「さて、ジュリアン殿。
話を聞かせて貰えるかな?」
オレルアンのマケドニア軍との戦闘を終え、マルス達はオレルアン公の勧めでオレルアン城内で休んでいた。
未だ戦闘の爪痕がそこかしこに見られるものの、城内の雰囲気は明るく
これからのオレルアンが良い方向へ向かうと思わせるものだった。
マルス達は一足先に休んでいたが、マルスの軍師として動かねばならないモロドフはこの機会に聞くべき事を聞く事とした。
幸いと言うべきか、聞くべき相手のジュリアンは殆ど戦闘に参加しておらず疲労の度合いもそこまでではない。
「彼等や頭目である男が口にした『アイツ』
それは何者なのか?」
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「てめぇジュリアン!裏切るつもりか!!」
「裏切った者はどうなるか分かってやってんだろうなぁ!」
「アイツが許すと思ってんのか!」
時はサムスーフ山でのサムシアンとの戦闘の時に遡る。
シスターレナを逃がそうとしたサムシアンの
⋯いや、
ジュリアンのついた嘘に気付いた彼等は怒りを露わに襲い掛かってきた。
⋯それがアリティア軍であろうと関係ない。そう言わんばかりに。
しかし、彼等の怒りの矛先であるジュリアンに対する攻撃は執拗であり、その援護に入った重騎士ドーガがかなりの怪我を負うほどの苛烈なもの。
結果として傭兵であるナバールを味方に引き込めた事で難を逃れたが、そうでなければ覚悟を決めねばならぬ。そうジェイガンやモロドフが思う程。
確かにガルダの町でシスターレナを助けて欲しいと願われたが、それは必ずしも果たすべき
出来れば程度のもの。
不思議な事にサムシアンについて討伐して欲しい。
等と言う話はまるで聞こえなかった。
「アイツってのはゲレタ。
サムシアンの頭目、ハイマンの信用する男さ。」
サムシアンの根城の捜索も程々にその場を離れる事を主張したジュリアンはそう口にした。
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サムシアンは近くの集落やガルダの町と一定の関係を築いていた。
元々近くの集落はともかく、ガルダの町についてはこの様な関係にはなく
それはゲレタがハイマンに提案した事によるもの。
ガルダの町は食糧などを
サムシアンはその戦力を
互いに出し合う事である程度の秩序を守ろうとした。
その象徴が
「不思議に思わねぇか?
仮にも名の知れた傭兵であるナバール。アイツが何で山賊集団に雇われていたのかってさ。」
モロドフは表情を険しくし、
「やはり、か。」
そう重々しく呟いた。
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その辺の破落戸と違い、二つ名を持つナバール程の者であれば依頼を選ぶ事も許される。
にも関わらず、女子供を殺しかねぬ山賊集団に身を置いていたのは勿論理由があった。
「元々ガルダの町の雇った傭兵なんだよ、アイツは。
だからお姫さんの説得で動いた。」
傭兵として生きていく為には信用がなければならない。
カシムの様に本意でないとしても、本来裏切りはその未来をも閉ざす行為。
流石に山賊集団であるサムシアンが傭兵を雇うのは難しい。
⋯まぁ、ガワの整っている自分やゲレタならば或いは出来るのかも知れないが。
ナバール1人居た所で、ガルダの町全ては守れない。
侵入経路が多すぎるからだ。
だからこそ、町の者はナバールという戦力をサムシアンに出し
サムシアンはそれに応ずる形で今まで通りの関係としようとした。
まぁマルス達により全てご破算になった訳だが。
そもそもが『悪魔の棲まう山』などという大袈裟な呼び方もサムスーフに足を踏み入れる者を減らす為のものであり、レナを助けて欲しいと願ったのはほんの一部。
その者が外部の者であるマルス達に頼み込んだ。
「はん、テメェのくだらねぇ浅知恵なんぞ分かってんだよ!
アイツが俺を裏切る筈がねぇ!
さぞ満足だろうな、ジュリアン!アイツは今も俺達の食う食料を確保しているってのによぉ!」
そう自分はゲレタがあの日食料を確保しに行くのを知っていた。
だから、レナさんを助けられたのだ。
後悔はしていない
⋯筈だ。
だが、ゲレタが殺しに来たら?
本気のアイツに勝てるのか?
ジュリアンはその思いに囚われる事となる。
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ハイマンにとって、ゲレタとはほんの気まぐれで拾ったおかしな奴であり
またいつの間にか信用するに値する者となっていた。
報告を怠らず
常に自分に相談し
サムシアンの連中にも話をするのを忘れない。
その一方で、余りにも目に余る者については始末する事を躊躇わず
それとてサムシアンという集団を維持する為のものとしてきた。
「無駄は宜しくありませんからね。」
基本的に何もかもが足りていないサムシアンにおいて、そのやり方は大いに同意するところであり
ゲレタならばある程度の優遇をする程度にはハイマンも心を許していた。
だからこそ、その繋がりを利用したジュリアンの小賢しいやり方など通じる筈もなく
寧ろジュリアンを殺そうとする意気が上がったくらいだ。
ジュリアンも含めたサムシアンの者達はゲレタの力に怯えている。
一度寝床を狙ったアホがいたが、ゲレタは元々サムシアンの根城で寝ていない。
勿論、言うまでもなくソイツは翌朝直視に堪えない様な最期を迎えていたが。
「アイツが居ねぇだけで此処まで変わるかよ。」
圧倒的暴威を振りまくゲレタが居れば、多少の戦力の差など意味をなさない。
それが欠けているとなれば、この結果も納得出来ようというもの。
しかし、自分の所に進軍する連中の姿を見るに込み上げてくるものはあった。
満身創痍、とまではいかぬものの
誰もが少なからぬ怪我を負い
唯一それが見られないのはあのシスターのみときている。
良い夢を見れた。
ハイマンは素直にそう思う。
道を外れ、賊の頭目にこそなれはしたがそれだけ。
しかし、今は違う。部下の叩き出した戦果と
「⋯まさか、アイツが此処に居りゃあ。
なんて俺が思うとはな。」
信頼できる部下が確かにいた。
「俺はサムシアンの頭目ハイマン!
馬鹿どもとアイツの為にもテメェ等は殺す。」
ハイマンは鋼の斧を振り上げる。
せめてサムシアンの頭目として立派に散る為に。