魔王が封印されていた地を観光していた転生者、復活した魔王だと勘違いされて崇められる 作:城之内
世界が生み出した最悪の犯罪者達がいる。
遥か古代、神と英雄達の手で魔王が封印された。
神は魔王との戦いで生き絶え、英雄達に後を託した。
魔王の身体から吹き出た血は空に溜まり、雨になって降り注いだ。結果、この世界に魔力が満ちて、それによって魔法使いと魔物が誕生した。
魔法は飛躍的に研究が進み、文明は発展を遂げた。魔力を膨大に宿す者程、寿命は伸びて不老になった。
英雄達亡き後、魔法使いがそれ以外を支配する国が乱立した。
その結果は良い事ばかりではない。魔法は世のためにも使われたが、犯罪にも使われた。
魔法による犯罪率の増加は歯止めがかからなくなっていく。
やがていくつもの国が滅びた。
魔法使いの好奇心は、それ以外を容易く犠牲にする。
この世界は悲劇に満ち溢れている。
悲劇の元凶はいつだって魔法使いだ。
魔法使いが何故生まれたか。神と英雄が魔王を封印したせいだ。
この世界は間違っている。魔王に支配されていた方が、世界は幸せだったのだ。
そんなイカれた思想に到達した六名の大犯罪者達、彼らを【
「……ま、魔王様、ですか……?」
「……ん?」
メンバーの一人である神官服を着た翡翠色の頭髪を持つ青年、ジェスター・メロウスは仮面の内側で流す事はできない涙を心の中で流した。
彼の問いに、聖樹の封印を破り棺の上に立つ人影が返事をした。
今、魔王はうん、と頷いてくれたのだ。やはり彼こそ魔王。
高濃度の魔力の霧で素顔は把握できないが、声は意外と若い。
他の【世界柩】の面々も膝をついた。
皆この場所を突き止めるために苦労した。
深海に沈んだ、かつて魔王の支配地だった魔界の一部。
神と共に魔王を封印した英雄の一族はとある国の王族として今も血を繋いでいる。
その一族を突き止め、娘を誘拐し、子を案じる親の心理を利用して取り引きを持ちかけた。魔王封印の場所を教えろと。
情報を引き出した彼らは前人未到の地に辿り着いた。
黒紫の禍々しい魔力の霧が充満した神殿の深部に。
その六名が頑強な聖樹の封印を破ろうと攻撃した直後、轟音と共に棺が壊れた。
その上に立つ人影こそ魔王だ。神を殺した最強の悪魔が目の前に。
「……魔王様……ご復活心よりお待ちしておりました。我らは【
「……
小声で何か聞こえたが、小さすぎて良く聞き取れない。
いや、長い復活から目が覚めたばかりだ。魔王であろうと困惑しているのだろう。
棺から漏れ出していた魔力の霧が徐々に晴れていく。
粉々の棺の上に立つのはマントを羽織った少年だった。
髪は銀髪で、右目を包帯で隠している。
残った左目は金色に輝き、酷く美しい。
容姿は整っている。身長は平均より小さめで、年齢は少年と言ってもいい見た目だ。
魔王には全然見えないが、壊れた棺の上に立っているのだ。
この地に自分達以外が辿り着けるわけないので、魔王しかありえない。
「嬉しい……やっと会えた。早く世界、滅ぼそ? 魔王様」
魔王様にメンバーの一人が抱きついた。
眠そうなトロンとした瞳が特徴の可愛らしい少女だ。
背中側が大きく開いたワンピースを着ており、肌が病的に真っ白い。頭から触角が二本生え、背から昆虫のような透明な羽が二対ある。
細い身体とは裏腹に、主張が強い胸部が魔王の腕に押し当てられ、形を変える。
「ベル……魔王様に無礼でござる。今すぐ離れた方が良いでござる」
その少女を着流しを着た青年が注意した。髪を一つ結びにしており、肌が浅黒いイケメンだ。
彼の名はレイメイ。かつて剣聖と謳われた東の島国一の伝説の剣豪だが、祖国が滅んだ事件を機に今ここにいる。
「……魔王様、同胞のご無礼をお許しください。もし気が済まないのであれば、どうぞ私を痛めつけ下さい。ほら、耳でも削げば気分がいくらか晴れます」
ジュスターは躊躇いなく自分の耳を引きちぎった。だらだらと血が流れる様を見て、魔王は盛大に頬を引き攣らせる。
「いや、何をやってッ……こほん。えー、我は何も不快に思ってはいない。新たなる配下達よ」
魔王は指で澱みなくお手本のような魔法式を描いた。
「〈
膝をつくジェスターの耳元に魔王は魔法陣を翳した。
呪文を呟いた瞬間、魔法陣から綺麗な雫がポタポタと落ち、血が流れる部位が光に包まれた。
それからはあっという間に彼の耳を再生した。
「悪魔は生命系統の書印魔法を使えないはず……」
魔王の御技に、マフィアのボスのような風格を持つスーツを着た大男、オーガスタンが静かに戦慄した。
左眼を縦に斬り裂かれた傷跡がある隻眼の人物で、身長が二メートルを優に超えている。
「おお! これ程の奇跡が私の身に注がれようとは……‼︎ 悪魔であろうと、魔王様に不可能はないのですね! 流石は魔の王であらせられます!」
興奮に目があったら白目を剥いている事だろう。
ジェスターは身体を痙攣させ、喜びに震えている。
他の五名も冷や汗を掻きながら、魔王に対して恐れと興奮、半々の感情を乗せた視線を向けていた。
何故か魔王も額から発汗しており、体調が悪そうだった。
「もしや魔王様、気分が優れないのかしら?」
夜を凝縮したような黒髪の美女が小首を傾げた。
目の下に隈があり、肌も青白くて不健康そうだ。
とんがり帽子を被り、胸元と背中が大きく露出したドレスを着ており、抜群のスタイルを惜しげもなく晒している。まさに妖艶な魔女といった風貌の彼女の名はララノア。
かつて一夜にして国を滅ぼした滅国の魔女である。
「ほっほ、魔王様と言えど長年の封印は堪えたんじゃろう」
最後の一人は、老婆のような口調ながら見た目は幼女にしか見えない不思議な人物だ。
肌は褐色で、顔立ちはとても愛らしいがどこか老練さを感じる。
ブカブカのローブを着ており、両目は赤と青のオッドアイ。
アリーシャ・グロウベルグと聞けば、人々はこう答える。
世界最高齢の魔法使いだと。
「み、認めるのは癪だが、長き封印が我の力を削いだのは事実。我は少し力を蓄える」
その六名の大犯罪者達を順に睥睨した魔王はマントをばさりと翻した。
その背に向かって、ジュスターが声を張り上げる。
「お待ちくださいッ、魔王様! 我々との連絡手段をご用意しております! もし私がご必要であれば、遠慮なくこちらの指輪に魔力をお通し下さいッ」
ジュスターから恭しく渡された指輪を握りしめた魔王が大きく頷く。
「我は少し眠る。力を取り戻した後に連絡するとしよう。ではしばしの別れだ、新たなる配下達よ」
その言葉に、六名は再び臣下の礼をとる。頭を下げた彼らは見なくて正解だった。
魔王と呼ばれた少年が思いっきり頭を抱えながらその場から掻き消えた姿を。