第1話になります。
プロローグやあらすじでは明かさなかった主人公くんの名前を開示します。
楽しんでいただけたら幸いです。
アビドス自治区。
それは、数十年前までは他の学園を圧倒するほどの広大な敷地面積、財政、生徒数を保有するこの学園都市キヴォトスでも最上位の学園...だった。
その昔、アビドス自治区郊外に存在する巨大な砂漠、
アビドス砂漠から発生した規格外の砂嵐。
幾度となく続くそれは、気がつけばかつてのアビドス自治区の半分を砂の中へ飲み込み、現在では砂と廃墟の方が多い荒れ果てた学園と成り果てた。
しかし、今でもその学園は昨日をなんとか維持しており、授業も部活もまともになく、インフラすらギリギリの現在も"6人"の生徒がアビドス高校にて委員会活動を行っている。
その委員会活動の名前は、アビドス廃校対策委員会
「超法規的機関?」
「はい。なんでも、連邦生徒会の直属組織でありながらどの自治区にも赴くことが認可されている特殊な組織だとか...」
アビドス高校、廃校対策委員会部室。
その中では、6人の生徒が定例会議を行っていた。
この学校唯一の男子生徒...3年生、黄泉之ライセは、司会進行を進める1年生、奥空アヤネの話に出てきた連邦生徒会直属の組織、連邦捜査部シャーレについて問いかけていた。
「...連邦生徒会長が行方不明になって、まともに連邦生徒会が動けないから、緊急措置...って感じか。先生って大人を入れる当たり、連邦生徒会もなりふり構ってられないんだろうな。」
「でも、そんなの許しちゃっていいの!?もしその先生って人が悪い大人だったらどうなるか...!!」
ライセがそう呟くと、隣から大きな声で反論の声が上が
る。
アヤネと同じ1年生、黒見セリカである。
どうやらこのシャーレについては不満があるらしい。
まぁ実際、どの学園の自治区にも出入り可能、機密性の高い学園の裏側まで調査可能となってはどのような大人かわからない以上危険であることは確かだと思う。
とは言っても、アビドスにはそんな価値ない。
砂と廃墟ばっかのここには資源もないし人もいない。
そんな場所を、いくら権限があるとはいえ財政を好きにいじれない存在が欲するとも思えない。
強いて心配することは権限を使ってアビドスの後輩たちや唯一の同級生を好き勝手されることだが...
...まぁ、さすがにそん時は俺が止めればいい。
なんて考えていると、大丈夫だと思いますよ。とセリカの隣から声が上がる。
2年生の十六夜ノノミがスマホを片手に、そう言葉を漏らすと画面を皆に見えるように机におき、中央へ移動させる。
「ほら、これ見てください♣︎」
それを真っ先に覗き込んだ2年生の砂狼シロコが画面に映った昨日の記事を読み上げる。
「ん...『連邦捜査部シャーレの先生、その場に居合わせた三大高校の生徒を引き連れ七囚人の一人【厄災の狐】を退かせる』...凄いね。その場に居合わせた人たちをまとめあげるなんて」
「少なくとも、指揮能力はあるって事だな」
「でも、人となりは分からないじゃない!!私はこの目で見るまで信じないわよ!!」
各々が自分の考えを話すと、セリカのセリフに反応するようにアヤネが待ってましたと懐から何かを取り出し、机に置いた。
「ならセリカちゃん、ちょうど良かったね。実は連邦捜査部にアビドスの現状についての手紙を2日ほど前に送ったんです。」
そう言いながら机に置かれた手紙の中間部分を指で指し示すとそこには調査をしに行く旨と、現在アビドスに不足している銃弾や物資も一緒に運んでいくとの内容が記されていた。
「というわけで、数日後には先生が来てくれることになってますので、もう少しの辛抱です!!」
その手紙を見て、俺は違和感を覚えた。
それは"いつ"アビドスに向かうのかが書かれていなかったからだ。
アビドスは、とてつもなく広い。
住宅街だと言うのにやたら広く、道が複雑で街中で遭難...なんて、馬鹿みたいな話もよく聞くくらいだ。
だから、俺の疑問は当然だった。
「...それ、こっちに来る日は書かれてないがどう来るんだ?...まさかと思うが、もう来てて遭難中なんて事無いよな」
「まさか。アビドスが広大で慣れていない人は遭難する人が多いなんて常識ですし、連邦生徒会が伝えてないとも思えません。もし来るにしても私たち対策委員会に連絡が入ると思いますし...」
「うへ〜...もぅ、ライセ落ち着きなよ〜。さすがに心配しすぎだって〜。」
アヤネが否定すると、対面に座り、静かに寝息を立てていた桃髪の少女が起き上がり俺の言葉を否定する。
3年生、小鳥遊ホシノ。
俺の唯一の同級生で、アビドス廃校対策委員会の委員長。
そんな彼女はおっとりした声で俺の発言を否定し、大きく欠伸をするとまた机に突っ伏し始める。
まぁ、今朝のパトロールも日の出まで続いたからな。
疲れてんだろ。
とはいえ、さすがに今回ばかりは乗っかってやることもできない。
なんと言っても、今回はいつもとテイストが違う。
もし先生に何かあればアビドス側の問題にされかねない。
そのため、俺は自分の意見をホシノに伝えることにした。
「そうは言ってもな...もし遭難してなんかあったら俺らの責任問題になりかねないんだぞ?」
そんなことを言うと、机に突っ伏したままう〜...っと唸り、気だるそうに頭を上げ
「そんなに心配なら、今日は予定通り学校の清掃をして明日連邦生徒会に連絡して見ればいいでしょ〜?ほら、万事解決〜。ってわけで、おじさんはもう少し眠るから掃除が終わったら起こしてねぇ〜....」
「って、サボる気満々じゃねぇか」
ホシノが流れるように眠ろうとすると、アヤネが素早く会議を閉廷し、セリカがホシノの後ろに周り彼女の脇腹に腕を回し、無理やり起こす。
「ほらホシノ先輩っ!!掃除始めるから起きるっ!!」
「うへぇ〜、おじさんはもう歳なんだよ。勘弁してよセリカちゃあん!!」
「1つしか歳変わんないでしょうがっ!!」
抱き上げられた猫のように脱力したホシノをセリカが抱き上げそのまま別室の清掃に連れていかれたのを笑いながらノノミが追いかける。
そんな3人を見ながら、俺はため息を着いて...
「あれじゃどっちが先輩かわかんねぇな...」
「ん、ホシノ先輩は小柄で可愛いしね」
「俺から見りゃ全員小柄だがな。」
俺とシロコが軽口を叩きながら椅子から立ち上がると、アヤネがホウキや雑巾を持ってきてくれたためそれを受け取る。
「ほらお二人とも。テキパキやっていきますよ!!ホシノ先輩の見張りはあの二人に任せてますから、こっちは先生が来るまでに仮住まいにしてもらう部屋を掃除しなくては!!」
そうして、俺たちは清掃を始め
対策委員会の部室、廊下、空き教室に先生に使ってもらう職員室(仮)などに溜まっていた埃や砂を掃き出して行った。
まぁ、その間にホシノ達は揉めてた(ホシノがごねてセリカに叱られてただけ)様だが、こうして俺たち対策委員会の1日が終わった。
気がつけば空には赤みがかった雲が浮かび、青い空は茜色に燃えている。
そんな中を俺とホシノはのんびり歩いていく。
ここだけ聞けば青春真っ盛りな高校生の異性が並んで下校するいい感じの光景だが...
「うへ〜...今日のセリカちゃんの説教は効いたよぉ...」
「そりゃお疲れさんだな。んで、なんで俺はお前をおぶってんだ?」
これじゃ、青春ってより妹を担いで苦労してる兄貴って感じだな。
「まぁまぁ、細かいことは気にしないで。いいじゃん相棒。おじさん見たいな距離感の子、なかなか居ないよ?男の子からしたら嬉しいでしょ〜」
「細かくはねぇがそ〜かもな。と言っても、流石の俺も朝までパトロールしてなかったら今すぐ振り落とすところだがな」
軽口を叩きながら道を歩くと、ホシノは1つ大きなため息を吐き、いつもより真剣な声色で、俺に問いかけてくる。
「ライセは、どう思う?」
「...先生のことか?」
俺が問いかけると、肩口で大きく頷き俺の首筋に顔を埋める。
よく臭くねぇな。今日動いてたから汗臭いと思うんだが
「...大人なんだよ?...私は、信用出来ない」
不安げな、どこか縋るように俺の首に回す腕が少し強ばりながら俺に言葉を続けるホシノは、いつもののんびりした彼女とはうってかわり、少しだけ昔の雰囲気を纏っていた。
「...そうだな。俺も信用はできるか怪しいと思ってる。...でもまぁ、心配すんなよ。なんかあったらすぐに俺が何とかするさ。お前はいつも通りでいい。」
「んぅ...」
ホシノを安心させるようにできるだけゆっくりと話すと、強ばっていた腕は緩み、俺の背にまた体重を預け呼吸を緩やかにしていく。
まぁ、家まではまだ15分くらいある。
寝た時はゆっくり寝かせてやろう。
どうせ、今日もパトロールはあるんだしな。
***
「ほれホシノ、家だぞ」
合鍵を使い、自身の住むマンションの隣室の扉を開けると、見慣れたホシノの部屋が姿を表し玄関で立ち止まり背中で寝息を立てるホシノに声をかける。
「うへ...もう家〜...んむぅ...ライセ、運んで...」
「あのなぁ...」
振り落としてもいいが、後で何か言われんのも面倒だしな。
しゃーなしで俺は靴を脱ぎ、部屋に上がるとホシノの自室のベットにホシノを下ろす。
「ほれ、ついたぞ。さっさと飯と風呂済ませろよ」
「そんなぁ〜...ご飯作ってぇ〜...」
「...はぁ...ったく、ちったぁ遠慮しろ」
そんな文句をいいながらもキッチンに立って食事を作り始めるあたり、俺もこんな生活に慣れてしまったというのを感じる。
実際、別に悪かねぇしな。
「...米と味噌汁、それに余ってたカット野菜のサラダと...生姜焼きでいいか」
俺が慣れた手つきで食事を準備していると、ホシノの部屋の方からガザゴソと布の擦れるような音が聞こえてから何着かの着替えを抱え、脱衣所の方にフラフラと消えて行った。
...あいつの中に、俺が男だって自覚は果たしてあるんだろうか...
カチカチと時計の秒針の音と、数部屋隣の風呂場から聞こえるシャワーの水音。
そして、自身のキッチンでの物音をbgmに料理を完成させ盛りつけを行う。
そして、料理をテーブルに並べ終わると測ったかのようにホシノが風呂から出てくる。
「おっ、ちょうどいいタイミングだったね」
「毎度毎度、よくベストタイミングで出てくるな」
「狙ってはいないんだよ〜?」
軽口を叩きながら頭にタオルを巻き、ホシノは席につく。
「...んじゃ、俺は部屋に戻るぞ」
「え、どうせだしライセも食べて行きなよ。作って貰ってそのまま帰らせるのも申し訳ないしさ」
そういい、ホシノは椅子に座りながら左手を顔の高さまで上げておいでおいでと小さくてを振る。
「...んじゃ、お言葉に甘えさせてもらうかな」
「うへへ、そう言ってちゃんと2人分作ってるんだからライセも大概だよね〜」
「朝飯分だったんだが、俺の腹に消えるからお前の朝飯は抜きだな」
「うへっ!?」
そんな軽口を叩きながら、同じ机で向かい合うようにして食事をする。
しばらくの間、無言でお互いに食べ進めるがこんな空気も嫌いじゃない。
そうしてしばらくするとホシノがまた話題を降ってくる。
今日は味付けがいつもと違うだの、料理の腕上がっただの...
...そんなホシノの話に相槌を打ちながら、あまり味の感じない食事を喉に流し込んでいった。
「んじゃ、帰るわ。...それと、やっぱ今日のパトロールは辞めとけ。倒れんぞ」
「うへ〜...」
「不満気でもダメだかんな。...明日また行こう。んじゃ、おやすみ」
「わかったよぉ...おやすみぃ」
不満気な顔をして、ホシノは部屋の中に消えていった。
玄関に鍵のかかる音が聞こえたのを確認してから、俺は自室に戻る。
明日はまたパトロールだ。
少しは俺も体を休めねぇとな...
そんなことを考えながら。
ご感想いただけましたらモチベーションになります。
ついでに作者が狂喜乱舞します。
ここまで読んでいただきありがとうございました。