「おはよーさん。っと...」
「あ、ライセ先輩おはようございます☆」
「おはようございますライセ先輩!!」
「おう、ノノミもアヤネも早ぇな。」
朝。
いつも通りホシノを叩き起して登校すると既に部室にはアヤネとノノミが来ており、俺は「うへ〜...まだ眠いよぉ...」と欠伸をするホシノをソファに寝かせると2人に向き直る。
「毎日毎日朝早くから来てるが、2人はバスと電車登校だったろ。んな早く来なくたっていいんだぜ?のんびり来いよ、そこで寝てるホシノみてぇに」
親指で後ろの眠るホシノを指さすと、2人は穏やかに笑いながらそうですね...と少し考え、言葉を返してくる。
「ふふ、ご心配ありがとうございます☆でも、朝の涼しい時間にのんびり来るのが好きなんです☆」
「私も、バスの時刻に合わせてるだけなので...」
2人の反応を聞いて少し安心するが、ここはアビドスだからな。交通の便もそこまでよろしくねぇし、無理に来て疲れが溜まっても心配だ。
特にこのふたりは頑張り屋だからな。
...なんて思ったが、俺が考えるより後輩たちはずっと自己管理できてんな。
「そうか?ま、そう言うなら構わねぇけどよ。...んで、話は変わるがセリカの方はどうだった?」
俺が問いかけると、アヤネは少し目を伏せながら頭を横に振る。
「ダメですね。セリカちゃんは先生を認めないとの一点張りで...」
「変なところで頑固だな...」
「時間が解決するのを待つしかありませんね...あとは先生に期待しましょう☆」
「...ま、それがいいかもな。」
軽く雑談ついでに話題を変えセリカのことを聞くも、2人の反応はそこまで芳しくない。
実際、俺が昨日個人的に送ったモモトークも反応はそこまでよろしくなく、あれだけ大口を叩いたにも関わらず成果という成果は見込めなかった。
だからこそ、今日はせめて少しくらいはセリカが先生に心を開けるように頑張って橋渡ししてやらねぇとな...
なんて、考えているときだった。
「おはよ〜...」
「おぅ、おはよーさん。...どした先生。随分暗いな。寝れなかったか?」
昨日はアビドス校舎で寝泊まりしてた先生が登校...と言うのもおかしいが、登校してきたようで部室に顔を出したかと思えば、昨日の屋上で見た時よりも数段暗くなっている表情に思わず声をかける。
「いやぁ...ライセに頼りっぱなしもまずいかと思って何とかモモトークで会話しようと試みたんだけど...」
そういうと、俺にセリカとのモモトークの画面を見せてくる。
そこには、十数分置きくらいに先生からメッセージが送られてる画面が写っており...
最後の方に
『ピコピコしつこいわよ!!寝れないでしょ!!』
...と、ブチ切れメッセージが1件だけ表示されているなんとも寂しいチャットになっていた。
「...完全に既読無視ですね」
「こりゃ取り付く島もねぇな...ってか先生!!昨日あれほど言ったろ!!これ以上下手なことすんなって!!あんまり拒否られると俺らでも橋渡しできなくなるじゃねぇか!!」
「だ、だって私としてはあまり生徒に頼りっぱなしっていうのもかっこ悪いでしょ!?だから自分で何とかしようと...」
俺が昨日の屋上での会話を蒸し返すと、先生はわなわなとしながらも持論を展開してくる。
いや、それでマイナスをさらにマイナスにしてちゃ世話ねぇだろ...
「はぁ...あのなぁ、こういうのは適材適所ってもんがあるんだよ。無理なもんは無理なんだから、諦めて俺らが何とかするまで下手な手打つな!!」
「うぅ...はい...」
「ふぁ〜...うるさいなぁ...おちおちお昼寝もできないよぉ〜....」
俺が先生に少し声を上げていると、ホシノが文句を言いつつソファから起き上がる。
「悪ぃ起こしたか」
「起こしたよ〜。も〜、おじさん年でいっぱい寝ないと体力持たないんだから、寝てる時くらいは横でお説教始めないでよ〜」
「...たしかに朝っぱらから説教もあれか。んじゃ、今日のところはこの辺で勘弁しといてやるよ」
ホシノの一言で説教を辞めると、タイミングよくガラリと対策委員会室の扉が開き見慣れた銀髪が目に入る
「おはよう。...どうしたの?」
「おう、おはようシロコ。ちょっと先生を説教しててな。」
「朝から説教...先生、何したの?」
「あはは...いや、少しね...」
興味津々と言った様子のシロコに先生が説明すると、さすがのシロコも呆れたように
「そりゃライセ先輩でも怒る。あまり独断専行は褒められない」
と、シロコからも苦言を呈されていた。
「そんなわけで、あんまりセリカを追っかけるな。あいつだって放課後は色々あるんだろ。」
「...そういえば、最近セリカ帰るの早いしモモトークの返信も遅いけど放課後何してるんだろう」
「そういえば、最近セリカちゃんずっと忙しそうですね...アヤネちゃん、何か知ってますか?」
「いえ...でも、最近は一緒に帰ることも減りました」
「おいおい、セリカにもプライベートくらいあるだろ。女子高生なんだし、彼氏とかでもできたんじゃ―――」
「「「彼氏ぃ!?!?」」」
「うぉっ...!?」
俺が3人を宥めようと口を開くとアヤネ、ノノミ、ホシノがそれぞれ大声で反応を返してくる。
対象的にシロコは静かだ。
「ま、まさかセリカちゃんに彼氏...!?」
「あ、ありえません!!それなら、なんでそういう雰囲気がないんですか!?」
「うへ〜...セリカちゃんが大人に...いや、おじさんは許さないよ!!ちゃんと彼氏くんを紹介してもらってセリカちゃんに相応しい子か確認しなきゃ!!」
「親かお前は...」
「ん...セリカのことだし、結婚詐欺とかかも...助けないと」
「もうちょっとセリカを信用してあげてもいいんじゃないかなシロコ...!?」
思い思いに言葉を発すると、女子メンツは俺と先生の制止の声も耳に入らないようでお互い顔を合わせ頷くと...
「今日の放課後、セリカの後をつける」
「それしかありませんね!!☆」
「うへへ〜。これは重大ミッションだね〜」
「はい!!絶対成功させましょう!!」
...なんて、作戦会議を始めた。
「...止めなくていいの?」
「...あぁなったら止めらんねぇよ。俺はあれにゃ参加もできねぇし...ま、先生が折を見て止めてくれ」
「...あの、私としてもいくらなんでも女子生徒をつけるのはちょっと...」
「昨日やったんだろ?1回も2回も同じだって。じゃ、俺はまだやることがあるからあと頼むぜ」
なんていって厄介事から逃げようと扉に手をかける。
ガラッ!!
「おはよー...ってあいたっ!!!」
「うおっ...と...」
扉を開けりタイミングが偶然重なり、セリカと俺は正面衝突。
咄嗟に抱き寄せ倒れなかったが、なかなかに気まずい体制になってしまった。
「すまんセリカ、前を見てなかった。怪我ないか?」
「...だ、大丈夫だから早く離して....//」
「おっと...すまん。不快だったならビンタでも食らうぞ」
「支えられたくらいでそんな事しないわよ!!//ちょっといきなりでびっくりしただけ!!//」
「...悪ぃな。今度なんかで詫びるよ」
顔を赤くしながらいいってば!!と言葉をかえし、セリカが室内に入ろうと向き直るとビクリと肩を震わせ1歩停止する。
その後何事も無かったかのように入っていったが、何かと思い振り向くと
じー...っと擬音でもつきそうな目でホシノ含め全員が俺を見ていた。
不可抗力だ、そんなつもりじゃない。そんな目で見るな
俺がそう訂正を入れようと口を開きかけるも、その口から言葉が発せられることはなかった。
「うへへ...ライセ、後でおじさんとちょ〜っとお話しようか♪...逃げようとするからバチが当たるんだよ?(小声)」
「...俺を巻き込むな。世間体が終わる」
「アビドス唯一の男子生徒って時点でもう世間体は終わってるから遅いよ〜」
「...解せぬ」
そうして、何も知らないセリカを置いて今日は粛々と過ぎ去って言った。
ちなみに、その後空き教室に呼び出されてホシノに散々1人だけ逃げるな、後輩を支えるにしても抱き締める以外あるだろと絞られた。
いくらなんでも理不尽だ....とは、口が裂けても言えなかった。
***
『ターゲット、柴関ラーメンに入ったよ』
そうして放課後。
俺たちは渋々...いや、結構ノリノリでセリカのあとを付けていた。
最初は抵抗があったが、案外やってみるとスパイっぽくて楽しいもんだ。
常日頃から...とは行かないが、たまに気配を消す訓練がてら後輩たちに身内で追跡させたりするのも面白いかもしれない。
そんな訓練内容を考えながら、俺たちは追跡役だったホシノと合流する。
「柴関ラーメン...セリカちゃん、最近よく来るんでしょうか?」
「ん〜...どうだろうね〜...」
「まぁ、ラーメンに通いつめてるならちょっと隠したい気持ちも分からなくないけどな。自分だけが知ってる店ってなんか心躍るもんがあるしな」
「体裁的に言えないってパターンもあると思いますけどね☆」
「...それにしても、遅い。そろそろ入って1時間経つのに、まだ食べてるのかな」
シロコがそう言って時計を見ると、たしかに長針は気づけば1周と6分ほど進んでおり、いくらなんでも時間がかかりすぎている。
「食べすぎて動けなくなったとかじゃないか?」
「うへへ、外食あるある〜」
「なんだか、外で待ってると匂いで私もお腹すいてきたよ」
「先生もですか?実は私もです...♣︎」
「おじさんもお腹空いた〜」
「...追跡はこの辺にして、俺らも入って食わねぇか?中にセリカがいたら同席させて貰おうぜ」
「「「「賛成〜(です)」」」」
そうして俺達は物陰から出て、暖簾をくぐる。
「いらっしゃいま〜...げっ!?」
「...こりゃ予想外だな」
暖簾をくぐり店の中に入ると、元気な店員さんが声をかけ、人数を聞いてくれる...と、思い店員さん...もとい、制服を着こなす見慣れた後輩と目を合わせる。
「な、なんでみんながここに...!?//」
「ちょっと飯でもと思ってな。...だが、意外なもんが見れたな」
「うへ〜、セリカちゃんって制服でバイト先決めるタイプ〜?」
「セリカちゃん可愛いです〜♪」
「ん、似合ってる」
俺達が入口で少し騒いでいると、部屋の奥からもふもふとしたいい毛並みの人(?)が顔を覗かせ、おぉ!!と声をあげる。
「せりかちゃんのお友達かい?よぉくきてくれたな!!セリカちゃんから、よく話は聞いてるよ!!好きなもん注文してくれ!!腕によりをかけて作るぜぃ!!」
柴関ラーメンの大将はそう朗らかに笑うと、再び奥へ引っ込んでしまう。
...引っ込むと言っても、カウンターにはいるんだが...まぁいいだろ。
俺らが大将との会話(一方的なものだが)を終えると、セリカは覚悟を決めたのか少し硬い笑顔を作りながら俺たちを席に案内してくれた。
「悪いなセリカ。出来るだけ早く出てくようにすっからよ」
「そうしてくれると私としてもすっっっごく助かるわ。それで、ご注文は?」
「「「醤油味噌塩チャーシュー柴関(ラーメン)」」」
「いっぺんに言わないでよ!!!」
「ほらほら、先生も遠慮せず沢山頼んじゃって〜。」
セリカがワタワタと注文を取る傍ら、ホシノにそう声をかけられ先生もこの店の看板メニューである柴関ラーメンを注文する。
...その時にセリカに睨まれてたが、まぁ昨日の行動を見ればその程度で済んでるだけで良い方だろう。
「はむ...んっ...美味いな。俺は初めて来たけど、こんな美味い店がアビドスにあったのか」
「ライセ先輩、初めて来たの?」
「普段は自炊だし、借金返済で自分に使う金は最低限だったからな。それに、こっち方面はあまり来なかったからよ」
「なら、この機会に知れて良かったじゃないですか!!♪」
「...定期的に俺も来ようかな」
「うへ〜、ライセがまんまるになっちゃったらさすがのおじさんでもびっくりしちゃうなぁ〜」
「んな食わねぇよ!!」
「うへっ」
馬鹿なことを言うホシノの頭にチョップを入れ、俺はラーメンの味を楽しむ。
その間先生は何か柴大将と話していたが、目の前のラーメンに魅了された俺の耳にはあまり届かなかった。
***
「んじゃ、また明日な」
「じゃあねセリカちゃん」
「また明日ね〜」
「お仕事頑張ってくださいね〜♡」
「ん、また明日」
食事を終えた俺たちが店の外に出るとすっかり辺りは茜色に染まっており、もう時期太陽も沈みそうな空の下、俺達は並んで帰り道を歩く。
道中1人、また1人と減っていき、残すは俺とホシノだけとなった。
「うへ〜、美味しかったね〜ラーメン」
「またそれかよ。店出てからずっと言ってるな。」
「うへへ、だって美味しかったんだもん」
「はは、後輩の可愛い仕事姿見れたから、もあるだろ」
「うへ、バレちゃった〜?いやぁ、セリカちゃん可愛かったね〜。おじさん嬉しくって嬉しくって〜」
「そりゃよかったな。でもま、俺もセリカが危ねぇことしてる訳じゃなくて安心したよ」
「ライセも大概親バカだね〜」
「親になった覚えはねぇよ。」
「うへへ。...また行こうね。みんなで」
「金はねぇからそのうちな」