ストックが尽きたので私の執筆が間に合えば続きは明日投稿されますが、間に合わなかった場合は来週の今日が投稿日となります。
ブラックマーケットでのゴタゴタから1日。
ライセ達対策委員会はようやく手に入れた集金記録から、自分たちの現状を理解した。
「...どうりで、いつまで経ってもヘルメット団がしつこく突っかかってくるわけだ」
吐き捨てるようにライセがいいながら手元の書類に目を落とす。
そこには、アビドス高校から月の返済額およそ800万を受け取ったあと、そのまま現金手渡しでカタカタヘルメット団へ500万もの軍資金が支払われていたことを示す記載がしっかりと残っていた。
「...つまり、私たちはずっと自分たちを襲ってくる連中を自分たちで支援してたわけ?」
「そうなりますね...」
「ん...」
方や怒りを滲ませ、方や絶望し、方や途方に暮れる。
実際、俺たちからすれば四面楚歌状態だ。無理もないだろう。
借金を返さなければ学校を取られる。
かと言って返せばヘルメット団へと金が周り襲撃は続く...イタチごっこだ。
「ど、どうするんですか...?このままじゃアビドスの皆さんの状況はさらに悪く...」
「...そうだね。...みんな、みんなが動けない以上ここは私が連邦生徒会に...」
「ダメだよ先生。」
ヒフミが焦りの声をあげると、先生は覚悟を決めたようにみんなに進言する。だが、それをバッサリとホシノの一言が切り伏せた。
「今までだって、ずっと連邦生徒会には状況を伝えてきた。...でも、連邦生徒会長がいた時ですらまともに支援が受けられなかったのにここに来て受けられるとは...おじさん、思えないなぁ。」
「...悪いが、俺も同感だ。今になって支援を受けられたとして...今になってバックアップされたところで状況が大きく好転するとは思えないし、何より...今になって支援されると、逆に困る。」
「逆に困る...?支援が受けられるのに、どうして...」
ライセとホシノが否定すると、ヒフミが困惑するように声をあげる。
それに対し、ライセは困ったように苦笑を浮かべると理由を話していく。
「単純だ。今のアビドス高校には俺たち6人しか生徒はいない...向こうが無茶な要求...例えば、アビドス高校の生徒会の立場を連邦生徒会に明け渡せとか言われても、拒否できない。...それに、連邦生徒会...だけじゃないな。ゲヘナやトリニティ、ミレニアムだってアビドスの状況は把握してるはずだ。それでも、支援をしない...向こうから接触すると立場は同等になれるかもしれないが、こっちが頼み込めば明らかにこっちが下の立場になる...それをわかってるのさ」
ライセが説明すると、部屋の空気は静まり返り、皆俯いてしまう。
ヘルメット団から手に入れた違法な武器の1部。
そこから手に入る情報で、アビドスは少しはまともな状況になり借金返済も難易度が少しだが下がる...と思われた今回のブラックマーケットでの奮闘は、むしろアビドスの四面楚歌な状況を明らかにし、今回のブラックマーケットでの1件の疲れを加速させるに十分なダメージを後輩たちへ与えていた。
「...そんなに暗くなるな。たしかにちっと面倒だが、手が無いわけじゃない。」
「でも...」
「...カイザーローンはカイザーPMCの子会社...子会社のこの動きを親会社が知らないわけありません...」
「...ん...詰み、じゃないの...?」
珍しく、後輩たちが弱音の声をあげる。
そんな様子を見てか、ライセは優しく微笑むと後輩たちを見つめてはっきりと声をあげる。
「大丈夫だ。なんとかなる。...今日はちょっと早いが、解散にしよう。みんな思うことはあるだろうが...一旦、ブラックマーケットでの疲れをゆっくり癒してくれ」
***
「すみません、皆さんわざわざお見送りしていただいて...」
「ヒフミちゃんにはお世話になったからね〜。これくらいはさせてもらわないと〜。」
「...私は、これといって力なれないかもしれませんが...人手が足りない時などは遠慮なく連絡してください!いつでも駆けつけますから!!」
そう言って、元気な少女は帰って行った。
その際にアビドスのみんなにファウストがどうのとからかわれたのはご愛嬌である。
***
ヒフミが帰ってから数時間。
すっかり日も沈み、闇に包まれたアビドス高校の一角。
普段人の立ち入らない生徒会室には、煌々とあかりが点っていた。
「...」
ぼんやりソファに沈む桃色はぼーっと天井を見つめる。
そんな静かな空間に、ガラリと言う引き戸の音とともに柔らかな男の子の声が響く。
「...ホシノ」
のそりと起き上がり、いつもより少し覇気のない少女は、少年へ声を返す。
「...なぁに?」
「なぁにじゃないだろ。...もう暗いぞ。帰ろう?」
すっかり覇気をなくした少女に、少年はいつも通り...だが、努めて優しく語りかける。
少女は、強い。
それを1番理解してるのはライセだ。
2年、その強さを間近で見続けていた。
圧倒的な戦闘センス、抜群の判断能力、半端じゃない体力と、継戦能力。
1年にして、キヴォトスのあらゆる情報組織に認識され、警戒された実力は伊達ではないのだ。
...だが、だからこそそんな少女と共に2年という年月走り続けた少年は知っていた。
彼女は、何もかもが強い女の子などではないことを。
...誰かが支えてあげないと、すぐに押しつぶされてしまう、どこにでもいる普通の女の子だということを。
「...どうしたよ。今日の結果が応えたか?」
ソファに沈むように寄りかかるホシノの頭にそっと手を置き、髪を乱さないように優しく流すように撫でる。
「...おじさんさぁ...ブラックマーケットに行けば、今のアビドスの状況が変わるんじゃ...って...ちょっと期待したんだよ。」
「...うん」
静かに、2人の生徒は会話を始める。
と言っても、片方は静かに相槌を打ちながら頭を撫でているだけだが...
だが、2人ともこの時間が嫌いではなかった。
「でもさ、ブラックマーケットに行って分かったことは、アビドスは八方塞がりで...ライセは、おじさんにブラックマーケットのことを隠してたことだけ...」
「...それに関しては悪かったよ。だが、あれは...」
目線を泳がせ、罪悪感を感じながらホシノに謝罪の意を示す。
別に、ライセだって訳もなく話さなかった訳では無いのだ。
...とはいえ、悪かったのは話さなかった自分。
思わず視線を逸らしてしまったが、しっかり話をしたい...そう思い、ライセが訳を話そうと、口を開こうとする。
そうして目線をホシノに戻すと、自然とホシノのいつもより少しくらい瞳と視線が交差する。
「...ねぇ、ライセ...どうして、話してくれなかったの?ブラックマーケットに出入りしてたこと...」
「...それは...」
話して、いいものか。
ライセの中で、迷いが生じた。
いつもより冷静じゃない、ずっと、参っている相棒に...この話をしてもいいものか。
...だが、その迷いが2人を分けた。
...分けて、しまった。
「...言って、くれないんだね」
「...」
「...うへへ、なんてね。ライセのことだもん。きっとなにか考えあっての動きなんでしょ?...大丈夫、おじさんにだって隠し事くらいあるもん...ライセだって、それくらいあるよね。」
スっとソファから立ち上がり、苦笑いを浮かべながらホシノはライセに振り返る。
だが、その顔をライセはよく知っていて...
「っ...ホシノっ...!!」
「...大丈夫だよ。おじさんだって、昔とは違うんだから...理解は、できる。...納得は、できないけど...」
悲しそうに俯く相棒に、どんな声をかければいいのか。
わからず、少年はたじろぐ。
...結局、互いになんと声をかければいいのかわからなくて僅かに時間が過ぎて...
「...ライセ、帰ろ?...今日は疲れたから、おじさんガッツリしたご飯が食べたいなぁ〜?」
先に口を開いたのはホシノだった。
そのいつも通り...といった雰囲気に飲まれ、ライセも思わず肩の力を抜き、いつもの空気を纏う。
「...はぁ...そうだな。いつまでもあの頃じゃないか...。...わかった。今日は腹に溜まるもの作ってやるよ。」
「うへへ、楽しみ〜。」
アビドス高校3年生の2人だけの、秘密。
それを知る人はいない。
それ故に、お互いを理解してるふたりだから...歯車が既に乱れていることに...気づかなかった。気づきたく、なかった。
***
帰り支度を済ませ、俺とホシノはのんびり夜道を歩いていく。
昼間は熱を孕んだ風も、この時間になるとすっかり冷え切っており慣れていてもなかなか辛いものがある。
「ホシノ、寒くねぇか?」
「ん〜??おじさんは寒くないよ〜。うへ〜、これくらいの時間に帰るってなるといつも聞いてくるね〜」
背中で手を組みながら数歩前を歩くホシノに問いかけると、足を止めずにくるりとこちらに体を向け後ろ歩きの状態でこちらに回答を返す。
「夜は冷えるからな。それに、ただでさえアビドスは人手不足なんだ。風邪でもひかれたら困る」
「心配症だなぁ。おじさんそこまで病弱じゃないよ〜」
薄ぼんやりと灯る街灯の下を歩きながらそんな軽口を叩き会う、いつも通りの日常。
先程の空気は何処へやら...なんて少し安心しながら会話をしていると、ふとホシノが足を止める。
「...?どうした?」
「..んや、ちょっとね。そこの影に猫ちゃんが入っていくのが見えてさ〜」
スっと、俺の少し後方の路地裏を指さしホシノがぽわぽわと笑う。
小動物好きで反応速度の早いホシノならこんな暗闇でも猫くらい追えるか。
「そうだったのか...見てくか?」
「...ん〜...そうだね。ちょーっとだけ気になるかな。」
腕を組みしばし熟考したあと、ホシノは苦笑いを浮かべつつも猫を眺めに行くことにしたようだ。
仕方ない、こんな時間じゃ危ねぇし...一人で行くのもあれだからちょっと待っとくか。
「んじゃあ、少しだけ見てくか」
「ま、待ってライセっ!!...その、おじさんお腹も空いてるし、ライセには先に戻ってもらってご飯お願いしたいなぁ〜...なんて...」
俺が踵を返し路地裏方面に向かおうとすると、ホシノが俺の手首をつかみ、そう頼んでくる。
珍しいが、時々あるのだ。
多方、小動物を撫でたりしてる時の反応を見られたくないのだろう。
まれに一緒に構いに行くと少し遠慮がちな時があるしな。
「...ん、んじゃあ先に家行って飯作っとくから、気をつけて帰ってこいよ。...あ、あと、流石に家主の居ねぇ家で飯なんて作れねぇから、俺の部屋で作って持っていくから帰ってきたら俺の部屋の扉ノックしてくれ」
「りょ〜かい。全く、おじさんがいいって言ってるんだから上がればいいのに〜」
「いくら俺とホシノの間柄でも男女だからな。ダメだ」
「...うへ、石頭」
「なんとでも言え。...んじゃ、先行ってる。」
***
ライセの背中が見えなくなり、私は路地裏に足を向ける。
街頭のない、通りより数段暗い路地裏に、そいつはいた。
「クックック...お久しぶりです、暁のホルス...いえ、小鳥遊ホシノさん」
「せっかく楽しい時間に水差してまで、今度はなんの用」
まるで影と同化するように現れたスーツ姿の真っ黒な大人...名を、黒服。
人でもなく、オートマタでもなく、獣人でもない。
その顔はまるで真っ黒なマネキンにヒビを入れたように表情のない異形の姿で、2年前から私に付きまとっているストーカーモドキの悪人だ。
「いえ、この度は少しあなたに取引をお持ち致しました。」
「...」
「そう警戒なさらないでください。すぐに回答は求めません。今回はあくまで説明に足を運んだ次第です。」
そういいながら、黒服は慣れた手つきでスーツの内ポケットから数枚の紙と、名刺のような小さな紙を取り出す。
「こちらは契約内容をまとめた書類になります。どうぞゆっくりと熟考ください。そして...こちらの小さな厚紙は今現在私が拠点としているアビドス自治区のゲマトリアのオフィスになります。契約を受理する場合は御手数ですがそちらまでお越しください。」
「ふざけるなっ!!何を考えてるか知らないけど、私はそんな契約乗らないっ!!」
「クックック...それならそれで次なる時期を待ちます。ですが...数日以内に、あなたの考えは大きく変わると思われますよ?」
「っ....ふざけたことを...!!」
言いたいことだけを言って、黒服は最初の時同様まるで闇に溶け込むようにして路地裏の奥へと消えていった。
ふざけた黒服の言葉回しにイラつきながらも私はライセに今回の件がバレないようにその契約書を懐にしまい、その場を後にする。
...最後に言った、数日以内に考えが変わるってのがなんなのか。
その1箇所だけに少し疑問を抱えながら私は相棒のまつ家に向かって歩く。
今日は疲れたから、美味しいのが沢山用意されてるのを期待しよう...