天職、皇帝。現職、TS巫女。 作:アリエ
何百、何千人もの人々がこちらを見ている。
私の踊っている神楽舞を見ている。
だが、私が舞いを失敗することはない。
この体験は何十回と重ねているし、そもそも私の持っている才能がそれを許そうとしない。
何回も何回も、数えきれないほどに踊った舞いを踊る。
これがあの女神に捧げられているかもしれないと考えれば、癪ではあるが……その感情は表にいっさい出さない。
そうして、私は今日も踊る。
身体に刻み込まれた舞いの型を、ただひたすらに踊るのだ。
✚✚✚×✚✚✚
「ふむ…。みんなに頼まれたものは、これくらいだろう。」
「じゃあ、そろそろ帰るか?」
「いや。もう一時を過ぎているし、ここでお昼も食べていこう。」
そう言って、私は近くにあるフードコートへと目を向ける。
「たしかに腹も減ったな。んじゃ、飯を食ってから帰るか。俺は席を取っとくから、先になにがあるか見てきていいぞ。」
「わかった。その言葉に甘えさせてもらおう。」
いったん宗助と別れ、私は飲食店を見に回る。
「そこの貴女、ちょっとお時間いいですか?」
突然、背後から声をかけられる。
ほんの一瞬、知り合いだろうかと思ったが、響いた声音に聞き覚えはない。
「なんでしょうか?」
「貴女って、もしかしなくてもあの神社…
ああ、このタイプか。
今までにもこういうふうに声をかけられたことは多々あるが……それでも、最近は多い気がするな。
「すみませんが、プライバシーなのでその問いに答えることはできません。連れを待たせてしまっているので、私はこれにて失礼させてもらいます。」
「待ってください。そう言うってことは、やっぱり巫女さんなんですよね?」
なんなんだ、この男は。
もしや、プライバシーという言葉が聞こえなかったのか?
目の前の男のことを鬱陶しく思いながらも、私はさっさとその場を去ろうとする。
「話がそれだけなら、私はこれで。」
そう告げ、私はその身をひるがえす。
「まだ話は終わってませんよ?」
そんな私の手を掴んできた男。
嗚呼……うざい、しつこい、気持ち悪い。
さすがにこれは許容できない。
あまり使いたくはなかったが、アレを使うとしよう。
「失せろ。」
「え?」
「その汚い手を私から離し、即刻私の前から立ち去れ。」
目の前の男の瞳に怯えの感情が浮かび上がる。
だが、私がそれで威圧を弱めることも、ましてや止めることもない。
こちらを掴む力が弱くなったのを見計らい、私はその手を振りほどいた。
その衝撃で、男は床に尻もちをつく。
「二度目は赦さないぞ、下郎。」
男を見下ろしながら、私は冷たい声音でそう告げた。
そうして、今度こそ私はその場を去る。
私を引き止めようとする言葉は、もうかけられなかった。
✚✚✚×✚✚✚
先ほどよりもこちらに向けられる視線が増えてきたな。
不愉快というわけではないが……少しばかり、わずらわしい。
おそらく、先ほどの騒ぎが原因だろう。
こういう目で見られるようになるから、人前であの才能を使いたくなかったのだ。
前世は持っていなかった才能。
転生する際に女神によって植え付けられた、現代では使い道がほとんどない才能。
ソレの名を、“皇帝”の才能という。
皇帝になるにあたって必要な能力がすべて備わっている、ほとんどの人間には必要のないであろう才能。
先ほどの威圧も、皇帝が持つ才能の一つだ。
それ以外にも、内政をするのに必要な能力。
だいたいのことを卒なくこなせる程度の能力。
大衆の心を惹きつけるような、カリスマ的リーダーのような能力。
そのようなものも持っている。
あればありがたいものではあるが、なくて困るようなものでもない。
なにはともあれ、この才能とも上手く付き合っていくしかないのだ。
「そろそろ帰るとしよう。」
「そうだな。早く帰らないと、父さんにどやされるだろうし、とっとと帰るか。」
そうして、私たちは彩璃大社へと帰宅するのであった。