「⋯いやアンタ頭大丈夫か?」
ゲレタはアジトの牢に1人の少女を連れて行く途中、口を開く。
少女の名はレナ
バカ兄貴ことマチスの妹であり、マケドニア王ミシェイルから婚約の話があった事から察するにそれなりの家の人間なのだろう。
仮にも父である先王を排し、王位を簒奪したミシェイル相手に話を断るという、ある意味豪胆な事をしている。
普通ならば、たかが有力者の娘程度に断られたとなればそれなりの沙汰が下されるのは解ろうものだが。
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「⋯ありがとうございます。
でも貴方のように話が出来る人もいるのですね。」
レナの言葉にゲレタは内心の苛立ちを隠しながら応える。
「話が出来たとしても、話にならない事は山程ある。
⋯此処は山賊の根城で山賊は舐められたら終わりなんだ。⋯先のガルダでのやり取りを見て淡い期待でも抱いたか?」
ゲレタは話を打ち切った。
ガルダでグルニアの遠征軍を潰したのは食料の確保と共にサムシアンの引き締めの意味が強かった。
そもそも、山賊と言えば略奪のイメージが強いだろう。
しかし、略奪するにしても
確たる拠点を持たぬ山賊なれば、略奪しながら移動するのも方法のひとつではあるだろうが
それとて土地勘のないよそ者となると難易度が格段に跳ね上がろう。
加えて、このサムスーフだからこそ討伐軍を差し向けられないだけであり
目立ってしまえば討伐の危険が高まろう。
ガルダの町とサムシアンはある意味共生関係と言えなくもないが
それはあくまで治安が回復されるまでの話。
ガルダの者達は生きる為、已む無くサムシアンと結んでいるに過ぎないのだから。
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が、ゲームと違い此処は己にとっての現実。
予定調和となるのかは怪しいところだ。
何せ僻地であるサムスーフやガルダではアカネイアやマケドニアなどの動きがわかるはずも無く、またゲームとしての知識はあれど全てを識っている訳でもなし。
ガルダの町から貰った食料はあれど、それだけで足りる筈もなく
その辺の心配のあるゲレタは積極的に獣を狩りにゆく。
その場合、獣に敢えて傷をつけ
血を流させる事で血の臭いで他の獣をおびき寄せる。
しかし、それが全てを狂わせる事になった。
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サムシアンの青年ジュリアン。
彼は今囚われているシスターがこのままでは碌な事にならない事を知っている。
比較的サムシアンの中で話が分かり、しかも頭目からの信頼もあるゲレタ。
彼ならば、シスターを助ける事も出来ただろう。
だが、ゲレタはそうしなかった。
「⋯アイツは今狩りに出ている。」
ゲレタはそれなりの結果を出そうとする為に狩りをする時にも時間をかける。
⋯⋯今ならば、シスターを助ける事も出来るだろう。
「⋯あん?ジュリアンじゃねえか。どうした?」
牢に向かうと見張りの者がジュリアンを怪訝そうに見ながら声をかける。
「ゲレタから話があってな。
そのシスターを売りに行く。」
「⋯んな話は聞いてねえが。
⋯⋯まぁお前が言うんならそうなんだろうよ。」
ジュリアンの言葉に見張りは牢の鍵を手渡すと、その場を後にした。
ジュリアンはシスターを逃がす為にサムシアンを抜ける事を決意する。
「んだとぉ!ジュリアンがそんな事を言いやがったのか。⋯追え!ジュリアンは裏切り者だ。」
見張りの者から報告を受けたハイマンは激怒し、追っ手を差し向ける。
彼の中でゲレタが己の意に反する事をする筈がない。
それは確定事項であり、ゲレタは今日
⋯つまり、ゲレタの言葉を勝手に利用したジュリアンの仕業だと言うこと。
裏切り者には死を
それがサムシアンの掟だ。
ましてや、ジュリアンはシスターを勝手に連れ出している。
許される事ではない。
「⋯ゲレタの奴を探すのは時間がかかるか。
あの傭兵も動かせ!」
こうして山の中に血風が吹き荒れる事となった。