金が入っていた。
「...シロコ...」
「えぇ!?シロコ先輩、まさか現金まで奪っちゃったの!?」
「ち、違う!!向こうが勝手に入れてきただけ!!」
「凄いですね...これ、ざっと1億はありますよ...」
「うへっ、ほんとに5分で1億稼いじゃったね...」
カバンの中を見た俺たちはそれぞれ意見を言い合う。正直、俺でもこの金をこのまま奪っていいのか分からない。
...ただ、間違いなく面倒なことになるだろうことだけはわかった。
「先生、どうするべきだと思いますか」
「...難しいね。でも、これを持ち帰るのは不安分子が多すぎるかな」
「...俺も、同意見です。やっぱり、どこかで捨てていきましょう」
「な、どうして!?元々私たちが稼いだお金なのよ!?」
俺と先生の会話を聞いていたのか、セリカが声を上げ、この現金を持ち帰るべきだと意見する。
「セリカ...気持ちはわかるが...」
「わかるなら、持って帰ろうよ!!これがあれば、アビドスの借金だって...」
「そんなことしたら、本当に犯罪者になっちゃうよセリカちゃん!!」
セリカがカバンを開きながらそう言いかけると、その言葉を遮るようにアヤネが画面越しに声をあげる。
セリカの気持ちも分からなくは無い。だが、同時にこの金はリスクの塊だ。
考えても見てほしい。
ついひと月前まで月の返済額だけでギリギリだった学園が急に1億もの大金を用意してきたらまず間違いなくカイザーローン経由で対策委員会へ疑いの目がかかるだろう。
むしろ、俺たちだけならまだしも先生やヒフミにまで危害や迷惑がかかる可能性すらある。そんなリスクを易々と抱える訳には行かない。
「...セリカ。お前の言いたいことは痛いほど分かる。だが、お前もそれを抱えることがどれだけリスクが高いかくらいわかるだろ?」
「...〜っ...!!じゃあ、シロコ先輩はどうなの!?銀行強盗の案は元々シロコ先輩の案じゃない!!」
苦し紛れに、セリカはシロコへ視線を飛ばし縋るように問いかける。
おおよそ、シロコも持ち帰ろうと言ってくれると思っているのだろう...だが。
「考えるまでもない。ホシノ先輩が許さない」
シロコは冷静だった。
「うへ〜。さっすがシロコちゃん。おじさんのことよくわかってるね〜」
「ホシノ先輩...」
「セリカちゃん。おじさんだって、セリカちゃんの気持ちはわかってるつもりだよ。でも、今ここでこのお金を悪い人達から奪ったものだからって容認しちゃったらきっと同じことを繰り返しちゃうよ。」
「同じ...こと...」
ホシノの言葉に、どこか思う所があるのか俯き、ゆっくりとホシノの言葉をセリカは咀嚼していく。
きっとセリカなりに強い葛藤があるのだろう。彼女の握られる拳が、それを強く表していた。
「今は良くても、その次は?そのまた次は?借金が膨らむ度にこんな事繰り返してたら、きっといつか超えちゃいけないラインを超えちゃう。...だから、ここは元の目的通り集金記録だけをもらってこのお金は処分しよう?」
「〜〜〜っっっ!!!あーもうっ!!わかったっ!!ほんっとみんなお人好しなんだから!!」
「...よし、それじゃあ退散しよう。いつ追っ手が来るかもわからねぇしな。」
セリカが覚悟を決め集金記録だけを回収すると、俺たちも荷物を持ち直し撤退しようとした時だった。
「ちょ、ちょっと待って!!!」
どこか聞き覚えのある女性の声がその場に響いたのは。
***
「ちょ、ちょっと待って!!!」
私が声をかけると、目出し帽を外していた強盗集団は再び目出し帽をかぶり直し、私の方へ振り向く。
「止まれ。何の用だ。追っ手か?人数は?」
「ま、待って!!私は敵じゃないわ!!だから銃は下ろしてちょうだい...!!人数は私と私の会社の社員だけ!!嘘じゃないわ!!」
「...ボス、ファウスト様。どうしますか」
「はい!?私ですか!?えっと...敵対の意思がないなら話くらいなら聞いてもいいんじゃないですかね...?」
「...わかりました。特別に話だけでも聞いてやる。ここまで付けてきたなら気づかなかったこちらにも問題があるしな。言ってみろ」
ファウストと呼ばれた紙袋の覆面の女の子?がそういうと、数字のない黒い目出し帽を被った男の人が私に発言権を回してくれると同時に向けていた銃を下ろしてくれる。
「..ありがとう。えっと...さっきの銀行強盗、見ていたわ。素晴らしい手際とスキルだった...稀に見るアウトローっぷり、感動したわ。だから、その勇姿を忘れない為に、貴方たちの名前を教えて欲しいのっ!!」
「...名前?」
「あ、覆面の下の名前とかじゃないわよ?!チーム名とか、組織名とかあるでしょ...?」
私が感動したことを伝えると、青い覆面を被った生徒は睨みを効かせてきたので私は慌てて訂正すると、少し話し合っているのかヒソヒソと覆面集団は顔を突合せ話し始める。
「何言ってるのこの子...?」
「さぁ..?」
「まぁ、名前を伝えるだけで揉めずに済むなら適当に言ってやり過ごすとしよう」
「わかりました...!!ここは私に任せてください...!!」
「ちょ、ノノミ先輩...!?」
話し合いが終わったのか覆面集団の1人、緑色の覆面を被った女子生徒がこちらに向かってくる。
「あなたの気持ち、よーっく分かります!!」
「へ...?ほ、本当に!?」
「はい!!」
覆面越しでもわかるほど笑顔を浮かべ、彼女は私の手を取り寄り添うように頷くと手を離し、数歩下がるとすぅっと息を整えて...
「私たちは人呼んで...覆面水着団ですっ!!!」
「ふ、覆面水着団...!!!?」
ちょ...ちょークール!!!!
「普段は水着に覆面でやるのですが...今日は緊急だったので、水着はなしなんです!!」
「ふ、普段は水着...!?他の追随を許さない個性...!!超クール...!!なんてアウトロー...!!!」
「ふっふっふのふ!!!目には目をっ!!歯には歯をっ!!無慈悲にっ、孤高にっ、我が道のごとく魔境を行くっ!!これがあたしらのモットーだよっ!!」
「か...かっこぃぃ〜....!!!」
覆面水着団...!!なんてクールでアウトローなの...!!
「...もうっ、いいでしょいい加減っ...!!!適当言って逃げるわよっ...!!」
「行こうっ!!夕日に向かってっ!!」
「夕日、まだですけどぉ〜...?」
「こういうのは雰囲気だ。ズラかるぞ、...あー...次なる試練が俺たちを待ってるー!!(棒)」
私のために名乗りを上げてくれた覆面水着団は、赤い覆面の生徒に何かを耳打ちされると颯爽と去っていってしまった...
でも、私は忘れないわ...!!
覆面水着団...!!我が道のごとく魔境を行く...!!その言葉、胸に刻むわ...!!
「...ふふっ、紙に書いて飾っておこうかしら...♪」
***
「...ねぇ、ムツキ。本当に社長に教えなくていいの?あの子たちがアビドスの子達だって」
「くふふ〜...♪嫌だなぁカヨコちゃんっ♪今言ったら面白くないじゃんっ!!もう少し楽しんでから、しっかり教えてあげるってっ♪」
少し離れたところでアルの様子を見ていた便利屋メンバーは、覆面水着団の中見に気づいていながらも面白いから...というムツキの提案で今回の件を傍観していたのだが...
「...あ、あの...これなんでしょうか...?」
アルと合流してすぐにハルカが何かを発見した。
「あら...覆面水着団の忘れ物かしら?」
「...ひょええぇぇえ!?ちょ、アルちゃん見てこれ!!!?」
「...うっわ。すご...」
ムツキが無謀にも中身を確認すると...それはとんでもない大金だった。
どうやら、銀行で奪ったお金らしい。
アルたちは迷いながらもこれを置いていくことにしようと思ったが...
「...えっと、これでもうお腹空かさなくていいってことですか...?」
...ハルカの一言で気が変わり、結局持ち帰ることにしたのだった..