雫と日焼け少女、双方に頭を下げさせ俺はチンピラ達の下へ行く。
「おい、お前ら。」
声をかけるとチンピラ達は少し怯えた様な返事をする。
「お前ら、一体何の騒ぎだったんだ?説明してくれると助かるんだが。」
睨みつける様に質問をするとチンピラ達は素直に説明を開始した。
自分達は播磨をねぐらにしている小さな海賊衆であるとの事。
それが瀬戸内の海賊衆を束ねる村上武吉に脅されて若い女を集めていたらしい。
だが、人買いから仕入れた女達は、その中の一人の手引きによって逃亡したとの事。
新たに女を仕入れる金も無く、それを免除してもらう為の違約金四百貫文なんてとても支払えず、仕方なく人さらいの真似事をしていたと言う。
そこまで話を聞いた時
「そんな訳ないじゃん!村上武吉がそんな事する訳ないじゃん。デタラメじゃんか!デタラメじゃんよ!」
日焼け少女が割り込んで来た。
えらく興奮した感じだったのが気になって日焼け少女に問いかける。
「お嬢ちゃん。」
「お嬢ちゃんじゃ無いじゃん!あたしには花梨(かりん)って名前があるじゃんよう!」
「解った。花梨、一体どうした?えらく興奮しているが。」
日焼け少女。いや、花梨は言葉に詰まり『だって、するわけないじゃんよう』と呟くだけだった。
他の面々の『どうしたんだろう?』と言う疑問の顔をよそに俺は考えを巡らせる。
『あの村上武吉が女か金を差し出せ?海賊としては理屈が通るが…………………村上武吉が?』
「解らんな。何故だ?」
「何がじゃ?お前様。」
全員を代表して雫が問いかけて来る。
「村上武吉がだ。」
「村上武吉の何が解らんと言うのじゃ。」
少しイライラした感じで再び雫が問いかけて来る。
「女か金を差し出せと脅すのがな。それも他の海賊衆に対して。」
「海賊なのじゃぞ、当然じゃろ。」
「普通の海賊ならばな。だが、相手は村上武吉だ。」
「村上武吉だとなんなのじゃ?」
「俺の識っている村上武吉なら……………」
「村上武吉なら?」
「自分で奪うはずだ。脅すなんて面倒な事はしない。正々堂々と奪うはずだ。」
「それほどの者なのかや?」
「ああ。そのはずだ。」
その時、少し驚いた様な口調で花梨が俺に質問する。
「あ!あんた!村上武吉を知ってるじゃんか?」
「識っている。会った事は無いがな。」
花梨に返事を返した後、俺はチンピラ四号に声をかける。
「おい、四号。」
「………………」
「右端のお前だ四号。」
「わ、わっしですか?」
やっと自分だと気付いたのか四号が声を上げる。
「お前達に脅しをかけたのは、本当に村上武吉だったのか?」
「へえ、旗印も村上の物でしたさかい。」
俺は少し考えを巡らせた後
「お前達、以前に村上武吉に会った事はあるか?」
四号達の返事はNOだった。
その後、受け渡しの期日、受け渡しの場所、前金でいくら払ったらどの位引き延ばせるか、などの質問をし、明日の朝もう一度この場所に来る様に言い付けてチンピラ達を解放する。
つもりだったが、二つほど聞き忘れた事があるのを思い出した。
「お前達の目をかいくぐり、女達を逃がした者は一体何者だ?」
「名は夕鶴(ゆうづる)と申しまして、以前どこかの武家で奉公していた女ですわ。かなり学の方もあるらしいですわ。」
「今、何処にいるか解るか?」
「さあ。生まれが駿河だか遠江らしいですからもしかしたら。」
「そうか。後、人魚姫の怪異譚を聞いた事は無いか?」
「詳しくは知りませんが、瀬戸内の方では有名ですわ。」
「そうか解った。もう行っていいぞ。明日、忘れるなよ。」
と、言葉は穏やかだが脅迫する様な顔色で言葉をかける。
チンピラ達は青ざめながら『忘れるなんてとんでもない!』と言い残しこの場を去って行った。
『俺達も帰るか』と言いかけた所で後ろから『ねえ、ちょっと』と遠慮がちな声がかかる。
後ろを振り返ると花梨がいた。
「なんだい?」
「あんた、一体何者じゃんよう。変な事に疑問を持ってみたり、人買いから逃げた女の事を探ってみたり、それに人魚姫の怪異譚って。何がしたいじゃんよう。目的は何じゃんよう!」
遠慮がちだった声がだんだんと興奮した物に変わっていく。
俺は一息つき『俺かい?』と冷静に語りかける。
「俺が何者で、何がしたくて、何が目的なのか。そして何故逃げた女を探ってみたり、人魚姫の怪異譚を追っているのか?か。」
「そうじゃんよう!」
「さあな。どうしてだろうな。気になるからではダメなのか?」
ニヤニヤと笑いながら花梨に返事を返す。
「質問に質問で返すなじゃんよう!」
「知りたいか?」
「知りたいから質問してんじゃん!」
「そうか。知りたいなら自分で調べな。」
スルリと会話をかわす。
花梨は何か言おうとしたが芽衣の言葉がそれを遮った。
「ご主人さまー、おサルさんおきたよー。」
少し前から地面に突っ伏していた兼相を雫がゲシゲシ蹴ながら起こしていたのは知ってはいたが、ようやく起きた様だ。
みんなに向かって『帰るぞー』と声をかけ歩き出す。
『お嬢も芽衣殿もひどいっすよ。』『お主が横やりを入れるのが悪い!』『そうだよー』などと騒がしい声を聞きながら歩いていると後ろから声がする。
花梨が何か言っている様だが、俺は後ろ手に手を振り振り向かずにその場を後にした。
納屋に顔を出し宿屋に帰ると先に帰っていた長五郎のじい様が俺達を出迎えてくれる。
風呂に入り夕食の席で長五郎のじい様は今井宗久との話の詰めを語ってくれた。
どうやら心配する事なく上手く話しはまとまった様だ。
『しかし一つだけ問題が』と、長五郎のじい様は告げる。
その問題とは、店の名前だ。
「うーん。店名ねぇ。」
「何かありませぬかな?」
二人で頭をひねる。
そこに源内が話しに加わって来た。
「店名って、コバヤシ製薬じゃないんですか旦那様?」
「なんでコバヤシ製薬?」
「最初から旦那様がおっしゃっていらしたじゃないですか。コバヤシ製薬の糸ようじって。」
それを聞いた他の者達もそういえばと言う顔をしている。
俺は『それもそうか』と開き直り紙に店名を書き、皆に御披露目する。
「いいか、これが堺に出す新しい店の名前。狐囃子製薬(こばやしせいやく)だ。」
「「「狐囃子製薬」」」
この場に居る全員が店名を口にする。
「狐のお囃子(おはやし)。まあ、騒がしい堺と俺達にはお似合いだと思うんだが。どうだ?」
「狐のお囃子!見事じゃお前様!」
雫が真っ先に採用の声を挙げる。
他の者達にも好評のようで堺の店の店名は狐囃子製薬に決定した。
話しも落ち着いた所で
「じい様。この後の事、全部任せてもいいかい?」
「なにか楽しい事でも出来ましたかな旦那様?」
「ちょっとした事だ。言うなれば怪異譚の収集がてらの海賊退治かな。」
「楽しそうですな。どの辺りで?」
「恐らくは姫路辺りになるだろうが、ひょっとすると安芸までになるかも知れん。」
「承りました。怪異譚の収集は旦那様の一番のお仕事でございますからな。」
長五郎のじい様は冗談混じりに俺の無茶振りを快く承諾してくれた。
「旦那様、姫路でしたら黒田宗円を訪ねられてはいかがですかな。」
「姫路城の黒田か?」
長五郎のじい様は『知っておられましたか』と言いつつ話しを続ける。
「あの者、百間長屋などと言う物を造りましてな、旅の者や行商人などに解放しているらしいのです。」
「成る程。行商人達からなら情報を得られるかもしれないな。紹介状を頼めるか?」
「解りました。朝までにはご用意しておきます。」
何と言うか顔の広いじい様だ。
「いつも悪いな。」
「いえいえ。私も楽しんでおりますゆえ。」
「この件が解決したら皆で温泉でも行くか。」
「それは良い事ですな。楽しみにしておりますぞ旦那様。」
そんな会話をしながら夜はふけて行った。
夜が明ける頃、俺は一人の男を呼び寄せていた。
俺は静かに声をかける
「頼みがあるんだが。」
「何なりと。」
「安芸の国まで行って、ある男を呼んで来てはくれないか。」
「その男とは?」
「そいつの名は………」
鴉の様な面を着けた男は夜の闇に紛れて消えて行った。
翌朝、俺達姫路行きの面々は堺組と宿屋で別れ昨日の場所に向かう。
其処には約束通りにチンピラ、いや海賊衆四人が律儀に待っていた。
おはようさん、と声をかけ、続けて『すっぽかされるかと思ったんだがな』と言葉を漏らす。
海賊衆達は『め、めっそうもない!』と慌てて俺の下に駆け寄って来る。
俺は『丁度いい』と告げ、兼相に目線を向ける。
兼相は無言で一歩前に出て一番近くに居た四号に巾着を渡す。
不思議そうな顔をする海賊衆だが巾着を開けた途端顔色が変わる。
四号が恐る恐る俺に声をかけて来る。
「それくらいあれば、ある程度の日数は引き延ばせられるな。」
そう聞かれた四号は『へ、へい。もちろんで』と答えて来る。
話の内容は至極簡単だ。
村上の追及を引き延ばす為の金を出してやるから、こちらの仕事を手伝え。
そう言う事だ。
俺達の仕事、と言うより俺自身の興味と雑事に近いかも知れない。
海賊衆が買い取ったと言う少女、夕鶴の捜索と姫路での道案内を頼むと言う事だ。
一号〜三号までを夕鶴の捜索に向かわせ四号は俺達と行動を共にすると言う事で話はついた。
一号〜三号を見送り姫路へ出発しようとした時、俺を呼ぶ声がした。
「ちょっと待つじゃんよう!昨日の約束忘れたのじゃんかよう!」
振り向くと其処に居たのは旅支度をした花梨だった。
俺はその姿を見据えて口を開く。
「何をしているんだ、こんな所で?」
「ほへ?何しているじゃ無いじゃんよう!昨日約束したじゃんかよ!あたしもついて行くって!」
「したか?」
「したじゃんよう!帰り際に!そしたらあんた、手を振って了解したじゃんか!」
心の中で『あー、あれか』と思い出す。
何か言って来たのは気づいていたが何を言っているかまでは解らなかったので、手だけは振っておいたやつだ。
ここで揉めても面倒なので連れて行ってもいいのだが。
「花梨、連れて行くのは構わんが保護者の同意はとってあるんだろうな?」
「あたしの家は安芸じゃんよう、堺には用事で来ていただけじゃんよ。」
「家まで帰る道すがら俺達に同行すると?」
「そうじゃんよ。それに、村上武吉の事もあるじゃんか。」
やはり気になるのはそこらしい、でもなぜそこまで。
一緒に居れば謎が解けるかも知れない。
その考えに行き着き、同行を許可し俺、雫、源内、芽衣、美奈都、兼相、鉢屋衆に加え花梨と四号と言うメンバーで一路姫路へ向け出発した。
いかがでしたか?
次話はバトルです。
ですが、剣劇や殴り合いだけがバトルでは無いですよね。
感想お待ちしています。
活動報告の方で裏語り始めました。
そちらの方でこの物語の設定などを少しずつ語って行こうかなと思います。
興味がある方はご覧ください。