イカレポンチは意地でも勝ち逃げをし続ける。 作:永く輪
黒尽くめの刺客は床に胴体と泣き別れしている下手人の目に深くエストックを刺した後、廊下の奥の縦長の絵画の横を変則的に3回ノックする。
絵画のある壁がドアのように開き、白髪の交じる深緑の髪の男が出てきた。片目は眼帯だ。
「頭、組のものの半数近くが…」
「騎士団は何処におる?」
「場所は割れていません、今部下に探らせています。」
「下手人の数は?」
「恐らく先ほどの1名のみかと」
「ふん、騎士団は首が回らなくなって犯罪者でも解き放ったか。追い詰めすぎるというのも考えものだな。
拠点を変えるぞ、急いで組のものに伝えろ。証拠は残さず焼き払え、貴族用の商品以外は捨て置け。儂は地下の牢屋の商品を連れ出す。」
王国のお膝元で大犯罪を熟して権威を失墜させ、内部を腐らせ、トドメに護衛中の第三王女を攫いアジトに身を潜めて騎士団を役立たずの税金泥棒として世に叩かせるのはやりすぎだったか。
第三王女を攫われて一日も経たずに犯罪者を解き放ってまで儂の組を捕まえようとは恐れ入る。
「はっ……あ?」
下がろうとした黒尽くめ刺客は胸から刃を出して血を噴いた。
「ばか……な…」
刃が引き抜かれて蹴飛ばされて倒れる。
「なははは!ばぁかはてめぇだよ!あはははは!!」
「っレセトス!」
レセトスを蹴り飛ばした少年は肩を揺らして笑っている。隙があり過ぎる。あり過ぎて危険過ぎる。
肩に掛かる形でかろうじて装備できていた革鎧がずり落ちる。
頭と呼ばれた男は、突如として組の最高戦力が闇討ちにて伏した事に、動揺するが直ぐに持ち直して下手人を睨む。
下手人は灰髪の少年、背は中程。種族は恐らく人間。
装備を見るに昼間に部下が言っていた部を弁えぬ冒険者であろう。
革鎧があの状態なのに奴自身は無傷と言ってよい。
血みどろであり、血が滴り血痕と影を生み出しているのを見るに幻影の類でないと思いたいな。
幻影であればレセトスの先の報告はどれほど信頼できるのか?既に囲まれているのかも知れぬ。
いや、これは実体である筈である。死んでいるであろう部下曰く治癒魔法を使っていたと。
レセトスはきちんと仕留める、ということはA級の治癒魔法使いであろう。もしかすると何かしらの属性耐性が低いのかもしれぬ。ならやりようはあるが、魔法使いは今ここにおらぬ。
何で治癒魔法使いが単独で乗り込んでくるのだ!!
貴重であるのだから後衛をしていろ!それか教会にでも…
部を弁えぬのはこちらだったか。儂が言えたことではなかったな。
今は時間を稼ぐ必要がある。仕留めるにも、逃げるのにもな。
「何者だ?おぬし只者ではないな?」
「んふは、いやー、ね、」
薬中のようだったが会話に応じることはできそうである。部下がやってくる時間を稼ぎつつ、ゆっくりと背後へ手を回す。
「処理できそうだったから来ちゃったんだよね」
答えになっていないが喋るつもりはあるようだ
「それはそれは此方としては苦しいものですな挨拶も無しに来られますとおもてなしが出来ない」
部下が間に合わない事や襲撃への用心として隷属魔術が刻まれた使い切りのルーンを常に肌身離さず持っておる。
本来ならばあの忌々しい騎士団長用であったが出し惜しみして死んでは
頃合いを見て使うべきか。
レセトスが相手の生死を見誤るということは部下が全滅していてもおかしくはあるまい。頼みの綱が切れていては洒落にならん。
下手人の顔は整ってはいるが、つり目である上、男であろう。人相はさほどよくない。商品価値としては低い。屈服趣味の貴族に使用人として売るか?それとも、女装させてその手の者に…生憎女に見えなくもない。このどちらかで売ろう。
「ん―、おもてなしはもう十分貰ったよ。楽しかった。」
「ではどうですかな、此方に与しませんかね?金は潤沢にある上に争い事には貴方のその力は大いにこの組に恩恵を齎す故に」
頃合いか、部下の気配はない。使うしかあるまい。
「此方としては用心棒が心ともないので是非とも。歓迎も用意できますぞ?」
片手でルーンを握りもう片方は握手を求めるように差し出す。
顔に反したその温和な表情とは裏腹に内心ではほくそ笑んでいた。
……だが腕が持ち上がらなかった。
魔法発動には魔法使い!なやつと魔道具タイプがあります。
後者は魔力を含む媒体に魔法陣を刻んで発動する。スイッチみたいなのがあって任意のタイミングで発動できるのもある。
組の頭が使っているのは特殊且つ複雑で使用魔力が大きいため使い切りです。感覚としては外付けの魔法みたいな。
この男は糸目系の価値を理解していない。