ゾイド ~Ring of Zi~   作:タートルZ

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 2026年10月2日。
 機獣新世紀ZOIDS完結編連載企画進行中バンザイ。


第一章 Ziの住人
第一話 リオ・クレイグ


 ゾイドはただの機械じゃない。少なくとも、俺はそう思っている。

 生きている。

 機嫌が悪ければ唸るし、嫌なことをされれば怒る。金属生命体——そう呼ばれる「生き物」だと。

 

「ラゼル、もうちょい右!」

 

 俺が叫ぶと、白い「ガンスナイパー」が大地を蹴った。

 土煙が上がる。

 巨大な脚が地面を踏みしめるたびに、腹の底まで響くような振動が伝わってくる。

 

「そうだ。おまえとなら……何とかなるさ」

 

 ラゼルが低く唸った。

 視線の先を、茶色い影が走っている。中型のオオカミ型ゾイド、「コマンドウルフ」だ。背中の装甲には、古い傷がいくつも残っている。

 数年前に倒産した輸送会社で使われていた個体らしい。管理者を失ったまま野生化し、市街地の近くに出没するようになった。

 野生化ゾイド。遠い昔、帝国と共和国が戦争をしていた時代には野良ゾイドと呼ばれていたらしい。俺たち「ハンター」が相手にするのは、そういう奴らだ。

 

「逃がすなよ、ラゼル!」

 

 返事の代わりに、ラゼルが一声吠えた。

 俺は操縦桿を握り直した。手のひらを通じて、ラゼルの鼓動が伝わってくる。

 コマンドウルフが狭い谷間に飛び込むのが見えた。後を追って、ラゼルも谷底に降りる。

 

「回り込むぞ!」

 

 ラゼルの脚がさらに速くなる。勢いのまま、斜めに切り立った崖を駆け上がった。

 

「跳べ、ラゼル!」

 

 逃走を続けるコマンドウルフの頭上を飛び越えて、進路を塞ぐようにラゼルが立ちはだかる。

 コマンドウルフが脚を止めた。ゾイドに「目」はない。表情を変えることもない。

 けど——俺には、そいつが怯えているように見えた。

 

「……ラゼル、怖がらせるな」

 

 久しぶりの全力疾走で気が立っているのだろう。コマンドウルフに対して威嚇するような唸り声を上げていたラゼルを宥め、俺はコクピットのキャノピーを開けてコマンドウルフに話しかけた。

 

「大丈夫だ、おまえを傷付けたいわけじゃない。少しだけおとなしくしてくれないか?」

 

 人間の言葉は、ゾイドには通じない。少なくとも、学術的にはそう結論付けられている。

 けれど俺は、親父がこうやって野生化ゾイドを大人しくさせるのを何度も見てきた。確かに言葉は通じないのかもしれない。それでも意思疎通を図ることはできるはずだ。

 ゾイドは生き物なのだから。

 

「今からおまえを保護区に連れていく。だから——」

 

 言い終わる前に、コマンドウルフが身を屈めるのが見えた。

 

「——っ!?」

 

 俺より先に、ラゼルが動いた。キャノピーが勝手に閉まり、姿勢を低くする。

 

「おい、ラゼ——」

 

 コマンドウルフが跳び上がるのと、ラゼルが地面を蹴ったのはほぼ同時だった。飛び掛かってくるコマンドウルフの下に潜り込み、腹部を突き上げるように尻尾を叩きつける。

 激しい金属音と共に、コマンドウルフがもんどりうって転がった。

 

「あーもう、結局こうなるのかよ!」

 

 できるだけゾイドを傷つけたくないという俺の思いとは裏腹に、「早く撃て」と言わんばかりにラゼルが吠えた。

 

「わかったよ……!」

 

 操縦桿のトリガーを引く。ラゼルの肩部マルチランチャーに装填された捕獲用パルスアンカーが射出され、起きあがろうとしていたコマンドウルフの脇腹に突き刺さる。

 直後、激しい放電と共にコマンドウルフが悶絶するのが見えた。

 

「……こんなの、本当は使いたくないんだけどな」

 

 苦しめたいわけじゃない。けど、こうでもしないと野生化ゾイドを大人しくさせることはできない。

 少なくとも、今の俺には。

 

 

 この星——惑星Ziで帝国と共和国の戦争があったのは、もう遠い昔の話。かつて戦闘機械獣として、兵器として使われていたゾイドたちは今、輸送、建築、土木工事といった社会インフラの一部を担っている。

 一方で、ゾイドは金属生命体——生き物だ。人の管理を離れ、野生化したゾイドは時に社会にとって害を為す。

「機獣災害」。

 俺たちハンターの仕事は、そういった被害を未然に防ぐために、あるいはこれ以上の被害を出さないために野生化ゾイドを処理すること。捕獲して、定められた保護区に移送するのが役目だ。

 

「……また無茶をしたようだな、リオ」

 

 機能停止したコマンドウルフの状態を確認していると、背後から声をかけられた。いつの間にか、回収用のコンテナケージを牽引した「グスタフ」が来ていたようだ。

 

「相変わらず、おまえの『何とかなる』は大概何ともならない」

 

 兄貴分のクルト・ファフニールが、いつものように神経質そうな動作で眼鏡を押し上げる。そして俺より頭ひとつ分高い位置から、呆れたような視線を投げてよこした。

 

「無茶じゃねえよ、クルト。俺はできるだけ傷つけないようにしたいんだ」

 

「オットーさんのように、か?」

 

「……ああ、そうだよ」

 

 親父の名前を出されると、正直少し複雑な気分になる。まるで、俺がまだハンターとして親父の足元にも及ばないことを殊更に突きつけられているような。

 オットー・クレイグ。

 俺の親父は、凄腕のハンターだった。相棒のラゼル——ガンスナイパーも、元々は親父の相棒だった。一人と一機で各地を駆け回り、たくさんの野生化ゾイドを保護したという。

 

「リオ、おまえがオットーさんに憧れるのはわかる。息子だしな。だが、プロのハンターならまず自分の技量を自覚しろ」

 

「わかってるよ! ……コマンドウルフは機能停止状態、ゾイドコアは活動してる。死んでない」

 

 俺が撃ち込んだパルスアンカーは、あくまで野生化ゾイドを鎮圧するための非殺傷武器だった。それでも、何らかの理由でゾイドを殺してしまうことはある。元々衰弱していたり、出力調整をミスったりした場合だ。

 

「了解した。今のうちに管理用コマンドデバイスを接続しておこう」

 

 これからコマンドウルフを保護区まで運ばなければならない。保護した野生化ゾイドには、管理用コマンドデバイスの装着が義務付けられている。クルトはコマンドウルフのコクピットを外部操作で開くと、コンソールのスロットに手のひら大の直方体——コマンドデバイスを挿入した。

 

「どう?」

 

「再起動まであと三分ほど、問題なさそうだ」

 

 本来、ゾイド——現代のゾイドは、コマンドデバイスがなければ動かない。戦争が終わり、兵器ではなくインフラの一部として、あらゆるゾイドにコマンドデバイスによる管理が導入されて久しい。

 でも、野生化したゾイドはその限りではない。人の制御を離れ、生物の本能のままに動く。

 あるいはそれが、ゾイドの本来の姿なのかもしれない。

 

「……けど、それじゃいずれ駆除されちまう」

 

 機獣災害は年々増加傾向にある。駆除——殺処分される野生化ゾイドも多い。

 そうなる前に、少しでも多くのゾイドを保護してやりたい。親父がそうしていたように。

 

「まだまだ遠いな……けど、何とかなるか!」

 

 何とかなる——俺の口癖だけど、これはどうやら親父の口癖でもあったらしい。

 

「リオ。独り言を言ってる暇があるならミラを手伝ってやれ」

 

 クルトに言われて視線を向けると、グスタフのケージコンテナが収容準備を始めていた。もうすぐコマンドウルフも再起動する。

 

「っと、了解!」

 

 ケージに駆け寄ると、サイズの大きめなツナギに身を包んだ少女が立っている。ここまでグスタフを操縦してきたミラ・ファフニール——クルトの妹だ——が、相変わらずの無表情でこちらに視線を向けた。兄と同じ黒髪のポニーテールが、谷間に吹き抜ける風に揺れている。

 

「リオ、遅い」

 

「悪い悪い。で、何すれば良い?」

 

「もう終わった」

 

 肩透かしを喰らう。グスタフの扱いやケージの操作に関しては、少なくとも俺やクルトよりミラの方が上手いのは確かなんだけど。

 

「それよりリオ。ラゼルが退屈してるから、行ってあげて」

 

「え? あ、ああ」

 

 俺はラゼルに目を向けた。

 ラゼルのコマンドデバイスは外されて、今は俺の手元にある。コマンドデバイスのないゾイドは動かない——それはラゼルも例外ではなく、俺を降ろした後は沈黙を貫いている。

 でも、ミラが言うならそうだのだろう。彼女は昔から、ゾイドの気持ちというか感情がぼんやりと感じ取れるらしい。

 

「おいラゼル、退屈なのか?」

 

 コクピットに戻り、コマンドデバイスを挿し込む。コンソールと計器類が点灯し、シート越しにラゼルの鼓動が振動となって伝わってきた。

 ラゼルが低く唸る。何となくだけど、少し不機嫌そうだ。

 

「……まだ走り足りないか?」

 

 言葉は通じない。けど、長年の付き合いか……ミラほどじゃないにしても、俺だって少しはラゼルの気持ちを理解してやれるつもりだ。俺はマイクを引っ掴み、外部音声に切り替える。

 

「クルト! ちょっとラゼルと走ってくる!」

 

『何!?』

 

「ラゼルがもっと走りたいってさ!」

 

 クルトの小言が飛んでくる前に、俺はラゼルの操縦桿を前に倒した。崖を駆け上がり、台地の上へ。

 

「さあラゼル、どこに行く?」

 

 台地の先には、今の平和な時代の象徴——大都市「セントラルシティ」の街並みが広がっている。

 ラゼルが一声吠えて、頭を巡らせた。セントラルシティの反対側、地平線まで続くような惑星Ziの荒野が見える。

 

「……この先に、親父がいるのかな」

 

 親父が失踪したのは二年前。ハンティングの仕事を請けた後に姿を消し、ラゼルだけが戻ってきた。

 

「白いゾイド、か」

 

 レコーダーの記録映像を再生する。

 ラゼルのレコーダーに残されていた、荒い映像。そこに映っていたのは一体の「白いゾイド」だった。以来、俺はハンターの仕事を続けながら、その白いゾイドを探している。その先に、姿を消した親父がいるかもしれないと信じて。

 

「なあラゼル、おまえも親父にまた会いたいよな?」

 

 ラゼルは答えない。代わりに一声、また吠えた。「早く行こう」——そう言っているように、俺には感じられた。

 

「よし、行くぞラゼル!」

 

 この星——惑星Ziで帝国と共和国の戦争があったのは、今はもう遠い昔の話。平和になったこの星で、俺たちは生きている。

 ゾイドと共に。

 

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