ボロ盾は、暁を夢見る   作:海波 犬夜

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おそらく最後の日常回です。
...あ、アビドス編でって意味ですよ。
日常回は今後もあります。


第12話:2人の日常

 

黒服との密会を終え、私は早足で帰路を辿る。

 

ライセに隠し事がどうのと問い詰めたほんの数時間後に自分が話せないようなことをすることに少し罪悪感を抱えながら、遠目に自分の家を眺めると、自身の住む隣の部屋。

 

アビドス高校に入学してから連れ添っている大切な相棒の部屋には優しい灯りが点っていた。

 

その換気扇からはふわふわと白い煙が上がり、少し離れているのにここまでいい香りが漂ってくる。

 

先程までの不快感はどこへやら。

私はさらに歩く速度を上げ、相棒の部屋まで外階段を駆け上がる。

小気味よい金属音がカンカンと鳴り、1番上へ上がりきると同時にライセの部屋の扉がガチャリと開く。

 

「早かったな。もう少しでできるから、先にシャワー済ませてくれるか? ..あぁ、お前に部屋には入れなかったから俺の部屋の風呂でよけりゃもう沸かせたけど...」

 

困り顔で苦笑いを浮かべる相棒の顔がなんだかおかしくて、私は口元を綻ばせる。

ほんの少し前に喧嘩しかけたなんて忘れそうになるほど、いつも通りだ。

 

「うへへっ...じゃあ、先にお風呂貰っちゃおうかな〜♪でも、いいの?おじさんが先に入っちゃって。ライセでしょ?家主は」

「構わねぇよ。俺は飯の後に入るのが好きなんだ」

「うへ、じゃあお言葉に甘えるね〜♪部屋に着替え取りに行ってくる〜♪」

 

そう言ってライセの部屋を通り過ぎて自分の部屋を開けてすぐさま飛び込む。

普段ならすぐに疲れてベットに飛び込むところだが、今日はすぐさまクローゼットへ向かい着替えを取り出す。

 

「...あ、危な...下着は見えないように着替えに挟まなきゃね...//」

 

ついいつものノリで運ぼうとしてしまった。

普段ライセは私が着替えを運んだり、洗濯物を取り込んだりしてる時は視線を外してくれるからつい忘れそうになるが、ホントならちゃんと隠さないとなんだよね...。

 

しっかり寝巻きで下着を隠しながら私は部屋を後にする。

 

「うひぃ〜、さむさむ〜...!!」

 

外に出ると、先程よりも夜風が冷たく感じ少し震えながらライセの部屋の扉に手をかける。

ノブを回して扉を開くとふわっと暖かな空気と美味しそうなご飯の匂い、そして当然だがライセの香りが部屋から流れてくる。

 

安心する香りを温もりと安心感いっぱいに吸い込むと、私は感情をいっぱいに顔に出して...

 

「おっじゃましま〜すっ♪」

 

その言葉と共に、部屋に飛び込んだ。

 

 

***

 

 

「うへ〜....」

 

着替えを持ってライセの部屋に入ると、ライセは

 

『すまん、今手が離せないから先に入っちゃってくれ。出来たら呼ぶから、のんびり入ってていいぞ。...あ、寝るなよ。溺れんぞ』

 

と、料理から目を離さずに私に告げると再び料理に集中し始めたので私も

 

『りょ〜か〜い。んじゃあおじさんはのんびり入ってるね〜』

 

とあっさり承諾し、絶賛お風呂タイムである。

 

「...そういえば、のんびり入ってるけど...冷静になったら私、ライセの部屋でお風呂入ってるんだよね...」

 

ごくり

 

何故か、私は無意識に生唾を飲み込むと顔が暑く、心臓が早くなっていることを自覚する。

 

どうして、だろう。

 

普段はお風呂の外にライセが居たって何も感じないのに...。

どうして、今日...ライセの家のお風呂ってだけでこんなにドキドキしてるんだろう...?//

 

ぐったりとリラックスしていた体を丸めるように膝を折り、体育座りの様に自分の膝を抱え込みながらお湯に少し顔を沈める。

口から息を吐くと、ぶくぶくと水泡が私の目の前でポコポコと弾けていく。

 

まるで、私の高なっている心臓の音に呼応するように割れる水泡を見ていると、ふと水面に映る自分の真っ赤な顔と目が合う。

水面に映った自分の顔を見てさらに私の顔は赤くなっていくのを自覚する。

 

そうしていると、磨りガラス越しに人影が現れコンコンとノック音が響く。

 

「ホシノ」

「うひゃい!?///」

「す、すまん驚かせたか?飯できたから、報告に来たんだが...」

「あ、あぁ、ご飯ね!!///ご飯...///」

 

私の反応に困惑したんだろう。

磨りガラス越しにライセが首を傾げ、心配そうに私に声をかけてくる。

 

「...大丈夫か?逆上せてんなら早めに上がれよ?」

「だ、大丈夫大丈夫!!///ちょっと驚いて心臓バクバクしてるからおかしいだけだよ〜!!///」

「ならいいが...まぁ、逆上せてないならいいさ。まだのんびり浸かってていいから、好きなタイミングで上がってこいよ。待っとくから」

「う、うん...///」

 

何とか誤魔化し、優しい心配の言葉と共に待ってると言い残してライセは磨りガラスの向こうへ消えていった。

ガチャりと音がしたので、脱衣所からも出ていったのだろう。

 

「...う、へ...//焦ったぁ....///」

 

なんであんなに焦ったのか、どうして未だにこんなにドキドキするのかは分からない。

 

...分からないけど...本当に逆上せたみたいに、頭がぼーっとする。

...おじさん、おかしくなっちゃったのかな...///

 

 

***

 

 

「...っぶねぇ...」

 

同時刻。

脱衣所を後にした俺ことライセも、ホシノ同様に心臓を激しく跳ねさせていた。

 

「...くそ...うるせぇよ心臓っ...//」

 

バクバクと高鳴る心臓に手を当てて、壁に背を預ける。

どうしてこんなに心臓が高鳴るのか分からない。

 

何故か、今日は風呂に入るホシノのことを意識してしまう。

普段なら、磨りガラス越しにホシノが居たって何も感じないのに。

普段なら、あんなにホシノの着替えが気になったりしないのに...

 

...それに、なんで普段は呼ばない自分の部屋にホシノを呼んだんだろう。

 

...そうだ、あの時だ。

ホシノのあの悲しそうな、どこか遠くを見つめるようなあの瞳。

あれを見て、突然ホシノ"も"どこか遠くへ行っちまうと思って...

 

「...だからって、部屋に誘うなんて...///」

 

顔が、熱い。

どうしても、あの瞬間ホシノを手放したくなかった。

どうしようもなく、ホシノを縛り付けたくなった。

だから、普段は呼ばない部屋にまで呼んで、風呂まで用意して...

 

「...なにしてんだ俺...//これじゃまるで...//」

 

まるで、恋...してるみてぇじゃねぇか...//

 

幸せになる権利なんか、ない。

あの人の未来を奪ったお前だけが幸せになるのか?

ホシノの幸せを願うなら、諦めろ。

お前がそばに居る以上、あの子が幸せになることはない。

 

「っ....」

 

わかってる。

だから、黙ってくれ。

 

心の奥から湧き上がる熱と憎悪。

未来を望む自身への自己嫌悪。

渦巻く心を落ち着かせるのは、僅かに残るホシノの香り。

 

出来上がった料理に混じって、ホシノの香りが微かに俺を包んでくれる。

安心する、大切な相棒の香り。

 

...でも、今だけは。

...今だけは、どうしても嗅ぎたくなかった。

だってきっと、いまその香りに絆されてしまったら。

きっと、取り返しのつかないことをしてしまうと思ったから。

 

 

***

 

 

お風呂から終わると、ライセが用意してくれたのか整えられた夕飯がテーブルに並べられ、既にライセが席について私を待っていた。

 

「おかえり、夕飯準備して...」

「...?どうかしたの?」

 

笑顔で迎えてくれたかと思えば、私の姿を見てすぐにライセは少し困ったような顔に代わり、少し悩む素振りをすると

 

『よしっ』

 

と立ち上がり私を椅子に座らせる。

 

「う、うへ?どうしたの?」

「いいから。テレビでも見てろ。」

 

そういうとライセはテレビをつけて私を少しだけ放置して脱衣所へ歩いていく。

ほんの数秒で戻ってきたかと思えば、手にはドライヤーを抱えているのが横目だがはっきり見えた。

 

「...また乾かすのサボっただろ。ノノミに怒られんぞ?」

 

ドライヤーの温風で私の髪を乾かしながらそう優しく注意してくる相棒。

少しそんな状況にドキッとするが、構わず私は反論する。

 

「だ、だってぇ...お腹すいてたし、ライセが待ってるから早く出ないとって思っちゃって...」

「ふっ...おいおい、俺のせいかよ?...ま、たしかに飯を並べたのは俺だしな。悪かった。」

「ち、違...!!ライセのせいにしたい訳じゃっ...!!」

「わーってるって。ほら動くな。目に入っちゃうだろ?」

 

私が反論しようと振り返ろうとするとライセに肩を抑えられ、無理やり座り直させられる。

 

少しムッとなるが、ライセなりに私を思ってしてくれていることと思うと、なんだか心がポカポカして暖かくなっていくのを感じる。

 

この夜の僅かな時間。

この時間だけは、アビドスのことも、明日のことも、忘れられる。

不安も心配も恐怖もない。

あぁ、ずっと...続けばいいのに。

 

そんなことを考えていたからだろうか?

いつの間にか私は眠っていたようで、ライセの呼び声でゆっくりと意識を浮上させる。

 

「...起きたか?なんだ、疲れてるのか?」

「んぅ...ライセが穏やかに話しながら暖かくするから眠くなっちゃったんだよ〜...」

「はは、悪い悪い。少し寝たせいで寝起きだが...飯、食えるか?」

「...うん、食べるよ。せっかく作ってくれたからね」

 

わざわざ私の前に回って、屈んで座る私に目線を合わせるまでしてくれる相棒のご飯。

食べないなんて選択肢あるわけないのに、ライセはいつもこうして聞いてくれる。

 

嬉しいと同時に少しだけどれだけ私をわがままと思ってるんだ?と思う時もある。

...でも、どこまでも私を思ってくれる相棒の瞳が好きだから、あえて言わない。

 

うへへ、私を思ってくれるならそれくらいは察してもらわないとね〜。

...本当は、ご飯の時に秘密の話とかも共有しようと思ったけど...

...今日の雰囲気は、壊したくないな...

...明日、また機会を作ればいいよね...?

 

内心を隠しながら私は椅子を回転させてご飯に向き合う。

今日のメニューは...

 

「...好物ばっかり?」

「あ〜...まぁ、ほら。今日は色々大変だったしさ。少しは癒されるかと思ってよ。」

 

テーブルに並ぶ料理は、全て私の好きな料理で、

白身魚のフライに、鮭のホイル焼き。

生姜焼きに唐揚げといった魚や少し油っこい料理が多く並び、口の中をあっさりさせるためか、少しいつもより野菜の多く入ったお味噌汁まで用意されている。

 

「...こんなに沢山...大変だったでしょ?言ってくれればおじさんも手伝ったのに...」

「...俺が労いたくて作ったんだ。気にせず食ってくれると、俺も嬉しいんだが...ダメか?」

「っ...//うへっ、そんなこと言われたら気にするなんて言えないじゃん。...ありがとう、頂きますっ!!」

「おぅ。いっぱい食ってくれ」

 

勢い任せに茶碗と箸を持つと、素早く見えていたいちばん大きな唐揚げに箸を伸ばし思い切りかぶりつく。

私の拳ほどはありそうな大きな唐揚げ。

中にはたっぷり肉汁が入っており、外はサクッと中はふわっと、まさにお店の唐揚げのようで、手が込んでいることが一口でわかった。

 

「んふぅ〜....!!いやぁ、相変わらずおじさんの好みをわかってるねぇっ!!」

「そりゃこんだけ一緒にいればな。唐揚げ以外も食えよ?」

「食べる食べる!!好物ばっかりだもん、いくらでも食べれちゃうよ〜♪あむっ!!!」

 

唐揚げをそのままに、次は行儀悪くも白身魚のフライにかぶりつく。

これはタラだろうか?

フライなのに油でギトギトということなく、さっぱりしていて身はぷりぷり...髪を乾かしている間にいい感じに冷えてちょうどいい温度でこれも美味しい...!!

 

「ん〜っ...!!!」

「タレも自作したんだ。気にいるかわからんが、良ければどーぞ」

「んっ!!」

 

差し出されたタレに、私は迷うことなくフライを潜らせる。

二度付け禁止?ここは私とライセ専用の場所だからいいのです!!

 

サクッと言う音とともに再び口にフライを運ぶと、甘辛のタレがよく合いこれまた美味しい!!

 

「ん...甘辛なのにピリピリしないし美味しいっ!!」

「そりゃよかった。んじゃ次作る時もこいつは用意する様にするよ」

「うんっ!!」

 

返事をすると一気に白米と一緒に唐揚げとフライを同時に口へ運ぶ。

普通ならできない最高の贅沢っ...!!

禁断の好物の油ものを同時食べッ!!

口いっぱいに広がる鶏肉の油と白身魚がたまらない〜...!!

しかも、一緒に食べたご飯がそれぞれの味を包み込んで味が喧嘩するのを防いでるっ...!!美味いっ...!!

 

一旦口の中のものを飲み込むと、次に入る前に私は隣のお味噌汁に手をつける。

普段より具沢山のお味噌汁には葉物野菜やもやしなどが追加されて食べ応えも良さそうだ。

 

ずずっとお味噌汁を飲むと、味噌はいつも通り優しくあっさりで口の中の油を綺麗に洗い流していく。

ただそれだけでなく、たっぷりの葉物野菜のおかげでいつもよりも味が少しまろやかで今日の料理にピッタリだ。

 

「ぷはぁ...では、次は...!!」

「ホイル焼きか、生姜焼きか」

「ここはホイル焼きぃ!!」

 

アルミホイルを解いて中を見ると、綺麗な鮭がきのこや人参などの野菜と一緒に包まれている。

私はお箸で切り身をほぐして口に運ぶ。

 

「んっ...!!さっきの唐揚げやフライに比べたら味は薄いけど、こっちも美味しぃ〜っ...!!」

「んじゃ、俺はからしマヨと一緒に...んっ、味付けもバッチリだな。」

「うへ〜。そんな辛いのとよく食べれるねぇ...」

「甘口のホシノには辛いかもだが、俺はこれが好きなんだよ」

「うへっ、おじさんには分からない美学だね〜」

 

雑談しつつも私の目は狂わない。

次なる獲物に目を光らせ、会話が終わると同時に獲物へ箸を伸ばすっ!!

 

「はむっ...あちちっ!!」

「それは最後にできたから熱いぞ。フーフーしろ、フーフー」

「わ、わかってるよっ!!!...ふぅ〜...ふぅ〜...はむっ!!」

 

熱々の肉汁と癖になる濃い味付けがたまらないっ!!!

これは...ご飯が進む〜っ!!

 

「ふふ、で?どうだ味付けは」

「んぐっ...最高っ!!」

「ははっ!!そりゃ良かった。」

 

それからも私たちは話に花を咲かせながら次々料理を片付けていく。

あれだけあったのに、気づけばあっという間に無くなっていく。

 

あぁ、楽しいなぁ。

 

明日も明後日も、こんな日々が続けばいい。

ずっと、こんな日が...

 

 

***

 

 

「うへっ...もう食べられないよぉ...」

「...自分の部屋で寝ろって言ったろ...仕方ねぇなぁ..」

 

その日、ライセはホシノにベットを貸し与え自分は床で寝たという。

 





いつもこの作品を読んでいただきありがとうございます。
下記はお知らせですので、良ければ読んでいただけると幸いです。

完全にストックも尽き、私生活も数日忙しくなるため、次回の投稿は1週間後となります。

こちらでは皆様の閲覧状況や読了率などを確認できるのですが、見るたびに増えていく読者様や、各話の読了率が80%を超えていることに、日々ニマニマしております。

これは完全に私事ですが、感想や誤字報告など、とても嬉しく、励みになっています。
あ、批判的なご意見やご指摘もですよ。
自分にない発想や、展開の一部に少々取り込んだりなど助かってます。
何より、コメントをいただけるだけでも大きな励みになりますので頭空っぽにして書いてくれるとこちらが勝手に喜びます。

ちょうど1週間空く箸休めの期間ですので、ご意見やご感想、今後の展開についての考察などがございましたら、ぜひお気軽にお寄せください。
(なお、今後の展開の大筋を変更する気はまったくありませんので、考察も遠慮なくどうぞ!)

あとがきが長くなりましたが、今後とも何卒よろしくお願いいたします。
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