side:一之瀬帆波
私にとって木透明という生徒は、私にない視点を持った頼れる生徒だった。
過去の罪を清算するために高育で「良い」行いをすることばかりが頭にあった私の目には、クラスポイントの仕組みやクラス間の競争の可能性を考える木透くんは私には奇妙な生徒に映った。
だけど星之宮先生からの答え合わせにより全てが木透くんの言った通りだと分かって、私は驚きとともに木透くんに期待し始めていた。
このクラスなら…木透くんも、神崎くんもいるこのクラスなら、何があってもみんなで乗り越えられる!
そう思っていた。
最初に木透くんの異常性に気づいたのはDクラスとの契約の件だった。
木透くんはポイントの仕組みが説明される前から1年生にポイントを貸していた。
大体どこからそこまでのポイントを手に入れたかもよくわからなかったけど、それよりもその契約の後に木透くんがした行動が問題だった。
木透くんは契約を使って自主退学を強制できるようにして、それを使ってDクラス全体を脅し、自分好みの契約を追加で押し付けようとした。
木透くんが提示した契約だと、Dクラスの生徒は今後3年間の学校生活でどうやってもプライベートポイントが使えなくなる、つまり最低限死なないだけの物資しかない生活を強いられるのだ。
確かに借金を返済できなかったDクラスの一部の生徒が悪いとは言え、関係のない生徒まで巻き込むその内容は私たちBクラスにとって信じられないものだった。
そこからだった気がする、クラスのみんなが木透くんを避け始めたのは。
次の異常は南雲先輩との件だ。
私はその頃には木透くんに対して不信感を抱いていたから、忠告を無視して人に自分の過去を話してしまった。
多分私は誰かに話して楽になりたかったんだろう。どこまで行っても私は善人じゃないことを思い知らされた。
それからある先輩に私の過去がバレて、利用され、Bクラスのみんなを人質に私が退学することを要求された。そこで私は初めて木透くんのやることはいつだってBクラスの利益につながっていることに気づいた。
借金だってBクラスの生徒には利子も契約もなしで貸していたし、木透くんの情報があったからBクラスはここまでAクラスに肉薄できているのだ。
だから、助けてほしくて脅されていることを相談しても木透くんは私の言葉を聞かなかった。
当たり前だよね…仲間の言葉も信じられない犯罪者の私なんかBクラスにいらないよね…
だから襲われたときには今までの罰を受ける時なんだと思った。
怖かった。怖かった。とっても怖かった。けどそれと同時にやっと罰を受けれると安心もした。
その時だった、私を襲う生徒がいきなり苦しみ始めたのは。
私が戸惑っていると南雲先輩が助けに…今となっては先輩自身が仕組んだそういう作戦だということが分かったけど…来てくれたが、彼もいきなり頭から鈍い音を出して倒れた。
よくわからずに逃げた後も私にできることはなかった。退学するかまた襲われるかBクラスのみんなが犠牲になるかの板挟みで私の精神は限界に達していたと思う。
そんなときに木透くんは助けに来てくれた。今までの南雲先輩の悪事の証拠を持って。
私はその時どんな顔をしていたのかわからないけど、心の奥底では木透くんに対して特別な感情を抱き始めていたと思う。
彼は結局私を助けてくれるんだ、そう思った。
全校裁判をするという話になった時、私は壇上に上がるのをためらっていた。私がやらなくても、誰かがやってくれると。それをやるのは私の役目じゃないと。
どこまでも他人任せな私に木透くんは言った。
「いいから答えろ。お前はどうしたい?」
…私は本当は怒っていた。襲われたときは自分の罪の意識からそれを受け入れていたけど、自分の罰は南雲先輩に決められるべきじゃない。
この怒りは、他人任せにしちゃいけない。
それに、私の他にもたくさんいる被害者のために、私は声を上げることにした。
裁判の時も、木透くんは私が心の奥で望んでいた言葉をくれた。
「一之瀬、南雲に対する罰は俺が決めていいものじゃない。被害者が、その中でも南雲に屈することなく声上げた一之瀬だからこそ言えることなんだ。自分がされた行為に向き合い、その恐怖に打ち勝ち、そして全校生徒の前で自分が被害を受けたという弱みを明かしたお前にだからできることなんだ。お前の一言が、お前の強さが、今までの被害者たちを救うんだ!」
その言葉は、私のことを本当の意味で救う言葉だった。
こんな私でも、誰かを救える。
だから私は答えたんだ。
「私…決めた。南雲さんにはこれまでの被害者全員に誠心誠意謝ってもらう。ポイントも全部没収して、今までやったこと全部、これから償わせる。絶対に逃げさせたりなんかしない!」
ありがとう木透くん。こんな私にも…できることがあると教えてくれ「というわけで堀北会長…我々は南雲に…被害者全員への土下座と、退学を要求します」…て……
何が起きたかわからなかった。
「全校生徒のお前ら!南雲を退学にしないなんて生ぬるい罰で満足するわけねえよなぁ!?」
彼の声が響く。
「全校生徒諸クゥゥゥン!!!お前らは大事な仲間がモノのように扱われ、この一人の男のせいで退学に追い込まれ、人生を狂わされったっていうのに、それを少し償われたからといって許すようなクソが付くほどのお人好しなのか!?違うだろォォォ!!!お前らはここで立ち上がらなければならない!ここで!この場所で!こいつの全ての尊厳を奪った上で退学させるのが正しい行いだアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
彼は何をやっているんだ?
「往生際が悪いぞクソボケェ!テメェは無様な姿を晒してればいいんだよ!ほら喚け!」
木透くんは誤解されがちだけど、いつだって私たちのために動いてくれる、心優しいクラスメイトだ。
「はははっ!見ろお前ら!これがお前らを虐げた男の末路だ!」
じゃあ、今の
そこからはよく覚えていない。
南雲先輩が謝罪しに来た。
私は生徒会に入った。
そして…
木透くんが、私と神崎くんにDクラスの生徒をいつでも奴隷にできると報告してきた。
彼は自分の成果を嬉しそうに報告してきた。
「これでBクラスみんなでの卒業に、一歩近づいたぞ!」
わからない…何もわからない…
赤点を取ったらすぐ退学、クラスごとに使えるポイントが違う。たしかに特殊な学校だけど、クラスみんなを退学させないために他のクラスを操る必要があるのか?ここまでしても笑顔で話す彼の心情はどうなってるのか?何もわからない。
Bクラスのみんなは多分もう大丈夫、幸か不幸か木透くんに気に入られているから。
私は、彼から他のクラスのみんなを守らなければいけないのではないか?
理解することはできないがおぞましいことだけは分かる彼の話を聞きながら、私は考えた。
side:綾小路清隆
オレにとって
クソみたいな施設から抜け出して、普通の青春を送りたかったオレは高育行きのバスで出会った明に、憧れを抱いていた。
オレと同じことなかれ主義、そしてザ・普通の振る舞い。
池や山内は多分高校生の中でも低俗な方なんだろうとは思っていたから、いつしかオレは明を手本にしていた。
だが明が普通の生徒ではないかもしれないと思い始めたのは割と最初の方だ。
あいつは自分が今からDクラスですることに手を出さないでくれと頼んできた。
その時の態度は明らかにオレに
なぜオレの態度を伺う必要がある?この学校でまだ何もしていない、実力のわからないはずのオレに?
最初はホワイトルームからの刺客かと思ったが、それにしては能力が低い。
いや、別に平均から見たら高い方なんだろうが、学力は別として身体能力や思考能力は平均的な高校生より少し上レベルだ。
考えてもわからなかったが、とりあえずオレは明の動向に注意を払うことにした。
しばらくして分かったがやはり明はホワイトルームからの刺客ではなさそうだった。
Dクラスに喧嘩を売ってきたが、特にオレに害があるものじゃなかった。
Dクラスの生徒たちにガバガバな契約を持ちかけてきたときには驚いた。まあその契約の問題点に気づかないクラスメイトにも驚いたが。
明はほとんどDクラスを掌握しかけていた。オレとしてはどうでも良かったが、それをよく思わなかった担任の茶柱がオレに何とかするように脅しをかけてきた。
コイツはオレの平穏な高校生活に邪魔だなと思ったが、とりあえずオレは明に敵対する旨を伝えに来た。
やはりまたあいつはオレにへりくだってきた。
ホワイトルームの刺客じゃないなら、普通の友人として関わりたい。だからどうしてここまでオレの下手に出るのか聞きたかったが、敵対を許されたのだからそれでいい。
明が許してくれるなら、Bクラスに移籍するのもいいだろう。見た感じ、今この学年で一番青春しているのはBクラスだからな。
明と敵対してDクラスを立て直すと言っても、今更オレにできることはなかった。
生徒会副会長の南雲というやつがポイントを持っているらしいから、使える人間なら借金を肩代わりしてもらおうと考えていたが明に潰された。
結局自主退学の契約をなんとかしなければならなかったから、クラス全員のプライベートポイントを永久没収という内容で落ち着いた。
流石にクラスポイントが永久に没収されたら詰みだからな。
しかしプライベートポイントの永久没収といっても明の許可があればポイントの所有が許可される。
Dクラスの生徒を自由に取り込めるようにした明の手段はやはり普通ではない。
オレがDクラスをAにするための一番の障害は明だろう。
いくら友人だからといっても、邪魔になるのならば消さなければならない…いや、この思想はあまり良いものではないのではないか?
…よくわからないが、対策を打つ必要はある。
「まあ、明への対抗策の前にまずあのDクラスを立て直す必要があるか…」
改善点が多すぎる。ため息が出るほど面倒だったが、オレは今後の展開について考えるのだった。
side:木透明
そうか…そうだったのか!!!
この俺の透明化、その能力の本質は
ならできる…俺ならあれができる!
「魅せてみろ!木透明!高みに来るんだ!俺の場所まで!」
顔に入れ墨の入った謎の男が俺に言う。
「うるせぇよ天才、今いいトコなんだよ」
手に持ったものや服を透明化する要領だ。その解釈を触れた先の空間まで伸ばす。
「”龍鱗””反発””番いの流星”」
限界を超えろ!さらに向こうへ!Plus Ultra!
「『解』世界を断つ斬撃!(見た目だけ)」
空気が揺れ、世界が途切れる。
「術式の拡張による世界を断ち切る斬撃、俺は今日呪術の真髄を見た。天晴だ木透明、生涯貴様を忘れることはないだろう」
「はい!師匠!ありがとうございました!」
己の師の背中を見送った俺は、自分の成長を噛みしめるのであった。
「いや…誰だったんだ、あれ?」
ということで、木透くんの好感度は無事終わっていました。
次回で嫌われに気づいて、その次辺りから無人島試験に入ろうかなと思っています。
木透くんの更生ももうすぐだから、待っててちょ。