「ゲヘナの生徒に会った?アビドスでか?」
「うん、柴関ラーメンでね〜。」
次の日、学校でいつも通り対策会議を行って終わらせ雑談していると、ふとホシノが昨日出会った4人組のゲヘナの生徒の話を教えてくれた。
ゲヘナからわざわざアビドスまでか...相当グルメなやつらなのか?
「ゲヘナからわざわざ来るなんて、相当ラーメンが好きなのかな?」
「いえ、なんでも皆さん会社を経営されているそうで、そのお仕事の都合らしいです」
「とっても仲良くなれたんですよ〜☆」
「大将のラーメンに感激してたわよね!!ふふん、特盛にしてあげたかいがあるわ!!」
「そりゃよかったな。にしても、アビドスで仕事なんて一体なんの...」
俺と同じ考えになったらしい先生が顔を綻ばせラーメン好きなのかと予想すると、アヤネから訂正が入った後にノノミ、セリカと嬉しそうに会話を弾ませる。
後輩たちが楽しそうにしてるのはいい事だが、ゲヘナは生徒の会社立ち上げなんかも許可してんのか?
そんなことを考えていた時だった。
ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!
突然、アヤネの警戒網に何かが引っかかり部屋にけたたましいサイレンの音が響き渡った。
「校舎南方にて、監視カメラが武装集団の進軍を感知しました!!」
「...まさか、またヘルメット団か?」
「いえどうやら違うみたいです。これは...民間の傭兵のようです!!」
「...民間の傭兵?なんでまた...」
「分かりません...っ!!これは!!」
民間の傭兵に狙われる理由はないはずなんだが...と思い少し考えながら戦闘準備を整えているとアヤネの方から声が上がる。
思わず振り向くと、アヤネはタブレットをこちらに見せてくる。
画面にはおそらく制服を着た4人組と傭兵が少し写っており、俺はこいつらが親玉かと思っていたのだが、ホシノたちは違ったらしい。
「この人達は...昨日のゲヘナの...」
ノノミが声を漏らし、その声を俺の耳は自然と受け入れる。
そして、ノノミの発言から推測するとそこまで焦る必要はないのでは?と思い、俺は上げていた銃を下ろすとみんなに声をかける。
「...全員落ち着け、少し焦りすぎだ。昨日あったばかりとはいえ、知り合いなんだろ?なら、いくら民間の傭兵を連れているとはいえ襲撃に来たってのは早合点すぎる。一旦様子を見よう。」
俺の発言に皆の動きが一瞬止まり、先生も少し思案するように手を顎に当て数秒目を閉じゆっくりと口を開く。
「ん〜...たしかに、仕事に行く途中にアビドス高校があったから顔だけ出しにきた...って可能性はあるね。」
「たしかにそうかもしれませんが...」
「...だとしても、それなら傭兵まで連れてくるのはおかしいんじゃない?」
先生の発言に、まだ攻撃してきてない4人組を疑っていることに少し罪悪感があるのか、アヤネが言葉を濁らせるが、セリカが的確に違和感を指摘する。
実際、わざわざ傭兵を連れてくる理由はないし、この状況じゃ襲撃と受け取られても仕方ない。
だから、せめて誤解だった時のための布石をしておく。
「...セリカの言うことも正しい。実際、この状況じゃ的に見られてもおかしくないからな。だから、武装はちゃんとしていく。ただし、攻撃は俺の合図まで待ってくれ。誤解で銃撃戦なんて勘弁だからな」
俺がそう告げると、みんなは首を立てに振る。
よし、これなら万が一にも誤解からの戦闘により友情崩壊...なんてことにはならないだろ。
「うへ、じゃあ武装を整えてあの子たちを迎えに行こうか」
***
「そこの集団!!」
武装を整えた俺たちはアビドス校舎を後にし、校舎南方に屯していた集団の前方を遮るように立ち、彼女たちに話しかける。
すると、4人組の中でいちばん背の低い赤いドレス?のような服を着た女子生徒が声をあげる。
「アビドスの子達じゃ〜ん。昨日ぶり〜。私達に、何か用かな?♪」
「...それはこっちのセリフだ。この先にはアビドス高校しかないぞ。そんな傭兵引き連れて、何の用だ」
「貴方は初めましてだね、見てわかんないかな?襲撃ってやつだよ」
「...初めましての挨拶にしちゃ、随分物騒だな」
俺と女子生徒が嫌味あっていると、横からセリカが我慢できなくなったのか声をあげ始めてしまう。
「あんた達!!ラーメン特盛にしてあげたのに...この恩知らず!!」
「うっ...!!そ、それについては感謝してるわ!!」
「でも、仕事は仕事...依頼料も払ってもらった以上、公私はきっちりしないとね」
「す、すみませんすみません...!!アル様のために死んでください...!!」
「...交渉は決裂、だな。全員、戦闘用意!!」
相手の引く気の無さそうな構えに、俺は全員に声をかけると向こうも同時にこちらに銃口を向けてくる。
俺は昨日整備したてのアーマーの調子を確かめ、左腕にショットガンを握りしめる。
ザァッと乾いた風が吹き、砂塵を巻き上げ相手の姿が一瞬見えなくなったと同時に俺は地を蹴り相手へ距離を一気に詰める。
「は、早っ!?」
「アル様には近づけさせませんっ!!」
アルと呼ばれた便利屋のリーダーはギリギリ回避を選んでいたが、アルの横に控えていた紫髪は逆に被弾覚悟で俺の構えたショットガンを弾くように前に出る。
「チッ...いい覚悟だ」
「死んでください!!死んでください!!」
「んな簡単に死んでたまるかっ...!!」
弾かれたショットガンをあえて手放し後方に大きく飛び退き降ってきたショットガンをキャッチすると、その懐に飛び込むように紫髪が俺に散弾を放ちながら前線を押し上げてくる。
俺は銃口からある程度弾の弾道を予測し反対側へ退避したり、右腕のアーマーを使いたまを逸らしながら合間を見て紫髪に散弾を浴びせる。
「ぐっ...!!」
「チッ...タフなヤローだな...!!」
それでも、倒れない。
既にヘルメット団のSG持ちなら倒れるレベルの弾丸を浴びせているというのに、紫髪は衰える所か今なお前進してきている。
相性が悪すぎる。
お互いの決定打になり得る火力がない以上、こっちは泥沼。
どれだけ早く決着が着いたとしても、おそらくこちらの決着が着くより全体の決着の方が早いだろう。
そう考えた俺は思考を巡らせると、ホシノ達に目を向ける。
ホシノが前線を張り、後ろからシロコ、ノノミ、セリカが弾幕を貼る。
ほとんどの傭兵はホシノに止められ、抜け切る連中もシロコとセリカに止められ、便利屋達はノノミの掃射で動けていない。
この状況なら、ノノミの掃射が止まったタイミングで詰め切られなければ負けはないだろう。
そう考えた俺は、目の前の紫髪に意識を戻し、戦闘に集中する。
あまりしたくはないが、残りの連中はホシノ達に任せる他ない。
だが、そうなった時この紫髪があっちの前線に合流されると突破力が上がっちまう。だから...
「...テメェはこっから逃がさねぇし通さねぇ」
「....っ!!!」
***
そうして、数時間。
俺達の戦闘は泥沼化し、お互いに引かず攻めずの延長線を続けていたのだが...
キーンコーンカーンコーン
「...5時だ」
「終わった〜!!」
「帰りになにか食べて帰ろ〜」
5時の鐘がなると同時に、傭兵たちがさっさと撤退を開始した。
便利屋のリーダー...社長は引き止めていたが、人件費をケチってたらしく見捨てられていた。
「うへ〜。傭兵はお金でしか動かないからね〜」
「こりゃ形勢逆転だな。まだ続けんのか?」
「〜っ...!!お、覚えていなさい!!今回はこの辺で勘弁してやるけど、次はこうはいかないから!!」
「あはは!!アルちゃんそれじゃ完全に負けた三下じゃん!!」
「うるさい!!逃げるわよ!!」
さっさと撤退した便利屋を見送り、俺たちも学校へ戻る。
「うへぇ〜...さすがに疲れたね〜...」
「だな。お疲れさん。今日は遅いし、みんな頑張ったから俺が飯奢るよ。なんでも好きなの言ってくれ。食えなさそうなのは今作るから」
俺がそういうと、みんなは瞳を輝かせ思い思いに食べたいもの....とう言うか、食べたい系?を言っていく。
「いいの!?じゃあ私はさっぱり系!!」
「あ、セリカちゃんずるい!!私もさっぱり系で!!」
「ん...私はガッツリ食べられるものがいい」
「私もさっぱり系がいいです〜♪」
「うへ〜。おじさんはお腹すいたし、ガッツリ食べたいなぁ〜」
「んじゃ、あっさり系とガッツリ系を作るよ。ちょっと待っててくれ」
あっさりとガッツリ...簡単に作れるところならラーメンだが、最近芝関にみんなよく行くからな...ここは別のものがいいかな。
そんなことを考えながら俺はみんなを対策委員会室で待っててもらうように伝え、一人調理室へ足を進める。
そうして、数日おきに中を買い換えたりしてる第2のキッチンと化した調理室の冷蔵庫の中身を確認し、大きく頷くと料理を決める。
「海鮮丼と...魚と野菜がそれなりにあるし、揚げ物の定食かな。」
...ま、定食なんて作ったことねぇけど...
それなりの作ったら大目に見てくれねぇかな?
***
陸八魔アルは迷っていた。
アビドス高校の襲撃。
それが、今回便利屋68にもたらされた以来だった。
わずか6名しか在校生のいない廃校寸前の砂に飲まれかけた学校。
何故そんな学校を欲しがるのかは疑問だったが、現在仕事もなく金銭に困窮している彼女たちにこの簡単な依頼を断る理由はなかった。
...なのに
「...はぁ...」
ため息が出る。
せっかく見つけた美味しいお店で、偶然であった気の合う5人組。
話も弾み、数時間共に語り合いながらラーメンを食べたあの時間はとても楽しかった。
依頼を達成し、便利屋みんなでご飯を食べに行く時とはまた違った楽しさがあった。
...便利屋68は、キヴォトスで1番自由な学校であるゲヘナ学園でさえ、指名手配として扱われる。
ゲヘナでそんな扱いされている学生には、当然友人など多くはない。
その為、ろくな友人は便利屋の3名のみ...
それ故に、アルにとってあの出会いはとても楽しく、そして嬉しいものだった。
だからこそ、彼女たちを裏切るような形で襲撃したのが苦しかった。
「社長、まだ引きずってるの?」
「..カヨコ...別に...引きづって無いわ。ただ依頼を達成出来なかったのが悔しいのよ」
そんなアルのため息を聞いて、白髪に黒のツートンカラーの髪がよく似合い、切れ長の瞳が美しい女の子...鬼方カヨコが声をかける。
「嘘。アビドスを襲撃した帰り道からずっとそんな調子だよ。」
「...」
図星だった。
実際、あのツインテールの子に言われた恩知らずという言葉がずっとアルの胸の中で燻ってこの先を考えさせようとしない。
...依頼は絶対だ。
公私は分けないといけないし、私情で依頼を選んでいたら便利屋なんて事業で生きていけるわけない。
...それでも、心優しいアルは彼女たちの裏切られたような目でこちらを見るあの目が忘れられなかった。
「...今回の依頼、私たちだけで片付けようか?」
そんなアルの心情を知ってか知らずか。
カヨコは年長者として、思い悩むアルにそう声をかけた。
それは、甘い誘惑だった。
...しかし
「...バカ言わないで。社長として、社員にそんな重荷を背負わせたりしないわ」
「じゃあ、どうするの?依頼を達成するか、諦めて手を引いてゼロから始めるか...」
「そ、それは...」
アルの覚悟を聞いたカヨコは、それ以上甘い事を言わない。
ならばと、覚悟を試すようにアルにこの依頼に着いてどうするのかを問いかける。
...だが、まだ逃げてもいいと、諦めたって構わないと逃げ道も用意してくれている。
そこにはたしかに、アルへの彼女からの優しさがあった。
...だが、アルがカヨコに返答することはなかった。
ジリリリーン!!ジリリリーン!!
アルが口を開こうとした時、備え付けていた黒電話が激しく呼出音を響かせる。
アルがカヨコに目配せすると、カヨコは目を伏せ電話に出るように促す。
それを見て、アルは黒電話に手を伸ばし、受話器を取る。
ガチャリ
「はい。便利屋68、社長の陸八魔です」
経営者らしくはっきりと自分の名前と肩書きを口にする。
最初こそいつも通りだった...が
「はい...はい...えぇ!?あ、いえなんでも...はい...わかりました...」
ガチャリ
アルの声は次第に萎れていき、電話を切るとはぁ...とため息をつく始末。あまりの落ち込み具合に、カヨコも思わず声をかける
「...どうしたの?」
「...1週間以内にもう一度アビドスに襲撃をかけろって...」
あまりに暗い回答に、カヨコも声をかけずらくいると彼女の後方から務めて明るく、声がかかる。
「くふふ〜♪でも、お金はぜ〜んぶ使っちゃったんでしょ?どうするの?アルちゃん♪」
「わ、私がひとりで爆破してきますか...?!」
白髪にサイドテールを可愛く括るドレス風の服を着こなすメスガ...少女、浅黄ムツキ。
そして紫のショートボブでアワアワとしている態度であるにも関わらず発言が過激な少女、伊草ハルカ。
彼女達が現れると、アルは頭をブンブンとふってバッ!!と大袈裟に椅子から立ち上がる。
そして天井を指さす。
「こうなったら、融資を受けるわ!!必ずこの依頼は達成するわよ!!」
「さ、さすがですアル様...!!」
目を輝かせ、アルを崇めるハルカと対照的にやりたくないという感情と見栄を張ってしまった後悔の板挟みの中、アルは心の中で声をあげる。
『どうしてこうなるのよ〜!!!』