イカレポンチは意地でも勝ち逃げをし続ける。 作:永く輪
蝋燭が怪しく青白く灯っている薄暗い中、額から捻れた角を生やす老獪という言葉が似合う青白い男が執務室の奥で手を組んで思案していた。大きなローブで身を包んでいる。
部下からの定期報告が途絶えて早1ヶ月が経つ。
部下であるレセトスは半魔でありながら死階にして序列2位の優秀な部下だ。隠密・暗殺においては右に出るものは居ない。
影に溶け込み攻撃を受け付けず、相手の隙を突いて一撃で仕留める。仮に効果がなくとも攻撃を受け付けない潜影にて相手の攻撃は通らないが己の攻撃を通す高い火力こそ出ないが堅実に確実に相手を仕留める凄腕の影魔族だ。
故に王女誘拐の任を与えた。万が一計画が狂ったときへの安全策だ。
そのレセトスの連絡が途絶えた。由々しき。
万全を期した筈だ。あの厄介な女を潰す為に5年掛けて王城に潜り込ませじっくりと王女を弱らせ。我が仕組んだ8万もの同胞と死階、惨階を使った陽動で王都を留守にさせ、同士たる人間を使い王女を攫い、実力者の居ない地方でひっそりと王女を貶め、王族の血によって濃くなった呪いで人間どもを魔物へと変貌させる。
万が一あの女が嗅ぎつけて来たとて、王女を貶めるまでにはどうしても間に合わない、そのような立地を選んだ。
呪いの発動までいかなくとも、あの女を使い物にならなくできればいい。そのために隷属化の魔石を同士に与えた。
それすら失敗したとて、半端に掛かった王女の呪いを解呪するためには、あの女限定にして発動するしかないよう仕組んでいた。
人類の攻略などあの女さえ、ノストリリィさえ、いなければどうとでもなる。
始めからこれは奴を貶す為の策略だ。人類を魔物にするなど端から期待していない。奴を潰す為の計画なのだ。
計画は万全を期した。陽動以外の人員は半魔か人間を使い、魔術学園に気取られる可能性を無くした。
それでも尚、不測の事態の為に我が右腕たるレセトスを遣ったのだ。
計画が狂うことなどあり得ない。しかし、狂うことすらを前提にして、予測可能な全てを排して、最高の舞台を整えて微調整可能にし、可能な限りの最高の人員をもってして柔軟に対応していく。因果も織り交ぜそうなるのが当然となるように仕組んでいく。
どう転んでもあの女が散る事は確定している。
問題がないはずだ。
だがその最後の最後の安全策たるレセトスからの定期報告がない!
不測の事態はある筈だ。だがそれでも1ヶ月はおかしい。最後の連絡は陽動の時期の調整と実行要請だった。
陽動は滞りなく終わった。あの女を存分に引き寄せて、引くに引けなくした状態で王女誘拐を完遂。
完遂後もなるべく引きとどまらせた。確実に間に合わない。
どういう因果かあの女は真っ先に王女の場所を突き止めた。だがそれすら汲んでの間に合わない立地だ。
人とは思えない速度でたどり着いたとてその頃には王女は堕ちている。
今しがた偵察に行かせた配下が報告に戻ってきた。
あり得ぬ
レセトスは死んだそうだ、ここで使う予定ではなかったがレセトスには呪いを仕掛けてある。戦闘状態で殺された時のみ相手に我への隷属を強制する複雑怪奇な呪いだ。いかに人間に扮しているとはいえ影を支配する影魔族相手に奇襲で殺し切ることは不可能だからこそ掛けた呪いだ。
なのにあの女は未だ健在だ。どうなっておる。
あり得ぬ
全てをくぐり抜けおったのか?だとしたら奴は既に神話の域にいることになる。確定された運命すら捻じ曲げるあの道化と同等の。
我が始末できなかった神はあの道化だけである。
あり得ぬ。
あやつの類のものはそうそう生まれてよいものでは無い。生きているだけで他者の運命を捻じ曲げる。なるべく葬り去っておきたかったがそれすら捻じ曲げ今は何処にいるのやら。
…まさかここにいたのではないな、まさかまさかまさかまさか!
あやつは我と関わる全ての運命を捩じ切ってでも生き永らえた駄神だ。今更神々の復讐を果たすなど我の計略が児戯だったとしてもあり得ぬ。
「………狂いに見当はついているか?」
「身を潜ませていたリンドネシアの娼館が組員ごと皆殺しにされています。少なくともノストリリィの仕業の可能性はないかと。」
「」
「恐らく忌まわしき呪剣、エイザールの剣の所持者によるものかと。」
数多の影魔族の心結晶を押し込めた呪いの剣、それは…
「馬鹿な、それは先代がその身と引き換えに所持者諸共破壊したはずだ。他ならぬ我がそう仕組んだ!アレは確実に消滅した。そうでなくとも到底機能を果たせるとは思えん!」
「ですがレセトスの呪いが発動した痕跡がありません。影魔族相手に気づかれずに殺すなどかの邪剣無しでは不可能かと」
「そも、死階がノストリリィ以外に殺されること自体があり得ん!貴様は死階がどこぞのものとも知れぬ呪剣使いに殺されたとでも言うのか?!」
ドンッバキャ
「………。」
いかん、頭に血が回りすぎておる。執務卓が粉々だ買いなおさねばなるまい。
花瓶が割れ、花びらが散っている。
「少し頭を冷やす、貴様は王都にいる我が弟者レイザックと連絡を取れ」
「承知いたしました。」
気づけばいつの間にか壁に空いた穴から青い空が見えている。その快晴が忌々しい。
……あり得ん事が起きている。我が至宝の術たる因果を混ぜる事で未来を確定させる計略は完成してしまいさえすれば、その未来が外れることはない。確実に起こる。
それが今、破綻している。
我こと魔王カイルキウスは神話の時代から生き残ってきた傑物です。基本的には表に出ませんが、一度神と勇者に追い詰められ表に引っ張り出されたことがありました、が、それすら彼の計略だったのでしょう、その時は人類圏がほとんどなくなりました。
神話、はるか昔の時代。この世界は一度邪神によって滅んだのでそれよりも前の時代ですね。古代文明とか遺跡とかもこの時代のもの。
死階、魔王の従える幹部。
死階、惨階、煮階、逸階の4つから構成されており、各階に序列1〜12まである。
死階が最も強く、序列は現状4までしかない。死階たるに足らぬのだとか。あ、もう3つしかないか。
死階序列4位が表での魔王を務めさせられている。彼女には煮階以下の指揮権が与えられている。曰く激務なのだとか。
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