GTO〜もし過去に戻れたら〜   作:死徒

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みやび編開始です。


第十一話〜謝罪〜

 

麗美とみやびが旧校舎で劇的な和解を果たし、本当の親友に戻ってから一夜明けた吉祥学苑は、数日前のあの張り詰めた光景が嘘のように静まり返っていた。

 

朝の登校時間。

 

数日前、暴走したみやびによって学苑中に公にされた麗美の出生を侮辱する悪意のビラは、鬼塚英吉という規格外の教師の暴力的なパッションによって、文字通り木っ端微塵に粉砕された。

 

あの日は流石に状況が状況だった為、そのまま一斉下校となり、数日の休みを挟んだ後、再び学校は再開された。

 

だが、廊下で行われたあの問答の余波は、別の形で学苑内を揺らしに揺らしていた。

 

「おい、聞いたかよ……この間の鬼塚のブチギレ発言?」

 

「聞いた聞いた! 神崎は『俺の大事な女』だとか、仮の話だろうが何だろうが関係ねえとか言ってたやつだろ!?」

 

「それってつまり……あの二人がガチで付き合ってるってことだよな!? 教師と生徒が付き合ってるとか、マジで大スキャンダルじゃねえの!?」

 

当然の反応だった。

 

いくら麗美を守るための啖呵(たんか)とはいえ、鬼塚は学校の廊下という、多くの生徒達の目の前で麗美を「俺の女」と宣言してしまったのだ。

 

登校してきた生徒たちの間で、そんな噂話が光以上の速さで駆け巡り、職員室の教師達の耳に入るのも時間の問題となっていた。

 

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三年四組の教室。

 

ガララ、と前扉が開くと、いつも通り麗美の【夜の通い妻行為】により、寝付けなかったのか、目の下にどす黒いクマを刻んだ鬼塚が、死にかけの生霊のような有り様で教壇に立った。

 

 

「ふぁぁ〜……うお〜い…てめえらー……朝のホームルーム…始めるぞ……」

 

「鬼塚ァァーー!!」

 

眠気を隠し切れず、あくびをしながら力無く言う鬼塚。

 

その瞬間、村井が机をガタァッと叩いて立ち上がった。

 

「てめえこの間の休み前、廊下で神崎のこと『俺の女』だなんて言いやがったな! マジでどういうことだよ! 神崎も神崎だ、なんで否定しねえんだよ!?」

 

「そうだよ、鬼塚! いくらなんでも教師が生徒に手ぇ出すなんて、一発で免職処分だしリアルに警察行きだぞ!」

 

藤吉や草野たちも次々とヤジを飛ばし、教室中は蜂の巣をつついたような大騒ぎになる。

 

中立を保っていた菊地でさえ、眼鏡の位置を直しながら冷ややかな目を向けていた。

 

「さすがの俺も、今回の鬼塚先生の言動は論理的破綻が過ぎると思いますよ? 法的な境界線を踏み越えている可能性がある」

 

「あぁっ!? て、てめえら誤解だバカヤロウ! あれはだな…その…あの…ハッタリっつーか、言葉の弾みっつーかだな!」

 

鬼塚は眠気が一気に吹っ飛び、顔面を真っ青にして激しく手を振り、必死になって否定しようとする。

 

しかし、そんな男の慌てぶりに、窓際の席に座る神崎麗美は、フッと無邪気な優等生の微笑みを浮かべながら、席を立ち、すっと手を挙げた。

 

「はーい! みんな、落ち着いて? あの時先生が言ったのはね、あたしを『1つの個の人間』として認めて、命がけで守るって意味での、文学的な比喩よ?」

 

「は、比喩……?」

 

村井が呆気に取られたように声を漏らす。

麗美は完璧なまでの嘘をさも本当のように口にし、笑顔をクラス全員に向けると、鈴を転がすような声で、更に淀みなく言い放った。

 

「そう。え…いや、鬼塚先生は、あたしたち三年四組の全員を、それこそ性別や年齢なんていう小さな枠組みを超えて、自分の家族や身内と同じくらい大切に思ってくれているの。その熱いパッションが、あのような破天荒な表現になってしまっただけ。ね? 先生、あたしの解釈で合っているかしら?」

 

麗美の視線が鬼塚を貫く。

 

その瞳の奥には、「ここで話を合わせないと、生き埋めの件や『本当の秘密(仮の恋人)』をバラすわよ?」という、冷徹な脅迫がギラリと宿っていた。

 

まあ、麗美としては、鬼塚との仮の恋人関係がバレようがバレまいがどっちでも良いと思っている。

 

ただ、愛する男の天職が無くなっては可哀想という思いから擁護しているだけである。

 

「お、おうっ! そう、それだ! さすがIQ200の神崎だ! 先生の言いたいことを100パーセント翻訳してくれたぜ! つまりあれだ、お前ら全員が俺の『女』であり『男』であり、ファミリーっつーことよ! 誰一人として見捨てねえって意味だ!」

 

「なんだよそれ、強引すぎるだろ!」

 

「紛らわし過ぎなんだよ!」

 

「もっと考えてもの言え!」

 

村井たちが呆れたようにツッコミを入れるが、麗美に次いで頭脳明晰な菊地はそれが嘘だと見抜いており、麗美の完璧なフォローと鬼塚の勢いに、

 

「(……なるほど。公の場でのスキャンダルを、ただの熱血教師の拡大解釈として煙に巻くつもりか。これなら周囲がいくら騒いでも『生徒全員への身内愛』として処理できる…考えたな…)」

 

と、一人で納得して引き下がった。

 

吉川だけは「(絶対に比喩じゃないと思うけど、僕、口が裂けても言えないや……)」と苦笑していた。

 

ちなみに朋子はあの後、麗美からそれとなく知らされていた為、目をキラキラさせて見ているのみであった。

 

麗美の圧倒的な弁舌によって、学苑崩壊レベルの危機は何とか力技で有耶無耶に隠蔽されたのだった。

 

「――それから、みんな。もう一つ、大切な話があるの……入って良いわよ」

 

麗美がそう言った直後、不意に教室の後ろの扉が開き、教壇の前へ進み出てきた影があった。

 

影の正体は相沢雅だった。

 

みやびは鬼塚の真横に立つと、歩みをやめ、クラス全員に向き直り、視線を向ける。

 

そんな彼女の顔には、この間まで教室の絶対的な女王として君臨し、周囲を冷酷に支配していた、あの刺々しい表情は一切なかった。

 

不安な表情をしながらも、以前よりすっきりと晴れ渡ったその顔は、まるで小学生時代に戻ったかのように、どこまでも無垢で穏やかな空気を纏っている。

 

「み、みやび……?」

 

「あんなことしといて…良く顔出せたな」

 

「というか朝っぱらから何突っ立って――」

 

生徒達が話す中、みやびは静かにクラス全員に向かって一礼すると、再びまっすぐに彼らを見据えた。

 

その目には、大粒の涙がポロポロと溜まり始めていた。

 

「今まで、わたしがみんなを煽って、酷いことを数えきれない程やったり、鬼塚先生をクビにしようとしたり、吉川くんに酷いイジメをして追い詰めたりしていました。……それに麗美にも取り返しのつかないようなことを………本当に…本当に…ごめんなさい!!!」

 

深々と頭を下げたみやびの涙が、教壇の床へ落ちていく。

 

「大人が信じられなくて、裏切られるのが怖くて、わたしは自分からすべてを壊そうとしてた。でも……間違ってたの。 それを麗美に気付かされた……あんな酷いことをしたのに……麗美はそれでもわたしを見捨てず昔みたいに親友に戻ろうと言ってくれた……麗美、本当にありがとう。……先生も、吉川くんも、わたしのせいで傷ついたクラスのみんなも、本当にごめんなさい!!! 償いきれるか分からないけど、これから一生掛けてでも償っていくから……っ!!!」

 

涙ながらの自らの罪の告白。

 

その嘘偽りのない、別人のように素真面目になった姿に、教室中が完全に静まり返った。

 

嘘偽りない、心からの叫びに全員が彼女を非難することが瞬時に出来ない。

 

鬼塚はドスドスとみやびの前まで歩み寄ると、その額を大きな手のひらでパチンと軽く小突いた。

 

「頭上げろ、相沢。てめえがやってきたことは、そう簡単に帳消しにできることじゃねえ。吉川やみんなに、自分でも言ったように、これから一生かけて誠意を見せていくんだな。……でもよ、てめえは今、心の底から本気でごめんなさいって言った。 それが言えたなら、俺は三年四組の担任として、その泥を一緒に払ってやる。 これからは下向いてねえで、ガキらしく思いっきり笑ってろ、バカヤロウ!」

 

「……っ、はい……! ありがとう、鬼塚先生……!」

 

鬼塚に言葉を受け、みやびの顔に、あの日以来失われていた本当の笑顔が咲き誇った。

 

吉川もそっと席を立ち、教壇へ向かうと

 

「相沢さん……僕も、君のことはまだ少し怖いけど、謝ってくれて嬉しい。また、普通のクラスメイトとしてよろしくね」

 

と手を差し伸べ、みやびはその手を涙ながらに握り返した。

 

「あたしたちも、みやびちゃんを許すわ! ね、麗美ちゃん!」

 

朋子が嬉しそうに声を上げると、麗美もフッと穏やかに目を細め、席を立ち、教壇へ歩み寄る。

 

そして、目の前に居るみやびに向けて小さく頷いてみせた。

 

「改めて…おかえり、みやび」

 

「うん……ただいま、麗美」

 

最大の黒幕だった相沢みやびが完璧に改心したこと。

 

これが、後に三年四組に爆発的な変化を急速に引き起こすこととなった。

 

ー

ー

ー

 

しかし、みやびが抱える最大の闇――「冷え切った家庭環境」という問題は、まだ何一つ解決していなかった。

 

その日の放課後。

 

夕闇が差し込む屋上…そこにあるプレハブ小屋【鬼塚の家】に、麗美、みやび、朋子、吉川の四人が集まっていた。

 

「……そっか。相沢さんのお家、そんなことになってたんだね……」

 

吉川が沈痛な面持ちで呟く。

 

みやびは、机の上に視線を落としたまま、自嘲気味に笑った。

 

「そうなのよ。形だけは立派な家庭だけど、中身はとっくに冷え切ってる。お父さんもお母さんも、わたしのことなんて見てないの。ただ世間体のために、わたしを『良い子』にしておきたいだけ。あの家には……わたしの居場所なんて、どこにもないのよ」

 

ぽつりぽつりと、今まで誰にも言えなかった本音を吐露するみやび。

 

そんな彼女の華奢な肩を、朋子が涙目を浮かべながらぎゅっと抱きしめた。

 

「みやびちゃん……今までずっと寂しかったんだね……でも、もう一人じゃないよ! あたしたちがいるもん! ね、麗美ちゃん!」

 

朋子に振られ、麗美は静かに窓の外を見つめた。

 

逆行者である麗美は、前の世界(未来)でみやびの家庭が崩壊したことを知っている。

 

今の時間軸でも、すでに両親の不和はほぼ修復不可能な段階まで進みつつあった。

 

頭(データ)で理解していることと、リアルタイムの現実。

 

(今のあたしがみやびを救うなら、システムの外側からハッキングするしかないわね)

 

麗美はフッと不敵な笑みを浮かべ、携帯を取り出した。

 

「安心しなさい、みやび。あんたのその壊れかけた家庭環境、あたしが文字通り直してあげるわ。……ちょうど、使える『駒』も来たことだしね」

 

「え……? 駒って……?」

 

みやびが首を傾げた、その瞬間。

 

バサササッ!!! と猛烈な勢いで扉が開き、黒い影がプレハブ小屋内に転がり込んできた。

 

「ぶふぉっ!? ゲホッゲホッ……!今日の風強すぎだろ…ったく、急に呼び出すんじゃねえよ麗美! オレ様はこれから久しぶりにパチスロに行こうと――」

 

入ってきたのか鬼塚だった。

 

事前に信頼できる相手しか居ないと知らされていた為、鬼塚は麗美を普通に名前で呼んでいた。

 

「遅いわよ、ダーリン」

 

「ん?………はぁ!?」

 

聞き慣れない甘い単語に、みやびの思考が一瞬でフリーズした。

 

今、麗美は確かに、あの鬼塚に向かって「ダーリン」と言った。

 

その場にいる朋子と吉川、そして当のみやびの三人は、いじめや様々な騒動、そして劇的な和解を経て、二人が「仮の恋人関係」であることを麗美に例外的に知らされる或いはそれとなく知らされていた。

 

しかし、いざそれを目の前で生々しく、しかもごく自然に呼ばれるのを聞かされるのは、みやびにとって完全に想定外だった。

 

みやびは両手をパタパタとさせながら、顔を真っ赤にして麗美と鬼塚を交互に見つめた。

 

「ちょ、ちょっと待って麗美!? あんた今、なんて呼んだの!? だ、ダーリンって……いくら仮の恋人だからって、それは流石に中学生が担任を呼ぶ呼び方じゃないでしょ!?」

 

「あら、何かおかしいかしら? 契約上の呼称としては至極論理的(ロジカル)よ。 あんた達の前では兎も角、他の目があるときは言わないし」

 

麗美は何食わぬ顔で首を傾げる。

 

「わたし達を信用してくれるのは嬉しいけど、論理的の使い方がおかしいわよ! 鬼塚、あんたもあんたよ! なんで当然のように受け入れてんのよ!?」

 

「いや、こいつが勝手に言ってるだけだし、俺だって小っ恥ずかしいから勘弁してくれって何度も言ってんだよ! だけどよぉ、逆らうとコイツ、マジで俺を脅して言いくるめてきやがるんだ…どうしようもねえだろうが」

 

鬼塚が涙目で弁解する。

 

あまりの二人の掛け合いのテンポの良さに、みやびは怒りを通り越して深い困惑の溜め息(ジト目で)を吐くしかなかった。

 

「……はぁ。聞いちゃいたけど……本当に、あんたたちどういう関係なのよ? 仮の恋人ってレベル、とっくに超えてる気がするんだけど……」

 

「まぁ、いずれ『仮』の文字は消去(デリート)する予定だけどね」

 

麗美が不敵に微笑むと、みやびは「うわ、肉食系中学生……」と本気で引いたような顔になった。

 

そんな二人を見て、朋子は「麗美ちゃん、頑張って!」と無邪気に喜び、吉川は「相沢さん、これがいつもの神崎さんなんだよ……」と遠い目をしていた。

 

みやびは吉川に

 

「吉川くん…あんたも大変ね……(まっ、教師と生徒の関係だろうがなんだろうが、わたしはあんたを応援するわよ麗美…頑張りなさい)」

 

と同情しながらも、親友の恋愛事情を内心では応援するのだった。

 

ー

ー

ー

 

「コホン。話が脱線したわね」

 

麗美は恋する乙女の表情を切り替えると、携帯の画面を鬼塚に突きつけた。

 

そこには、朝のホームルームで秘密裏に録音、録画された、鬼塚がクラスの非難に冷や汗を流すマヌケな顔が映し出されていた。

 

「ダーリン。もし今夜、あたしの指示通りに動いてくれないなら……この動画を学校中のパソコンに匿名で一斉送信するわ。ついでに、あんたが朝言った『お前ら全員が俺の女』っていう発言を、文脈を完璧に切り取って『神崎麗美は俺の女』とだけ聞こえるように音声編集したデータも添付してね」

 

「おいィィィ!? てめえそれリアルにオレの教師生命が終わるやつじゃねえか!!」

 

鬼塚は顔面を真っ青にして叫ぶ。

 

そんな男の慌てぶりに、みやびは先ほどの困惑から再びジト目を麗美に向けた。

 

「麗美……あんた、あの時教室の外で聞いてたけど、自分で鬼塚を助けるために『比喩』って嘘ついたのよね? それなのに、今度はそれを脅迫のネタに使うとか……流石にこのバカに同情するわよ……」

 

「関係ないわ。ダーリンがあたしのために働くのは当然の義務だもの。……それにね、みやび」

 

麗美は一瞬だけ、その完璧な笑みを崩し、少し寂しげな、けれどどこまでも温かい眼差しをみやびに向けた。

 

「……あたし、あんたには笑っていてほしいのよ。本当の親友だから」

 

「麗美……」

 

みやびの胸の奥に、じわリと温かいものが広がる。

 

朋子も「麗美ちゃん、素敵……!」と目を輝かせ、吉川も「僕も、僕にできることなら何でも手伝います!」と拳を握りしめた。

 

「ケッ……しょうがねえ。 言われりゃ麗美から脅されなくてもやるつもりだったけどよ」

 

鬼塚は頭をガリガリと掻くと、いつもの破天荒で、どこか頼もしい笑みを浮かべた。

 

「おい、相沢。てめえの親がどれだけガチガチの堅物か知らねえがな、この俺様がその冷え切ったツラ、まとめてぶん殴って熱くしてやるよ! グレートな家庭訪問の始まりだ!」

 

「鬼塚……」

 

みやびの瞳から、今度は不安ではない、本当の救いの涙がこぼれ落ちそうになった。

 

麗美が書き換えた未来。

 

かつて孤独な戦いの果てに破滅へと向かっていたみやびの運命は、今、最強の天才と破天荒な教師、そして大切な仲間たちの手によって、本当の救済へと動き出すのだった。





という訳でみやびの謝罪からの家庭問題に迫る回でした。

次はどうなるのか?

次回もよろしくお願いします。
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