現在大陸を色んな意味で騒がせているドルーア帝国。
人を滅ぼさんとするドルーア皇帝メディウスとそれに従う者達。
それがドルーア帝国である。
と、多くの者は思っている。
しかし、実際のところ皇帝メディウスはアカネイアやアリティア王家の血を絶やさんとしているが、あくまでもそれ以外にそこまでの関心を抱いていない。
それ以外については全て等しく無価値であり、関心を向ける対象ではないのだから。
だが、ドルーアについたガーネフ。
そして彼が嘗て属していた魔法の学び舎カダイン。
そのカダインは今やガーネフに従う事で存続する事を許されていた。
故にカダインとしてはドルーアの不興を買う事態だけは何としても避けねばならず、ガーネフにより殺害されたカダインのトップであったミロア。
ミロアの持つ魔道書をガーネフが求めているとなれば、それに応ずる他に道はなかった。
なのだが、人とは中々に難儀な生き物であり
理屈では理解出来ても、感情が納得を妨げる事しばしば。
その為、父の仇であるガーネフを倒さんとするミロアの一人娘。
彼女をカダインから出し、ガーネフには行方知れずと伝える。
それがガーネフの支配に抵抗したいと願う者達の出来た精一杯だった。
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だが、ミロアの一人娘リンダ。
彼女はカダインで育ち、魔法を学んだ。
その為、カダインの外について疎いどころか無知であるとさえ言える。
勿論ある程度の知識は彼女も持っていたが、彼女が持っていた知識はあくまでも平時のもの。
命が失われ
モノが奪われる事すら珍しくない今の大陸の情勢は彼女の人生を振り回すにはじゅうぶんに過ぎた。
彼女も女の一人旅が危険である事は承知しており、出来る限り女である事を隠すようにしてはいた。
彼女なりに少年らしく振る舞い、身を危険から遠ざけようと
しかし、カダインという閉ざされた所で過ごしていたリンダ。
それに対して多くの者を見る機会のある者。
どちらが勝るかなど言うまでもない。
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オレルアン平原より少し離れた寂れた村。
そこにゲレタの姿はあった。
(見られてんなぁ)
村に入って最初に感じたのは視線。
しかも嬉しくない事に好意的とは思えないソレ
仮にも山賊をやっていた身だ。
ある程度の予想はつく。
⋯おおかた碌でもない村なのだろう。
ゲレタは内心嘆息し、警戒の度合いを強めた。
村人は無力
などと思うなかれ。
村によっては村ぐるみで人を攫ったりするのが今の大陸の現実だ。
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寂れた村に宿泊用の宿がある場合、大抵碌な理由がない。
宿なれば
寝込みを襲えば
多数で抑え込めば
相手を間違えなければ捕らえる事は決して不可能ではない。
ノルダに奴隷市場がある。
つまり、人買いや人攫いに一定の需要があるという事。
特に今の大陸は終わらぬ戦争により疲弊している。
原作において『詐欺師』などと揶揄された事のあるカシム。
しかし、設定によると2度の戦乱を生き延びたと言うのに養うべき家族は死んでいた。等という話があるらしい。
村を襲われ、生きる事が難しくなった者も他の者から奪い
一方で終わりの見えぬ戦争を国の指導者は求める。
財のある裕福な者は我欲を満たす事に執心し
いつ叶うのか分からぬ理想に労力と時間を費やす者もいる。
民は生きる為にあらゆる工夫をせねばならず、そのひとつがこの様な事
サムシアンという山賊集団であろうと、必要となれば利用する事も厭わない。
その
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宿という名目で外部からの者を計り
良さそうな者を捕らえ、売り飛ばす。
別に声高に批判するつもりはない。
それもまた仕方のない事なのだから。
⋯まぁ尤も
「せめて分からねぇ様にやってくれませんかねぇ。」
目に届かない所での話だが
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時は少し遡り、ゲレタが寒村に来た直後
人目を避け、アカネイアに向かっていたリンダは寒村に辿り着き
そこでひと晩の宿を取る事にした。
少年の姿をしてはいたが、リンダ自身目を引く容貌であり
極論『どちらであろうと問題にならなかった』
そして斧などの重量物を持った事のない様な細腕。
体躯もそこまで良くないとなれば、彼等にとって格好の獲物となる。
「何をするの!」
嫌がるリンダを捕まえる村の男衆。
リンダの姿を見た村の者達は宿に人を集めていたのだ。
彼女は魔導士であるが、咄嗟の事に魔道書を出せず抑え込まれる。
「⋯どうやらお嬢ちゃんじゃったか。
すまぬが儂らも生きねばならんでな。」
長老と思しき男は呟く
それは懺悔している様にも見えるが、リンダからすればどうでも良い事。
「離して!」
必死で声を張り上げるリンダだが、誰もそれに応えるはずも無い。
「せめて分からねぇ様にやってくれませんかねぇ。」
ただ1人を除いては
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「村の者ではないのぅ。
すまんが見逃しては貰えんか?」
「これで見逃して目覚めが良いとでも?
ついでに俺も捕らえるつもりの癖にぬけぬけとほざく。」
長老とゲレタは向き合い睨み合う。
「動くな。死にたかねぇだろ?」
ゲレタからひときわ重い声が発せられるが
それでもゲレタの背後の男が動く
「バカが」
その瞬間、背後の男の首元から血が飛び散った。
誰も動けなかった。
「バカ丁寧に警告してやったのに、あめぇんだよ。」
ゲレタは冷ややかな目を長老に向け
「さて、選択肢はふたつ
渡すか、死ぬか。⋯⋯選べ。」
そう言い放った。
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長老はリンダを解放する事を選び、ゲレタは
これでこの村に留まるのは勇気でも豪気でもなく、無謀であるから。
「じゃ、後は好きにしな。」
「⋯⋯⋯⋯え?」
今のゲレタにとって、他者は疎ましい
それでも彼女を助けたのは未だ現代日本の倫理観が色褪せながらも残っているのだろうが
それもまた不愉快だった。
元々そんな立場であったからそうすべきではないのか?
仮にも多少信用していたジュリアンの行動。
それはゲレタに少なからぬ負担を強いている。
実のところ、彼女を助けた事すら自分の中で後悔している部分もあった。
その明確な線引きも、割り切れもしない。
しかし、他者を傷付けねば生きていけぬのも事実。
死にたくないから、そうするしかない。
何とも芯の無い己にゲレタは嫌気がさしていた。
だからこそ、今他人と関わりたいとは思えない。
しかし
「私を助けてくれた人に何の恩も感じない。
なんて事はないのだけど。」
そんな凍った心を解かそうとする者がいた。
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悪い人、では無いと思うのだけど
リンダは目の前の仏頂面の男の顔を見つめながらそう思う。
確かに見ていて気分の良い
だが、それでも
気持ちが弱くなっている自覚はある。
まさか、あんな温厚そうな人達が
と
しかし、組み伏せられたあの感覚は間違いなくアレが現実であると
目の前の人が居なければ、どうなっていたのか分からないのは確か。
⋯いえ、碌な事にならなかったのだろう。
大きな溜息をつくと
「世の乱れっぷりに涙が出るわ。」
「⋯⋯助けてくれてありがとう。
でも、どうして?」
「気の迷いだ。それ以外に表現出来ん。」
そう憮然と口にする。
その様子に失礼とは思うが、少し笑みが溢れる。
「私はリンダ。あなたは?」
「ゲレタだ。元山賊。」
「山賊!?あなたが?」
「⋯見えんか?」
「見えない、かな。」