後編は明日投稿予定です。
翌日。
俺は昨日言われていた通り、ヴェリナに呼び出されていた。
「それで?結局今日は何をすればいいの?」
そう尋ねると、ヴェリナは一枚の封筒を取り出した。
中から出てきたのは、どう見ても仕事の書類には見えない立派な招待状だ。
「今夜、外計局の関係者も参加するパーティーがあるの。一緒に来てもらえないかしら?」
「パーティー?」
予想していなかった言葉に、思わず招待状を見る。
「別にいいけど……俺でいいの?」
「ええ。同伴者を一人連れていけることになっているのだけれど、今回はあなたにお願いしようと思って」
「待つのだ!」
横からノルムーが勢いよく割り込んできた。
「パーティーなんて楽しそうなところ、ノルムーの方がふさわしいのだ!」
「ノルムー?」
ヴェリナがにこりと笑う。
「あなた、まだお茶会の作法すらまともに覚えていないでしょう?」
「それとこれとは話が違うのだ!」
「違わないわ」
即答だった。
「それで、アステル?お願いできるかしら?」
「んー……」
もう一度招待状を見る。
別に予定があるわけでもない。
それに、ヴェリナからこうして頼まれるのも珍しい。
「ああ、大丈夫だよ」
「ありがとう。助かるわ」
「アステルだけずりーのだ!ノルムーも行きたいのだ!」
「だから招待されてるのは二人までなんだろ?」
招待状を見ると、確かに同伴者は一名までと書かれている。
「ノルムー?残念だけれど、今回は留守番をお願いするわね」
「ううぅ……分かったのだ……!」
見るからに肩を落とすノルムー。
そんなに行きたかったのか。
「ところで、アステル?」
「ん?」
ヴェリナが俺の服装を上から下まで眺める。
「正装は持っているのかしら?」
清掃?
……いや違う。
聖槍?
「ロンゴミリアド?」
「もうあんまり時間ねーのだ。いつまでもボケてるとぶっ殺すのだ」
横からノルムーの殺気が飛んできた。
「お前、パーティーについていけないからって当たり強くない?」
「気のせいなのだ!」
絶対嘘だろ。
ヴェリナはそんな俺たちを気にすることなく、扇子を口元へ添える。
「今回のパーティーは、もちろん正装での参加よ?」
「…………」
自分の服装を見る。
普段着。
どう考えても、このまま行っていい場所ではなさそうだ。
「……ないっすね?」
「…………」
ヴェリナが黙った。
その笑顔が少しだけ怖い。
「買いに行きましょう」
「今から?」
「今ならまだ間に合うわ」
「いや、別に適当なので――」
「行きましょう?」
「はい」
反論する余地はなかった。
そうして俺は、ヴェリナに引きずられるように外計局を後にした。
◇
連れてこられたのは、見るからに高そうな紳士服店だった。
店構えからして違う。
なんというか。
俺みたいなのが気軽に入っていい場所じゃない気がする。
「……高そう」
思わず本音が漏れた。
「今回のパーティーには、それなりの役職の方々も来るわ。あまり安いものを着ていくと、すぐ足元を見られてしまうもの」
「なら当日に誘うのやめてくれませんかね?」
「…………」
ヴェリナが扇子を口元へ添える。
「……さあ、行きましょう」
「今、露骨に流したよな?」
聞こえなかったふりをして、ヴェリナはそのまま店の中へ入っていった。
「おい」
返事はない。
……絶対聞こえてただろ。
店の中へ入ると、ノルムーも当然のようについてきた。
「……お前、留守番じゃなかったの?」
「パーティーに行けないだけなのだ!買い物まで禁止された覚えはねーのだ!」
「元気になったな、お前」
さっきまであんなに落ち込んでいたくせに。
そんな俺たちをよそに、ヴェリナは店内を見回していた。
並んでいるのは、どれも見るからに高そうな服ばかりだ。
値札を見る。
そっと戻す。
見なかったことにしよう。
「アステル?」
「何も見てない」
「まだ何も言っていないわ?」
怖い。
しばらくして、ヴェリナが一着のスーツを手に取った。
「まずはこれを着てみてちょうだい」
「はいはい」
渡された服を持って試着室へ入る。
着替えて外へ出ると、待っていた二人が揃ってこちらを見た。
「どう?」
「…………」
「…………」
なんで黙るんだよ。
ノルムーが腕を組み、難しい顔をする。
「なんか違うのだ」
「何が?」
「アステルなのにアステルじゃないのだ」
「意味分からん」
ヴェリナも俺を上から下まで確認すると、少し考えるように扇子を顎へ添えた。
「悪くはないのだけれど……もう少し落ち着いた方が似合いそうね」
「じゃあ次なのだ!」
なぜかノルムーまで乗り気になっていた。
それから。
「次!」
「まだ!?」
「これは肩が合ってないのだ!」
「こっちは色が少し明るすぎるわね」
「お前ら楽しんでるだろ!?」
何着目か数えるのも面倒になってきた。
完全に着せ替え人形である。
「次はこれよ」
ヴェリナから渡されたのは、これまでより装飾の少ないスーツだった。
暗い色を基調にした、かなりシンプルなものだ。
「……これで最後にしてくれよ」
「似合えばね」
「怖いこと言うなよ」
再び試着室へ入る。
シャツを整え、上着を羽織る。
鏡を見る。
「…………」
自分で言うのもなんだけど。
まあ、悪くはない気がする。
試着室のカーテンを開けた。
「どうよ」
「おっ!」
ノルムーが真っ先に反応した。
「これはいいのだ!さっきまでより全然まともなのだ!」
「褒めてんのか?」
「褒めてるのだ!」
「そうかよ」
俺はヴェリナを見る。
「ヴェリナは?」
「…………」
返事がない。
ヴェリナは扇子を持ったまま、俺をじっと見ていた。
「……ヴェリナ?」
「え?」
珍しく、ほんの少し遅れて反応する。
「いや、だから。これどう?」
「あ……ええ」
ヴェリナは一度視線を逸らした。
それから何事もなかったように、扇子を開いて口元を隠す。
「とても似合っていると思うわ」
「じゃあこれでいいか」
「ええ。これにしましょう」
「やっと終わった……」
長かった。
本当に長かった。
俺が試着室へ戻ろうとすると、ノルムーがヴェリナのそばへ寄って何かを小声で囁いた。
何を言ったのかまでは聞こえない。
「…………」
なぜかヴェリナの動きが止まった。
パシンッ。
扇子が勢いよく閉じる。
「ノルムー?」
「な、なんでもないのだ!」
「?」
何やってんだ、あいつら。
しばらくして着替えを終えた俺は、選んだスーツを購入することになった。
会計で表示された金額を見る。
「…………」
俺は静かにヴェリナを見る。
「何かしら?」
「これ、経費?」
「違うわ」
「…………」
「アステル?」
「パーティーって怖いな……」
「そういう問題ではないと思うのだ」
お前だけは黙ってろ。
◇
外計局へ戻った俺たちは、夜のパーティーに向けて簡単な確認をしていた。
服装。
会場での振る舞い。
参加者への挨拶。
一通り説明を終えたところで、ヴェリナがふと思い出したようにこちらを見る。
「あと、アステル。ここが一番重要なのだけれど」
「まだ何かあるの?」
「ええ」
ヴェリナが扇子を閉じる。
「あなた、ダンスは踊れるのかしら?」
「ダンス?」
俺が答えるより早く、横にいたノルムーが鼻で笑った。
「ヴェリナ!こんな正装すら持ってなかった男が、ダンスなんて嗜んでるわけねーのだ!片腹痛いのだ!」
「お前、今日ずっと俺に当たり強くない?」
「気のせいなのだ!」
絶対まだパーティーに行けないこと根に持ってるだろ。
ヴェリナも少し困ったように笑う。
「確かに、先に確認しておくべきだったわね。もし踊れないなら――」
「踊れるぞ」
「――今、なんて?」
「だから、踊れるって」
ヴェリナとノルムーが揃ってこちらを見る。
なんだよ、その顔。
「前に習ったんだよ。昔なじみに」
「昔なじみ?」
「ああ。やたら踊りたがるやつがいてな」
百年前。
何かにつけて俺を引っ張り出しては、練習に付き合わせてきたやつがいた。
おかげで基本的なステップくらいなら、今でも身体が覚えている。
「俺の中では『踊りたガール』って呼んでた」
「本人には?」
「言ったことある」
「怒られなかったのだ?」
「怒られた」
「当たり前なのだ!」
なんでお前にまで怒られなきゃならないんだよ。
「それなら、本番前に一度確認してもいいかしら?」
「りょーかい」
俺はそう返事をすると、ヴェリナの前へ立った。
それから、ごく自然に片手を差し出す。
「…………」
「ん?」
なぜかヴェリナが俺の手を見つめたまま動かない。
「……これは?」
「ダンスを踊る前は、こうするって教わったんだけど」
ヴェリナは少しだけ目を瞬かせる。
「思っていたより、きちんと習っているのね」
「失礼だな。これでも結構やらされたんだぞ」
ヴェリナは小さく笑うと、差し出した俺の手へ自分の手を重ねた。
「それじゃあ、お願いするわね。アステル」
「ん。じゃあ始めるぞ」
軽く位置を整え、もう片方の手をヴェリナの背へ添える。
さっきまでの軽いやり取りは、そこで終わった。
一歩踏み出す。
ヴェリナの動きに歩幅を合わせ、そのまま滑らかに次のステップへ移った。
「……え?」
ヴェリナが小さく声を漏らす。
「どうした?」
「いえ……続けてちょうだい」
相手を無理に引っ張らず、次にどちらへ動けばいいのかが自然に伝わる程度に手を添える。
百年前に何度も繰り返した動きだ。
久しぶりでも、身体はちゃんと覚えているらしい。
「あなた……本当に踊れるのね」
「だから最初からそう言ってるだろ」
「思っていたより、ずっと慣れているものだから」
「昔は結構付き合わされたからな」
軽く手を引く。
それを合図にヴェリナが一度身体を回し、再び俺の前へ戻ってきた。
受け止めた瞬間、一瞬だけ目が合う。
ヴェリナは何も言わず、わずかに視線を逸らした。
「もう少しだけ続けてもいいかしら?」
「確認するだけじゃなかったの?」
「本番で失敗しないためよ」
「なるほど」
それなら仕方ない。
もう一度ヴェリナと向き合う。
少し離れたところでは、ノルムーが何やらこちらを眺めていた。
「……ヴェリナ、さっきから顔赤くねーのだ?」
「ノルムー?」
「なんでもないのだ!」
また何か怒らせたらしい。
ほんと懲りないやつだな。
少し今後の参考にしたいのでアンケートさせてください!シグリット回はギャグ多めで作ったんですがギャグの量はどれくらいが好みですか?
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シグリット回と同じくらい多め
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普段と同じくらい
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話の内容とキャラに合わせて