魂と肉体を裂かれた少女 作:匿名希望
古びたアパートのちゃぶ台の前に、幽霊の莉奈と、キョンシーの肉体が向かい合って座っていた。
「ねえ、聞いてよ。いくら夜の裏通りで『最強のコンビ』って噂されててもさ、私たちがいつも着てるのって、あの邪仙センスの真っ赤な官服か、地味な戦闘ジャケットのどっちかじゃない?」
宙にふわりと浮かぶ莉奈が、不満そうにほっぺたを膨らませる。
それに対し、肉体(もう一人の自分)は、手元の雑誌をペラペラとめくりながら「ふむ」と小さく頷いた。
肉体に自我が戻って以来、彼女たちはこうして日常の小さなこだわりを共有できるようになっていたのだ。
「戦うときはあれでいいけどさ、お散歩するときとか、街のカフェでお茶するときくらい、もっと可愛い服を着たいわけよ!
というわけで……今夜のミッションは、『キョンシーの洋服大改造計画』!」
莉奈がビシッと指をさすと、肉体はパッと目を輝かせ、やる気満々といった様子でこくりと頷いた。
作戦開始。だが、ここで一つ大きな問題があった。
幽霊の莉奈は物質に触れることができないため、服を縫ったり選んだりするのはすべて肉体の手作業になる。
しかし、キョンシーの肉体は普段どちらかといえば戦闘向けで、ファッションのコーディネートは未知の領域だ。
「よし、まずは異世界のフリーマーケットで、使えそうな古着と布地を調達してくるわよ。私が空からルート案内するから、出発!」
莉奈の指示を受け、キョンシーの肉体がしなやかな足取りでアパートを飛び出した。
夜の異界の市街地。提灯の明かりが灯る露店が並ぶ通りを、キョンシーの肉体が華麗なパルクールのような身のこなしでひょいひょいと駆け抜ける。
額にはもちろん霊符などなく、風に揺れる黒髪のボブカットがよく似合っている。
「そこの角を右! あそこの店のおばちゃん、訳ありの端切れを安く売ってくれるはずよ」
『任せて』と言わんばかりに、肉体は華麗なステップで露店の前に着地し、見事な交渉術(と可愛い笑顔)で、綺麗なフリル付きのブラウスと、動きやすそうなプリーツスカートを手に入れた。
アパートに戻った二人は、さっそく大改造(リメイク)に取り掛かった。
「そこ、もう少しウエストを詰めたほうが可愛いかも!」
「こう?」
肉体がハサミを器用に動かし、チクチクと針を走らせる。幽霊の莉奈は「もっと右の裾を上げて!」とか「リボンはこっちがいい!」と、まるで自分のことのようにテンションが上がってアドバイスを飛ばす。
二人の意識が完全にシンクロしているからこそできる、息ぴったりの共同作業だ。
一時間後。
部屋の真ん中に置かれた鏡の前に、キョンシーの肉体がふわりと歩み出た。
そこに映っていたのは、かつての不気味な邪仙の傀儡の姿ではなかった。
シックな黒のジャケットに、ひらりと揺れる白のプリーツスカート。
首元には、莉奈が「これ絶対似合う!」とゴゴリ押しした赤いリボンタイ。
キョンシー特有の凛とした美しさに、等身大の少女らしい可愛らしさが絶妙にミックスされている。
「わぁ……すっごい似合う! めちゃくちゃ可愛いよ!」
莉奈がパチパチと拍手すると、鏡に映った肉体も、少し照れくさそうに、しかしとっても嬉しそうな笑みを浮かべた。
もちろん、言葉はなくとも、その心は莉奈と完全に一つに通じ合っている。
「よし、せっかくお洒落したんだし、今夜はこの格好で夜の街へ繰り出そうか。
あのチンピラどもを驚かせるついでに、新しくできたクレープ屋さんに寄るよ!」
「うん!」と、肉体が小さく声をもらす。
二つに引き裂かれ、数奇な運命を辿った少女たちは、お気に入りの服をまとって、今夜も自分たちらしく異世界の夜を軽やかに歩き出すのだった。