イカレポンチは意地でも勝ち逃げをし続ける。 作:永く輪
どうやら属性顕現するのは身体強化との併用が難しいかも知れない。
暫くは身体強化の練度を上げてみるのもいいかも、無駄にはならないはずだ。
身体強化の強化って感じのやつを手から射出できないかな。
宿屋を外から眺めながらそう思う。
宿屋には追い出された。悪いことをしたと思う。
下の階に浸水が起きたらしく、何事かと見に来たら、俺が水浸しの中で必死に水を窓へ掻き出している最中だったわけだ。ブチギレられた。ちびってなどいない。
反省している。次があれば草原辺りで属性顕現を試そうとそう誓った。
どうしよう、お金がないなった。
お金を工面してくれた人には申し訳ないなと思う。
一応、宿屋には泊めてくれるらしく、寝るところには困らない。怖かったが優しいなあのおばちゃん。
今は昼過ぎだ、おやつ時かな?俺は
晩御飯はどうしようか、ここはリンドネシア、近くには平原と森林がある。その境目あたりが確か一角ウサギの生息範囲内だった筈だ。
アレは美味いし、何度か解体もしたことがあるから、アレを捕まえて食べようかな。
いや、ここにも冒険者ギルドはあるか、そこで手頃な依頼を取ろう。
冒険者ギルドは商業ギルドの隣に小さくあった。ただ近隣の魔物駆除を依頼するだけの最小単位のギルドとして。
そこで自由狩猟を受けた。というか、自由狩猟以外なかった。
受付嬢に聞いてみると先に他の冒険者に取られたのではなく基本的に自由狩猟だけで、種類や数で報酬額が変わる成果主義なのだと言う。
夕方、見た目は可愛らしい一角兎を二兎生け捕りにしてギルドへ持っていった。
つぶらな紅い瞳が檻を隔ててこちらを見ていた。
飯時なので何を食べようかと街をふらふらとする。宿屋のでもいいんだが気まずい。
人通りはポツポツとしていて、夕日も相まって少し寂しい感じがする。
石畳の上をコツコツと当てもなく彷徨う。
なんとなく目にとまったツタの絡んだ石煉瓦の建物の入り口にopenと書かれていたので入ってみる。
どうやら、パスタ屋のようだ。入るとこ間違えたか?
庶民が食べるには、高い。
まぁお金は足りるだろう、……どう注文するんだ?
とても周囲の目を気にしながらも食事は無事終えた。注文は勝手に席に座ってたら店員さんが聞きに来てくれた。あってたのか間違ってたのか分からない。
流石に音を立てずに巻いて食べるくらいはなぜか知っていた。
ふと湧き出てくる知識様様である。
でも、また来るときは服装を変えよう。店員さんが俺の革鎧と腰に下がる剣盾を見て怪訝な顔をしていた。
まぁここに美味いパスタ屋があることと酒場や宿屋以外では服装に気を付けるべきことを知れたのだから割り切っていこう。
「…おい」
月が昇った青紫の空の元、足取り重く宿へ向かっていると後から声を掛けられた。
足音には気付いていたが接触してくるとは思わなかった。少し声が上擦る。
「な、なんですか?」
自分から人につっかかるのはいいが、来られると心の切り替えに手間取る。
独り言でおばちゃんになんて言おうかなぁなんて言ってなくて良かった。
「ちょっと面貸せ」
顎で宿とは別の方向を指す声の主は大柄な坊主で鉄の胸当ての上から黒熊の毛皮を羽織り、背中の後ろに大剣の柄が見える。無愛想ないかつい中年だ。
魔力的にも肉体的にも冒険者か傭兵の類いだ。用心棒の線があるな。この男の後には今朝お金を頂戴した男達がいた。目が腫れていたり、包帯をあちこちに巻いていたりする。
ちょっとヤンチャしすぎちゃったかなぁ…
うずくまってた少年に加害する彼らに旅費を請求しただけなのに。暇そうだから。
十中八九報復だろう。
「な、なーんでですか?」
緊張しているのかいないのかよく分からない返事が出た。
意外とワクワクしてるな、自分。
「来れば分かるお礼したいんだとよ。おとなしくついてくれば手荒な真似はしない、無駄なことはするなよ?」
大柄な推定用心棒が念を押すように、脅すように言う。
「……分かりました」
取り巻きがケヒケヒ笑っている感じ、多分人目につかない場所でボコして、アジトに連れてかれるのだろう。まぁどうにかなるべ。
本当に手荒な真似はしないのかも知れない。
徐々に人けがなくなって行く中でもそんなことを呑気に思っていた。
俺と大柄大剣男と取り巻きの足音がカツコツ鳴るだけとなってしばしば、前を歩いていた大柄大剣男が突然止まった。
警戒すべきは後頭部への不意打ち…は特になく「ここだ、入れ」と赤煉瓦の建物の扉を開けて先へ進んでいくので建物に足を踏み入れ、た
鈍い響きが後頭部から伝わって、輪郭のぼやける木造のボロい床が眼前に迫った。
視界が細くなる。
「へ、馬鹿ガキがよぅ。カツアゲした相手にノコノコとついて来やがって」
意識が途絶えることはなかった。
視界は途切れて建物の入り口の地点になっている。
驚くほどに触覚が消えていて何も感じなくて、極寒の中にでもいるようだった。
輪郭が重なって見える視界には革鎧を着た少年が映っている。
灰髪の後頭部から血を流してうつ伏せに倒れていた。
腰には見慣れた剣と盾を一箇所に提げている。
…そんなはずはない。あってはいけない。
取り巻きの蹴りが鳩尾に入っても身じろぎ一つしない。
蹴り上げられても微動だにしない灰髪の少年に面白くなく思ったのか取り巻きAは少年の髪を掴んで顔を寄せる。
「てめぇ、あんだけチョーシノッといてすーぐだんまりかぁ?しょうもねぇ奴だなぁオイ」
掴んだ手が離されると、少年の頭は重力に従って床に落ちて音を立てた。
詰まんねぇ奴と蔑みながら、少年を踏んで部屋の奥へと消える。
そこに残った少年の黒い瞳は焦点が合っていない。
その顔はいつか見たことのある、今は血の滲んだ…俺の顔だった。
理解が追いつかない、どうなっているんだ?
何で俺は俺の顔を眺めている?眺めることができている?
俺は死んだから今はゴーストになって?
どうにか、自分の身体に戻りたい!と手を伸ばす。
俺の腕に半透明な指ほどの太さの針が刺さった。血は流れない。俺のスキルだ。
スキルが使える。
スキルは死者には使えない。というのは宣教師が宣っていたことだったか。
つまり俺はまだ生きているはずだ。ゴーストじゃない。
返せ、あれは俺の身体だ!
半透明の針は彼の身体のあちこち、特に関節周りに刺さり、増えるたびに糸を伸ばして彼の視点へと集まり絡まり、視点を引き寄せてゆく。
痛みがやってきた。身体を刺す数十の針の痛みに鳩尾に入った蹴りの痛み、後頭部を侵すひび割れたような熱い痛み。現在進行形で増えている打撲痕の痛み。
感覚がやってきた。服と鎧の感触、頭をなでるとろっとした生暖かい不快感。体温。
身体の感覚が戻ってきた。ふらつきながらも立ち上がる。足の脛と頭の痛みが問題だな。治癒魔法で治す。
身体に淡い緑の光が灯る。
無詠唱で使えたんだっけ?治癒魔法。まぁいいか。
目の前には、俺の身体を縄で拘束しようとした奴らがいる。手に持っている焼きごては魔封じの印のやつかな?模様に見覚えがある。
酷い奴らだな、賢いのかな?焼印の効果は物理的に消さなきゃ消えない。要は切り落としだ。そしてそれすらよく分からない防護結界を印に刻んで出来なくさせている。そして手枷、首輪、足枷エトセトラと違って何人にも効果を付与できるし、必要なのは焼きごてを熱することだけだ。相手を取り押さえる力も必要か。ああ、あと焼印付ける奴隷予定の相手も必要か。
明らかに奴隷商絡みだ。法では禁止されているもののなぜか未だに消えない。悪趣味な御同輩、貴族様のおかげかな?死ね。
顔に返り血がついて我に返る。
「………ありゃりゃ?」
辺りは水の入ったバケツを振り回したかのように紅い紅い血飛沫の跡が残っていた。
俺は敵の脳天から刃を抜き去っていた。頸動脈から間欠泉である。血潮が転倒を後押すかのように舞いながら仰向けになっていく。血はきれいだな。
屈んで倒れた人間を見る。
辺りは紅い紅い鏡が揺れている。
「うわー、喉元から脳天へざっくり逝ってる
これ、俺がやったのか?刺し方綺麗すぎだろ」
ふと、左手を見ると血の滴る片刃刀を握っていた。
滴る雫が俺の顔を映す紅い鏡に波紋を齎す。
「俺がやったのか。
ッく、はは
ハハハハハハハハ!!!」
とても愉快だ。愉快だ。愉快だ愉快だ愉快だ!
異変を感じて戻ってきた大剣男には右腕をくれてやったが心臓を貰った。突いて捻ると苦しそうな表情と共に両膝を付いて動かなくなった。
別にこいつ等に恨みがあった訳じゃない。
俺の損傷は大抵、初級治癒魔法で治る。だから痛いだけだ。右腕の断面を肩の断面に着き当てて念じれば、ほぉら元通り。そもそも俺がカツアゲしたのが原因だからねぇ!
片っ端から奴等のアジトを捜索して、奴隷相手にやっていたA君には軽く吹き飛ばしてから先端から刻んでやった。あはは!
魔力って練って放つことが出来るんだ?!面白い!!
「んあはははははははははぐばっ!?」
るんるんなアルハト君は横から切り伏せられて沈んだ。
上下真っ二つだ。
紅い鏡がまた一つ出来上がった。
アルハトさんは記憶失う前に壊れて、記憶失うことで直ってましたが今、よく分からない状態に確変しています。