織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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引き続き堺での一幕


夜語りの二

 半刻後、出て行った時よりも難しい顔つきで宗久が戻って来た。

 モルジアナは宗久の表情を見て自分から声をかけるか迷ったが、あまりに悲痛な顔つきに我慢できずに声をかける事にした。

 

「今井様、いかがなされたので御座いますのでしょうか?」

 

 言われた宗久は顔をしかめたまま

 

「いや、お恥ずかしい話ですわ。お客はんに渡す商品がこちらの手違いでわやになってしもうて。」

 

「わや?」

 

「あっ。すんまへん。方言ですわ。」

 

「ほうげん………ああ、それでどう言った意味なので御座いましょうか?」

 

 宗久は腕を組んだ姿勢のまま少しでも気が紛れればとモルジアナの話に乗る事にした。

 

「まあ、めちゃめちゃになってもうた見たいな意味ですわ。」

 

 モルジアナは手に持っていた湯呑を卓上に置き

 

「今井様、お手伝い出来るかどうかは解りませんが、万が一と言う事もあるので御座いますのよ。わたくしに何があったかをお教え頂けは頂けないで御座いますでしょうか。」

 

 モルジアナの申し出を宗久は藁にでも縋る気持ちで受ける事にした。

 まずは何から説明しようと思案する宗久にモルジアナは

 

「その、わや?になった商品とはどう言った物なので御座いますのでしょうか?」

 

「商品でっか?まあ、簡単に言えば……石ですわ。」

 

 モルジアナは頬に手を当て首を少し傾げながら

 

「石?で御座いますでしょうか。」

 

「さいです。厳密には鉱石と言う物でんな。」

 

「鉱石……あの、鉄とか銅とかを含んだ?」

 

「さいです。」

 

 モルジアナは一度天井を見上げた後、再度口を開く。

 

「それで、その鉱石がどうされたので御座いますのでしょうか?」

 

 その問いに宗久は苦渋の表情を浮かべ

 

「混ざってしもたんですわ。」

 

「混ざった、で御座いますので?」

 

 キョトンとした表情でモルジアナは言う。

 言われた宗久ももう笑うしか無いのか満面の笑みを浮かべ

 

「ええ。混ざってしもたんです。もう、どれが鉱石でどれが石ころか解らんほどに。」

 

「では、普通の石と鉱石を分ける事が出来れば良いので御座いますのでしょうか?」

 

「いやいやモルジアナはん。簡単に言いますけど厄介な事でっせ。」

 

「いえ、簡単な事なので御座いますのよ。わたくしが以前やっていた仕事と同じなので御座いますですのよ。」

 

 宗久の不安げな質問をモルジアナは笑顔で返し

 

「それでは行きましょうなので御座いますのよ。」

 

 事も無げに言った。

 二人は連れ立って荷が収められている蔵へと向かう。

 蔵の前に立つ二人、その蔵は宗久の今の心境を映すが如く黒く思い扉を閉ざしていた。

 扉の取っ手に宗久は手をかけゆっくりと開けにかかる。

 扉はギギィと言う音を立て開いて行った。

 蔵の中は明かり取りが天井近くの小さな窓一つのため、外からの明かりが届かない場所は闇に包まれている。

 その明りが届く範囲、そこに石と鉱石が竹籠に入って置いてあった。

 籠の数は十数個、一つの籠の高さ幅が一メートルほどあるので石の個数はかなりの物だろう。

 宗久は再度その商品を見てため息を吐きながら頭を抱えるが、モルジアナの口からは宗久を驚かされる言葉が飛び出した。

 

「かなりの量があるので御座いますわね。この量だと識別にけっこうな時間がかかりますがよろしいので御座いましょうか?」

 

「さいですなぁ。ですが一月たっても終わるかどうか……」

 

「いえいえ。そうでは御座いませんですのよ。」

 

「はぁ?ならどれほどの日数が?」

 

「そうですわねぇ……二刻ほどで御座いますですのよ。」

 

「はぁあ!二刻って!モルジアナはん、いったいどんだけの人数で仕分けるつもりでっか?!」

 

「人数って。何を言っているので御座いますのでしょうか?仕分けるのはわたくし一人で御座いますですのよ。」

 

「ひ、一人?でっか?」

 

「はい。で、御座いますですのよ。」

 

 モルジアナの言葉は宗久にはとうてい信じられない物だった。

 そもそもモルジアナは仕分けをすると言っているが、宗久にはその方法が皆目見当がつかなかったからだ。

 以前仕分けした時は、わざわざ琉球から取り寄せた磁石やはかりや水を使っての重さや比重で仕分けをしていた。

 それも何人もでだ。

 しかしモルジアナは一人で仕分けすると言っている。

 今の処、特に何か機材を要求する素振りもない。

 宗久は不躾とは思ったが素直にその事をモルジアナに訊ねてみる事にした。

 

「モルジアナはん、不躾とは思いますがどうやって仕分けを?」

 

 モルジアナはキョトンとした表情をしたのち、にっこりと妖艶な笑みを浮かべ

 

「簡単な事で御座いますのよ。見れば解りますので御座いますですのよ。」

 

 言うが早いかモルジアナは近場な籠から石を二つ手に取り宗久に見せながら

 

「わたくしの右手のが鉱石で左手のは普通の石で御座いますですのよ。」

 

 言われても宗久には同じ様な石ころにしか見えない。

 

「わてには同じ石ころにしか見えまへんが?」

 

「こんなに違うのにで御座いますか?」

 

「へ?どこがでっか?」

 

「色、で御座いますですのよ。」

 

 と言われても宗久にはサッパリだった。

 そこで

 

「モルジアナはん、失礼とは思いますが調べてみても?」

 

「どうぞどうぞで御座いますですのよ。」

 

 宗久はモルジアナが鉱石だと言う物を持って一度その場を後にする。

 再び戻って来た宗久の表情は……満面の笑みでモルジアナの両手をがっしりと握りしめ

 

「モルジアナはん!あんたは神さんや!」

 

 と言って頭を下げる、これでもかと言わんばかりに。

 言われたモルジアナは頬に手を当て

 

「たいした事では無いので御座いますですのよ。」

 

 うっとりする様な笑顔で応えた。

 しかし宗久の興奮は収まらない。

 

「モルジアナはん!この、納屋!今井宗久!全力を持ってモルジアナはんの働き口!探させてもらいます!」

 

 モルジアナは宗久からの言葉に驚きつつも宗久の両手を握り返し

 

「本当で御座いますですか?」

 

「ほんまですわ!この今井宗久!恩人に嘘なんぞ言いますかいな!大船に乗った気持で任せてください!」

 

「後は頼んます!」の声と共に宗久は蔵から飛び出して行く。

 

 残されたモルジアナはもはや癖なのだろうか頬に手をあて微笑みをもらしながら

 

「やはり特技と言う物は身を助けますので御座いますね。」

 

 と呟いた。

 

 

 

 

 

 

~狐囃子製薬~

 

「と、言うわけですわ。」

 

「なるほど。しかしすごい方ですね。」

 

 現在、今井宗久は注文品が何とかなりそうだと言う報告を持って狐囃子製薬に来ている。

 その狐囃子製薬の奥の座敷で店主候補の一人、主任である木下小一郎と話していた。

 

「しかし、そのモルジアナさん?いったいどうやって見分けているんでしょうね。」

 

「そこなんですわ、何でも見れば解るとか、色が違うとか言うてましたが、わてにはおんなじ石ころにしか見えまへんから。」

 

 宗久のその言葉を聞いて小一郎は腕を組みながら天井を見上げ

 

「旦那様なら………旦那様ならその謎、解けるかもしれませんね。」

 

「旦那様?ああ、美津里はんでっか。」

 

 そこで宗久の脳裏にあの日の光景が浮かぶ。

 約半年前の幻灯館の面々と初めて出会ったあの日の映像が。

 

「せや。せやねん。なんで忘れとったんやろ。」

 

「何がですか?」

 

 宗久の突然の豹変に驚き声をかける小一郎。

 

「ウチの依頼人、モルジアナはんの働き口ですわ。幻灯館、美津里はんの所やったら。どう思います小一郎はん。」

 

「ああ、そうですね。良いかも知れません。そのモルジアナさんがギヤマンの製法なんかも知っていたら尚良しですね。」

 

 小一郎は宗久から事の詳細を聞こうともせず適当な返事を返す。

 と言うよりも木下小一郎はモルジアナを知らない。

 商売に不都合が無い限り面白そうな方を選択する、彼もまた幻灯館の一味にふさわしい人物だった。

 

「せや、それもあったわ。後で聞いてみます。」

 

 その後細かい事柄を相談し合い、宗久は納屋への帰路についた。

 

 

 

 

 

~納屋・奥の座敷~

 

 その日の夕食(ゆうげ)、客間にて宗久とモルジアナは二人きりで出された料理に舌鼓を打っていた。

 しかしモルジアナには一つふに落ちない事があった。

 それは宗久の機嫌がよすぎる点だ。

 確かに案件が一つ片付いた事で機嫌が良かったが、それにしても機嫌が良すぎるのだ。

 

「今井様、何か良い事でもあったので御座いますですか?」

 

「解りまっか?」

 

 見え見えだったのに、宗久は先ほど以上の笑顔で言葉を返す。

 

「はい。」

 

「実はでんな、問題が二つとも解決したんですわ。」

 

「えっ?二つとは?なので御座いますのよ。」

 

 モルジアナの問いかけに宗久は一度キリリと表情を引き締め

 

「もちろんモルジアナはんの働き口の事もですわ。」

 

「本当で御座いますのですか。」

 

「ほんまやほんま。」

 

 モルジアナは少し興奮したのか蜜色の肌を赤く染めながら最後のしこりとも言うべき質問をする。

 

「それで、相手の方にお話は、なので御座いますですのよ。」

 

「まだですわ。ですが……」

 

「ですが、で御座いますですか。」

 

「さいです。あの人やったら間違いはありまへんわ。それに、この日ノ本でモルジアナはんの願いが三つ共叶うのはあそこしかありまへんでしょう。」

 

「そんな場所があるので御座いましょうか。」

 

「あります。」

 

「そこは?」

 

 

 

「尾張の国、清洲にある幻灯館。主の名は八房美津里。」

 

 

 

「………幻灯館、………八房様で御座いますですか。」

 

 モルジアナは宗久の言葉を繰り返す。

 聞いた宗久は大きく首を縦に振り

 

「さいです。一度会おて見て、気に入らなければ断ればええと思います。」

 

「そうですわね。お願い致しますで御座いますですのよ。」

 

 言ってモルジアナは頭を下げる。

 モルジアナの行動を手で制止しながら宗久は

 

「それで清洲行きの時期なんやけど………」

 

 モルジアナは頭を上げ、頬に手を当てながら宗久の言葉を待つ。

 

「今は冬、海は荒れるやろうし鈴鹿峠は雪で閉ざされるやろうし、来年の春、わても尾張に用があるさかいその時で良いでっしゃろか?」

 

「はあ。わたくしとしてはそれでよろしいのですが、その間わたくしはどうすれば?」

 

 モルジアナの問いに宗久はいたずらっ子の様な笑みを浮かべながら

 

「心配せんでもええです。それまではこの今井宗久が面倒みさせてもらいます。肩身が狭いとお思いなら店の方でも手伝ってくれればええですわ。」

 

 モルジアナはしばしの間話を受けるか考えたが知り合いも居ない異国での事、宗久の提案に甘える事にした。

 

「では宗久様、よろしくお願いしますので御座いますですのよ。」

 




いかがでしたか?

次話からは清洲に場所を移し、ヤツらが登場します。モルジアナの就活はどうなるのでしょうか。
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