「うへ〜 ...まだ眠いよ〜...登校時間が無くなったんだし、もっとのんびり寝ようよぉ〜...」
「ダメだ。いつも通りに起きないと体調崩すぞ」
「うへ〜....」
便利屋襲来から1日。
帰宅が遅くなった俺たちは帰宅を諦め、空き教室と対策委員会室に男女で別れてお泊まり会となっていた。
「ほらホシノ先輩顔拭くわよ!!」
「髪も整えますね〜♪」
「ん、着替え用意終わった」
「うへ〜、これじゃあ介護だよ〜!!」
後輩たちにもみくちゃにされながら朝の準備をしているホシノは、まるで介護施設のおばあちゃんのように全く身動きを取らせて貰えずに朝の支度を済ませていく。
...え、男のお前がそこで見てていいのかって?
いやいや、流石に見てねぇぞ?
同じ部屋の中にいるので会話自体は聞こえるが、反対方向を見てるからホシノの裸やら着替えは見えてない。
いくら相棒とはいえ、そこは異性。
お互いにそんな意識はないとは言え、配慮はしている。
なんて考えていると、あっという間に着替えを終えホシノは這う這うの体で俺の方によってくる。
「うぅ...身ぐるみ剥がされるなんて、おじさんもうお嫁に行けないよ〜...」
「心配しなくても、お前は見てくれいいから貰い手はごまんといるよ。」
「...うへ、セクハラ」
「褒めてもかよ。世間の目は厳しいな」
昨今は言葉狩りまで行われてるのか。
アビドスしか知らねぇ俺には縁のない話だが、おっそろしい世の中だ。
そんな雑談をしていると、扉の方からコンコンとノック音が響き、俺たちの視線は扉に集まる。
「みんなおはよう。着替えなんかは終わったかな?」
「ん、全員終わった。開けても大丈夫」
「俺も振り向いて問題ないか?」
「大丈夫ですよ〜☆」
そう許可を貰い振り返ると、いつもの後輩たちの姿がそこにある。
...んや、普段シロコ以外は登校中に砂に塗れたりするから普段よりも綺麗まであるか?
これをそのまま口に出せば、絶対に何か言われるので言わねぇがな。
「わぁ、みんな普段は昼頃に見るから朝身支度を済ませたばかりのみんなはいつもよりずっと綺麗だね!」
「ちょ、先生...!!」
なんて俺が考えて発言を控えていたのに、先生はそのまま口にしやがった。
先生の口を急いで塞ぎ、ぎぎぎ...とでも音がなりそうなくらいゆっくり後ろを振り向くと、そこには笑顔の後輩たちwithホシノがいた。
「うへ〜、先生〜。それは流石におじさんでも傷つくなぁ。」
「それじゃまるで普段は綺麗じゃないって聞こえるけど...?」
「ん...私、これでも学校ついてからシャワーしてるんだけど...」
「先生、お仕置の時間ですよ〜?☆」
影の刺す笑顔になったノノミ、シロコ、セリカの3人に先生が詰められているが、俺は我関せずを貫く。
当然だ。怒られたくないしな。
...だが、俺は随分と優秀な後輩を持ってしまったらしい。
「ライセ先輩、すぐに先生の口を塞いだってことは先輩も少しくらいは同じこと考えてたってことですか...?」
「な...!?」
そう、俺は可愛い後輩の一言により、我関せずの態度を一瞬緩めてつい顔を引き攣らせてしまったのだ。
たかが一瞬。されど一瞬である。
その一瞬は俺の相棒...暁のホルスにはあまりに長すぎた。
「うへ、相棒もそこに正座ね?」
「ちょ、待て!!俺はそんなこと考えてな――」
「――正座、ね?」
「...はい」
...言い訳なんてできなかった。
だって、あいつの目すっごい怖かったんだもん...
クソ...優秀な後輩を持ったのは嬉しいけど今だけは虚しい...!!!
そして、俺と先生の説教は2時間にも及んだ。解せぬ。
***
そうして説教が終わり、俺と先生が震える足で立ち上がるといつものように定例会議が開催される。
「今日は真面目な会議だってのに...なんで朝から説教なんだ...」
「今日だけじゃなくていつも真面目にやって欲しいんですけど...」
「うへ、相棒が悪いよね〜。ほら、いつまでも震えてないでシャキッとしなよ〜」
「ひぎっ!?」
今だ痺れビリビリとする太ももにホシノは容赦なく平手を叩き込み、俺は普段感じないなんとも言えない痺れと痛み、そしてくすぐったさに思わず短い悲鳴をあげる。
「...面白い」
「あらあらシロコちゃん、ホシノ先輩と同じ事しちゃいくらなんでもライセ先輩が可愛そうですよ☆先生のお膝で我慢しましょうね〜」
「えっ...」
少し後方から先生の絶叫が聞こえた気がしたが、俺にそんなものに反応する余裕があるはずはなく、ひたすらつんつんされる太ももの感覚に耐える他なかった。
「皆さん、ライセ先輩と先生へのいたずらは後にしてください。今回の会議の内容はこちらです」
「ん...?アヤネちゃんなにこれ」
何とかアヤネの一言で開放された俺と先生を置いてきぼりにし、アヤネが机の上に置いた筒状の金属を見てセリカが首を傾げる。
「これは先日ヘルメット団が使用していた弾薬です。...ただ」
「...こいつは、キヴォトスじゃ違法扱いのシロモンだ。簡単に言や、違法薬物みてぇな通常の商売ルートじゃ手に入らないもんだ」
「...なんでそんなものをヘルメット団が...?」
アヤネの説明に俺が付け足すと、セリカが首を傾げ、頭を抱える。
アビドスは辺境の地だ。
物資不足は日常茶飯事、人口も現象を続け、砂嵐は一向に弱まらない。
砂と借金に埋もれた自治区だ。
だと言うのに、そんな自治区の廃墟を根城としてる不良集団が裏ルートでしか取引されていない武器を手に入れるなんて、おかしな話だ。
仮にルートを把握しているとして、その物資を手に入れれるだけの金銭や物々交換の物資だって不足しているはずだ。
なのに、どうやって手に入れたのか。
...そんなの、ひとつしか有り得ない。
「...アビドス高校を邪魔に思っている存在が裏から金銭、もしくは物資支援をしている...って訳ことかな。」
俺が声に出す前に、ホシノがボソッと呟くが、珍しく静かに進んでいた会議に、その声はあまりに十分な声量だった。
「...おそらく、そうかと...」
「アビドスは自治区の意地で手一杯なせいで、ブラックマーケットの範囲も年々拡大してる。いくらでも接触の機会はあるだろうな」
「そんな...!!」
「じゃあ、どうするの?このまま襲撃が続いたら、いくら先生がいても物資が尽きて押し切られるだけ。」
ノノミが言葉を失う隣で、シロコは打って出ようと言うような目でこちらに指示を仰いでくる。
...とはいえ、こんな状況でできること何てひとつしかない。
「んなもん、方法なんて1つしかねぇだろ。ここに決定的な証拠があるんだ。...ブラックマーケットで洗い出す。ルートさえ見つけりゃ、あとは芋ずる式だ。」
「ま、待ってライセ。ブラックマーケットって...私のいた世界では裏市場みたいな場所で、違法スレスレや激物何かが広く普及してる特定の場所って認識だけど...そこに行くの?」
俺が宣言すると、先生が待ったをかけるように手を挙げ、俺に意見してくる。
...同時に質問が複数あるのは気になるが、先生は銃弾一発で死ぬ可能性もあるんだ。
キヴォトスの外にもブラックマーケットに近しいものがあったみたいだし、この質問は当然だろう。
そう思った俺は、少し考え込んで質問内容と回答を頭の中でまとめてから答えを話す。
「...一度にいくつも質問しないでくれ。順番に質問答えるが...まず、先生のブラックマーケットへの認識だが、認識としては合ってるよ。ブラックマーケットはそういう所だ。...とはいえ、そっちの認識ほど危ない場所...って感じではないがな。不良生徒やんで、今からそこに行くってのも合ってる。こいつの入手場所を洗い出して、取引の証拠を見つけりゃバックにいる存在が見えるからな。...で、質問は終わりか?」
「...どうして、ライセはそんなにブラックマーケットに詳しいんだい?」
...嫌な質問してくるな。
「アビドスにはもう2年弱居るからな。嫌でも情報は入ってくるってだけだ」
「...そっか。ライセがブラックマーケットに入り浸ってるわけじゃないんだね?」
「あんな危ねぇ所長いしねぇよ」
「...おかしいね。私は"情報が入ってくる"って聞いたのに、ライセは"入り浸らない"って言うんだね?」
「......」
失敗した。
そう思った時にはもう遅く、みなの視線は俺の方に向いていた。
「...ライセ先輩、ブラックマーケットに行ったことがあるの?」
「...今はいいだろそんなこと。誰も行かねぇなら俺が一人で行く。...10分以内に決めろよ。俺は準備してくる」
「」
そして、問い詰めるような視線とともにシロコが質問を投げてくる。
続くようにセリカ、アヤネ、ノノミも畳み掛けてくるが、今その話をするつもりはない。
これ以上の問い詰めを嫌った俺は強引に話題を切り替えさせ、引き止める声を無視して部屋をあとにした。
「...クソッタレ」
***
それから話し合った私たちは、アヤネちゃんを除いた全員でブラックマーケットへ訪れていた。
「ここがブラックマーケット...」
「あまり離れるなよ。それと、他人と目を合わせるな。」
「...詳しいねライセ。おじさんも知らない間に、どれだけ来てたの?」
「...数回程度だ。今はいいだろその話は。」
ホシノが覗き込むように俺と目を合わせてくるのを手で制し、俺は周辺警戒を続ける。
辺りには何やら大きなカバンを背負う獣人、ガラの悪い不良生徒に、銃を装備したオートマタ。
周囲にはゴミも散乱しており、アビドスとは違った治安の悪さが見て伺える。
連邦生徒会長が失踪してまだ僅かしか経っていないが、そのうちにキヴォトス全体の犯罪率は2000%も増加したという。
それに伴いブラックマーケットもかつてより規模を拡大したとは聞いていたが、俺が前に来た時よりも確かに治安が悪化してるみたいだ。
「シロコ、その店はダメだ。」
「...どうして?普通の雑貨屋に見えるけど...」
「こんな場所の雑貨屋なんかろくなもんじゃない。裏に引きずり込まれて人身売買されたいか?」
「...やめとく」
「あぁ、その方が賢明だ」
ブラックマーケットは、他の自治区数箇所分と同等程の面積があると言われていたが...
「セリカ、ノノミ。そっちの店のもんは買うな」
「え、どうして?」
「普通のクッキーですよ...?」
「...薬入りだろ?おっさん」
「おや、そっちの生徒さんは目ざといね」
「あぁ、まぁな。うちの後輩をあんまりいじめんな」
「ひっひっひ...気をつけな嬢ちゃんたち」
「...離れんなって言ったろ。行くぞ」
「「は、はい...」」
こりゃ、さらに拡大しててもおかしくねぇな...
「...相棒、やっぱりここに来たの数回程度じゃ――」
「――ん?」
「――ライセ先輩、なにあれ」
「どれだ?」
「あそこ」
そんなことを考えながらも警戒しながらブラックマーケット内を進んでいくと、不意にシロコとセリカが立ち止まり、俺たちの少し前方を指さす。
そこには、白を基調とした制服に、羽のようなものが着いたリュックを背負った生徒が不良生徒数名に追いかけられている光景が広がっていた。
「待てコラ!!」
「お、追ってこないでください〜!!!」
不良生徒はパッと見3人。
対して追われている生徒はひとり。
それを見た瞬間、俺の体は瞬間的に動いていた。
地を蹴り、人並みを避け、追われる生徒の後方に身を踊らせると、後方からシロコたちの「大丈夫?」との声が聞こえた為、前方のみに集中する。
「なんだてめぇら!!そこをどけ!!あたしらはそっちのトリニティ生に用があるんだ!!」
「わ、私はないんですけど....」
「...だ、そうだが?」
「うっせぇ!!そいつはキヴォトス1の金持ち学校の生徒なんだ。そいつを攫って身代金をたんまり貰えりゃ、あたしらはもっと上にいける!!...なんなら、お前らもどうだ?あたしらに手を貸すなら、分け前を少しくらい――」
「――必要ない。」
長ゼリフにうんざりしていた俺の前に素早く割り込み、相手の顎を的確に蹴り上げながらシロコが彼女たちへの返答を返す。
蹴りを食らった不良生徒は脳を揺らされ、地に伏せる。
綺麗な回し蹴りに感心していると、仲間の不良生徒がやられたために残りのふたりが喚き始める。
だが、それはあまりに遅い。
既にシロコのカバーに動いていたノノミの掃射によりノックダウンさせられ、一瞬にして決着が着いた。
「...さて、ちょっと話を聞かせてもらうぞ。トリニティの生徒さん」
「は、はい...!!」
こうして俺たちは、ブラックマーケットの外れにてトリニティ総合学園の2年生、阿慈谷ヒフミさんと出会うこととなった。
これが数奇な巡り合わせだったと知るのは、まだもう少しだけ先のお話である。