GTO〜もし過去に戻れたら〜   作:死徒

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タイトルが思い浮かばず、遂に二文字タイトルが終わりを告げました。


第十三話〜夢〜

 

 

麗美による過酷な「おしおき」が終わり、吉祥学苑の屋上にひっそりと佇むプレハブ小屋の夜が更けていく。

 

麗美が満足げな笑みを残して去った後、鬼塚英吉はようやく、泥のような眠りへと引きずり込まれた。

 

だが、その意識の底で彼を待っていたのは、安息な夢などとは程遠い、脳髄を沸騰させるような「光景」の濁流だった。

 

ー

ー

ー

 

五月末の夜の公園。

 

鬼塚は夢の中で麗美を見つける。

 

しかし、そこに居たのは、冷え切った、世界のすべてを諦めた人形を彷彿とさせる見たこともない瞳の麗美だった。

 

その麗美はみやびに「鬼塚(じぶん)を潰す最強の駒」として呼び出されており、状況を見るに、此処で鬼塚は麗美と初めて出会ったようだ。

 

場面はめまぐるしく切り替わる。

 

コインランドリーの罠。

 

麗美によって下着泥棒の変質者に仕立て上げられ、警察に追われ、翌日の教室で、教師と生徒として再会。

 

あの時の女が長年不登校を続け、急に復学してきたIQ200を誇る天才、そして授業テロの常習犯の神崎麗美であることが発覚した。

 

しかし、そんな小悪魔的な悪戯は、すぐに命懸けの狂気へと変貌していく。

 

ヤクザに追われ、逃げ延びた先の建設途中のビルから鬼塚にわざとドンケツさせ、夜空へと身を投げ出した麗美。

 

『――神崎ィィィッ!!』

 

鬼塚は叫びながら、迷わずその身を宙へと投げ出し、彼女の華奢な身体を抱きしめ、地面に激突する寸前、ペットボトルの瓦礫の山と自分の背中をクッションにして彼女を救った。

 

頭を打って気を失ったフリをした麗美を「死んでしまった」と勘違いし、動揺から山の中に穴を掘って埋めようとした間抜けな鬼塚。

 

それをしめしめと口元を歪め、悪魔のように笑う麗美。

 

そして演技をやめ、鬼塚に言い放つ。

 

『ふふ、この件をバラされたくなかったら……あたしの便利なランプの精(パシリ)になってもらうわよ、鬼塚先生♪ 知らない? あのラリパッパーとかいうやつ』

 

弱みを握られ、仮の恋人ではなく、パシリにされるという…そんな歪な、けれどどこか愛おしい日々の記憶は、どす黒い炎に包まれて急転直下する。

 

何故か芸能界入りした野村朋子の……もとい、麗美の昔の担任、藤森先生との因縁。

 

冷酷なフランス語で彼女を罵倒し、その身体に火を放って逃走する麗美の消せない憎しみと恨みの狂気。

 

その後、日中の吉祥学苑を襲う、凄まじい爆音と爆炎により、校舎の窓ガラスが木っ端微塵に割れる。

 

幸いにして負傷者は出なかったものの、一線を越えた麗美に対し、人生で数えるくらいしかないほどマジな顔で本気で激怒した鬼塚が、一度姿を消すと、弾間達かつての暴走族仲間たちをバイクで集結させ、顔面にマスクをつけた特攻服姿で学校に乗り込み、こんな事件を起こしたにも関わらず平然としている彼女の前に立ちはだかる。

 

『おい、神崎。……てめえ、連れ去りだ』

 

問答無用で麗美をバイクの前方ヘッドライト上に拘束し、夕方のハイウェイへと爆音を響かせて疾走する。

 

『……言っとくけど あたしびびらせて反省させようなんて無駄な努力よ。 せっかく家来ひきつれてきたみたいだけど残念ねー。 言っとくけどあたし……死に恐怖とか感じない人間なの。 死ぬことだけじゃない、あたしに怖いもんなんてなーんにもないのよ。 だって恐がる前に頭で何でも理解できちゃうんだから。 お化けもUFOも何でもそう。 死だってね。 死んだらどうなるか……なんて考えるから恐くなるのよ。 死んだらタンパク質の塊になる……ただ、それだけなのに……バカみたい……だからこんなことをしてもあたしには全て無駄。 分かったらさっさと降ろしなさい』

 

世界を拒絶する天才少女に、鬼塚はニヤリと凶悪に笑い、アクセルをさらに限界まで捻り込んだ。

 

その先にあるのは、建設途中で道が途中で完全に途切れている、夕闇に浮かぶ未完成の橋。

 

『そうかい……だったらよォ、神崎! 俺ももう最近、人生クソおもしろくねえと思ってたところなんだわ! 何したって上手くいかねえしよぉー! 一緒に死んでくれる相手が居んのは好都合だ! 一緒に死のうぜ、神崎ィィ!! 死んでも怖くねえんだろ、あぁ!?』

 

速度計が跳ね上がり、未完成の橋の最果てから、爆速でバイクが夜空の虚無へと激しく飛び出した。

 

『えっ!?……う、嘘……冗談でしょ……!? ――せ、先生ェェェェーーーッ!!』

 

初めて死に対して恐怖に顔を歪め、消し去れず、根底で眠っていた藤森を信頼していた当時の記憶を思い出し、涙をボロボロと溢れさせて麗美は無意識に彼女に助けを求める。

 

その瞬間、橋の途切れ目で待機させていた仲間たちが一斉に網付きのロープを放つ。

 

それを掴み取った鬼塚は、もう片方の太い腕で、泣き叫ぶ麗美の身体を壊れるほど強く抱きかかえた。

 

『ったく虚勢張りやがって……何が、死んだらタンパク質の塊に戻るだけだ、バカ野郎。……ほんとは生きるのも死ぬのも、怖くてたまんねえくせによ……』

 

あの課外授業と称した鬼塚のバイク事件をきっかけに、麗美の心は劇的に変わっていった。

 

大人を、世界を、学校のすべてを拒絶していた天才少女が、初めて「大人」を……何より「鬼塚英吉」という一人の男を魂の底から尊敬し、狂おしいほどの好意を抱くようになったのだ。

 

それからの記憶の麗美は、見違えるほど生き生きとしていた。

 

授業テロを完全に辞め、学校生活を心から楽しむようになり、鬼塚の前では天才少女神崎麗美ではなく、年相応の、異性に恋する一人の少女の顔を見せるようになった。

 

不器用ながらも村井や菊地達クラスメイトと笑顔を交わし、眩しい青春を謳歌する麗美。

 

世界で一番愛おしい男の存在が、彼女の凍りついていた日常を最高にハッピーなものへと生まれ変わらせていた。

 

――だが、そんな風に鬼塚側についた後も、みやびに【最強の駒】として呼び出されたにも関わらず裏切った麗美とみやびの「対立」だけは、冷戦の如くずっと続いていた。

 

そして訪れてしまった悲劇の日。

 

逢引きと称して麗美に散々連れ回された末に到着したゲームセンター。

 

そこで偶然出会ったみやびと朋子。

 

成り行きで一緒に遊ぶことになり、最初は険悪だったものの、元々は幼馴染で親友だったこともあり、ゲームを通じて急速に心の距離が縮まり、麗美とみやびは「一時は和解しそうに」なったのだ。

 

だが、巨大な生きたエビを取るクレーンゲーム。

 

その最中の些細な小競り合いが、すべてを最悪の形で破滅させてしまう。

 

麗美がみやびに対して放ってしまった、絶対に言ってはならない致命的で決定的な発言――。

 

怒り、その場から走り去るみやび。

 

彼女の瞳に宿った、和解の兆しをすべて焼き尽くすほどの激しい憎しみの炎。

 

翌日、憎しみに呑まれたみやびによってばら撒かれたビラにより、学校中に暴露された麗美の出生の秘密――「精子バンクによって生まれた、遺伝子操作された試験管ベビー」であるという冷酷な真実。

 

これまで鬼塚が断片的にしか知らなかった、麗美という存在の根底にある最も深い傷。

 

そのすべてが白日の下に晒される光景が、驚くほど克明に、濁流となって脳髄へと流れ込んでいく。

 

再び引き起こされてしまった惨劇に、せっかく見つけた大切な居場所を再び破壊された麗美は、絶望のあまり学校を爆破し、けたたましく鳴り響く警報音の中、スプリンクラーの雨が降り注ぐ教室に涙を流しながらぽつんと立ち尽くしていた。

 

『……また、あたしの居場所、無くなっちゃった……。ここが……ここが、あたしの最後の居場所だったのに……っ!!』

 

失踪した麗美を、吉川をバイクの後ろに乗せて鬼塚は必死に追った。

 

麗美との最後のビデオ通話の背景から、彼女が千葉の屋内スキー場にいると判明し、内山田教頭の妨害に遭いながらも、何とか辿り着いた。

 

氷点下の白銀の世界で、軽装の制服姿のまま雪に埋もれて完全に意識を失っている麗美。

 

彼女の身体は芯まで冷え切っており、このままでは凍死してしまう極限状態。

 

それを防ぐため、鬼塚は自身の体温で麗美を強制的に温めることを決意した。

 

『衣服越しでは温まるのが遅すぎる! このままでは手遅れになる!  直接、直に人間の体温を伝えて温めるんだ!!』

 

到着した救急隊の言葉に、下心など一ミリもない必死の形相で、鬼塚は自分の服を脱ぎ捨て、麗美の服も脱がせ、一緒の寝袋の中へ飛び込んだ。

 

直に触れ合う、凍りついた彼女の肌。

 

すべての体温を彼女の心臓へ送り込むように、必死に抱きしめ続けた。

 

その後、鬼塚の努力により、麗美は搬送される救護車の中でゆっくりと意識を取り戻した。

 

気がつくと寝袋の中で自分が一糸纏わぬ完全に裸であり、背後から自分を抱きしめている鬼塚もまた裸であることに、さしもの天才少女も顔を真っ赤にして激しく動揺した。

 

しかし、頭が徐々に冴えていく中でこれまでの経緯を思い出し、凍死寸前であった自分を必死に温めようとした結果こうなったのだと察する。

 

『ふふ……やっぱり、あたしを見捨てなかったんだ……ありがとう、先生』

 

安心感と愛おしさに胸を締め付けられた麗美は、疲れから眠っている鬼塚へのご褒美と称し、鬼塚の大きな、ゴツゴツとした手をそっと両手で包み込むと、その手を、自分の遮るもののない、柔らかい胸の膨らみへと、優しく、深く押し付けた。

 

寝袋の中の暗闇で、直に伝わる、少女の圧倒的な柔らかさと、密やかな熱量――。

 

 

「ぶふっっっっっ!!!!」

 

その瞬間、吉祥学苑の屋上プレハブ小屋の万年床から、鬼塚英吉は凄まじい勢いで跳ね起きた。

 

それと同時に、鼻の奥から熱い鉄錆の匂いが込み上げ、ドバババッと派手に鼻血が噴き出した。

 

「な、ななななな、な、なんだあありゃああー!!!???」

 

顔をこれ以上ないほど真っ赤に染め上げ、ティッシュの箱を引っ掴んで絶叫する。

 

この世界において、麗美とは「仮の恋人」となってはいるが、それはあくまで「仮」だ。

 

年齢も立場も違いすぎる。

 

いくら頭が良くてスタイルが抜群だろうが、自分の目から見ればどこまでいっても「ガキ」で「生徒」だ。

 

無意識に襲おうとしてしまったことはあったが、恋愛対象になんて、逆立ちしたってなり得るはずがない……そう頑なに思い込んでいたのだ。

 

しかし、今見た夢の残像が、その鉄壁の理性を根底から叩き壊していた。

 

絶望のスプリンクラーの雨の中で、麗美が自分にだけ見せたあの張り裂けそうな表情。

 

そして、自分に向けてくれていた嘘偽りのない本物の好意。

 

何より、あの最悪で最高に狂おしいスキー場の寝袋。

 

裸同士の闇の中で、麗美自身の手によって強引に手を引かれ、強制的に彼女の遮るもののない胸へ押し付けられた、あの圧倒的なまでに柔らかく熱い感触。

 

「夢だ」と脳がどれだけ否定しようとも、手のひらに焼き付いた記憶がそれを許さない。

 

鬼塚は、もう神崎麗美という存在を、無意識のうちに「一人の女」として意識せざるを得なくなっていた。

 

しかし、違和感もじわじわと胸に湧き上がってくる。

 

「……待てよ。ただの夢にしては、辻褄が合いすぎだろ……。麗美の出生の秘密も前にみやびが暴露しちまってる……それに……あいつがビルから飛び降りた時にあいつを受け止めた衝撃や、生き埋めにしかけたこと、龍二達を引き連れてあいつをバイクで連れ回して建設途中の橋から一緒に投げ出されたこと、スキー場で抱きしめた時の氷みたいな冷たさ……。現実と違う点は多いが、夢と片付けるには、あまりにもリアルすぎる光景の数々だった。まるで……本当に、俺たちがどこかで体験してきたみたいによォ……」

 

あまりに鮮明すぎる光景の数々に、鬼塚は深い疑問と奇妙な胸騒ぎを抱えながら、時間も時間だった為、気を取り直し、朝の身支度を始めるのだった。

 

ー

ー

ー

 

それから少し経ち、朝の登校時間。

 

鬼塚がようやく止まった鼻血の処理を終え、プレハブ小屋の鍵を閉めて屋上から校舎に続く階段を降りようと扉を開けようとした、まさにその時だった。

 

「おはよ、英吉♪ 今日もいい天気ね。……あら、どうしたの? 顔が随分真っ赤よ。 あたしの昨日のおしおきが効いてるのかしら?」

 

階段を上がってきた麗美が、いつものように無邪気に、そしてどこか妖艶に微笑みながら目の前に現れた瞬間、鬼塚の全身の毛穴が収縮した。

 

「ッっ!!!???」

 

脳裏に、あの寝袋の中での「裸の麗美」と、彼女に無理やり手のひらを押し付けられた「胸の感触」が凄まじい鮮明さでフラッシュバックする。

 

ガキだ生徒だと自分に言い聞かせようとすれるが、全く効果はなく、寧ろすればするほど、無意識に彼女に惹きつけられてしまい、男の本能が暴走しそうになる。

 

「お、おう……う、麗美……な、何でも…ね、ねえ……そ、その……! わ、悪ぃ!  お、俺、朝の職員会議あったんだ! 思い出したから先行くわッ!!」

 

「えっ!? ち、ちょっと待って! 英吉!」

 

鬼塚はガタガタと震え、顔を真っ赤にしてしどろもどろとなりながら、麗美から露骨に視線を逸らすと、まるで電流が走ったかのように跳びのき、そして、声を掛ける麗美に返事もせず、文字通り蜘蛛の子を散らすような全速力で階段をドタバタと駆け降りていってしまった。

 

まるで後ろから化け物にでも追われているかのような焦りっぷりだった。

 

「……何よ、あのバカ英吉」

 

誰もいなくなった階段の踊り場で、麗美は形の良い眉を不機嫌そうにひそめ、頬を膨らませ、きつく唇を噛み締めて見送るしかなかった。

 

仮の恋人という特等席まで用意してあげたのに、近づけば怯えたように距離を取り、目は泳ぎ、まともに会話すらしようとしない。

 

(あたしがそんなに不満だっていうの? それとも……あたしのこと、そんなに鬱陶しくなっちゃったわけ……? やっぱり昨日やり過ぎちゃったのかな……)

 

いつもなら完璧な余裕を崩さないチート天才の胸の中に、言葉にできない焦燥と苛立ちが黒く渦巻いていく。

 

不機嫌なまま、教室へ向かうために階段をトントンと降りていく麗美。

 

すると、下の階の廊下から上がってきた少女と、ちょうど鉢合わせる形になった。

 

「……ちょっと、どうしたのよ麗美? 怖い顔して」

 

声をかけてきたのは、カバンを肩にかけた相沢みやびだった。

 

みやびは首を傾げながら、鬼塚が先ほど猛スピードで消えていった廊下の奥を不審そうに見つめている。

 

「鬼塚の奴、今、ものすごい全速力で階段を降りて行ったんだけど? 私とぶつかりそうになってさ。……あんた、朝からあの金髪に何かお仕置きでも仕掛けたわけ?」

 

そう言って苦笑するみやびの表情には、この間まで教室で見せていたような、他人を拒絶する氷のような冷たさはもうどこにもなかった。

 

「…別に何もしてないわ。 朝の職員会議忘れてたとか言ってたから焦ってたんじゃない?…」

 

「ふーん」

 

「というか、みやびはどうして此処に? 朋子達は?」

 

「朋子と吉川くんは、もう教室に行ってるんだけど……。ほら、私、昨日のこと……その、私の家のことで、あんたにもだけど、あの男には色々と、大迷惑かけちゃったじゃない。だからさ……一応、昨日のお礼を、改めてちゃんと言うつもりで朝一番に鬼塚のところへ行こうと思って上がってきたんだけどね。当の本人があんなに弾丸みたいに逃げ出してっちゃ、挨拶のしようもないわよ」

 

そのみやびの真っ直ぐで温かい言葉に、麗美はすっと表情を和らげ、いつもの柔らかい親友に見せる微笑みをみやびに向けた。

 

「そういうことね。 あっ! もうすぐ予鈴が鳴るわ。一緒に教室へ行きましょ。 お礼なら後で言えるだろうし」

 

「そうね。 まったく、朝からバタバタとほんと忙しないワケ分かんない担任よね」

 

みやびは呆れたように笑いながら、麗美と並んで教室へと歩いていく。

 

(ほんと…どうしちゃったのよ英吉……)

 

彼女と歩きながら麗美は内心、不安と動揺に包まれるのであった。





という訳で、鬼塚が夢の中で前の世界の麗美を見た話でした。

夢では二人の出会いから屋内スキー場で麗美が救済されるまでしか見ることが出来ず、パラダイスロスト改の結末までは鬼塚はまだ知りません。

今回の件で遂に麗美を生徒ではなく、一人の女として認識した鬼塚。

これがどうなるのか?

次回もよろしくお願いします。
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