またも5話で終わらす。主人公は生徒(女)で僕っ娘眼鏡です。
『「時」は偉大なる教師だ。しかし残念ながら、その生徒をすべて殺してしまう。』
「あ、エリちゃん」
「おはようございます!」
僕はワイルドハントの廊下で魔法使いの帽子がトレードマークの生徒に話しかける。
「ベルさん今日は調子どうですか?」
「まあ、ぼちぼちかな。気分は相変わらずだけど」
僕は眼鏡を上げて位置を直しながらそう言う。
気分は相変わらず最悪だけど、そうとは言わないようにしてそれは悟られないようにした。折角友人と話すのに気分が最悪なんて言うのは最低だね。僕が気分最悪なのはまあ、スランプ気味で僕は納得できるものが描けなくなってる状態だからなんだ。
「エリは絵の方はどう?」
「何度か描いていますが……やっぱりまだまだです」
「そっか……僕はちょっとまだスランプ気味かな」
「ベルさんもまだ描けないんですね……」
いいじゃないか、描けるだけ。そんな言葉が僕の中でよぎるけれど、それは言葉にはできなかった。僕がこれを言ってしまえば、言い方にもよるが友好関係にひびを入れかねないからまだ言葉を選んだまま何も言えずにいた。
「そうです!ベルさんに絵が描けるようにおまじないをかけましょう!」
そう言いながらエリはハリー◯ッター型の魔法の杖を僕の額に突き立てた。僕はこう言うのが毎度茶番だと思うけれど、その茶番もいざ付き合うと面白いもので、毎度真面目に付き合っていた。
「サルビオヘクシア!」
「…………サンキュー。効いた気がするよ」
あまり変わった感じはしなかったが、僕は単にエリがなんとかしようとしてくれた事に嬉しかった。だから僕は効いた気がするとぼやかして答えた。
「エリちゃんだー!」
「一緒に遊ぼ~」
「あ、ちょっと待ってくださいーーーー!!」
すると、エリは同じクラスの子に連れて行かれてしまった。まあ……僕は無愛想で時折酷い言葉を言ってしまうからそのほうがいいだろう。
僕はアトリエに戻ってまたキャンバスの前に座り、鉛筆を握る。鉛筆をキャンバスに突き立ててみるけれど、僕の中では何も像を結ばなかった。
昔の僕はもっと時間がなかった。寮監隊の一員として毎日忙殺される日々に、僕は何時しか耐えられなくなって寮監隊を辞めてしまった。辞めてから、僕は遊んでばかりだ。
そして辞めてから、何も描けなくなってしまった。
なんでなのかもよくわからないけれど、きっと苦しむことがなくなったからだ。ぼんやりと現状の楽しさに甘んじていればいいから、そこから何も激情が生じないからなのかもしれない。けれど僕はぼんやりとした焦燥しかなくそれをどうにかしようとも思えなかった。
やっぱり僕は描ける気がしなくて、筆を置いて遊んで放課後を過ごすことにした。
…………………………………………………………
次の日も僕はエリと廊下で会った。
「昨日は大変でした……」
「お疲れ様。魔力は残ってるかい?」
「はい!でもフル充填ではありません……」
あの後エリがどうなったかまでは知らなかったが、多分色々あったんだろう。にしても、エリは仲間に恵まれていていいね。僕とは違ってオカルト研究会の会長として沢山仲間がいるし、同じクラスの仲間からも積極的に話しかけられるほどにはいい子だ。
「そう言えばベルさんに渡そうと思うものがあるのですが……」
「渡したいもの?」
「はい。とある本に載っていた魔法の薬を作ってみたので試してもらうかなと。どうやら元気になる魔法のお薬のようです!」
僕はその薬液が入った瓶を1本エリから受け取る。コルクで締めるタイプの瓶なのは、彼女の趣味だからなのだろう。僕はエリが作った薬の原料とかを特に訊くこともせずにその薬液を飲んでしまった。
「っ!……」
「だ、大丈夫ですか!?」
その薬液を飲んだ瞬間、僕の中で強い陶酔感と危険なほどの多幸感に包まれ僕はうずくまった。これはまずい。僕の意識はだんだんとちりぢりになって……しこうがとけて…………
「まっっっっず!!!!」
けれど僕は無理矢理意識を戻してそう言って茶化す。後で吐き出せば大丈夫。少なくとも死ぬようなものではないはずだ。だから僕は今はエリが楽しめるように振る舞うように努めた。
「大丈夫ですか!?」
「気にしなくていい……酷いものを飲んだ……これは身体が拒絶する味するしサッサ処分したほうがいいよこれ」
「なんと……これは危険な魔術が用いられていたとはこの現代最強の魔法使いの目をもってしても……!」
その毎度見抜けてないリハクの目をもってしてもみたいな事言わないでくれ、ちょっとじわる。
じわってても僕の意識は少し混濁していた。強い高揚はこのあとの確実な副作用を意識させ、軽い身体は一時的に苦痛を無視していることがよく分かる。これはただの魔術で錬成された薬品としてはいいものではない代物だ。
「因みに残りは?」
「あともう2本ありますが、残りは寮に……」
「僕が処分するよ。明日持ってきて」
僕はその薬品が何なのか調べたくなって、僕はエリが今持っている薬液の入った瓶を2本受け取った。残りはどれくらいあるか分からないけれど、一先ずこの2本は今日か明日調べる為に使わせてもらおう。
「ではお任せします!ベルさんは薬に関しては私よりも詳しいですから!」
「任せて」
僕は絵の具の混ぜ方を調べる延長の延長の延長で色々調べまくって薬品に関しては多少心得がある程度にはわかるようになった。流石に本職の人には敵わないとは思うけど、少なくとも寮監隊にいた頃は薬品検査を任される程度には知識はあるよ。
僕は寮に戻ると、あの時の頭が強制的に溶ける感覚が消え、前以上にノイローゼな気分になった。エリとの楽しい時間が終わってしまったのもあるかもしれないが、恐らく薬品の影響だろう。それに全身が少し痛く、悪寒もする。
けれど僕はまた、キャンバスの前に座り鉛筆を突き立ててみる。そうだ、今抱えているどす黒い感覚を絵にしよう。僕はスケッチブックを取り出して、花瓶に入れて窓に飾ってあるピンク色のグラジオラスと言う花を描いてみる。
カリカリカリ……
何もないスケッチブックに黒鉛は僕の痛みを代弁するようにスケッチブックの白を黒に染める。描ける。形になる。僕はそれだけで嬉しかった。その嬉しさと心の内にある痛みと苦しさだけが僕の鉛筆を動かしたけれど、僕の中では形にしているだけでそこに美しさが介入している感覚はなかった。
「……まぁ…………マシかな……描かないよりはマシ」
僕は描き上がったものを見るけれど、どす黒さが乗りすぎて濃淡の違いで色が表現しきれていない、赤ともピンク色ともつかないグラジオラスになってしまった。まだ納得の行く作品ではなかったが、何も描けなかった頃の僕とは違って最低限形になってるだけマシかな。
僕の絵は評価自体は著しくない。僕が描きたい物を描いているから、技法とかが洗練されているわけじゃない。所謂才能がないってやつだね。もう才能がないなら描くしかないんだよ。そうは分かっていても描けないのは、僕の意志が弱いからなのかな。
「こいつはまあ……とっておこうか」
僕は描いたものをしまって、ポケットから薬品の入った瓶を取り出す。透明でとても甘ったるい香りを持つその薬液は恐らく碌でもないものだ。
僕は薬液を吐き出す事を忘れたまま、一先ずその日は眠りについてしまった。
エリがこれで合ってるのか……ちゃんと解釈一致してるか不安やね……