織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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聖剣創りました。


夜語りの三

~春・雫里の里~

 

 春の日差しは暖かく雫里の里を照らす。

 小春日和の中、幻灯館主人と自称その妻雫は水場で歯を磨く美奈都と芽衣を眺めていた。

 

「歯磨き歯磨き~」

 

「いぇいぇい!いぇー!」

 

「歯磨き歯磨き~」

 

「ふー!ふー!」

 

「歯磨き歯磨き~」

 

「いぇいぇい!いぇー!」

 

「歯磨き歯磨き~」

 

「ふぉー!ふぉー!」

 

 美奈都は器用に歯を磨きながら即興であろう歌を歌いながらお尻をプリプリと振っている。

 そして芽衣はこれまた器用に歯を磨きながら会いの手を入れながらお尻をプリプリと振っている。

 俺はこの光景を遺憾ながら隣に居るちんちくりんに尋ねる事にした。

 

「雫さんや。」

 

「なんじゃお前様。」

 

「なんだアレは。」

 

「アレかや?あれはのう、三日程徹夜した人間の姿じゃな。」

 

 雫の説明に俺は「ふむ。」と納得の意を表しながらも

 

「一体あの二人は何をして三日も徹夜を?」

 

「二人ではないぞよ。」

 

「ぞよ?」

 

「白ちゃんもんじゃ。」

 

「もんじゃ?」

 

 何かおかしな方向へ会話が向かっている。

 しかしそこは曲者揃いの幻灯館をまとめる者、氷の様な冷静さで話を進める。

 

「で、その源内は?」

 

「白ちゃんかや、白ちゃんじゃら夕べ遅くに脱落してアビバの床で寝ておるはずもんじゃ。」

 

だんだんと言動がおかしくなって行く。

 

「そのアビバは美奈都のアビバか?」

 

「そうじゃ。美奈都のアビバじゃらん。」

 

 恐らくアビバとは鍛冶場の事らしい。

 語尾がおかしいのは言葉を話し終える前に寝落ちしそうになるからだろう。

 

「そうか。…………四人目はお前か。」

 

「良く解ったな我が旦那様よ、せいかいるるぶ。」

 

 どうやら限界が近いらしい。

 頭をグワングワン揺らしながら何とか立っている雫。

 美奈都と芽衣に視線を移すと………まだお尻を振りながら歌っている。

 

「それで、三日も徹夜して何をしていたんだ?」

 

「うみゅ?理由やかん………それはのう………………………ぐぅ」

 

 おねむの様だ。

 しかし、まだ眠らせる訳には行かなかった。

 徹夜の理由を聞きださなくてはいけない。

 心を鬼にして隣で立ったまま眠りに落ちる自称嫁の後頭部をはたく。

 

 スパン!

 

「うを!なんじゃ!なんじゃ!」

 

「それで雫、徹夜の訳は?」

 

「おお!そうじゃった!それはのう………………………ぐぅ」

 

 スパン!

 

「おお!」

 

「徹夜の訳は?」

 

「うむ、何げに後頭部が痛いが?」

 

「陽気のせいだろ。徹夜の訳は?」

 

「そうかや~。まあよいわ。苺の剣を造っていたの………じゃらん………………………ぐぅ」

 

 そう言って雫は眠りに落ちて行った。

 俺はため息とともに「仕方無いか」と一言つぶやき、隣で立ったまま眠る嫁の襟を猫つかみして担ぎ美奈都と芽衣の下へ向かう事にした。

 水場に着き二人に声を掛けようとした時後ろから声を掛けられた。

 

「あ!マスター、おはようございます!」

 

 真っ赤な髪をお団子にまとめた小柄な少女、ブリュンヒルデだった。

 最近は甲冑の下に着ていた武士の服では無く、女の子らしい着物姿の方が多い。

 今日も可愛らしい薄い黄色の小袖姿だ。

 

「おはようさん。何か用かい?」

 

「はい。美奈都さんに呼ばれまして。」

 

 そんな事を話していると水場の方からも声があがる。

 

「おや!ヒルデちゃんだ!芽衣、芽衣、ヒルデちゃんだよ!奇遇だよ!偶然だよ!驚きだよ!」

 

「ほんとだ~。いちごちゃんだ~。すごいね~。さすがだね~。みごとだね~」

 

 二人ともブリュンヒルデを認識はしているのだろうが三徹明けの妙なハイテンションで後半が雫同様可笑しな事になっている。

 改めて美奈都と芽衣の方へ振り向き声をかける。

 

「ようやく現実に戻って来たか。それで美奈都、ヒルデに何の用だったんだ?」

 

 内容は先ほど雫のダイイングメッセージの通りなのだろうが改めて美奈都の口から聞く事にする。

 

「よう?様?妖?陽?用。用!用だよ芽衣!御用だよ!」

 

 だんだんと美奈都は覚醒して来たようだ。

 方や芽衣は雫同様立ったままコクリコクリと船を漕ぎ出していた。

 ヒルデは芽衣にそっと近づき「うんしょ」の声と共に芽衣をおんぶする。

 ヒルデの行動を見守りつつ美奈都に先を促した。

 

「それで、ヒルデに何の用だったんだ?」

 

「あのね、あのね、出来たんだよ!ヒルデちゃんの剣!」

 

「本当ですか!」

 

 どすん。

 

 驚きと興奮のあまり芽衣を落とすヒルデ。

 

「よいしょ。」

 

 何事も無かった様に再びおんぶする。

 

「本当に完成したんですか!」

 

 どすん。

 

「よいしょ。」

 

 再び何事も無かった様におんぶするヒルデ。

 ブリュンヒルデと言う少女、何と言うか身振り手振りを交えなければ話が出来無い様だ。

 その度に地面に落下する芽衣、今はヒルデの背中でだらんとしている。

 ………死んでんじゃ無いだろうか。

 

「名前も決まっているんだよ~。見る~。今すぐみる~。み~る~。み~~~~~~」

 

「………限界だな。荷物は四つに運び手は二人、ふむ、どうするか。」

 

 そう言いつつぐるりと回りを見渡すとこの手の仕事にピッタリな人物が通りがかった。

 農作業の途中だろうか。

 

「弥助!仕事中悪いんだが少し頼まれてくれないか?」

 

 声をかけると「ナンデショウ?」と近寄ってくる。

 眼前まで来た時に改めて用事を頼む。

 

「仕事中悪いんだが少し頼まれてくれないか?美奈都とコレを屋敷まで運んでくれないか。」

 

 そう言って背中に背負っていた雫を弥助の前に差し出す。

 弥助は俺の差し出した荷物を宝物のように抱き抱え

 

「ハイ、ショウチシマシタ。旦那サマハ?」

 

「俺かい?俺は鍛冶場で寝ている源内を運ぶ。ヒルデは芽衣を頼めるか?」

 

「はい!頼まれました!」

 

 どすん。

 

「よいしょ。」

 

「すまないが剣の件は美奈都が起きてからで良いな。」

 

「はい、良いですよ」

 

 どすん。

 

「よいしょ。」

 

 ヒルデの行動は見なかった事にしつつ弥助に美奈都と雫を預け鍛冶場へ足を向ける。

 

「源内、俺だ、入るぞ。」

 

 戸口に立ち、声を掛けてから中に入る。

 表戸を開けると室内からは暖かな空気が流れて来た。

 春と言っても夜はまだ寒い、炉に火を焚き室内を暖めていたのだろう。

 その証拠に炉にくべられた物がまだ燻っている。

 一通り室内を確認しながら源内を探す。

 二つに分かれた部屋の奥、主に調べ物や書き物をする方の部屋の長椅子に目当ての人物は居た。

 居たと言うよりは長椅子の上で眠っている。

 静かに近寄ると、すうすうと気持ちよさそうに眠っていた。

 起こさない様に慎重に抱き上げ、いわゆるお姫様だっこで鍛冶場を出た。

 ゆっくりと暖かな日差しを浴びながら屋敷への道を半分ほど歩いた時

 

「……うん。あれ?……だんな…さま?」

 

「ああ。」

 

 目は空いているのだが、まだ寝ぼけて居る様だ。

 

「なんで?わたし………」

 

「いいから。寝ていろ。」

 

 努めて優しく言葉をかける。

 

「はい。だんなさま……」

 

「なんだい。」

 

「……だいすきです……どこにもいかないで」

 

 言葉と共に源内の真っ白な指が俺の服の襟を握る。

 それは親に捨てられ、何かに縋る幼子の様だった。

 俺はそんな源内の仕草に面食らいながらも

 

「大丈夫だ。何所へも行きやしない。安心して寝ていろ。」

 

「はい………」

 

再び源内は微笑みながら眠りに落ちていった。

 

 

 

 

何処へも行かないで………か。

 

 

 

 

~翌朝・美奈都の鍛冶場前~

 

 四人が目覚め仕切り直しと言う事で次の日の朝。

 美奈都の鍛冶場の前には美奈都、ブリュンヒルデ、雫、芽衣の四人が集まっていた。

 そして少し離れた木陰で俺と源内は事の成り行きを見守っていた。

 美奈都が一度鍛冶場に入り大きな、一メートルはあるだろうか、桐の箱を持って出て来た。

 その箱を真剣な表情でブリュンヒルデに渡す。

 ブリュンヒルデも同じく真剣な表情で受け取り

 

「美奈都さん、ありがとうございます。開けても?」

 

「はい。どうぞどうぞ。それはヒルデちゃんの為だけに造った物だからね。」

 

 言われたブリュンヒルデはゆっくりと箱を地面に置き、蓋を開け、中の物を手に取り頭上に掲げた。

 箱の中身は剣(つるぎ)。

 大きさから言ってバスタードソードに分類されるだろうか。

 日本刀よりも幅広な刀身。

 しかしこの剣で目を引くのは刀身だけでは無い。

 一番目に着くこの剣の最大の特徴はその鍔(つば)。

 猛々しい猛禽類が羽を広げたかの様な特徴のある金と青に輝く鍔。

 その中心には赤い、ブリュンヒルデの髪を連想させる宝玉が埋め込まれている。

 

「どうですか?違和感とかはないですか?」

 

 美奈都は慎重に確認の言葉を投げかける。

 ブリュンヒルデは一度目をつむり剣の感触を確かめた後

 

「はい、大丈夫です。初めて持ったとは思えないほど馴染んでいます。」

 

 そう言って優しげな笑顔を見せた。

 その笑顔を確認した美奈都は

 

「それでは!その剣の名前を発表します!雫ちゃん!どうぞ!」

 

 さっきまでの緊張した雰囲気は何所へやらノリノリのテンションで美奈都は話を雫に託す。

 

「うむ!苺よ、良く聞くのじゃ。その剣はお主の為だけに生まれた剣。お主が我が旦那様の剣であると言うのならばその剣はいわばお主の半身。しかと聞け!その剣の名は“ロトの剣”じゃ。」

 




いかがでしたか?

次話は剣の名前の由来と就活の行方です。
彼らとモルジアナの出会い、どうなるのでしょうか。これからお話しはシリアスな方向へ?
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