過重労働系学院長   作:いみて

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第一話

 

 

王立カーライナ魔術学院。

そこは大陸最大の国家であるファフリア王国に建設された、世界各地から才能に溢れた少年少女が集まる名門校である。

 

そんなかの学院の学院長である僕…ユグリナーヴァ・アーストルの日常は、常に多忙と言って差し支えないほど大変だ。

 

分刻みで管理されている仕事スケジュール。

二十歳にも満たない青少年たる僕にやらせるとは思えないような膨大な書類。

大国の王とも遜色ないほどの忙しさを誇る学院長としての仕事だが、最近はもっとひどいことになっていた。

 

次から次へと、生徒間でのトラブルが僕のもとへ入り込んでくるのである。

僕を後継者に指名してくれた見る目のある先代の学院長殿には、今度会ったらこう告げようじゃないか。

なんで僕を後継者に指名したんだこのクソボケ爺さんが…と。

 

まぁ今この座にいるのが僕以外の教師だったら、確実に学院経営は破綻していただろう。

その点から考えれば、かの恩師の選択は間違っていなかったと言える。

僕の心情を抜きにすれば、ね。

 

なにが好きで、体力回復ポーションとカフェイン大量のコーヒー漬けな生活を送らねばならんのか。

いつか身体を壊して、死ぬことになるよ………僕が。

 

というか、どうして毎日一時間半睡眠でここまで働けてるのかが僕には不思議でならない。

いくら僕が天才だったとしても、あんな生活を送ってたら倒れないほうがおかしいよ。

 

そんなことを考えながらも、僕の脳はすごい速さで回転しており、今も束になっている書類に高速で判子を押していた。

昨日もかなりの量の書類を片付けたはずなのだが、どうして一日でこんなに書類が発生するのだろうか?

 

「っと、そろそろ朝礼の時間ですか。」

 

いけないいけない、心を無にし過ぎていた。

これをやると作業効率は上がるけど、時間がかなり速く進むんだよねぇ。

そのせいで、何度か遅刻しそうになったことがあるし。

 

「風の精霊さん、僕と一緒に遊びましょう。ゴーカートです。障害物に当たっちゃったら、ご褒美が減るのでお気をつけて。」

 

宙に向けてそう告げると、僕の身体が優しい風に包まれてふわりと浮く。

そして、そのまま教師たちのいる職員室へと風の精霊さんたちに運ばれていった。

 

 

 

✚✚✚

 

 

 

「んんっ…はぁ〜。久しぶりに、ちゃんとしたお昼ご飯が食べられそうですね。先生方や夜食に回すことにならなくてほんとうに良かった。」

 

すべての書類が片付き、僕は大きく身体を伸ばす。

腕に巻いた時計の針が指し示している時間から、まだお昼ご飯として持ってきたお弁当が食べられると考え、鞄の中から弁当箱を取り出した。

 

今日の昼食として買ってきたのは、サンドイッチ。

中身は結構奮発したので、お高いステーキが入っていたりする。

 

「だけど⋯少し買いすぎてしまいましたね。全部食べられそうな自信が湧きません。」

 

バケットの中に、十枚以上も入っているサンドイッチを見つめ、小さくため息を漏らす。

どうしたものかと考えていると、コンコンと部屋のドアがノックされた。

 

「失礼します。アーストル学院長、少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

 

入ってきたのは、腰まで伸びている金髪をポニーテイルにしている少女。

少女の手には何枚かのプリントが握られている。

 

「どうかしましたか、エルスティ生徒会長。」

 

カーライナ魔術学院の生徒会長ことアイリーン・エルスティ。

彼女は僕の一つ年下であり、この学院最強の生徒の一角だ。

 

「少し相談したいことがありまして⋯。あっ、でも忙しかったらまた後日で構わないんですけど。」

 

申し訳なさそうな雰囲気を出しながら、エルスティさんはそう言う。

あぁ、なんていい子なのだろうか。

今年の一年生たちにも、この殊勝な態度を見習わせたい。

 

「大丈夫ですよ。生徒の悩み事を聞くのも、教師の仕事の一つですので。」

 

「ありがとうございます。それじゃあ早速ですけど⋯⋯。」

 

そこまで言って、エルスティさんのお腹が可愛らしい音を鳴らした。

 

「もしかしてお昼を食べていなかったのですか?」

 

「お恥ずかしい話ですが、生徒会の職務が忙しかったもので⋯。」

 

ふむ⋯分ける相手としては、ちょうどいいかな。

 

「では僕のサンドイッチを分けるので、食べながらお話ししましょうか。遠慮せずに食べてもらって構いませんよ。そこに座ってください。」

 

「えっと⋯それじゃあ失礼します。」

 

おそるおそるといった感じで、エルスティさんはソファに腰掛ける。

僕もその対面へと腰を下ろし、サンドイッチの入ったバケットを間の机へと置くのであった。

 

 

 

✚✚✚

 

 

 

「それはそれは⋯。カイラくんはすごいですね。まるで物語に出てくる英雄みたいです。」

 

「そうなんですよっ!!カイラくんはすごいんです。だからなのか、私以外にもカイラくんを好きになっちゃった娘がいっぱいいて⋯。もう朴念仁すぎて酷いですよ、カイラくんったら。」

 

お酒に酔っているかのような勢いで喋るエルスティさん。

なんだか僕の中で、エルスティさんのキャラが崩壊してるなぁ。

ちなみにカイラくんというのは、今年の新入生であり数少ない特待生である少年だ。

 

それにしてもうらやましい。

恋愛小説のような青春ができてて、ほんとうにうらやましい。

僕が学院にいた時なんて、周囲と歳が五歳以上も離れてたから、青春らしいものは少しも送れなかったからさ。

思春期に入る頃には教師になってたから、恋愛なんて体験できなかったし。

 

「そういえばアーストル学院長に、気になる女性はいらっしゃらないのですか?お見合いのお話はいくら来ててもおかしくないと思うのですが。」

 

「あー⋯まぁうん。縁談の申し込みは来てるらしいですけど、全部断っていますからね。恥ずかしい話ですが、恋人を作れるほど現状に余裕があるわけじゃないので。」

 

一日だいたい22時間労働だよ?

労働基準法ガン無視の労働時間だよ?

恋人を作る時間があるなら、睡眠時間を作ってる。

 

「学院長の仕事って想像以上に大変なんですね。」

 

その言葉に、僕は無言で頷いた。

 

 

 

 

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