原作16巻の駆け落ち編です。
シルバーウィーク初日・羽田空港の出発ロビー。
繭の一件から少し時が流れ、九月の連休……今年は四連休のシルバーウィークとなり、鬼塚と麗美は空港のロビーで飛行機の搭乗を待っていた。
そもそも何故こうなったのかというと、麗美が駆け落ちという名の旅行を突然企画し、【行き先はルートも含めて全てあたしが決めるから、あんたは大船に乗ったつもりで黙ってついてきなさい。 旅費? 心配しなくてもあたしが全部出したげるから安心してよ】と、鶴の一言であれよあれよとトントン拍子で進んだのだった。
行くのは良いが、流石に彼女に全てを任せては男が廃ると鬼塚は一応反論したのだが……
【だってあんたに任せたら日帰りならともかく、数日間じゃ間違いなく行き当たりばったりになるでしょ? それに今回の旅費なんて、いつも懐がすっからかんのあんたに払えるわけないじゃない? あたしとあんたの仲なんだから変な見栄張らなくて良いんだからね。 あたしはFXであんたより遥かに稼いでるから心配しなくても大丈夫。 だから全部あたしに任せてあんたはゆっくりしてなさい、右腕もまだ完治してないんだから】
と、ぐうの音も出ない完璧な返しに鬼塚は渋々、麗美に今回のこと全てを任せることになったのである。
「いい、英吉? まずは北海道に行くわ。札幌の時計台とか、富良野のロケ地とか色んなのを見に行くわよ」
麗美がオッドアイの瞳を妖しく輝かせ、航空券を指先で弾きながら鬼塚英吉に告げた。
「ほ、北海道ぉ!? おいおい麗美、なんでまたそんな遠い北の大地なんだよ!? お前の言う駆け落ちって……ようはただの旅行だろ? 他の連中に見られない為の逃避行にしても場所が極端すぎねえか?」
全て麗美に任せ、行き先も【ふふ、当日のお楽しみ❤️】とはぐらかされていた為、鬼塚は行き先を知り驚愕する。
「ふふ、あたしの計算(シミュレーション)上、三年四組のメンバーのシルバーウィークの足取りは、みやび達も含めて全員が南方のリゾートや都内に集中しているわ。つまり、とりあえずは真逆の北へ向かうのが、最も『クラスの誰とも遭遇しない隔離ルート』としてデータ上完璧なのよ」
麗美はクスリと笑って、もっともらしい「データ」を並べ立てた。
もちろん、それは表向きの理由に過ぎない。
(……あんたは、何も知らなくていいのよ、英吉)
前の世界のあの秋、自身を物としか見ない母親に嫌気が差した麗美が、それを全て忘れさせてくれる存在の鬼塚に対し「先生……あたしと駆け落ちしちゃおっか?」と強引に連れ回した、あの逃避行の記憶。
麗美と違い、逆行者ではない鬼塚は、当然そんなことを知るはずがない。
だけど、麗美にとっては、あの絶望と完全な救済のスタート地点だった「駆け落ち」という思い出を、今度こそ、この男との最高の愛の記憶で塗り潰したいという、強い願いがあった。
「ほら、行きましょう。誰にも邪魔されない、あたしたちだけのガチの駆け落ち旅行(ハネムーン)へ❤」
麗美は手持ちの櫛で髪を整え、ライトカラーの長袖トップスを着直すと、鬼塚のガッシリとした逞しい腕に自分の腕をぎゅっと、壊れ物を扱うように強く絡めた。
今日の麗美の服装は、あの絶望の日の前日に着ていた私服(ゆるいライトカラーの長袖トップス+キャミソール風インナー+膝丈のダークスカート+黒のニーソックスに厚底ブーツ)である。
しかし、今の麗美にそんな絶望など微塵もなく、只々、大好きなダーリンをこの大型連休中、完全に独占できる喜びに胸を躍らせる一人の少女だった。
「お、おう……お前がそこまで言うなら、おとなしく付いてってやるよ。……いくら遠くに行くって言っても、変なアピールすんなよな?」
「ふふっ、善処しまーす」
「ったく……ほんと分かってんのかよ」
満面の笑顔を向けてくる麗美に鬼塚は照れ隠しに頭を掻く。
その手を、麗美は嬉しそうにぎゅっと握り返した。
事情を知るみやび達に「連休中、あたしたちのことは絶対に探さないで」と鉄の釘を刺し、外堀を完璧に埋めて敢行された逃避行の幕が上がった。
東京の羽田空港から北海道の新千歳空港に到着するや否や、そこから特急に揺られ、二人が到着したのは秋の風が心地よく吹き抜ける街、札幌。
東京と比べて気温も穏やかな北の大地。
二人がそこで最初に向かったのは宿泊先のホテルだった。
経営が順調で日々凄まじい勢いで利益を得ている母親とは別に、麗美個人が所有している圧倒的な財力(FXの運用益)によって極秘裏に予約されていたのは、大通公園を一望できる高級ホテルの最上階スイートルームだった。
「うおおお! すっげぇええ! テレビ塔が目の前じゃねえか! 後で行こーぜ!」
部屋に入るなり、あまりの豪華さと景色の美しさに大はしゃぎする鬼塚。
だが、そんな鬼塚を尻目に麗美は部屋の重厚なドアをカチャリと内側から閉めると、持ってきた荷物をソファへ放り出し、後ろから鬼塚の腰へと容赦なく抱きついた。
背中に押し当てられる、出るところが出た完璧なプロポーションの柔らかさと熱。
麗美は鬼塚のシャツの胸元をぎゅっと強く掴む。
「……やっと二人っきりになれた……英吉、テレビ塔の話は禁止。学校のことも、何もかも今は全部データの外よ。……ねえ、英吉。あたし、あんたとこうして二人っきりの旅行が出来て嬉しくて……もう我慢の限界なの。……だから……しちゃお?」
「っ!!? い、いきなりかよ! う、麗美、お前……さ、札幌着いたら時計台を見に行くんじゃなかったのかよ……」
「時計台なんて後で良いわよ……それに、そんなの建前だって気付かなかった?……ほんとは直ぐにでもこうしたかった……それとも、英吉はあたしとするのは……嫌?」
振り返った鬼塚の視界に、トップスを脱ぎ、インター姿となった麗美がトロンとした潤んだ瞳で自分を見つめてく姿が飛び込んでくる。
しかも、泣きそうな表情でだ。
沖縄の夜、シーツを真っ赤に染めて結ばれたあの日から、東京に戻ってずっと理性を保とうと必死だった鬼塚の「グレートな理性」は、その少女の可憐で重い、愛の熱量の前に、一瞬で木っ端微塵に吹き飛んだ。
「……っ、嫌なわけねえだろ……後で『やっぱり腰が痛い』とか泣き言言うなよな、麗美……そんなツラで誘われたらもうてめぇを抱きたくて仕方なくなっちまった……」
「ふふ、泣かないわ。泣くとしてもそれは嬉し涙よ。 あんたの愛で、あたしをぐちゃぐちゃにしてよ、英吉……っ」
重ねられる唇の熱は、沖縄の夜よりもさらに深く、濃厚なものへと変わっていく。
互いの呼吸を完全に貪り合うような、リップ音を響かせた熱い口づけ。
鬼塚は麗美の華奢な身体をベッドへと押し倒し、そのカジュアルな私服を、名実ともに自分の色に染め上げるように、優しく、かつ荒々しく全て剥ぎ取っていき、自身も全てを曝け出し、一糸纏わぬ姿となった二人は愛を確かめ合う。
最高級のベッドの上で、お互いが本能のままに、ベタベタに甘々にと、狂ったようにくっつき合い、愛を貪り合うことで、過去の絶望の全てを完全に幸福な記憶へと上書きしていく。
前の世界で鬼塚が植物状態になったトラウマも彼が那奈と結婚した絶望も、そのすべてを完全に消し去るような、濃密な愛の時間が惜しみなく注がれた。
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その後、外に出た二人は手を繋ぎ、互いに幸福感を感じながら、約束通り札幌の象徴である時計台へと足を運び、秋の澄んだ空気の中で記念写真を撮った。
「有名だって聞いてたけどよ……時計台って意外とこじんまりして小っちぇーんだな……なんかもっとデカいもんだと」
「周りがビルばっかだからね。 でもこれはこれで可愛くて良いじゃない?」
「まあな」
「さっ、次はテレビ塔! あんたが行こうって言ってたでしょ?」
「そうだな、行くか」
二人は札幌での夜の観光デートを思う存分楽しむのだった。
しかし、麗美の計画した上書きデートはそれだけでは終わらない。
次は早朝からホテルを出て、富良野に向かう。
「さあ、今日も行くわよ!」
「う、麗美……良くそんな元気あんな……昨日は遅くまで色々見て回ってお前もあんま寝てねえだろうに……」
「何言ってんのよ英吉。 そんなのあんたと一緒に寝て、短時間で一気に回復したわよ」
「若いってスゲぇわ……」
「若いって……あんたも22歳でしょ? 充分に若い部類でしょうに……」
麗美に憧れの眼差しを向ける鬼塚に、麗美は呆れる。
ローカル線に揺られ、到着した富良野では、北の国からのロケ地を回り、前の世界のようなコントもたっぷり繰り広げ、北時計のカフェで一旦休憩し、二人はお茶を飲んでいた。
「はぁ!? 明日は九州!? しかも宮崎のシーガイヤだとぉ!? おいおい、日本縦断の超ハードスケジュールじゃねえかよ!?」
そこで麗美に告げられた明日の行き先に鬼塚は仰天する。
「当たり前でしょ? せっかくの駆け落ちなんだから、遠くに行かないとほんとにただの味気ない旅行になっちゃうじゃない」
「そりゃそうかもしれねぇけどよ……いくらなんでも突拍子すぎじゃねえか?……それにプールなら東京のサマーランドで良いんじゃ……」
「旅費は全部あたし持ちなんだから良いじゃない。 あんたに負担も掛けてないんだから文句言わないの!」
「ったく……へいへい、分かりましたよお嬢様。 何処までもお供させてもらいますとも」
「分かればよろしい。 さっ、早く行きましょ! 移動データもフライトもすべて分単位で手配済みなんだから」
「わ、分かった! 分かったから引っ張んなって!」
こうしてカフェでの休憩を終えた二人は富良野を後にし、札幌に戻り、お土産を買うと、鬼塚を気遣った麗美の一声で明日の為にゆっくりと休むことになった。
変わらずイチャイチャしていたが……
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次の日は一転して、南国情緒を残す九州の地、宮崎へ。
宮崎の巨大プール施設【シーガイヤ】で二人は、沖縄の時のようにはしゃぐ。
「あはは! 楽しーい❤️」
黒の水着姿でプールに浸かる麗美は心底楽しそうに笑う。
「確かに楽しいし、施設もスゲェけどよ……でもよ、プール入るだけなら……」
「「サマーランドで良かった」」
完全にハモる二人。
「って! 計画してたお前までそれ言ってどうすんだよ!?」
「だって、泊まるのなら良かったんだけど、生憎、予約いっぱいで日帰りしか無理だったし、これならサマーランドで良かったかなーって」
「じゃあなんで宮崎まで来てんだよ! 予約取れなかったんなら別のとこすりゃ良かったじゃねえか! 人に行き当たりばったりとか言っといて、お前の計画も大概テキトーじゃねえかよ!」
「あははは! ごめーん!」
結局はグダグダになってしまったが、二人はそれでも幸せそうだった。
その夜、予約していた現地のホテルで、再び二人は激しく、甘く、お互いの存在を溶かし合うように愛し合った。
一晩中続いた甘いイチャイチャにくっつき合い。
鬼塚は「お前、どんだけ体力あんだよ……」とタジタジになりながらも、麗美のその華奢な身体をどこまでも愛おしそうに抱き締め続けた。
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そして迎えた最終日。
二人は大満足の熱を帯びたまま、東京へと戻ってきた。
旅の締めくくりとして、吉祥寺の大型ゲームセンターにふらりと立ち寄った時のことである。
「あ、あれ? 鬼塚に……麗美!?」
ピコピコと賑やかな電子音が響くフロアで、声を上げて驚いたのは、買い物帰りに遊びに来ていたみやびと朋子だった。
芸能活動で沖縄に行けなかった朋子も、今はすっかり元気な姿を見せている。
前の世界のこのゲームセンターは、麗美とみやびがクレーンゲームで小競り合いを繰り広げ、その果てに互いの関係が修復不可能となってしまった最悪の記憶の場所だった。
だが、この世界では、みやびの過去の呪縛もすでに解け、三人は誰も傷ついていない「本当の親友」へと戻っている。
「ちょっとあんた達! シルバーウィーク中どこ行ってたのよ!」
「ふふ。 ちょっと英吉と駆け落ちしちゃってた❤️」
「か、駆け落ち!? どういうことよ鬼塚!」
「バカ! いくらこいつらの前だからってそういうことを大声で言うなっての! それにただの旅行だっつーの! まあ、北海道から九州に飛んでの波瀾万丈な旅だったけどな」
「旅行だったの!? も〜、麗美ちゃんはぐらかすなんて水臭いよ。 お土産話いっぱい聞かせて!」
「ごめんねトロ子、今から話したげるから。 あっ! これお土産」
「ありがとう麗美ちゃん!」
「……はぁー……大方、旅行を計画した麗美に連れ回されたんでしょ? あんたも大変ね」
朋子が麗美から今回の話をされている最中、みやびが鬼塚に声をかけてくる。
「まあな……でもよ、あいつの楽しそうなツラ見てると俺もなんだか嬉しくなるから不思議だ」
「そう。……全く、やっぱお似合いよあんた達」
鬼塚の返答に呆れながらも、みやびは二人の関係を微笑ましく見つめる。
「ほら、お前も行ってこいよ。 久しぶりに親友三人で遊んでこいや」
「うん、そうする。 あんたは?」
「俺はここで座って見とくよ。 疲れたしな」
「分かったわ。 それじゃ行ってくる」
「おう」
みやびは二人の元に走っていく。
そして朋子とみやびが笑顔で麗美の左右を挟み、平穏で温かい時間がフロアを包み込む。
そんな中、みやびがクレーンゲームの一台を指差した。
「ねえ、見てよこれ! 景品がまさかの生きてる巨大な食用エビなんだけど! ウケる!」
水槽の中で生きて動くロブスター級の凄まじい巨体を誇る食用エビ。
それをキャッチャーで掴み、獲得するというゲームで、前の世界では麗美とみやびの亀裂が決定的となってしまった因縁の舞台だ。
しかし、今回は違った。
「面白いわね。みやび、そこのレバーのタイミングを合わせて、あたしがアームのトルクと重心を計算するから、二人の共同作業で獲ってやりましょ」
「えっ、あたしも!? よ、よーし、天才神崎麗美の指示があるなら怖いもんなしよ!」
なんと、麗美とみやびが協力し合い、エビを取ることになったのだ。
「麗美ちゃんもみやびちゃんもがんばれー!」
「おっ! お前らが協力し合うとはな。 こりゃもしかするぞ!」
朋子と、興味を持ってやって来た鬼塚が後ろで見守る中、麗美の的確なナビゲーションと、みやびの息の合ったレバー操作が見事に噛み合う。
ウィーーーン、と静かに降りたアームが、巨大なエビのパックの重心を完璧に捉えた。
ゴトッ!!!
「やったぁぁぁぁぁ!! 獲れたぁ!!」
「すごーい! 二人ともやったね!!」
「ふふ、あたしとみやびに掛かればざっとこんなもんよ」
みやびと朋子がハイタッチをして大はしゃぎし、麗美もまた、嬉しそうに目を細め、二人とハイタッチする。
「ほ、ほんとに一発で獲っちまいやがった……スゲェなあいつら」
明らかに高難度のクレーンゲームを一撃で仕留めた麗美とみやびの連携プレイに、鬼塚はギャグ顔で目を丸くする。
だが、次の瞬間には暖かい眼差しを彼女達に向けていた。
鬼塚の見つめる先には……前の世界で起きてしまった険悪な小競り合いなど微塵もなく、そこにはただ、等身大の女子中学生たちの眩しい笑顔の日常だけがあった。
「無事に獲れたことだし、今夜はあたしのマンションにみんなを招待するわ。この巨大エビを調理して、豪勢なディナーにしましょ!」
麗美の提案に、全員が即座に大賛成した。
その夜、麗美のマンションの一室。
広々としたモダンなキッチンでは、麗美とみやび、そして慣れない手つきの朋子がエプロン姿で並び、賑やかに巨大エビを捌いていた。
「うわっ、このエビ、マジでデカい! どう調理する?」
「そうね……テルミドール(グラタン風焼き物)と、お刺身、あとは頭でお味噌汁を作るのが一番美味しく味わえるんじゃない?」
「さすが麗美ちゃん! あたし、食べる専門で手伝うね!」
「トロ子! それ手伝うって言わないから!」
「えー!?」
「「「あははは!!」」」
「ったく、女子が三人も集まるとキャーキャーうるせえな……まっ、あいつらが楽しいんなら良いか」
そんな少女たちのバカ騒ぎを、リビングのソファーでさんぴん茶を飲みながら遠目に眺める鬼塚。
そこに、カツカツとヒールの音を響かせて、仕事から帰宅した麗美の母親が姿を現した。
ゴールデンウィークでの麗美との和解を経て、母親の表情からはかつての冷酷さは完全に消え失せ、今や一人の優しい母親の顔になっていた。
「ずいぶんと賑やかね。あら、鬼塚先生も、いらっしゃい」
「お、お……! お邪魔してます、お母様!」
あのゴールデンウィークで啖呵を切り、更には沖縄で麗美と一線を越え、今回の駆け落ち旅行でも二度、お互いの気持ち……本能のままヤってしまっている為、ガタガタと本気で恐縮して背筋を伸ばす鬼塚に、母親はフッと大人の余裕に満ちた微笑みを浮かべる。
「いいんですよ、堅苦しい挨拶は。あの時みたいに砕けて話して下さい
。 麗美がこんなに楽しそうに友達を家に連れてくるなんて、一昔前なら考えられなかったわ。すべて、あなたのおかげなんですから……さあ、私も着替えて手伝うわ。今夜は特別なパーティーになりそうね」
焼き上がったエビの芳醇な香りがリビングいっぱいに広がり、大皿に盛られた豪華な料理がテーブルに並ぶ。
麗美の母親も交え、鬼塚、麗美、みやび、朋子の五人で囲む食卓は、笑顔と笑い声が絶えない、信じられないほど温かい「ひだまり」のような空間だった。
「う、うめえぞっ!! 麗美、みやび、最高の味付けだぜ」
「ふふ、ありがと英吉」
「そうでしょ? あたしと麗美のコンビにかかれば、クレーンゲームのエビだって高級料亭の味よ!」
「あたしは?」
「あんたは調理の邪魔してただけじゃないの! 危うく味噌汁が火ぃ吹きそうになるし! 今後は絶対に一人で作業しないこと! 良い!?」
「そ、そんな〜みやびちゃん!? う、麗美ちゃ〜ん!」
「ごめんトロ子、あたしも同意見。 やっぱあんたは食べる専門で大丈夫だから」
「麗美ちゃんまで!?」
朋子のギャグ展開にみんなが笑い、賑やかにエビを頬張る中、麗美はテーブルの下で、隣に座る鬼塚の手をそっとぎゅっと握り締めた。
みやびがそれを気付いて、フンと呆れたように鼻を鳴らしながらも、温かい苦笑いを浮かべてさんぴん茶を口に運ぶ。
(……前の世界ではあんなことになったけど……今すっごく幸せ……みやびも朋子もママも……そして英吉も……みんな心から笑ってる……改めて思う……戻れて良かった……)
麗美はオッドアイの瞳を潤ませながら、自分の隣で「うめえええ!」とエビを頬張る最愛のダーリンの横顔を見つめ、小悪魔のようにペロッと小さく舌を出してみせるのだった。
前の世界の悲劇を完全に置き去りにし、日本縦断の駆け落ち旅行、そして親友たちや母親との温かい団欒を経て、名実ともに無敵の要塞を完成させた鬼塚と麗美。
二人の前に、未来の歯車は次なる激動の展開――ザビエル校長退任と、あの最大の難敵『大門校長』の赴任という、運命の新章へと力広く動き出すのだった。