織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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伊予編、始まりです。


幕間三 黒狐の嘆きと夜雀の泣き声
其の壱


 キィィィン!ギャァァァァン!

 

 雨で濡れる森に剣劇の音と男女の怒声が響く。

 

「私は…………、私は勇者になりたかった!英雄と呼ばれたかった!」

 

「勇者も英雄も現れてはいけないんだ!」

 

「それでも私は!」

 

「それでもだ!勇者も英雄も現れた時には…………」

 

 

 

 

 

 

 

 波の間から目的の八幡浜が見える。

 現在俺達一行、俺、雫、源内、芽衣、花梨、兼相の六名は船に揺られ伊予の国への船旅中。

 尾張へ戻る別動隊を迎えに来た村上衆や港町の町人に話しを聞いたところ、件の夜雀は伊予の国、内子あたりが噂の出所らしい。

 そこで俺達は、別府の港から船で伊予の国、八幡浜を目指し、そこから徒歩で情報を集めながら内子へと行くルートを選択した。

 そんな事を思い出しつつ船の上で横になっている俺に声をかける者がいた。

 

「旦那様。旦那様?……お休みですか?…………いたずらしますよー。」

 

 源内か。

 しかしずいぶん声が近いな。

 

「起きてるよ。」

 

 そう言った瞬間に目を開ける。

 目の前には源内の紅玉の瞳があった。

 

「!!!!!!」

 

 声が出ない。

 それはそうだろう、源内の顔は俺の顔と、鼻と鼻がぶつかりそうな距離にあったのだから。

 一瞬の静寂の後

 

「きゃう!あわわわわわわわ!す、すいません旦那様。」

 

 あわてて離れる源内。

 照れているのだろうか?その顔は真っ赤だ。

 肌が白いだけにホントに赤い。

 そこで俺にいたずら心と言うか、先ほどの意趣返しの気持ちが浮かぶ。

 

「しかし源内、相変わらず綺麗な瞳だな。」

 

「な!何を言うんですか!」

 

「本当の事だが?」

 

「う〜〜。…………ありがとうございます。」

 

 顔をさらに赤らめ礼を言う源内。

 

「で、どうした?」

 

 改めて源内に問う。

 源内は日差しよけの編み傘で顔を隠しながら

 

「いえ、港を出る前に義父さまと何やらお話していた様でしたので、どんなお話しなのかなと。」

 

「うん?ああ、あれか。いや何、じい様達は清洲へ戻る時、一度堺に寄るだろ。」

 

「はい。」

 

 源内はあごに人差し指を当て、首をかしげながら返事を返す。

 

「そこでな、ギヤマンを扱える職人のあてを探してくれと言う話だ。」

 

「ギヤマンですか。」

 

「ああ。美奈都の話だと村の周囲の川から真砂以外に質のいい珪砂(けいしゃ)が取れるらしくてな。」

 

「珪砂ですか?」

 

 源内は少し驚いた様な顔をした。

 

「識っているのか?」

 

「はい。飛騨に居た時に美奈都と色々していましたから。何とか溶かして形にしようとしましたが、あれ溶けませんよ。」

 

 源内は再度顔を近づけ“バカですねぇ旦那様”と言う顔をする。

 俺はニヤリと悪党の笑みを浮かべ

 

「温度が低いんだ。鍛冶場の踏鞴(たたら)程度の温度じゃぁ溶けやしない。」

 

 そう言ってバカにされたお返しに源内の唇に指先をつける。

 その行為に少しムッとしたのか照れ隠しなのか源内は俺の人差し指をカプッと噛み

 

「ふみまふぇんね。ほうせ、わはひはむひへすよ!(すみませんね。どうせ、私は無知ですよ!)」

 

 俺の指を甘噛みしながら悪態をつく源内。

 

「今は無知で良い。お前達は今、色々と学んでいる最中だ。」

 

「はんなはま?(旦那様?)」

 

 俺の指を口に含んだまま源内は不思議そうな顔をする。

 

「これから時代はさまざまな顔を見せるだろう。その時にお前達がどう言う立ち位置で時代と向き合うのか、お前達の選ぶ道が俺と重なるのか、別の道なのかそれは解らない。だが選択の時期は必ず来る。その時の為に色々見て学んでおけば良い。」

 

「はんなはまはへはんらみひほは?(旦那様が選んだ道とは?)」

 

 源内との会話中、新たな者が顔を出す。

 

「何してるじゃんよ。」

 

 少しながら怒気を含んだ言葉と共に花梨が現れた。

 その瞬間口から俺の指を解放し

 

「何でも無いですよ。」

 

 いつものお姉さん風の源内に戻る。

 源内の行動に嫉妬したかの様に花梨は俺の指を取り口に含む。

 

「ほうひゃんか?ひゃらはたひもはんれもひゃいやんよう。(そうじゃんか?ならあたしも何でも無いじゃんよう。)」

 

 この行動に対して源内は、再度俺の指を口に含み

 

「ほうれす。ひゃんれもひゃいれす。(そうです。何でも無いです。)」

 

 うわ!何、この状況。

 モテ期か?嫁も貰えたし。

 ……だが、嫁が幼女で、俺を取り合っている少女達が未来で言う中学一、二年生ぐらいの年齢で無ければだが。

 

「お前ら、いい加減にしろ。」

 

 俺の指を口に含みながら口論を続ける少女二人に注意を促す。

 

「「ひゃって!(だって!)」」

 

 俺の一喝で少女の口から俺の指が解放された。

 左右の人差し指が少女の唾液でべちゃべちゃになっているが。

 

「で、何の話だったんじゃんよう。」

 

 花梨は不貞腐れながらも話しを続ける様だ。

 

「旦那様がいつか私達の前からいなくなるって………。」

 

「どう言う事じゃんよう!」

 

 花梨はさらに怒気を深め俺に詰め寄る。

 

「まあ待て。そう言う話じゃ無い。」

 

「じゃあどうなんじゃんよう。」

 

「そうですよ。」

 

「いつの日か選択の時が来ると言う話だ。」

 

 二人の頭に?マークが浮かぶ。

 

「お前達が今の世を見て何かを感じ何かを成そうとすれば自ずと幻灯館から離れて行く事もあるだろう?その時の選択次第では俺と道を違える事になるかも知れないと言う話だ。」

 

「そんな訳ありません!」

 

「そうじゃんよう!」

 

 俺の言葉に二人の少女の息が上がる。

 俺は落ち着かせる様にゆっくりと口を開く。

 

「まあ待て。そう答えを急ぐな。」

 

「「だって……。」」

 

 それでも二人は不満そうだ。

 

「なあ、源内。お前は山の向こう側を想像した事は無いか?飛騨の里から見える山の向こう側、そこには自分の知らない新しい世界があるんじゃ無いかって。」

 

「…………あります。」

 

 俺は一度頷き花梨に視線を移し

 

「花梨、お前は船の上から広い海を見てその先を思い浮かべた事は無いか?」

 

「あるじゃんよう。」

 

 俺は二人の瞳をしっかりと見つめ

 

「俺はな、この日の本の民にその光景を見せる事が出来る者を待っているんだ。新しい世界、新しい未来を見せる事が出来る者をな。」

 

「それが、旦那様が選んだ道………。」

 

「待ってるだけじゃんか?」

 

 花梨は俺の言った言葉に少し不満げに口を開く。

 俺は花梨と源内、二人から視線をそらしながら

 

「種ぐらいはまくさ。」

 

 ニヤリと笑いそう答えた。

 しかし二人はまだ不満の様だ。

 

「旦那様が山の向こう側を見せられては?」

 

「そうじゃん!待っている必要はないじゃん!」

 

「俺がか?」

 

「そうですよ。」

 

「そうじゃんよ。」

 

 俺は一度目を閉じ、ため息の様な笑みを漏らし

 

「ガラじゃ無い。」

 

 簡潔にそれだけを口に出した。

 




いかがでしたか?

伊予編の始まりです。
お待たせしました。
楽しんでいただければ幸いです。



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