織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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再びの美濃。
外伝1(そとづたえ1)始まりです。


外伝1 ある日、ある時、井ノ口の街
口伝ノ1


〜美濃の国 稲葉山城〜

 

 この国の国主、斉藤道三は自らが作り上げた井ノ口の街を見下ろしながら一人の家臣を呼ぶ。

 

「光秀、光秀はおるか。」

 

「はい、道三様。明智 十兵衛 光秀ここに。」

 

 道三に呼ばれた少女、名は明智光秀、通称を十兵衛と言い、つい最近元服し道三の小姓となった少女だ。

 きっちりとしたまるで卸したての様な身なりは、この少女の生真面目な性格を表している様だった。

 しかし道三は少女を見て顔をしかめる。

 

「光秀よ、その前髪は何とかならんか?」

 

「………いけませんでしょうか?」

 

 道三に自分の身なりを指摘され身を縮める光秀。

 道三は光秀の顔を凝視する。

 さらに身を縮める光秀。

 道三は一つため息をつき

 

「その前髪は何とかならんか?」

 

 再度同じ質問をした。

 明智光秀と言う少女、頭も良く武芸も達者でまさに火の打ち所の無い少女であり、道三も将来に期待している姫武将なのだが、彼女の唯一のコンプレックスが他人より少しばかり広いおでこなのだ。

 そのコンプレックスを隠すため光秀は前髪で顔を隠していた。

 まるで顔の前にのれんでもある様に。

 道三は光秀が士官してきた時から顔が見え無い事が気になって仕方が無く、事あるごとに言っているのだが、根が頑固なのか余程コンプレックスが強いのか一向に直さずにいた。

 道三は再度ため息をつき話しを変える。

 

「光秀。お主、城下で妙な噂が立っておるのを知っておるか?」

 

「妙な噂でございますか?そう言えば……職人が家族や弟子達と共に忽然と消えたとか、なんとか。」

 

「知っておったか。」

 

「はい……ですぅ。」

 

 道三は光秀から視線を外し

 

「他には?」

 

 そう聞かれ光秀は固まってしまい

 

「いえ。それだけですが。」

 

 そう返すのが精一杯だった。

 

「やはりな。うむ、調べてみるか。」

 

 そう言って道三は蝮の様な意地の悪い笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 数名のお付きに町人風の格好をさせ、稲葉山城を出た道三と光秀はとある店の前にたどり着く。

 

「道三様、ここは?」

 

「十兵衛よ、街ではその名で呼ぶで無い。」

 

 光秀は急に十兵衛と呼ばれキョトンとしたのち

 

「では何とお呼びすれば?」

 

「そうだのう。長井新九郎かのう。」

 

 道三はそう言って再び蝮の笑みを浮かべた。

 光秀は心の中で『何ですかそれは』と毒づきながらも真面目な顔で

 

「ではご隠居とお呼びします。」

 

「なんじゃ、つまらんのう。そんな事では婿は貰えんぞ。」

 

 再び心の中で『うっさいです!』『大きなお世話です!』と毒を吐く。

 この明智光秀、名家の生まれのためか、はたまた生真面目な性格のためか同年代の者の前でも素の言葉を使えずにいた。

 

「それでご隠居、ここは?」

 

「ここは文珠屋じゃが?」

 

「それは解っていますですぅ。」

 

 光秀の顔は見えないが明らかにむくれている。

 道三はそれが可笑しく、また微笑ましくて仕方が無い様子だ。

 

「いや何、此処の先代店主の長五郎とは旧知の仲でな、此度の神隠しについて何か知っておるかもと思ってな。」

 

「そう言うことですか。」

 

 言うやいなや道三は店の中に入って行く。

 光秀も慌てて後を追う。

 道三は番頭を見つけ「店主は居るかな?」声をかけた。

 自分では努めて普通に話したつもりだが、そこは美濃の蝮、どうにも威圧感が出てしまう。

 番頭は一瞬ひきつった顔をしたが、「すぐに」と店の奥に入って行く。

 道三が何事じゃ?と首をひねる後ろで『顔が怖いですぅ、全くこのおじじは』と心の中で突っ込みを入れる光秀だった。

 光秀が腹黒な心の声で突っ込みを入れている最中、件の人物が現れる。

 

「これはこれは、お久しぶりでございます。」

 

 丁寧な言葉遣いで挨拶をする人物、文珠屋店主 東長次郎。

 大名や名家の相手は慣れているのか店主長次郎は決して相手の名前を口にしない。

 

「それで本日はどう言った御用で?」

 

 もっともな質問をする店主長次郎。

 先代長五郎が店主を努めていた頃は道三もお忍びで良く来店していたが、長五郎が店主の座を退いてからはもっぱら稲葉山城に商品を届けさせていたため滅多に店には顔を出さなくなっていたからだ。

 

「うむ。店主よ、先代は居るかな?」

 

 道三は先代店主を指名する。

 

「先代でございますか?ご足労申し訳無いのでございますが、先代は数年前から清洲の方へ行っておりまして、こちらには滅多に帰っては参りません。」

 

「な、何と。清洲へ。」

 

「はい。」

 

「成る程のう。清洲に出した支店の指揮を先代自ら。」

 

 道三は文珠屋の規模を考えそう結論づけた。

 それを聞いた文珠屋店主は

 

「いえ。そうではございません。先代は清洲にある幻灯館と言う店で番頭をしているのでございますよ。」

 

 まったく酔狂な事でしょうと笑う店主長次郎。

 しかし、事の成り行きを知らない道三は驚きしか無い。

 

「なっ!あの長五郎殿が今更番頭じゃと!」

 

 とても信じられない道三。

 店主長次郎はこれまでの事を道三に語って聞かせた。

 

「しかし信じられん。長五郎殿と言えば貉(むじな)と言われるほどの喰えん男じゃぞ。それがふらりと現れた男について行くとは。」

 

 此処まで話して店主長次郎も若干緊張が溶けたのか

 

「父だけではありませんよ。ここいらの腕の確かな職人連中もこぞって父について行ってしまいましたから。そう、まるで百鬼夜行の様に。」

 

 実に楽しそうに語る文珠屋店主。

 道三は店主の態度に不思議な気分になり湧いて来た疑問をぶつける。

 

「しかし店主よ、お主はそれで良いのか?先代のみならずお抱えの職人までどこの誰とも知らぬ者に持って行かれて。」

 

 道三の疑問を聞いた店主長次郎は、一度真面目な顔をした後、にっこりと商売用では無い笑顔を浮かべ

 

「最初は複雑な気持ちでございました。ですが店の商品をご覧下さい。何か解りますか?」

 

 張り合うのも馬鹿らしくなりますと店主長次郎。

 店主に言われ道三は初めて文珠屋の商品に目をやる。

 並んでいる商品の七割が見た事も無い物だった。

 道三は一つ一つ手に取り、ただ唸る事しか出来なかった。

 自分の手の中にある物が何に使う物かさっぱり解らなかったからだ。

 その様子を見ていた光秀が助け船を出す。

 

「ご隠居、それはばれったと言って、女性の髪を止める物ですぅ。」

 

「なっ!これがかんざしだと言うのか!」

 

「いえ、かんざしの様に纏めた髪に刺して使うのでは無く、その金具に挟んでまとめるんですぅ。」

 

「識っているのか十兵衛!」「はあ、私も女ですから」と言う温度差のある主従。

 そんな話をしてる中、店の外から何やらやたらと騒がしい集団が近づいて来た。

 




いかがでしたか?

幻灯館の面子がいないお話し、初めてですね。
次話には騒がしい連中が合流します。
道三、光秀、どうなる事やら。


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