魔王が封印されていた地を観光していた転生者、復活した魔王だと勘違いされて崇められる 作:城之内
宙に魔法陣を描かなくてはいけない書印魔法とは違って、予め魔法陣を刻印している刻印魔法はノータイムで発動できるのが利点だ。
履いているブーツに刻印してある魔法、
退路の為にリーシャの近くに用意した魔法陣に転移した僕は、魔物を殺戮し終えた彼女と合流し、再度
海に漂う木製の立派な船(僕が魔法で具現化したもの)の上に到着した。
ただ点と点が離れれば離れる程、魔力の消費量が莫大になる。
だから乱発はできない。
それでも、あのイカれた犯罪者達から距離がとれて幾分か安堵した。
メイドのリーシャに、聖樹神殿で見たことを全て話し、言い訳をぐだぐだと続ける。
「……やばいよ、リーシャ。観光客じゃなかったよ。テロリスト集団だったよ。魔王じゃないってバレたら殺されると思って魔王の振りしちゃったよ」
船の甲板に描かれた
起き上がる気力はしばらくは湧いてこないだろう。
「……やはりウィル様は少々頭の出来が残念なようです。秘境中の秘境、存在すら知らない者が大半の【聖樹神殿】に、人間がいる時点で引き返すべきでした。というか観光客なわけがないでしょう。私がついていないとウィル様はまともな判断力がなくなりますね、この冒険バカ」
懇々と無表情のまま正論を述べるリーシャに反論の言葉はない。
僕は楽しすぎた冒険に舞い上がっていた己を自省した。
【
彼ら彼女らの悪名は世界中に轟いている。
そんな激ヤバの面々に適当に指示を待てと、偉そうに宣言して抜けてきたが大丈夫だろうか。
僕の正体がただの観光客だと知られたら絶対に殺される。
だからこそ咄嗟に一人称を我に変えて、魔王っぽく振舞ったが上手くいった自信はない。
魔王の演技を頼りに付き合いを続けるのはリスクが高すぎる。
ジェスターと呼ばれた仮面の神官の奇行に、思わず悪魔が使えない生命系統の書印魔法を使ってしまったのはヤバかった。
あれは不可能を可能にする魔王故の力と解釈され、流石は魔王様と持て囃されたが、そう何度も取り繕えない。
「――こうなった以上、実家に帰ろうかな。しばらく旅は控えるしかない」
「……それがよろしいかと」
「ごめんね。僕としても帰りたくないんだけどさ」
僕の故郷、セイルロード王国は中央大陸に燦然と輝く東の大国である。
そこから南西に数千キロの海底に魔王封印の地、聖樹神殿はある。
その真上の海上。魔法で具現化した船が僕たちの現在地点だ。
普通、実家があるセイルロード王国に行くには何か月もかかるだろうが、魔法というものは不可能を可能にする。
この世界の魔法――書印魔法と刻印魔法はできない事はほぼないと言えるレベルで万能だ。ただ一つ一つの魔法に適性があり、誰もが全ての魔法を使えるわけではないが、僕は幸運な事に魔法の才に長けていた。
腰にあるポーチを開け、中から試験管を取り出してコルクの栓を抜く。
そして中にある紫の液体を僕は一気に飲み干した。
「……おえッ、
「無駄話はいいですから、魔力が回復したら一気にセイルロード王国まで跳んでください」
「分かってるよ」
僕がそっとリーシャの手を握ると、彼女の無表情が僅かに歪んだ。
嫌そうな表情をしているが、照れてもいるようだ。僅かに頬が赤い。
僕は彼女に気付かれないよう小さく口角を上げた。
「……じゃ、行くよ。<
自らの足元に刻印された魔法陣に魔力を流す。ここと繫げる地点は遥か遠い僕の故郷。
家出同然で飛び出してきた実家。
セイルロード王国の辺境都市マギアスターである。