「個性、強化訓練だって、言ってたじゃん、相澤先生ぇ~!!!」
退院後、まずする事とは個性強化訓練―――ではなく、鈍っている身体を叩き起こす事だという事で相澤特製の特訓メニューが組まれている、個性を鍛えるのも大事だが、マジ基本中の基本である基礎体力がない事には始まらないという事なのだろう。
「はいはいボヤかないボヤかない、頑張って心ちゃん」
「自転車乗ってて楽そうですねぇボクの恋人はぁ!!!」
「うん楽だよ」
「そこ素直に返さなくてよろしい!!!」
早朝のランニング、身体の各部に重りと濡れマスクを付けた状態でのそれを行う為に身体には負荷がかかる、退院しての身体には利くが……3ヶ月で錆を落としたうえで個性を伸ばし、実戦経験を積む為には多少の無茶もしなければならない……これが多少という相澤は本当に鬼だと思い、文句を口にしながらも心はレゼの応援もあって投げだす事もなく真面目に取り組むのであった。
「これでこの後は雄英の施設使って個性強化訓練でしょ……これ、死なないかな……」
「先生は死ぬ気でやれば死なないって言ってたよ」
「それ半分位真面目にやらないと死ぬからって言ってますよね先生、恨みでもあるのかあの社会不適合者……」
「そう言うからじゃないの?」
「社会道徳のアンチテーゼと言っても過言ではない先生が悪い」
「そこまで言うか」
「合理性だけで社会は渡っていけないのです」
と言いながらも朝日が水平線の向こう側から見えてきた、此処は多古場海浜公園。海浜公園というには粗大ゴミが幾重にも積み重なっており、余りにも酷い形相になっている。此処は海流的な都合もあり漂着物が余りにも多い場所、しかし真の問題はそこに託けてここにごみを捨てる人が後を絶たず、何度か清掃計画が持ち上がったが、余りの量の為にも後回しにされているとの事だ。
「ねぇレゼ」
「気持ちは分かるけど流石に私達だけじゃ無理だよ」
「だよなぁ……でもだからといって何もしないのは―――」
「もう直ぐ年が明けてしまうぞ~!!!何とかここまで来ているんだ気合を入れるんだ~!!!レッツ体育会系~!!!」
「は、はい~!!!」
可笑しいと言おうと思った言葉を塞いだのはトレンチコートを羽織った骸骨にすら見えてしまう程にガリガリに痩せてしまっている男性と緑髪の少年がいた。男性の方はインストラクターなのか、それとも指導員なのか、細かく指示を飛ばしている。少年の方はそれを受けて必死にゴミを運んで駐車場の軽トラにゴミを積んでいく。
「もしかして……ゴミを片付けてるのかな」
「みたい、だね。今ネットで見てみたけどさ、なんかちょっと話題になってるみたいだよ、多古場海浜公園を一人で掃除を行っている緑髪の少年、手伝おうとする人もいたみたいだけどなんか雄英高校入試の為のトレーニングの一環でやってるんだってさ。応援しようって動いてる人もいるみたいだよ」
レゼが見せてくれたスマホには過去の海浜公園との比較映像があり、以前は砂浜全体を覆い尽くしていたゴミが、4分の1程度にまでは減っている現状があった。そして入試の為のトレーニングとはいえ、無償でこの公園を蘇らせようとしているのは素晴らしいと素直に思う。
「はぁはぁはぁはぁっ……」
「よし、それでは私はこのごみを処理場へ―――」
「精が出ますね」
と声を掛けられて二人は此方を向いてきた、男性の方は直ぐに自分達の事に気づいたのかひどく目を丸くしているが、少年の方は疲れている為か気付いていない。
「この海浜公園の復興活動ですか?」
「あ、ああそんな所なんだ。この少年は雄英高校への入試の為にトレーニングプランの一環で此処を片付けているんだ」
「それは凄いなぁ……行政ですら放置してる事を進んでやるなんて凄い事ですよ」
「い、いやその、僕はそのトレーニングの為で……純粋にここを復活させたいとかなんて事は……」
「別にいいんじゃないかな」
謙遜して言葉に詰まる少年の言葉に少々被せるように心はその言葉を否定する事はなかった。
「僕は別にそれでもいいと思うよ、結果よければすべてよし、やらない善よるやる偽善っていうじゃない。始まりの気持ちがどうであれ、君は今、地域の皆さんだけじゃなくて行政ですらやらなかった事を成し遂げようとしている。それに代わりはないだろう?」
「そ、そう言われたら、そのちょっと、嬉しいです、かな……?」
「そうだぞ緑谷少年!!もっと君は自身を持つべきだ、以前も言ったがヒーローとは本来奉仕活動なのだからね!!」
「最近それ言ってくれるヒーローも滅多にいないよね~、辛うじてオールマイトぐらいだよね」
とレゼが何気なく言うと二人は何故か身体をビクつかせた。実はすでにオールマイトからお褒めの言葉を預かっていますみたいな事だったりするのだろうか……と思いつつも自己紹介をしていなかった事を思い出しながらも笑顔を浮かべる。
「自己紹介が遅れました、僕は鋼流 心だよ、こっちはレゼ。一応雄英の生徒なんだよ、まあ僕は留年するんだけどね……」
「こらこらこら、理由がある上に心ちゃんがワザとやった訳じゃないんだから」
「鋼流少年と、レゼ少女……」
「僕は緑谷 出久―――……ってえっ、鋼流、心って……もしかして、あああああああっあの!!!もしかしてのあの白銀ヒーローのハルドメルグですか!!?ミルコの下でインターン中で、雄英高校1年生でありながら仮免を6月に取得したっていう!!?しかもレゼさんって一緒に仮免を取った人じゃないですか!!?」
「あっうんそうだよ、宜しくね」
「凄いやああああああああああああ!!!!あ、あのサインって今大丈夫ですか!!?」
「緑谷少年君さっきまで動けないとか言ってなかったっけ!?」
一先ずサインを書いてあげる事にはしたが、サイン色紙を持ち歩いているのはなぜ、と思わず思ってしまった心とレゼであった。
「で、でも留年って……あっそうかあの入院!!!」
「そう言う事、それで見事に単位不足になりまして……だから君がもしも雄英高校に入学したらその時は同級生ってこと、レゼは2年だけどね」
「その時は仲良くしようね」
「はっはい!!僕頑張ります!!!鋼流先輩!!レゼ先輩!!」
「僕って先輩でいいのかな、後、心でいいよ」
「良いんじゃない?」
兎も角これほどまでに努力を重ねる後輩がいる、ならば自分も負ける訳にはいかないと気合の光が灯る。
「じゃあ緑谷君、僕と勝負だね。君は雄英に入る、そして僕は君が入学するまでにリハビリを終わらせてみせるよ―――雄英で待ってるね、留年生だけど一緒のクラスになれると良いね」
「あっ……ハイその時はお願いします!!!」
これが、ハルドメルグとデク、二人のヒーローの始まりであった。