Qui se ressemble s'assemble (似たもの同士は自然と集まるものだ)   作:タカハシ サツキ

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クローズド・ホールド
Qui se ressemble s'assemble (似たもの同士は自然と集まるものだ)


 

仕事の帰り道。海岸に男が腰掛けていた。

プライベートの外出にしては随分とフォーマルな格好で、

仕事の途中にしては時間を気にする様子もない。

そして...経験缶詰を食べていなかった。

N社では、実に珍しい事に。

この翼で'黄昏れる'という言葉は、他者の経験を摂取し、

それを擬似的に...噛み締めている事と殆ど同意義。

だというのに彼は、己の目で

夕焼けを目に焼き付け、眩しそうにしている。

それに異質さを感じて、声を掛けた。

 

『...貴方、そこで何を?』

『夕焼けを、見ている。』

 

...座らず、隣に立って夕焼けを見る。

眩しくて、火のように熱く、赤い。...彼と同じモノを、

私は見られているのだろうか?

いいや、そんな訳はない。相互に理解し、同じ価値観を抱えることは

缶詰を通したって不可能に近いのに、これほど簡単に、

何の痛みも伴わずに相手に歩み寄る事などできはしない。

...わかっているのに、思考が反復してしまう。

"初めから同じ場所に立つ誰か"を欲してしまう。

 

目を閉じ、波の音や私の息の音、彼の呼吸音を

感じ取る。存外に、心地良かった。

 

 

彼の...'楽しみ'か、それともただ時間を潰しているだけなのかは

わからないが、その時間まで釘付けにするのはいたたまれない。

そんな真似をするのは、シーシュポスで岩を転がしている間だけで十分だ。

 

『『...』』

 

...夕日を眺め、隣に座る男から感じた異質さの原点を思案していると、

ふと一人の同僚を思い出す。

巨人。その恐ろしさをこの世の誰よりもわかっているから、どうやって経験を、記憶を、価値観を、人格そのものを釘付けにすれば良いのか理解できてしまう者たち。その中の一人。

己の在り方を定義し解釈を押し付けて釘付けにしてくる、'視線'を嫌う人。

巨人たちの中で、最も私と近い恐れを抱く人。

 

私は、彼を見る。彼女に'配慮'するのと同じ...

そう考えた時点でもう手遅れなのだろうけど、

釘付けにしない様に、ただどうあるのかを見ようとする。

 

『貴方、名前は?』

『ムルソー。アルベール・ムルソー。』

 

彼女と同じ家名。...ご子息は史上最も優秀な巨人になるともっぱら噂が立っている。...いえ、この巣ではありふれた家名よ、私が過剰に反応してしまっただけ。

 

『...そう。私の名前は...』

『ジャンヌ・サルトル嬢。シーシュポス塔の巨人の一人。...お初にお目にかかります。母から、

御名前はかねがね。』

 

 

この時、初めてまっすぐ彼を見つめた。

 

言動の節々から、己を律すると云うには痛々しい程に

自らへの抑圧を強いているのに、その抑圧に対して微かに

怒りを抱き始めていた。

 

せっせと、鎖を巻いていた。

己を絞殺するかのように力強く。

鎖帷子のような鎧を己に纏わせ、外から来る

何かから己を守ろうと。

或いは、内側から引きちぎって

しまわないよう必死に。

 

同じだと、思った。生きていくには、耐えなければいけない。

私には理解できない事を

さも理解できて当然のように語る社会に、

相互理解などという

幻想を信じる者達の言葉に。

 

歩み寄るですって?

相手がどこを目指して歩いているかもわからないのに?

互いの歩幅もわからず、すれ違うかもしれないのに?

そもそも...お互いではなく、自分の理想の誰かを見ているだけかもしれないのに?

 

 

"...でも、もし初めから同じ場所にいるなら?"

“互いの所作くらいは見える距離で、共に踊るなら?”

 

 

 

隣に座って、目線を合わせてみる。

 

『ねぇ、ムルソー。私達、とても...良い仲になれそうだと思わない?』

 

『そうでしょうか。』

 

『ええ、きっとね。

...この後、予定は空いている?』

 

『...母は、誰の視線もない一人の時間を好みますから、今すぐ帰宅する必要はないでしょう。問題ありません。何か御用でしょうか?』

 

『...この近くに、私が通っているカフェがあるの。食事でもどう?それと...私に敬語は要らないわよ。』

 

『...わかった。』

 

『よかった、それじゃあ...エスコート、お願いできる?』

 

『あぁ。』

 

 

 

 




ムルソーの家名は異邦人原作者様アルベール・カミュ様から引用させていただきました。
名前を日本式の順番で書いてたりクソガバなのはお目溢しいただけますと幸いです。

史実で対立した思想を持つもの同士を、だからこそ互いに歩み寄ろうとする恋人。
と解釈するプロジェクトムーンはマジですごいです、目から鱗でした。
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