グラジオラスと魔法使い   作:脱力戦士セシタマン

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 ごめん書いてたら字数増えちゃった。




第二楽章【舞踏会】

 

 

 

 

 僕は珍しく夢を見た。

 僕は周囲が深い木々に囲まれた、色彩豊かなグラジオラスの花畑にいた。僕の部屋の窓に飾られているピンク色のグラジオラスはここから摘んできたものだった。

 夕焼けに照らされていても変わらず美しいグラジオラスの花畑の中で立ち尽くしていた僕は、後ろから誰かに話しかけられた。

 

『貴方は?……』

『……僕?僕はベルっていうんだ』

 

 僕は振り向いてエリにそう言った。これはきっと僕とエリが出会ったときの夢だ。エリと出会った当時の僕は……そう、寮監隊が辛くて辞めた直後位で、もっと上手くやれたんじゃないかって悔やんでいた時期だったかな。

 

『そういう君は何者?』

『私はオカルト研究会の会長にして現代最後の魔法使いである白尾エリと言います!』

『魔法使い、ねぇ……』

 

 魔法が使えるなら、今の僕をどうにかしてよ。当時の僕はそう思ったけれど、あまり知らない人にそんな心ない言葉をかけようとも思えず僕は考え込むふりをして黙り込んでいた。今思えばそれは正しい選択だったと思う。

 

『因みになんでここに?』

『それが……アルカナの導きに従っていく内にこんな所に来てしまったのです』

『…………つまり迷ったと?』

『迷ってません!』

 

 このグラジオラスの花畑は僕が見つけた理由も迷い込んだからだったんだから、それは無理があると思ったし、今の僕もそう思う。あの時帰り道を探すのには大層苦労したし、道も未だにメモを見ながらでないとグラジオラスの花畑には行けない。

 こんな場所がワイルドハントの敷地内にあるなんてびっくりしたけど、敷地外に行ってるかもしれない。敷地外だったら厳しく取り締まられるだろうけど、寮監隊を辞めたからそういう事は比較的どうでもよくなっていた。

 

『ベルさんはどうしてここに?』

『僕は……最近色々上手く行ってないから気晴らしのつもりでここに来たんだ』

『そうなんですね……実は私も────』

 

 

 

 

 そう夢の中のエリが言いかけた辺りで僕は目が覚めた。この後お互いの苦悩を話して仲良くなったんだっけ…………

 今は少し頭がグラグラする。けど、僕にはやっておこうと思っていたことがあるし無理に起きた。

 

 僕はすぐに制服を着た後に上から白衣を羽織り、朝食も摂らずに薬液の解析を始めた。朝起きてから僕の関節が悲鳴を上げているけれど、そんなものは無視して検査を始める。一応鏡で顔色は確認したけど、顔色自体は大丈夫そうだった。それでも、僕の黒いロングヘアーは少しボサボサで、細かい身なりには気を使う気が起きてない事がよくわかった。

 

 僕は試薬を作り、その中にエリからもらった瓶の内1本の中身に入れていく。これは簡易的な薬品の検査で、有名どころの麻薬を調べる為の試薬だ。

 

「……」

 

 瓶を振ると透明な薬液が赤紫色に染まって行く。つまり麻薬であることは確実だ。なんてものを飲んでしまったんだ。これは捨てるべき……そうは分かっていても身体に響くじんわりとした痛みがそれを許しはしない。

 これは離脱症状のはずだ。けど一回の服用でここまでになることは絶対にないはずだ……病院に行くべきか。でもこれが危険な薬品ということが寮監隊にバレてしまえば、僕だけではなくエリも巻き込まれる……どころか咎められるだろう。それだけはダメだ。

 

「うぅ……やば……」

 

 僕は朝食も摂らずにこんな事をしているからか吐き気がして身体がどうしようもなくだるかった。それにうっすら気が立っている感覚があった。この現状に苛立ちを覚えている僕がいて、相当強い薬液だったみたいだ。

 僕は瓶の中身を8割残して残りのもう1本を服用する。やはりというべきなのか、幾分か身体の痛みも苛立ちも抜け身体は大分楽になった。あの快楽が来ないということは、痛みがそれ相応にあるものなのだろう。

 

 僕は白衣を脱ぎ捨て、適当に購買でパンを買って食べた。授業は一応今日はあるけれど、僕の身に起きた事が気がかりで多分集中できないだろうな。そんな事をぼんやりと考えながらじんわりと痛む身体に耐えながら、教室に向かい始めた。

 

「おはようございます!」

「あぁ、エリ……おはよう」

 

 僕は廊下を歩いていた所で後ろからエリに話しかけられた。普段は僕から絡みに行くからエリから話しかけるのは珍しいことだった。僕は他の生徒とそう変わらない格好だけど、エリには僕と他の違いが分かるみたいな気がして嬉しかった。

 まあ、マジレスするなら古くさい曲床式のライフルを肩掛けベルトで持ってるから、他の生徒と大して格好が変わらずとも見分けがつけやすいってだけなんだろうけど。

 

「大丈夫ですか?顔が元気なかったですよ?」

「……そうだった?」

 

 もしかしたら痛みを堪えていたせいで表情まで変えようとか思わなかったのかもしれない。でもエリがいる時は意識せずとも僅かに気分が高揚して身体の痛みは麻痺したみたいに感じなかった。

 

「マナ切れでしょうか……あ、あと約束のブツは持ってきました」

「ブツはやめなさい」

 

 そうはいいつつも微笑んでしまう。何と言うか、何も知らないがゆえにそんな言葉が出るのだろうが少し微笑ましいと思ってしまった。彼女が他の生徒からモテるのはそういうことなんだろう。

 僕はエリがカバンから取り出した薬液の入った瓶を十本受け取り、僕のカバンの中に入れる。

 

「ありがとう……」

「やはりマナ切れのようですね……そういうときは前よりも強い魔法を!」

「あれに上位版あったんだ……」

「では行きますよ……リナベイト!」

 

 僕の未だに身体に残った痛みはエリの魔法によって少し和らいだ。単にエリが僕に構ってくれることが嬉しいのかもしれないが、やっぱり明確に僕の体は楽になった気がする。これはもしかしたら暗示の力なのかもしれない。暗示……暗示か…………

 

「エリ……一つ頼みがあるんだけど」

「?……なんでしょう?」

「魔導書を少し借りてもいいかな?」

「おぉ、もしや貴方も魔法に興味が!」

「まあそんな所かな。因みに魔導書ってどれくらいあるの?」

「部屋にざっと三十冊は──」

「多っ!?」

 

 僕はそんな怪しいものが三十冊も部屋に……まあオカルト研究会だからなんだろうけど。けれどそのなかには暗示や自己催眠に近いものがあるんだろう。

 

 

「こういう時はタロット占いです!アルカナの導きで」

「じゃあ頼もうかな」

 

 エリはそう言ってカードをシャッフルして、僕はそのカードの山から1枚引いた。

 

「これは……逆位置の運命の輪ですね!」

「どういう意味?」

「『不運』を意味するカードですね……何か良くないことが起こるかもしれませんね……」

 

 僕達がそう話しながら丁度外に出た辺りの広場で、うちの生徒が暴れており銃声が響いていた。僕が寮監隊にいた頃は見慣れていた光景だが、市民の立場として見ても何とも傍迷惑極まりないなと思う。

 

「うぉぉぉぉ!!!!」

ダダダダダダダダ!!!!

「暴徒か……また芸術は爆発だなんだと行って面倒事を振りまいて……」

「うぅ……ベルさんの言葉を聞いていると耳が痛いです……」

「別に、もう今は寮監隊辞めたし気にしてないしいいよ…………本当はやりたくないんだけど……まあこっち来てるし迎撃するしかないか。拘束だけならやれるから他の暴れているのを頼む」

 

 

 僕はそう言いながらも、肩掛けバッグのように持っていたライフルを握る。僕のライフルは『イルジオーネ』という名で、僕の作った多種多様な特殊弾薬が撃てるように改造してある。だから弾の威力よりは弾に仕込んだ薬効で拘束したりする感じだ。

 

「分かりました!」

「じゃあ、まず目を閉じてて」

 

 僕はそう言いながら、ポケットに入っていた閃光弾を投げる。

 

「うわっ!」

「眩しっ!」

 

 数はそんなに多くないから一人一発撃ち込むだけで弾は足りるはず。そう思いながら僕はイルジオーネに弾を込めてスコープを覗き込む。

 

ダンダンダン!

「うぐっ……」

「なんだ!?……急に……眠く……」

 

 僕の弾丸に当たった暴徒は急に眠り込んでしまう。これは僕の弾丸に仕込まれた催眠弾によるものだ。これにまだ麻痺弾と榴弾と麻酔弾まである。

 

「アブラカタブラ!」

「そろそろ本隊来るね……逃げるよ」

「えっ、ちょっと!?」

 

 僕は麻痺弾の弾倉をイルジオーネに差し込んだ辺りで腕時計をちらっと見てそう言う。

 閃光弾ぶん投げたし寮監隊の人間が来たら色々問い詰められる気がするから、僕は銃で暴徒を撃ち抜くエリの手を引き走ってその場から離れた。寮監隊の手口も大体来るタイミングもそこに所属していたから僕はよく理解している。

 

「はぁ……大丈夫?」

「大丈夫です!……」

 

 走った事で僕の眼鏡はずり落ちていて周りが少し見えづらかった。僕は眼鏡をかけ直し、制服の襟元を直した。

 

「エリ!?」

「イヒヒ……こんな所で出会うなんてねぇ」

「おやおや、皆さんお揃いとは珍しいですね!」

「あら、そちらの方は?」

 

 僕とエリの前に、僕が見慣れない人が三人いた。

 エリの態度から見るにこの人達がエリと同じ部屋の人かな。僕は同じ部屋の人とはそこまで仲が良くない……というよりあんまり話さないから交流がない。仲が悪いわけじゃないけど、お互いのプライベートを守りたい人が集まったからなんだろう。

 

「はい!改めてご紹介しましょう!私の友人にしてつい先ほど魔法使いの見習いになった幻中(まもなか)ベルさんです!」

「……どうもよろしく」

 

 僕はそう挨拶した。けれど僕はこういうのは不慣れで、目つきが悪いためか人が寄り付かないから余計にダメだ。それに僕は人が多い所だと黙り込んでしまい、話すときは2人きりのほうが話しやすい。

 そう、とどのつまり典型的コミュ障なんだ。

 

「この子が……エリの言ってた子……?」

「えっと……まあ、そうです…………?」

「中学はベースをやっていたとお聞きしましたが……」

「お薬にも詳しいって聞いたわぁ……今度教えて頂戴」

「………………」

「ちょっと2人とも落ち着いて!」

「そうですよ!ベルさんが困ってますよ!」

 

 僕は初めて出会った人にはこんな話しかけられたらどう答えていいか分からなくて、黙り込んでしまう。寮監隊である程度克服したつもりではあったけど、やっぱり僕はこういうのは苦手だ。

 

「ごめんなさい、会長がよく話してたからつい質問攻めにしてしまいました♪」

「私たちの自己紹介をしてなかったわね。私はファッション専攻の1年生、衣斐レナよ」

「実用音楽専攻の2年生、椎名ツムギと申します」

「私は声優専攻の3年生、板垣カノエよ」

「よろしくお願いします」

 

 会長……って事はこの人達がエリの言ってたオカルト研究会のメンバーってことかな。仲の良い子たちか……僕はこんなに仲間には囲まれたことがないから少し羨ましかったけれど、人付き合いが苦手で人を寄せ付けない僕にとってはないものねだりなのかもしれない。

 

「あぁ、僕のクラスは急がないといけないんだった…………僕はこっちだからまたね」

「はい!また今度ですね!」

 

 腕時計を見た僕は授業が始まるまでの時間が迫っている事に少し焦った。僕のクラスはエリのクラスと場所が違うのと、準備があって早めに行かなければいけなかった。

 

 

 

 

 そうして授業を受けた後、エリから魔導書を何冊か貸してもらって足早に寮に戻った僕は早速魔導書を開き、その中で使えそうな物をピックアップして使って行く。

 

「アスタラビスタ」

 

 僕は箸を杖に見立てて額に突き立て、そう唱えてみた。けれど僕のダルさとじんわりとした痛みは変わらなかった。僕はまた別のページを開いて、魔法陣を描いてみたり、呪文を唱えてみたけれど、そのどれも上手くいかなかった。

 

 それを終えたら今度はスケッチブックを開いた。少しずつ痛みが酷くなっていく感覚があって、また苛立ちが生じ始めていた。どうして僕はここまで苦しまなければ何も描けないのだと、才能があるかないかの土俵にすら立てないのかと僕は心の中で呻く。

 

 

「…………」

 

 

 僕は何かを描こうと思ってもエリのことが気がかりで何かを描ける気がしなかった。

 エリは描ける子なんだ。普通に絵を描ける子だからこそ、僕はずっとここにいたかった。ずっと何も考えずにこうやって笑いあえたらどんなにいいことか。けれどそれは現実逃避にしか過ぎなくて、多分僕に降り掛かった問題はこれじゃ解決しないままなんだろう。

 

 

 そして僕は滲むような痛みを堪え、気絶するように眠った。

 

 

『ベルさん』

 

 僕は久方ぶりに夢を見た気がする。

 

『ずっと一緒に遊んでいましょう!』

 

 僕の前にはエリがいた。

 

『絵なんか描けなくてもいいです』

 

 それが許されるわけがない。いや、僕がそれを良しとはしたくない。

 

『描けないで、いてほしい。私も描けないから』

 

 それを聞いて一瞬エリが僕になんで絡んでいるのかなんとなく思い出した。思い出したけれど、変わらなくちゃいけないんだ。

 

『だから……』

 

 僕は夢の中のエリがそう言いかけた所で目が覚め、寮の部屋から日が差し込んでいた。

 

『おはようございます』

 

 けれど夢の中のエリは僕の部屋に立っていて、微妙に実体を持たない事が蜃気楼の如く揺れていた事で分かった。

 

 

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

 

 

【エリ視点】

 

 

 

「エリ先輩の友達、なんか目つき悪くなかった?」

「そうねぇ……あれに睨まれたらカエルみたいに動けなくなっちゃうかも?」

「あの子はメデューサじゃないんだから……全く」

 

 私たちは授業を終え寮に戻っていました。ベルさんは魔導書を受け取ったらすぐに帰ってしまいましたが……きっと待ちきれなかったのでしょう!

 私は他の子もいると、しどろもどろになってしまいます。でもベルさんは私と同じ境遇にいる方でした。あの美しい花畑での出会いは正しく運命です。私は余り絵が上手く描けないのですが、ベルさんも上手く描けなくなっていたそうです。

 

「そういえばぁ……あのお薬は気に入ってくれたのかなぁ〜?」

「そ、それが……」

 

 師匠の質問には、私はベルさんが『身体が拒絶する不味さ』と言っており、今日全てベルさんに処分を任せてしまった事を師匠にお伝えしました。ベルさんはお薬に関する知識は凄いので心配は御無用のはずです。

 

「あらぁ、やっぱり不味すぎてダメだったのね」

「カノエ先輩全然不味そうにしてなかったよね!?」

「あれぐらい……普通にイケるわよ」

「ゲテモノ飲みすぎておかしくなっちゃったんじゃないの!?」

「でもぉ……次の日に疲労が持ち越されちゃう感じぃ?だからエナジードリンクみたい」

「あの白い魔導書のお薬の『元気になる』とはそういうことだったのですね……てっきりあの刺激的な不味さで意識をはっきりさせる為のものかと思っていました♪」

「だからベルさん、今日も余り元気がなかったんですね……」

 

 レナは師匠にツッコミを入れますが、味見をしたツムギさんはそういうものと思っていたようですね。

 どうやらベルさんはマナを前借りしているような状態だったようです……

 

「まぁ、味はまた改善しましょ」

「そうですね!師匠!」

 

 けれどベルさんのスランプ解消の一助になれていたら嬉しいです。そういえば、ベルさんの絵は見せてもらったことがありません……ベルさんの絵をいつの日かみたいですね♪

 




 
『イルジオーネ』(元ネタ:ベレッタBM59)

 ベルの用いる、イタリア語で『幻想』を意味する名を持つライフル。薬品の知識が豊富な彼女はこの銃で麻痺や催眠作用のある多様な弾丸を放つ。


…………………………………………………………


 ベルちゃん、エリを守る為に病院に行かない選択をするとか健気で可愛いね(鬼畜)
 因みに運命の輪の逆位置は『不運、抵抗、望まない変化』だそうです(意味深)

 オカルト研究会がこれで合ってるのか……ちゃんと解釈一致してるか不安やね……(コピペ)
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