このあとの結果で判断しようと思ってます
休みの日。
俺は朝から部屋でぐうたらしていた。
今日は何もしない。外にも出ない。仕事のことも考えない。
そう決めてソファに寝転がりながら、なんとなくテレビを眺めていると、ちょうど朝の占いコーナーが始まった。
『本日の最下位は○○座のあなた!急な訪問で、予定が全部崩れちゃうかも!』
「そんなことあるかよ」
そもそも、今日の俺には崩されるような予定すらない。
何もしないのが予定だ。
そう思った直後だった。
ピンポーン。
「…………」
嫌な予感がしたが、気のせいだと自分に言い聞かせる。こんなの偶然に決まっている。
「俺は居ないぞ」
誰に言うでもなく呟き、そのまま居留守を決め込む。
これで諦めて帰るだろう。
ピンポンピンポンピンポン。
「だぁ!うるせぇ!また大家に怒られるだろ……!」
根負けしてソファから起き上がり、文句を言いながら玄関へ向かう。
「はいはい、誰ですか……」
ドアを開けた瞬間、言葉が止まった。
ドアの向こうを、茶色い何かが塞いでいた。
丸い頭と妙に愛嬌のある顔。そこに立っているのは、見覚えのある着ぐるみだった。
「ひえっ……!」
思わず一歩後ずさった。
戦場でもこんな声出したことないぞ、俺。
けれど、この着ぐるみは知っている。
確か――
「……Mr.ガオ?」
名前を呼ぶと、目の前のMr.ガオが両手を上げた。
「ガオガオ~」
「…………」
今の声には聞き覚えがある。
「レミエール?」
「せいか~い!よく分かったね、アステル!」
着ぐるみの中から、聞き慣れた声が返ってくる。
「お前、なんでそんな格好してるの?」
「私、指名手配されてるでしょ?これなら顔も見られないし、目立たないから!」
いや、目立ってはいるだろ。
こいつ、実はバカなのかもしれない。
「そんなことより、早く中に入れてよ。これ暑くてさ、早く脱ぎたいんだ」
そう言いながら、Mr.ガオinレミエールは俺の返事も待たずに部屋へ上がり込んでくる。
土足で。
「待て待て待て!!靴!というか足!そのまま入るな!!」
「え?あ、ごめん」
「着ぐるみで普通に上がってくるやつ初めて見たんだけど!?」
朝の占いって、当たるんだな。
俺はまだ始まったばかりの休日を思って、静かに頭を抱えた。
◇
「いや~、この着ぐるみ本当に便利なんだけど、暑くて困っちゃうよ~!」
「俺は絶賛お前に困ってる」
レミエールが土足で上がった跡を拭きながら答える。
「まぁまぁ、そんなこと言わないでよ。こんなに可愛い女の子が来てあげたんだから!」
「まだMr.ガオだけどな」
「今脱ぐか……ら……あれ?」
急にレミエールの動きが止まった。
「何してんの?」
「……脱げない」
「は?」
「脱げないよ、アステル!!」
「はぁ?いつも着てるんじゃなかったのかよ」
「そうなんだけど、今日はなんか脱げないの!」
Mr.ガオの頭を掴んで軽く引っ張ってみる。
少し力を入れると、ポンッ、と小気味いい音を立てて頭の部分だけが抜けた。
「はぁ~!生き返る~!」
中から現れたレミエールが大きく息を吸う。
「早く下も脱げば?」
「それが脱げないの。ちょうど翼が変なところに引っかかっちゃって」
「わらう、レミエールぶっ殺しゾーンじゃん」
「笑ってないで助けてよ!」
「着ぐるみならチャックくらいついてるもんじゃない?」
「あ、確かに!頭いいね、アステル!」
「それに気づかず着てたの?」
レミエールは聞こえなかったことにしたらしく、背中へ手を回してチャックを探し始める。
しばらくもぞもぞしていたが、やがて動きが止まった。
「……い」
「何?」
「チャックなぁぁぁい!!チャックないよ、アステル!!」
「なんでそんなもん着てきたんだよ!!」
結局、俺が着ぐるみを押さえて、レミエールを前から引っ張ることになった。
「ちょ、翼!翼引っかかってる!」
「分かってるから暴れるな!」
「アステルがもっと優しく引っ張ってよ!」
「着ぐるみに詰まったやつが注文多いな!?」
しばらく格闘した末、ようやくレミエールがMr.ガオの中から抜け落ちる。
そのまま勢い余って、二人揃って床に転がった。
「……」
「……」
「もう二度とそれ着てくるなよ」
「でも便利なんだよねぇ」
「反省しろ」
◇
結局、着ぐるみと格闘したせいで二人して汗だくになってしまった。
今日は一日ゴロゴロして過ごす予定だったんだけどな。
「それで?今日は何しに来たんだよ」
「あっつ~……あ、アステル。これもらうね!」
「聞けよお前!!」
レミエールは俺の質問には答えず、当然のように冷蔵庫を開けると、中から飲み物を一本取り出した。
止める暇もなく蓋を開け、一気に喉へ流し込む。
「いや~!火照った体に染みるね~!」
「おっさんかよ……いや、おばあちゃんか」
「むっ!そういう君はおじいちゃんでしょ!」
「じいちゃん言うな!」
百年単位で生きている俺たちが言い争ったところで、たぶんどっちもどっちなんだろうけど。
「……で?ほんとに何しに来たの?」
「何しにって……教えてほしいのかな?」
レミエールがわざとらしく笑う。
「いや、いいや。出口はあちらでーす」
「嘘嘘嘘!待って待って!」
追い出そうとすると、慌てて俺の腕を掴んできた。
「いや、まぁ……用事はなかったんだけど……」
「はぁ~……」
「なにかな?君は私が来ても嬉しくないわけ?」
「来るなとは言わないけど、もう少し普通に来いよ……」
指名手配中だから仕方ないとはいえ、休日の朝にMr.ガオ姿で押しかけてくるのを普通とは呼びたくない。
毎回こいつの相手をしていると妙に疲れる。
いい加減、もう少し落ち着いてほしい。
……そういえば、リンはレミエールのことを「秘密が多そうなお姉さん」みたいに言ってたっけ。
もしかして、年下の前ではちょっと背伸びするタイプなのか?
「君、また失礼なこと考えてるでしょ」
「ソンナコトナイヨ」
「ほんとかな~?」
じっと疑うような目を向けられたが、レミエールはすぐにどうでもよくなったらしい。
飲み物を片手に、そのままソファへ倒れ込む。
「まぁいいや。アステル、今日用事ないでしょ?一緒にゴロゴロしようよ」
「なんでロスカリファの人は平気で俺の予定把握してんの?」
俺の休日にプライバシーというものはないんだろうか。
「まぁいいよ。俺も特にやることなかったし」
「やった!」
許可を出した途端、レミエールは嬉しそうに立ち上がった。
そのまま部屋の奥へ消えたかと思えば、しばらくして大きめのクッションを抱えて戻ってくる。
レミエールがいつの間にか俺の部屋へ置き始めた、自分専用のクッションだ。
なんで俺の部屋に他人の私物が当たり前みたいに置かれてるんだよ。
そうは思うものの、今さら追い出す気にもならない。
レミエールは慣れた様子でクッションへ身体を預けると、満足そうにテレビへ目を向けた。
俺もソファへ戻る。
それからは特に何を話すでもなく、俺は本を読み、レミエールはテレビを眺め、飽きればそれぞれ別のことをする。
同じ部屋にいるからといって、無理に会話を続ける必要もない。
百年前から、こういう時間は珍しくなかった。
どれくらいそうしていただろう。
静かな部屋の中に、突然妙な音が響いた。
「ぐぅ~……」
本から目を上げる。
レミエールも固まっていた。
数秒遅れて、ばっとこちらを振り返る。顔が分かりやすく赤い。
「……聞こえた?」
「聞こえない方がおかしい音してたぞ」
「もぉ~!そういうのは聞こえてても聞こえないふりしないとモテないよ!」
「お前に気を遣う必要ある?」
「あるでしょ!」
何をそんな当然のように言ってるんだ。
俺は本を閉じ、そのまま台所へ向かう。
腹が減ってるなら何か作ればいい。
冷蔵庫を開け、残っている材料を適当に取り出していく。
「なになに?何を作ってくれるの?」
さっきまでクッションに埋まっていたレミエールが、いつの間にかこちらを覗き込んでいた。
「適当なもの」
「アステルの料理おいしいから楽しみ!」
それだけ言って笑ったレミエールが、ふと懐かしそうに目を細める。
「昔もベリと三人で……」
そこまで言って、口をつぐんだ。
続きは聞かなくても分かる。
三人でよく食べた。
俺が作る日もあれば、適当なものを買ってきて済ませる日もあった。何を食べたかなんて、もう覚えていない日も多い。
「まぁ、座ってろよ」
「……うん」
それ以上は何も言わず、レミエールは素直に席へ戻った。
俺も料理を続ける。
しばらくして出来上がったものを皿へ盛り、テーブルまで運んだ。
「わぁ~!相変わらずおいしそう!」
さっきまでの空気を振り払うように、レミエールが笑う。
「適当に作っただけだからな」
「それでもアステルの料理はおいしいもん」
席についたレミエールが料理へ手を伸ばしかけて、ふと止まった。
テーブルの上を見回している。
「……でも」
「ん?」
「量、少し多くない?」
言われて、俺も初めて気づいた。
二人で食べるには少し多い。
俺は並べた皿を見てから、小さく息を吐いた。
「……すまん。手癖で作っちゃった」
レミエールは何も言わなかった。
俺も、それ以上説明しなかった。
しばらくの間、俺たちはほとんど言葉を交わさず、少し多めの料理を食べていった。
気まずいわけじゃない。
ただ、お互いに思い出しているものが同じだと分かっていたから、わざわざ口にする必要がなかっただけだ。
やがて、レミエールが箸を置かないままぽつりと言った。
「……懐かしいね。昔はベリもいて、三人でこうやって食べたよね」
「俺はお前が食い意地張って、俺とベリのおかず盗んでた思い出しかないけど」
「そ、そんなことないから!あれは残ってたから食べてあげてただけ!」
「普通に俺たち食べてたけどな」
「そ、それは……」
「そんでベリに『はしたないですよ』って怒られてた」
「あったね!」
さっきまで少し沈んでいたレミエールの顔が、今度は本当に楽しそうに綻ぶ。
「でも結局、二人とも折れて私におかずくれたよね」
「お前がずっと皿見てるからだろ」
「だっておいしそうだったんだもん」
「反省してないじゃん」
「えへへ」
あの頃は、レミエールの面倒を見るベリオラがいて、俺が横から茶化して、結局いつも三人で笑っていた。百年も前のことなのに、くだらないやり取りほど不思議なくらい覚えている。
「……でも、今は二人になっちゃったね」
レミエールが、少しだけ寂しそうに笑った。
「まだ二人だろ?」
「え?」
「俺だって、この時代で目を覚ましてからしばらくは一人だった。でも今は、お前がいる」
ベリオラはもういない。
百年前とまったく同じ三人に戻ることは、たぶんできない。
それでも一度離れた俺とレミエールは、百年も経ってからもう一度出会えた。
こうして同じテーブルを囲んで、くだらない昔話をしながら飯を食っている。
今は、それで十分だった。
「……もう!」
レミエールが少し潤んだ目で俺を見る。
「ほんと、君ってそういうところだよ……」
「何が?」
「分からないならいい!」
「なんだよそれ」
よく分からないまま首を傾げると、レミエールは目元を軽く拭ってから、誤魔化すように料理へ手を伸ばした。
「ほら、湿っぽいのはやめようぜ。早く食べないと冷めるぞ」
「……そうだね!」
今度はいつもの笑顔が戻る。
「こんなにおいしいんだもん。冷めちゃったらもったいないよ!」
「さっき適当に作ったって言っただろ」
「適当に作ってこれなら十分でしょ?」
「はいはい」
俺たちは再び料理を食べ始めた。
今度は黙ったままじゃない。
百年前の失敗談やベリオラに怒られた話、それに今となってはどうでもいいような出来事を、二人で思い出せるだけ話した。
三人だった頃の話を、今いる二人で笑いながら。
今後の展開についてアンケートです。 現在は原作ストーリーに沿って進めていますが、今後はどちらが読みたいでしょうか? ①原作沿いの展開を続けてほしい ②原作は必要な部分だけ取り入れ、オリジナル中心にしてほしい ②になった場合、現在の第13・14話と投稿予定の第15話は削除し、第13話から書き直す予定です。
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原作ストーリーに沿った展開
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アステルたちのオリジナルストーリーを中心