「さて、合理的に行こう。鋼流 心」
「あっはい!!」
「お前は留年だ」
「……なんでぇ!!?僕優秀な生徒だった―――も、もしかして出席日数とかその辺り……」
「合理的で結構」
優秀な生徒と言われたのに留年と言われてしまって焦るが、直ぐに理解する。入院している間に授業に出る事が出来なかったが為に出席日数が足りなくなってしまっている、これは確かに成績優秀とか全然関係ない。
改めて自分の事を整理する、雄英高校ヒーロー科、1年A組の鋼流 心。ヒーローネームはハルドメルグ、1年生でありながらも6月には恋人と共に仮免の取得という雄英でも滅多にない快挙を成し遂げた超を付けてもいい程の優秀な生徒……が、ヒーローインターン中にヴィランが避難せずにいた民間人に攻撃を仕掛け、それを庇う形で大怪我を負い、長期の入院を余儀なくされてしまった。しかも意識不明であったために……本来であれば留年を避ける為の補修や課題も出来ずにいた。
「はぁぁぁぁぁぁ……そりゃ僕が悪い、って事になるのかこれって……悪いのってヴィランですよね、あと何度注意しても避難してくれなかった観客」
「それは同意だ。だがまあ世間はお前の行動を、勇気ある雄英生による英雄的な行為、として賛美している、お前が寝てる間に何度ニュースやバラエティ番組で見かけた事か、感動して泣いてた女優やら俳優もいた、臭い演技だったがな」
「それはそれでやだなぁ……なんか勝手に僕の知らない所で僕の人生を勝手に娯楽として消費されてる……これ言い過ぎですかね」
「同意見だ」
極めて不合理的だと相澤は言う。ヴィランがそちらを狙えばヒーローは守りに入らざるを得ないし人質に捕らえれる可能性だってある、それらの危険があると分かっているのに応援と称して避難を行わない馬鹿共がいる。そんな奴らの為に、生徒が意識不明になった……そう思うと腹が立ってしょうがない。そしてその行いを勝手に英雄視し、賛美し、娯楽として消化された。それが今の社会なのだと言われても、こればかりは合理的に処理できない。合理性を重んじるとはいえ、相澤とて人間なのだ。
「それで僕、どうすればいいんです?」
「一先ず1週間後には退院の予定だったな、それまでは大人しくしていろ。その後は―――リハビリを兼ねた個性強化訓練だ、お前にはもう2年に進む道はない、だったらその時間を徹底的に利用しろ」
「やっぱそう来たか……」
予想こそはしていたがやっぱりそう来たか……と思っていると具体的なプランを提示してきた。
「お前の個性、液体金属は体内の鉄分か周囲の金属を液体金属に変換して操る。環境に依存しつつも自己生産できるのも強みだが、鉄分って奴は人間にとっても重要な栄養素だ」
「だから僕のコスチュームは各部に液体金属を高密度圧縮したシリンダーを装備してるんです」
「それも見直せ」
「えっ?」
コスチュームの仕様書を投げつけながら相澤は溜息交じりにいう。
「ハッキリ言うが、今のコスチュームはお前の個性の限界を引き延ばしているだけだ。お前は動き易さを重視する為と言っているが、防御力はかなり低い。そこも改善しとけ」
相澤から言わせれば、心のコスチュームの設計思想は単純明快、シリンダー内部の液体金属を使い捨てにして初撃で最大火力を叩き込む事のみに重点を置いている。その為の機動力の為に黒いボディスーツの上にグローブ、ブーツ、胸部に装甲が集中。ヒーローコスチュームというよりもただの戦闘服でしかない。
「そして―――インターンの割合を増やせ、これを利用しない手はない」
「……あ~実戦経験を積みまくれ、と?」
「そうだ、今のインターン先は」
「……ミルコさん」
心曰く、“住所不定の高速戦闘狂“ “全国を精力的に飛び回る事務所非保有型トップヒーロー“と表現する事もあるトップヒーローの一角のミルコ、彼女最大の特徴は本来構えるべき事務所を構えずに単身で自由に日本中を駆け巡るという点にある。そんな暴言を吐いていいのかとも思うだろうが、ミルコからは一切媚びる事のない態度を寧ろ気に入られている、3年間私の所でインターンでいいだろと言われた事もあるが……他の所での経験も積んでおきたい所である。
「それと入院費云々については気にするな。当然のようにミルコが全額出した」
「というか、ミルコさん大丈夫だったんですかね……」
「インターン中の責任か、あの状況でのミルコを悪く言う方が逆に糾弾させる。こういう言い方はお前に悪いが、あそこでミルコが回避した攻撃をお前が防御したからこそ怪我人は0でヴィランも即座に鎮圧できた、ミルコがダメージを負っていたらどう転んでいたかは分からん……まあミルコはお前が入院した事については全部自分の責任だと言ってたが……世間的にそこまで責められてはいない」
ミルコすら苦戦するヴィラン、というよりも液状化の個性だったからミルコのそれが殆ど意味がなかったが、注意を集めるという意味でも戦闘の継続は必要だった。それ故の―――戦闘継続。その際に起きた事故。寧ろ、液状化の個性が衝撃を吸収切れずに殴られるたびに動きが止めってしまうミルコの肉弾戦のヤバさが改めて明らかになったとも言える。
「つまり―――退院したら個性強化訓練とインターンで実戦経験、詰めと……?」
「そうだ、今12月だから三か月の間はそうなる。それで次の1年はそれで留年しないようにしろ」
「端的に言って……くそハードでは?」
「くそハードだ」
「……はぁぁぁぁぁぁっこの社会不適合者め」
「問題児が」
お互いに全くの容赦がない、そんな言葉の欧州の直後に病室に入って来たのは―――自分の恋人のレゼ。そんな彼女は自分が眠っていた3か月間、毎日お見舞いに来てくれていた。自分の覚醒に彼女が関わっていないなんて事はない、と思っている。
「どうしたの心ちゃん、相澤先生睨み付けて」
「聞いてよレゼ、僕退院したら個性強化訓練とインターン漬けだってさ」
「うっわぁっ超ハードだね。大丈夫私も付き合うから」
「せめて訓練だけにしろ、お前は普通に進学しろ」
「え~……いや、心ちゃんを先輩として見るのもありなのでは」
「おい、そこは味方であれよ僕の恋人として」
これは銀色に輝きながらも流されながらも歩き出す僕がヒーローとして、再び雄英高校の1年生、そこから始まる物語だ。