天職、皇帝。現職、TS巫女。   作:アリエ

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第一話

 

 

何百、何千人もの人々がこちらを見ている。

私の踊っている神楽舞を見ている。

 

だが、私が舞いを失敗することはない。

この体験は何十回と重ねているし、そもそも私の持っている才能がそれを許そうとしない。

 

何回も何回も、数えきれないほどに踊った舞いを踊る。

これがあの女神に捧げられているかもしれないと考えれば、癪ではあるが……その感情は表にいっさい出さない。

 

そうして、私は今日も踊る。

身体に刻み込まれた舞いの型を、ただひたすらに踊るのだ。

 

 

 

✚✚✚×✚✚✚

 

 

 

「ふむ…。みんなに頼まれたものは、これくらいだろう。」

 

「じゃあ、そろそろ帰るか?」

 

「いや。もう一時を過ぎているし、ここでお昼も食べていこう。」

 

そう言って、私は近くにあるフードコートへと目を向ける。

 

「たしかに腹も減ったな。んじゃ、飯を食ってから帰るか。俺は席を取っとくから、先になにがあるか見てきていいぞ。」

 

「わかった。その言葉に甘えさせてもらおう。」

 

いったん宗助と別れ、私は飲食店を見に回る。

 

「そこの貴女、ちょっとお時間いいですか?」

 

突然、背後から声をかけられる。

ほんの一瞬、知り合いだろうかと思ったが、響いた声音に聞き覚えはない。

 

「なんでしょうか?」

 

「貴女って、もしかしなくてもあの神社…彩璃大社(あやりたいしゃ)の巫女さんじゃないですか?」

 

ああ、このタイプか。

今までにもこういうふうに声をかけられたことは多々あるが……それでも、最近は多い気がするな。

 

「すみませんが、プライバシーなのでその問いに答えることはできません。連れを待たせてしまっているので、私はこれにて失礼させてもらいます。」

 

「待ってください。そう言うってことは、やっぱり巫女さんなんですよね?」

 

なんなんだ、この男は。

もしや、プライバシーという言葉が聞こえなかったのか?

 

目の前の男のことを鬱陶しく思いながらも、私はさっさとその場を去ろうとする。

 

「話がそれだけなら、私はこれで。」

 

そう告げ、私はその身をひるがえす。

 

「まだ話は終わってませんよ?」

 

そんな私の手を掴んできた男。

 

嗚呼……うざい、しつこい、気持ち悪い。

 

さすがにこれは許容できない。

あまり使いたくはなかったが、アレを使うとしよう。

 

「失せろ。」

 

「え?」

 

「その汚い手を私から離し、即刻私の前から立ち去れ。」

 

目の前の男の瞳に怯えの感情が浮かび上がる。

だが、私がそれで威圧を弱めることも、ましてや止めることもない。

 

こちらを掴む力が弱くなったのを見計らい、私はその手を振りほどいた。

その衝撃で、男は床に尻もちをつく。

 

「二度目は赦さないぞ、下郎。」

 

男を見下ろしながら、私は冷たい声音でそう告げた。

そうして、今度こそ私はその場を去る。

 

私を引き止めようとする言葉は、もうかけられなかった。

 

 

 

✚✚✚×✚✚✚

 

 

 

先ほどよりもこちらに向けられる視線が増えてきたな。

不愉快というわけではないが……少しばかり、わずらわしい。

 

おそらく、先ほどの騒ぎが原因だろう。

こういう目で見られるようになるから、人前であの才能を使いたくなかったのだ。

 

前世は持っていなかった才能。

転生する際に女神によって植え付けられた、現代では使い道がほとんどない才能。

 

ソレの名を、“皇帝”の才能という。

 

皇帝になるにあたって必要な能力がすべて備わっている、ほとんどの人間には必要のないであろう才能。

 

先ほどの威圧も、皇帝が持つ才能の一つだ。

 

それ以外にも、内政をするのに必要な能力。

だいたいのことを卒なくこなせる程度の能力。

大衆の心を惹きつけるような、カリスマ的リーダーのような能力。

 

そのようなものも持っている。

 

あればありがたいものではあるが、なくて困るようなものでもない。

 

なにはともあれ、この才能とも上手く付き合っていくしかないのだ。

 

「そろそろ帰るとしよう。」

 

「そうだな。早く帰らないと、父さんにどやされるだろうし、とっとと帰るか。」

 

そうして、私たちは彩璃大社へと帰宅するのであった。

 

 

 

 

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