異世界から帰ってきた魔神ですが、ダンジョン攻略を始めます   作:Revak

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第1話

 

「殺す! 嬲り殺して縊り殺してその血で世界を染めてやる!」

 

 とある剣と魔法の世界の、世界最大の大陸の空の上で、魔神と勇者が衝突していた。

 

 魔神は恐ろしい容姿をしている。

 二百二十センチという圧倒的巨体。黒い肌をしている。

 手足は丸太のように太く、腹筋は十に割れている。

 髪は夜の闇のように暗く、瞳は地球のように澄んだ青色をしている。

 顔は野獣のようだが、髭は生えていない。肩口で揃えられている黒髪はどこか美しさを感じさせる。

 魔獣の皮をそのまま剥いだような腰みのを付け、右手には夜空が映る剣を持っている。

 

 魔神、ディノク。異なる世界から召喚されし青年は、今は世界を滅ぼす邪悪として君臨していた。

 

「お前を倒し、世界を取り戻して見せる!」

 

 そう叫ぶのは青い髪をした少年の勇者。右手には聖剣を持っている。

 

 空中で魔神と勇者が衝突した。

 

 余波──巨大な質量を持つ物同士が高速でぶつかった事でソニックブームが荒れ狂う。

 

 空の雲は吹き飛び、地面がひび割れる。

 

 魔神が馬鹿みたいに高い身体能力をもってして剣技を放つ。

 魔神の持つ権能を用い、相手の動きを先読みして放つ斬撃だ。魔神の馬鹿みたいな──それこそ山だろうがぶん投げれる身体能力を持って振るわれる剣は術理が未熟でも一撃が即死の大技となる。

 

 なんとか勇者は聖剣でガードしようとするも、そのほとんどは防御を突破されダメージを受けるし、そもそも勇者の防御行動すら読まれ防御したところとは別の個所を攻撃されてしまう。

 

 魔神が口を大きく開けた。

 そこから膨大な──無限の魔力を持ってレーザー砲を放った。

 この星の重力圏すら無視して真っすぐ飛んで行ったレーザーははるか遠くの小惑星に衝突し、星を砕いた。

 

 当然、そんな一撃を喰らった勇者も無事ではない。

 

 神々の加護があるからこそ生きて居る。だが体は火傷でただれ、見るも無残な姿になる。

 

 しかし生きて居る。故に回復魔法を使い体を急速に治す。

 そうはさせんと魔神が剣を振り落とそうとするも、横やりが入った。

 

 山すら貫通し打ち砕く一本の矢が魔神の腕を貫いた。

 勇者の仲間、エルフの弓使いの一撃だ。

 

「カスが!」

 

 魔神は災害を招来させる。

 空から巨大な──直径一キロを超える巨大隕石が降ってくる。

 素材はこの世界最高位の金属。速度は音速を優に超えている。

 

 招来と同時に隕石が落下し、この巨大な大陸──ユーラシア大陸ほどの広大さを持つ大陸の実に八割がクレーターに沈んだ。

 

 余波を受け勇者は吹き飛んで行くも、魔神はその場で微動だにしない。

 

「逃がすか」

 

 魔神はそう呟き、背中から巨大な竜の翼を生やし、マッハ八十万で飛行。

 魔神の感知能力と合わせ一秒もかからず勇者の胸を魔剣で貫いた。

 

 心臓を貫いた。致命傷だ。

 

 更に魔神は勇者の頭を左手でつかんだ。

 そのまま握りつぶす──と同時に亀裂が生じた。

 

「んだこれ?!」

 

 魔神が混乱すると同時に亀裂から無数の──それこそ百や二百では効かない人の手が出て来た。

 それらは魔神の体に触れても消滅せず、魔神を亀裂の奥へと押し込んでいったのだった。

 

 

 

 

 

 

 魔神ディノクの本名は、不破泰二という。

 西暦二千十七年の日本から異世界に召喚された、勇者であった。

 だが、不破はそんな理由知らなかった。

 例え人類が危機に陥っていて、勇者召喚という一発逆転の目を狙うしかない事情があったのだとしても、不破には関係なかった。

 元の世界に返せと王を脅迫し、人類の力で帰ることが出来ないとわかれば──その怒りを世界に向けた。

 異世界に転移したことで得た力を行使し、世界に混沌と絶望をまき散らした。

 己の眷属を世界にまき散らし世界を穢し、宙の星々を喰らい潰した。

 

 そして不動であった天界の神々は動かざる負えなくなった。

 だが、その時には人類は──いや星の生物は八割型滅んでいた。

 その滅びに抗う者たちは居た。

 人類と敵対していたはずの魔族も、世捨て人のエルフも、世界の調停者を気取る竜も、手と手を取り合い、団結し、魔神に立ち向かい──無残に殺されていった。

 全長数十キロに及ぶ山脈のごとき竜王も。夜の概念が具現化した吸血鬼の王も。世界の始まりから生き続けるエルフも関係なく、魔神に殺された。

 魔神は他者の魂に干渉する力を持つ。存在の根源である魂を破壊し、二度と蘇れぬよう念入りに殺された。

 

 そうして星、いや宇宙から生命の八割が滅んだ。

 

 神々は手出し出来なかった。

 

 世界の法則として、物事には反作用がある。

 物体Aが物体Bに力を加えると、物体Bも物体Aに同じ大きさで反対向きの力を加えるというものだ。

 

 ではこれのスケールを神と世界にまで押し上げると、面倒なことになる。

 

 反作用とはつまりそれに反する力の事だ。

 故に神の力で世界の安寧を望むと、その反対──世界の混沌を望む力が生じる。

 それはある種の恐怖食の魔族だったり、概念の実体化など多種多様な姿で現れる。

 つまりは、神が力をむやみやたらに行使するとその反対の事象が起こるのである。

 

 では、世界に絶望と混沌をまき散らし世界を滅ぼそうとしている魔神を神が殺せば、その反対──まさしく魔神が望む世界の終焉を望む神なんてものが生まれてしまう。

 更には魔神ディノクの力は強力無比。仮にそれを殺す力なんてものになったらそれこそ存在するだけで世界を滅ぼすとかいうやべーのになってしまうだろう。

 

 その理由ともう一つ。神々全員より魔神ディノクの方が圧倒的に強いから普通にどうしようもない、という理由があったが。

 

 

 故に神々は次善の策──魔神の異世界追放を選択した。

 

 最初から殺される前提で人間に勇者としての力を与え、魔神に殺されると同時に別世界へ追放させるようにしたのだ。

 

 この策は綺麗にはまり、魔神は異世界へと追放された。

 そう、この世界にとっての異世界、地球へ──

 

 

 

 

 

 ■

 

 地球。

 二千二十五年。世界は核の炎に包まれず──ダンジョンの嵐に見舞われた! 

 

 ダンジョン。それは夢と希望とほんの少しの絶望が籠った迷宮。

 ダンジョン内には未知の物質がある。鉄より加工がしやすいくせに硬い金属。電気の通りが馬鹿みたいに良い金属。

 食べると筋肉が少しつく食材や、体毛が鉄で出来た羊なんてのも居た。

 他にはモンスター、あるいは魔物とも呼ばれる超常を行使する化け物も居る。

 

 そして、最大の特徴はダンジョンに入った人間が例外なく手にする超常──今ではダンジョンスキルと名付けられた固有スキル。

 

 それらは強力無比な超能力の様な物だ。

 

 分かりやすいのを上げれば【筋肉】というスキル。

 名の通り己の筋肉を増強し、アメコミのヒーローすら真っ青な超常的な身体能力を発揮できる。

 少し捻ったのだと、【たまご】なんてのもある。

 これは名の通り卵を扱うスキルだが、卵を投擲するだけでなく、健康で肉付きの良い卵から産まれる生物──鶏や蜥蜴を生み出した。

 更に拡大解釈をし、バジリスクも鶏っぽいから卵から生まれるだろ、と認識することでバジリスクを卵から生み出し使役する事すら可能にした。

 

 そう。ダンジョンスキルには夢と希望が詰まっている。

 何かしらの意味のある文字列の異能が与えられ、それを理解、拡大解釈し己だけの異能を鍛え上げれるのだ。

 

 ではそうなると悪人も得ようとする。

 それこそ物質創造系のダンジョンスキルを手に入れれば市場破壊など容易だし、【破壊】なんてダンジョンスキルがあれば国すら文字通り破壊できるだろう。

 

 そしてそれを防ぐ組織があった。

 

 自らをダンジョン組合と名乗った彼ら彼女らは、超越者のごとき力を持ってしてダンジョンを国の管轄から分捕り、己の管理下に置いた。

 

 その最高幹部──円卓と呼ばれる十三人の最高幹部の力は非常に強い。

 一人で国を文字通り消せるのだ。物理的に。

 

 例えば円卓のメンバーの一人、魔王と呼ばれる男はダンジョンスキル【魔法】を持ち魔法と名のつく事象なら何でも起こせる。やろうと思えば限定的な世界の創世すら可能にする。

 勿論それを破壊に振れば大陸一つ洪水で沈めるぐらい訳が無い。

 そう言ったちょっとダンジョンスキルを得ただけの者では太刀打ちできない超越者たちによってダンジョンとダンジョンスキルを得た者たちは管理された。

 

 各国も黙っては居なかったが、ダンジョンからの恩恵──新素材などは国に問題なく提供されるとわかり、大人しくなるしかなかった。

 これで下手にダンジョンスキルで世界征服だ、なんて野望を抱こうものなら文字通り国が消える。物理的に。

 

 故に世界はダンジョンの嵐に見舞われ、混沌としながらもどうにかやっていけていた。

 

 ダンジョンは定期的に中のモンスターを倒さないとダンジョンが広がっていく。故にダンジョン組合に登録したダンジョンスキルに目覚めた者──ワーカーたちによってダンジョンは攻略されていった。

 

 そして五年の月日が経ち、世界はダンジョンのある日常を受け入れ──いつぞや流行ったダンジョン配信者なる職業も出てくるのだった。

 

 

 

「ねぇ待ってこれヤバいマジヤバい凄くヤバい!」

 

 日本の東京の新宿にあるダンジョン、通常新宿ダンジョンの十層にて配信暦二年目のダンジョン配信ライバー、略してダンライバーの一人が命の危機に陥っていた。

 

 新宿ダンジョンは現在判明している限りでは二十層ある迷宮型のダンジョンだ。

 通路などは古代の迷宮の様な石造りで、何十人も通れるぐらい横幅が広く、更に誰も点検していないのに松明が常に灯っていて灯りがある。

 

 そしてダンライバーとは三年前──ダンジョン出現から二年が経ってから生まれた職業の様な物だ。

 そのきっかけはダンジョンスキル【配信】に目覚めた女で、その者は己のダンジョン探索を配信し、スパチャや視聴者数によって己の戦闘力を上げるというスキルの鍛え方をした女だった。

 見眼もよく、一般人にはまだ未知の領域であったダンジョンを配信越で己の命の危機なく見れるというのは需要があり、瞬く間にそれは産業となっていった。

 

 それこそ大手動画配信サイトで流行ったユーチューバーのように、発展した技術によってタケノコのように湧いて出て来た。

 それにビジネスチャンスを見出したのは日本の大手動画配信サイトだ。

 そのサイトは【翻訳】のダンジョンスキルを持つ者を雇用し、世界のどの言語でも閲覧可能にし、配信環境を整えた。

 

 ダンジョン内では普通に死人も出るし閲覧注意! なことも起こるのでR18サイトとして作ったが、それでも中抜きで結構な額を設けられた。

 

 結果──日本でダンジョンライバー、略してダンライバーが流行った。

 それこそ企業勢や個人勢が蛆のように湧いてくるぐらいには。

 

 そんな新宿ダンジョンを狩場にしている二年目のダンライバー、芸名斬姫ルナ(ざんきるな)、本名桐生莉子(きりゅうりこ)は危機に陥っていた。

 

 染めている金髪に黒目。身長は百六十センチほど。どこか清楚なお嬢様を想起させる容姿をしている。

 

 相対するは三メートルほどの人型から少し外れたモンスター、ミノタウロスだ。

 牛の頭に牛の足。人の胴体と手を持ち、両手でバトルアックスを持つ強力なモンスターである。

 ダンジョンではこういったモンスターが出現する。壁や地面からポコッと湧いて出てくるのだ。

 

 そしてダンジョンは超常渦巻く世界であり、人の法則など通じない。

 勿論ある程度の法則性はある。例えばどこそこのダンジョンにはこういったモンスターがこうして配置されている、などだ。

 だがそれでもそれはある程度であり、完全にそうである訳ではない。例外はいつだって起こる。

 

 このミノタウロスもそう言った例外の一体で、本来なら最下層のボスモンスターのはずだ。

 莉子はダンジョンに潜って二年目で戦闘力も高い。ダンジョンスキルを持たない悪漢なら何人束になろうと皆殺しにされるだろう。

 だがダンジョンは魔境である。悪漢を何人打倒せても強力な個は倒せない。

 

 莉子が持つダンジョンスキル、【切断】は名の通り斬る事が可能なスキルだ。

 目と目があった相手を斬る、指先で空をなぞる事でその空間に居る相手を斬る、あるいはノーモーションで斬るなど斬撃系能力である。

 莉子はそれを鍛え、並みの相手ならサイコロ状に切り刻む事で倒してきた若手の中でも有力なダンライバーである。

 

 しかしそんな莉子でも、勝てない相手は居る。

 まだまだダンジョンスキルは鍛えている途中で、概念を斬るなんて芸当はまだできない──ダンジョンスキルはどんなスキルでも可能性があるので鍛え続ければいずれ出来るだろう。

 だからこそ、このダンジョンのボスとでもいうべき怪物を相手に莉子は必死に切断を使っているが、薄皮一枚すら切れていなかった。

 

 ・あかんこれじゃシヌゥ! 

 ・ミノッち強すぎて草

 ・マジで死にそう

 

 ダンジョン配信は金になる。その大きな理由は二つ。

 一つはダンジョンという命の危機があるが美しく綺麗なところを己の命を危険に晒さず見れるというところ。

 もう一つはいつだって人間が無様に死ぬ様は愉快で笑えるのである。中世の処刑や闘技場が流行ったように。

 

 故に莉子は多数の視聴者──三千人ほどの視聴者数を持っていた。

 

 ・もうこれは駄目かもしれんね

 

 コメントが読み上げられていく。

 この配信をしている機械は円卓の一人、【制作】のダンジョンスキルを持った者が作り出した道具だ。

 これによりダンジョン内のモンスターを瞬時に解体するナイフや容量がバカでかいバッグ、球体上の配信ツールなどが作られている。

 

「まだ死なんわぁ!」

 

 そう莉子は叫びながらダンジョンスキルを使うも、カスダメージすら通っていなかった。

 このままではミノタウロスに莉子がぐちゃっとひき肉にされるだろう。

 視聴者の四割はそれを望み、二割は助かって欲しいと祈り、残る四割はお悔やみ申し上げますと既に死んだことにしていた。

 

 そこに異様な雰囲気の者が現れた。

 

 

 ミノタウロスと莉子。両者が十字路の曲がった先に視線を向けた。

 

「カァァァァァァァアアァァアハァァァァァア」

 

 そう声を漏らすのは異形だ。

 左手は腐り落ちている。腹は肋骨が突き出ている。

 頭部の顎はボトリと落ち。黒い灰となって消えていく。

 

 全身スタボロで、無事な箇所などない異形の人型──魔神ディノクが現れた。

 

 本来、魔神ディノクは世界を渡る能力を持つ。

 故に世界同士の移動など苦にならないはずだが、事情があった。

 ディノクは世界を完全に滅ぼす──宇宙そのものを消し去る為に魔術的儀式をしており、存在としての核を消費していた。

 実に九割型能力が落ちていたのだ。

 更に本来世界を渡る際は専用の権能を使う。それも無しに世界を渡るというのは生身で成層圏から地球に降りるのと同じ、自殺行為だ。

 だからディノクも相応に傷を負った。自身が弱体化してる上世界を強制的に渡らされたが故の消耗だ。

 

 だが──死には程遠い。

 魔神の持つ権能に不死に近い再生能力がある。

 肉体が全損しても一秒あれば全快し、たとえ魂が傷つけられても再生できる強力な不死性である。だから死にはしない。

 

 だから徐々に再生して行っている。

 

 ディノクは口に魔力を貯めた。

 そのことから莉子は次に何をするのか察し、即座にローリングしてその場を離れた。

 それは正解だった。

 

 本来の魔神の閃光の一パーセントにも満たないあまりにも弱すぎレーザー砲が放たれ、ミノタウロスを蒸発させた。

 

「ひぇぇぇえ……」

 

 ギリギリ躱せた莉子は己がどうやっても傷一つつかなかった相手を一瞬で文字通りに消し飛ばした相手に恐怖した。

 

 ・なんやこの化け物

 ・人型のモンスターでこんなの居たか? 

 

 コメント欄も謎の大盛り上がりを見せる。

 ミノタウロスに殺されるかと思ったら謎の人型に殺されるかもしれないのだ。悲惨な死を望む視聴者からすれば映えになるのである。

 

 だが、ディノクは正気を取り戻した。

 

 片足を無意味に地面に突き刺したかと思うとディノクの能力の一つ、無限の魔力をもってして再生能力を爆発的に高める。

 それにより一秒とかからず全身が再生された。

 儀式で失っていた物も取り戻し惑星破壊すら余裕の怪物として復活を果たした。

 

「あー? あ? どこだここ」

 

 ディノクは首を振りながら考えた。

 そして、当然近くにいる会話が通じそうな存在──莉子に近づく。

 

「ひぃい?! こ、来ないで欲しいっす!」

 

 そう莉子は叫んだ。

 そのことにディノクは若干悲しそうな顔をした。魔神として二百年以上生きて居るが、それでも女性からの拒絶は元一般人として心に来るのである。

 だから大人しく止まった。

 

「あー、ならここで止まる。そして俺の質問に答えて欲しいんだが……」

 

 ディノクは両手を上げ無害アピールしながら問いかけた。

 

「そ、その前に、あなたモンスターす……か? それともワーカー? 人なんすか?」

 

 莉子は思ったよりしたたかに問いかけた。

 その問いにディノクは少し考えてから答えた。

 

「俺はディノク。魔神だ。人間じゃないが、モンスターでもない」

 

 ディノク──不破泰二は魔神に喰われた。

 異世界で自身を召喚した国を得た力で滅ぼした後、そのことを危惧した天界の神──魔神が不破に接触したのだ。

 そして魔神は不破の持つ力を欲し、取り込もうとした。神の魂なら人の魂を押しつぶし、その能力だけ得られるだろうと。

 だが──不破は逆に侵食し返したのだ。

 己を取り込もうとした魔神を逆に喰らい取り込み、新たな魔神として顕現したのである。

 故にこそ魔神であり、既に人ではない。

 

「そ、そうですか……? えぇと、じゃあ……どうするっす?」

 

 莉子はそう怯えながら立ち上がり問いかけた。

 

「……そうだな……」

 

 ディノクは考える。

 魔神の権能に世界を渡る能力がある。故に自身を追放した世界に戻るのは理論上は可能だ。

 理論上は、と言ったようにディノクが居た世界が世界そのものに隠密系の術をかけたり、他世界からの干渉を防ぐ結界を張るなどしていた場合魔神でも干渉が難しくなる。

 故に今すぐ異世界に戻ってそこを滅ぼす、というのは現実的ではない。

 

「街か何かに案内してくれ。そこで生活基盤を整えるから」

「……えぇと、あなたは魔神で、人ではない……ですよね。だと戸籍とかあるんすか?」

 

 戸籍、という言葉にディノクは目を点にして驚いた。

 こんなあからさまな迷宮がある世界に戸籍制度があるとは思っていなかったのだ。

 

「……まぁ、無いが。戸籍がないと生きていけないのか?」

「そりゃ生きていけないですよ。法治国家で戸籍が無いって、不法入国の外国人と同じで強制送還されますし……」

「そ、そうか……うぅむ。だとするとどうするかな」

 

 ディノクはこの世界に対し好感も悪感情も抱いていない。

 だから積極的に攻撃するつもりはなく、ある程度は──己を害そうとしない限りは──この世界の条理に従ってやろうという気概がある。

 だから不法滞在の外国人として強制送還されるとなると困る。

 今のディノクに知る術はないが、強制送還先の居た異世界には現状行けないし。

 

「あー、けど……ダンジョン難民ってことにすれば、どうにかなるかもす」

「ダンジョン難民?」

「はい。ダンジョンが出来た時に気づかずダンジョンに入っちゃった人や、ダンジョンに変わったことで中に取り込まれちゃった人とかをそう呼んでます。一応判定的にはそれになるかなーて」

 

 ダンジョンは突如として現れる。

 周辺環境を侵食し改変してくるので、例えばそこが住宅地の場合そこに居た一般市民がダンジョン内に取り残されるのだ。

 そのままダンジョンスキルに目覚めどうにか生きて行き、脱出したら一年以上経っていた、というのは何人かいる。

 

「なるほど……まぁ、無理そうならどうにかするとしよう」

 

 最悪暴力を振るえばどうにかなる、とディノクは考えた。思考放棄とも言う。

 

「それじゃあ……まずは自己紹介をしよう。俺はディノク。お前の名は?」

「あ、私は──斬姫ルナ(ざんきるな)です、よろしくお願いします、ディノクさん」

 

 そうして二人は握手をした。

 

「あ、配信切るの忘れてた! こ、ここまでにします!」

 

 若干締まらなかった。

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