過重労働系学院長 作:いみて
ファフリア王国を治める王が暮らす宮殿⋯イアナ宮殿。
その最奥の一角にある応接間のソファに僕は座っていた。対面には僕と同じように過労気味な初老の男性。
国王陛下ことラギアクルス・フォン・ファフリアである。
「久しぶりよの、アーストル。それとも、白銀卿と呼んだほうがよいか?」
「アーストルでお願いします、陛下。」
「ククッ、そうか。いまだに白銀卿の呼び名は恥ずかしいか。まぁ理解はできるがな。」
白銀卿。
それは僕が十三歳の時に、陛下につけられた二つ名だ。
ぶっちゃけ恥ずかしすぎる⋯名付けられてから六年経過した今でも変更を要望するほどに。
「そう思っているのなら、僕にこんな呼び名を与えないでください。陛下のワードセンスを疑いますよ⋯まぁもう疑ってるんですけど。生徒たちに毎度のように白銀卿って呼ばれるの、めちゃくちゃ恥ずかしいんですから。」
「フッ。良いことじゃないか、慕われていることがよく分かって。」
たしかに、そう考えればいいのか?
っと、危ない。
もう少しで、陛下にまともな感性を奪われるところだった。
「それで⋯今日僕を呼んだ理由は何なのですか?これでも陛下と同じくらい仕事が多いので、できる限り早く帰りたいんですけど。」
「余もお主と同じ気持ちじゃ。だが、しばし待て。もう少しすれば、ヤツも来るはずだ。」
ヤツとはいったいだ、れ⋯。
このバカでかい太陽みたいな魔力、まさかっ!?
「どうやらお主も分かったようだな。ヤツというのは、龍焔の魔女───。」
「ひっさしぶりだなぁ!!元気にしてたか?この私が、レイリ・アストラがここまで会いに来てやったぞ。めちゃくちゃ喜んでいいからな、ナーヴァ!!」
国王の話を遮って部屋の扉を開けたのは、紅色の髪とドレスを着た美女。
彼女の名前は自己紹介の通り、レイリ・アストラ。
龍焔の魔女と呼ばれ恐れられている、この国最強の一角だ。
あっ、ナーヴァっていうのは僕の愛称みたいなものね。
「お久しぶりですね。レイリさんは元気に過ごせているようで何よりです。」
「あぁ!!元気なのが私の取り柄だからな。そういうナーヴァは……なんというか、やつれているな。何があったんだ?」
うーん…言えない。
労働基準法を破って、バリバリ労働してますとか、陛下の前じゃあ絶対に言えない!!
「いえ。とくになにもありませんよ。せいぜい挙げるとするのなら、仕事が忙しいということくらいでしょうか?」
嘘は言ってない。
すごく重要なことを言ってないということでもあるが。
「ふーん…嘘は言っていないみたいだし、まぁいいか。困ったら私に言えよ、絶対に助けてやるからな。」
「まぁもし困ったりしたら、そうさせてもらいます。それで…結局、僕はなんで呼び出されたんですか?レイリさんがここにいるので、余計に分からなくなってるんですけど。」
「呼び出しの理由にレイリは関係ないぞ。余がお主に会うと言ったら、レイリが会いたいと言い出して、此奴もここに来ることになったわけだからな。」
そうですかい。
それならさっさと話を終わらせて、レイリさんが来る前に帰らせてほしかったなぁ。
「許せ、アーストル。───では、そろそろ本題に入るとしようか。我が国で、テロが計画されている。」
先ほどと打って変わって、真剣な眼差しに僕はゴクリと息を呑み、陛下からの言葉を聞くのであった。
✚✚✚
「ぜんぜん起きませんね、陛下が言っていたテロとやらは。」
一応言っておくが、別にテロが起きてほしいというわけではない。
ただなんというか、少なからず気を張っていたので、その努力の分を返してほしいという感じなだけである。
「そろそろテロが起きるであろう期間も終わりますし、もはや起きないのでは………なるほど。これがフラグというヤツですか。」
僕は小さく苦笑をこぼした。
まさか僕が自覚もないままにフラグを建てていたなんて思っていなかったからである。
「あぁ、警戒が無駄にならなくて良かった。」
肌にビリビリと感じる敵意。
なんだか昔を、前線で働いていたころを思い出しますね。
「ふふっ。それじゃあ行くとしましょうか。生徒たちに被害が出る前に片付けなくては。」
これからテロリストたちと戦いに行くとは思えない軽やかな一歩を僕は踏み出す。
さぁ、蹂躙を始めましょうか。