カラコロ、カラコロ。
俺はリベルタの飴を舐めながら、海中を泳いでいた。
リベルタの言っていたサフィーロがどの方角にあるかも知らないけれど、まず海上に出てみようと思ったのだ。
そうして、陸の存在とコンタクトできればなにかしらわかるのではないか。気分は人魚姫といったところだろうか。
そういえば、リベルタの時はずっと「俺」と言っていたけど、ソプラノの声で俺というのは何だか声に出していて違和感があった。
もっと、かわいらしい一人称を使うべきだ。
でも、長年「俺」呼びで慣れていた身からすると、丁寧な敬語での「私」ではない「私」呼びはなんだかぎこちない。
「ワタシ……ワタシ……ワタ……」
何度か声に出してみても、硬さは取れなかった。むしろ、意識したせいでより悪化した気もする。
これはもう、俺の個性としてやっていくしかないかもしれない。
俺は、飴を舐めつつ暇な遊泳時間を潰そうとしていた。
だから、こんなくだらないことも考えていられる。
リベルタの飴は、噛み砕くのは勿体なくて、そのまま舌で舐め溶かしている。なんだか、味は、ネイビーな味……だ。形容し難い。
なんと言えばいいのか。真夜中に食べるラクレットチーズ? キャンプのマ焼きシュマロ。屋台で食べた立ち食いそば。
系統としてはこの辺りな気もするが、べつにチーズもマシュマロもそばの味もしない。甘さは……あるはずだ。
そんな飴を食べて、俺は何かレベルアップしたとかそんな感覚は無かった。
じんわり、リベルタと話した十数分の思い出が、心に染みるようで、深海より冷たくなってしまった彼女を惜しく思った。
でも、なんだか心のどこかが満たされた気もする。
これが、祝福なんだろうか?
物理的に強くなったとか、特別な力が使えるようになったとか、そんな感じはあまり無い。でも、なんだか、より俺の存在が、この世界に濃くなった気がした。
祝福は、されたものの目には見えないものなのかもしれない。
飴はそこまで大きくないけれど、もったいぶって舐めているからかなかなか小さくならない。
でも、飴は確実に小さくはなっていて、俺の見る景色も黒から深い青に変わり始めていた。
ここまで来ると、海の中、そこに棲む生き物がちらほらと現れ始める。
けれど、話しかけてみても反応は無く、この世界の人魚は魚と話せないと知る。
リベルタは、どうやって話しかけてきたのだろう。
長年生きていたから、他種族に声を伝える方法も、知っていたのかな。
彼女には謎が多かった。死んでからも、それは長く俺の頭に居座るだろう。
ともかく、俺はサフィーロを目指したい。
彼女が、あそこで死んでもいいなんて思った土地はどんな楽園なのか、見に行きたかったのだ。ある種の、墓参りのような気分でもあった。
彼女が本来墓を作られるような種族であったなら、それはきっとサフィーロにあったのだろう。
どこへ行けば、サフィーロに着くのですか。
そう聞いても、やはり魚はうんともすんとも言ってくれない。
「おお」
だが、頑固な魚と違い、なにやら発見の匂いがしそうなものを俺は見つけた。
この深い青に包まれた世界、青に照らされた海藻と海底以外にフォトスポットにもなれないだだっ広さだ。
けれど、そんな殺風景さにも、一つの変調が現れるらしい。
俺の目の前には、穴の空いた木製の船……沈没船が沈んでいた。
リベルタの場所から一時間は泳ぎ続けたんじゃないだろうか。疲れは無いが、暇でどうにも辛かったから、ここで何か面白いことがあるというのは嬉しいものだ。
普通なら、幽霊船とか海賊の呪いとかで、怖がる人も多いかもしれない。実際、藻や海藻にまとわりつかれて、不気味に旗のドクロがゆらめくこの船はゴーストシップとして差支えなさそうだ。
このまわりだけ、気温が数度下がっているような気もする。
いや、海流が俺の髪を撫でるのが、心地いいだけかもしれない。そんな冷たさだ。
つまり、幽霊船にしては不穏さが足りなかった。
「お宝か、宝の地図か……」
俺は、なんだか童話の主人公にでもなったつもりで、その海賊船に入ることにした。古今東西、ドクロを旗に飾るなんて海賊に決まっている。
俺は、船の腹、どかんと大穴が空いたところから入り込んだ。木片は、凶器のように尖っていて、うっかり触れると体に刺さりそうだ。
一時間も泳ぎ続ければ、自分の体にも慣れてくる。
そっと尾びれや背びれに注意しながら、そろそろ船内に入った。
と言っても、中は藻が相変わらず占拠していた。
海流の影響か、取り付きづらい材質なのか、藻が少ない場所もあったものの、全体的には緑色をしている。
俺は船の構造なんて知らないから、とりあえず近くの部屋から見ていくことにした。
最初の部屋は、全員が雑魚寝していたらしい、箱型のベットであるボンクやバラバラになったボードゲームらしきものがあった。
次には、倉庫らしいあまりいい匂いではない樽や木箱が詰まった場所。
次には、食堂なのかたくさんの椅子や長テーブルがある広い部屋だった。
そこで骸骨を見た。