「ンナ……ンナナ……!」
助けを求める声を追って進むと、そう遠くない場所に壊れたメカが見えてきた。
その周囲には、侵蝕された機械が何体も集まっている。
「いた!」
リンが真っ先に駆け出す。
「メカの中にボンプがいるみたい!」
「なら先に周り片付けるぞ」
刀を抜くと、隣でビリーも銃を構えた。
「任せろ!」
「アステル、無茶しないで」
「してないって」
ヴェリナに返しながら、一体目へ踏み込む。
動きは鈍いが、数が多い。
一体を斬った直後には横から別の機体が腕を振り下ろしてきた。それを避けて懐へ入り、返す刃で切りつける。
後ろから銃声が響き、俺が体勢を崩した相手をビリーが正確に撃ち抜いた。
「ナイス!」
「そっちもな!」
リンたちも慣れたものだった。
ピュロイスの力をまともに扱い始めたばかりとは思えない。
……やっぱり覚えるの早いな。
そんなことを考えているうちに、最後の一体が倒れた。
「よし」
刀を払い、周囲に敵が残っていないことを確認する。
その間にリンたちは壊れたメカへ向かっていた。
中から出てきたボンプは二体。
多少消耗しているようだが、大きな損傷は見当たらない。
「大丈夫?」
リンがしゃがみ込むと、ボンプたちは何度も頷いた。
ひとまず二体とも無事らしい。
すると、そのうちの一体が周囲を見回しながら、何かを必死に訴え始めた。
俺には全部は分からない。
「天使?」
シーシィアが首を傾げる。
どうやら自分たちを助けてくれたのは、天使が願いを聞いたからだと思っているらしい。
「天使ねえ」
そんなものがいるなら、ついでにノルムーの居場所も教えてほしい。
そっちの方が早い。
「とりあえず無事なら――」
そこまで言ったところで、二体のボンプがヴェリナを見たまま固まった。
「……?」
ヴェリナが首を傾げると、二体揃って後ずさった。
「なんで逃げるの?」
リンも不思議そうだ。
ボンプたちは必死に何かを訴えている。
どうにか聞き取れたのは、外計局と魔女という単語だった。
俺はヴェリナを見る。
ヴェリナも俺を見る。
「アステル」
「何も言ってない」
「まだ何も言っていないでしょう?」
「先に言っとこうと思って」
多分、心当たりはない。
シーシィアが呆れた顔でボンプたちを見る。
「いやいや、助けてもらっといてそれはなくない?」
もっともだ。
とはいえ、ボンプ側も相当怯えている。
リンがなんとか説明しようとするものの、どうにも警戒は解けそうにない。
ヴェリナが小さく息を吐いた。
「仕方ないわね」
いつもの綺麗な笑顔が浮かんだのに、なぜか嫌な予感がした。
「もし本当に侵蝕されているのなら、ノルムーの研究室で詳しく調べてもらった方がいいかもしれないわね」
ボンプたちの動きが止まった。
「ちょうど最近、新しい研究対象を探していたはずだもの」
今度は震え始めた。
「ヴェリナ」
「何かしら?」
「楽しんでない?」
「そんなことないわ」
絶対嘘だ。
脅しは思った以上に効いたらしい。
数秒後には、二体ともものすごい勢いで喋り始める。
「早っ」
リンまで驚いている。
二体の話では、今朝ノルムーがエネルギー調整タワーの近くで目撃されていたらしい。
さらに、大きな揺れが起きた頃、その付近に妙な裂け目まで現れたという。
「キラキラした裂け目……」
「シンギュラ・リークね」
ヴェリナの表情から笑みが消えた。
さっきまでボンプを脅していた人と同一人物とは思えない。
「ノルムーが目撃された場所も分かったわ。まずは調整タワーへ向かいましょう」
「了解」
ようやく手掛かりを掴めたことで、胸の奥に溜まっていたものが少しだけ軽くなる。
もちろん、まだ無事だと決まったわけじゃない。
◇
先へ進むほど、エーテル濃度は上がっていった。
肌に触れる感覚が、さっきより明らかに重い。
「嫌な感じだな」
「うん」
隣を歩くリンも、さっきから周囲を警戒している。
やがて前方に、妙なものが見えてきた。
空間そのものが裂けているとしか言いようがない。
向こう側が見えるような、それでいて何も見えないような、不自然な裂け目。
「……あれか」
シンギュラ・リーク。
「なにアレ……」
シーシィアが露骨に顔をしかめた。
「近づかないで」
ヴェリナがすぐに前へ出るのを止める。
見えている裂け目だけが危険というわけではない。
周囲まで影響範囲が広がっている可能性があり、不用意に踏み込めば内部へ呑み込まれる。
さっきシグリッドから聞いた話を思い出す。
「迂回できるか?」
周囲に別の道がないか探す。
「できるなら、その方が――」
ヴェリナが答えかけた時、リンが急に前へ出た。
「リン?」
一歩、裂け目へ近づく。
「おい」
さらに進んだところで、リン本人も驚いた顔をした。
「ちょ、ピュロイス!?」
嫌な予感がする。
「リン、止まれ!」
腕を掴もうと手を伸ばす。
指先が触れた瞬間、空間が大きく歪んだ。
「またかよ!」
視界が一気に切り替わった。
◇
「…………」
今日だけで二回目だ。
いい加減にしてほしい。
さっきまでいた場所とはまるで違う。
周囲はホロウに似ているというより、ほとんどそのものだった。
「出口どこ!?」
シーシィアが振り返る。
入ってきたはずの裂け目は、もうどこにもなかった。
「マジか」
さすがのビリーも焦っている。
俺も刀へ手をかけた。
敵がいるなら斬ればいい。
道が塞がっているなら、場合によっては壊せる。
でも、こういう類いの問題は俺の得意分野じゃない。
「リン」
「分かってる」
リンもすでに周囲を見回していた。
焦ってはいるが、パニックにはなっていない。
目を閉じ、何かを探るように意識を集中させる。
俺は邪魔をしないよう黙って待った。
こういう時、適当に口を挟むより任せた方がいい。
新エリー都にいた頃から何度も見てきた。
リンは分からないものを前にしても、一度立ち止まればちゃんと道を探せる。
しばらくして、目を開く。
「たぶん、出られる」
「方法ある?」
「うん。ここがホロウと似た場所なら、出口も同じように探せると思う」
Fairyの支援やエーテル波動、それに入口と似た反応がどうとか、俺には難しい話ばかりだ。
それでも、リンが「こっち」と言うなら十分だ。
「行こう」
◇
途中でエーテリアスにも襲われた。
そこは俺の担当だ。
右手側から気配が迫る。
「右!」
「了解!」
リンの警告に合わせて一体を斬る。
後ろから来た二体目は蹴り飛ばし、そのままビリーの射線へ押し込んだ。
銃声が響き、相手が倒れる。
「ナイス!」
「そっちもな」
こういう時は、考えるより戦う方が俺には分かりやすい。
やがてリンが示した場所へ辿り着いた。
出口らしき反応はある。
けれど、開かない。
「え?」
リンが触れてみるが反応はない。
ビリーが試しても駄目。
シーシィアも同じだった。
「俺が斬ってみる?」
「やめて」
即答された。まあ、そうなるよな。
リンが再びピュロイスへ意識を向け、何かを確かめるように手を伸ばす。
ピュロイスの力へ別の術法を重ねると、特異点に向かってエーテルの流れが変わった。
次の瞬間、閉じていたはずの出口が開く。
「……マジか」
まともにやり取りできるようになって、まだ数時間だよな?
リン本人も少し驚いている。
「出られる!」
全員で飛び込んだ。
◇
元の空間へ戻る。
「はぁ……今日もう変な空間入んの禁止ね」
大きく息を吐いたシーシィアに、俺もすぐ頷く。
「賛成」
「アステルは何もしてないじゃん」
「巻き込まれてるんだよ」
リンは少し考えたあと、それ以上は何も言わなかった。
ビリーがピュロイスについてあれこれ聞いている。
どうやら本人――本人でいいのかはまだ分からないが――かなり自信があるらしい。
「頼もしいじゃん」
「もうちょっと説明してくれたらね」
リンが遠い目をした。
……先が思いやられるな。
その時、向こうから一体のボンプが走ってきた。
外計局のマークを見て、ヴェリナが足を止める。
「ルーカ?」
息を切らしたルーカは、俺たちの前まで来ると必死に身振り手振りを始めた。
全部は分からなかったが、ノルムーが閉じ込められていて、怪我をしたボンプもいるらしい。
「ノルムーは?」
自分でも驚くくらい低い声が出た。
視線が一斉にこっちへ集まる。
「アステル?」
リンまで少し驚いている。
「……悪い。どこにいる?」
ルーカが先を指す。
「案内して」
ヴェリナの言葉に、ルーカが大きく頷いた。
俺たちはすぐに走り出した。
◇
侵蝕されたメカが道を塞いでいた。
考えるより先に踏み込み、一体目を斬る。
その勢いのまま二体目へ刃を返し、さらに前へ出ようとしたところで三体目が視界に入った。
「アステル!」
ヴェリナの声と同時に、さっき言われたことを思い出す。
「分かってる!」
突っ込みすぎるな。
一歩戻り、リンたちと足並みを合わせる。
居場所は分かったし、ノルムーも生きている。今は閉じ込められているだけだと考えて、前へ出たくなる足を抑える。
左から新しい気配が迫った。
「左、来るよ!」
振り向かずに身体をずらす。
俺の横を攻撃が抜け、そのまま相手の足を払って体勢を崩した。
そこへビリーの弾が撃ち込まれる。
「まだ前!」
「見えてる!」
最後の一体へ踏み込み、刃を振り抜く。
敵が倒れたのを確認した時には、ルーカがもう先へ走り出していた。
「行くぞ!」
今度は誰にも言われる前に、その後を追う。
エネルギーセンターへ入ったところで、先を走っていたリンが足を止めた。
「こっち!」
指した先にはゲートがある。
その向こうに、小さな人影が見えた。
見慣れた帽子と服が目に入った瞬間、思わず足が止まる。
「……いた」
ノルムーだ。
周囲のボンプたちを確認しながら、いつもと変わらない様子で立っている。
見た限り、怪我もしていない。
その姿を見ただけで、胸の奥に溜まっていたものが一気に抜けた。
「ノルムー!」
俺より先にリンがゲートへ駆け寄る。
向こうもこちらに気づいた。
「あ?」
ノルムーが目を丸くする。
「ヴェリナ?リン?ビリーとシーシィアまで……」
俺とも目が合う。
「あとアステルもいるのだ」
「俺だけ扱い雑じゃない!?」
第一声がそれかよ。
さっきまでの心配を返してほしい。
「貴様ら、こんなところまで何しに来たのだ?」
「何しにって……ノルムーを探しに来たんだよ!連絡つかなくなったから、みんな心配してたんだから!」
「あ」
ノルムーが固まった。
数秒後、気まずそうに視線を逸らす。
「……そういえば通信のこと、完全に忘れてたのだ」
「お前な」
思わず前へ出る。
ゲート越しだから手は届かない。
届いていたら、多分頭を小突いていた。
「怪我は?どっか痛いとか、気分悪いとかないか?」
ノルムーがきょとんとする。
「ないのだ!別に戦闘なんか数えるほどしかしてないし、ノルムーは元気なのだ!」
「……ほんとに?」
「しつけーのだ!」
いつもの調子で怒鳴り返されて、ようやく肩の力が抜けた。
「……よかった」
思わず小さく漏れた。
ノルムーが一瞬だけ黙る。
「アステル?」
「何?」
「もしかして心配してたのだ?」
「してない」
「今『よかった』って言ったのだ!」
「空耳だろ」
「アステルもかわいいところあるのだ!」
「うるさい」
元気だな。
やっぱり、こっちの方がいい。
横を見ると、リンが俺たちを見て笑っている。
ヴェリナまで口元を緩めていた。
「笑うなよ」
「笑ってないわ」
その顔で言われても説得力はない。
ゲートの向こうではノルムーがまだ何か言っている。
残る問題は一つだ。
「で?これ、どうやって開けるんだ?」
「それが問題なのだ」
ノルムーがなぜか胸を張る。
「壊れてて開かないのだ!」
「偉そうに言うな!」
心配損だったが、無事だったならそれでいい。
今後の展開についてアンケートです。 現在は原作ストーリーに沿って進めていますが、今後はどちらが読みたいでしょうか? ①原作沿いの展開を続けてほしい ②原作は必要な部分だけ取り入れ、オリジナル中心にしてほしい ②になった場合、現在の第13・14話と投稿予定の第15話は削除し、第13話から書き直す予定です。
-
原作ストーリーに沿った展開
-
アステルたちのオリジナルストーリーを中心