異世界から帰ってきた魔神ですが、ダンジョン攻略を始めます 作:Revak
五月三日。
朝の九時にディノクは日本最難関のダンジョン、北海道札幌市のダンジョンに来ていた。
前日にフロンティアの新人ダンライバーとしてのツイートはしている。
そのツイートはバズった。
いいね二万。リポスト五千という大バズりだ。
ディノクは怖くて眠れなくなった。魔神に睡眠は不要なので寝なくても問題はないが。
ディノクは札幌ダンジョンの第一層のセーフエリア、モンスターが湧かず基本入ってこない部屋に居た。
そしてついにフロンティア所属ダンライバーとして初配信が始まった。
「えー、どうも。ダンライバーのディノクだ。よろしく、配下共」
配下というのは視聴者の事だ。たまに配信者は視聴者にオリジナルの呼び方を付ける。リスナーとか。
・こん
・エッッッ
・エッチコンロ点火! エチチチチチボッ!
・胸でっか!
・長身ドスケベ褐色おねぇさん?! 実在したというのか?!
コメントが凄い勢いで流れていく。
コメントは配信用ドローンが取捨選択して読み上げる。最も多いコメントが選ばれるのだ。
これがコメント欄を実際に見るなどならディノクの動体視力で全て読むことが可能だろうが、ダンジョン内の配信で画面なんて見てると普通に死ぬのでそれは出来ない。
視聴者数は三千人程。非常に多い。
これは前日のツイートでフル装備ディノクの写真でツイートしたのがバズったのが原因だろう。
後は新人という事で注目を集めている。
「ドスケベは否定させてもらう。いやまぁ体がエロいのはそうだがエッチな事はしたことないぞ」
事実だ。ディノクは女の体で自慰行為などはしたことがない。怖くて出来ないのである。そもそもやり方がわからないというのもあったが。
・無知無知エロボディ……てこと?!
・心の沈歩が勃起する
・パンツ脱いだ
「パンツは履け。と、いう訳でこのダンジョン、札幌ダンジョンを今日は攻略するぞー」
・札幌ダンジョンてあの、日本最難関ダンジョンなんですがそれは
・配信しながら攻略てそれは"死"ぞ
・おっ新人いきなり死亡配信とはツウだねぇ
「いや死なんが。俺は滅茶苦茶強いからな。戦闘力は円卓と同等か、それ以上だと自負している」
・思い上がりか~?
・円卓と同等とか嘘乙
・あのレベルに人間が成れる訳ないんだよなぁ
・いやあながち嘘ともいえんぞ。この人名古屋のダンジョン攻略してるし
・名古屋ダンジョンってまだ二十層しかないやつ?
・いやこの前最奥まで攻略されたって聞いたけど
「おう、俺が攻略した。ボスドロップ二千万したぞ」
・まぁボスドロップならそれぐらいいくわな
・ダンジョン攻略だけでも食っていけそうなのに何故配信を?
「ん、まぁダンライバーが楽しそうだし、知名度上がれば社会的地位にもなるかと思ってな」
・なるへそ
・実際ダンライバーがトーク番組出たりしてるしな
・ワーカー一本でも食っていけるけど社会的な地位はどうなのって言われると鉱山労働者並みの地位だからなぁ
「という訳でいくぞーでっででででで」
・あかん(あかん)
そしてディノクは部屋を出た。
札幌ダンジョンは十層まで攻略されているダンジョンだ。
その第一層から第十層までは氷の迷宮である。
床も天井も全て氷で出来た通路で洞窟の用である。
当然灯りなどないため灯りは持参しないといけない。
だがディノクは暗視の権能を持つため光通さぬ暗闇だろうと昼間のように見通せるため灯りは無くていい。
だがそれだと配信が真っ暗になるので魔法で灯りを付けていた。
「さて、このダンジョンに出るモンスターは現在三体。アイスウルフ、アイスゴーレム、氷の生霊だ。どれも俺の敵じゃないな」
・一人称俺とかええわぁ~
・凄い自信家やなw
・この女が無様に負けるところを見てみたい
「残念だったな、それは叶わん……まだ敵影ないから雑談しようか。俺のダンジョンスキルは【全意思疎通】どんな相手からでも意思を受け取れるし意思を伝えられるスキルだ」
・翻訳系スキルか
・ダンライバーなるより翻訳家の方がよかったのでは
・翻訳系スキルでどうやって戦うんだ?
「まぁそこは見てのお楽しみ……と、来たな」
氷の通路の奥には体が氷で出来た狼、アイスウルフが二体居た。
「んじゃ俺のスキルを見せよう──"死ね"」
死の意思を伝える事で相手にそれを強制させる。それがディノクのダンジョンスキルだ。
それによりアイスウルフ二体は死んだ。
・ひぇ
・実質即死魔法やんけ!
・回避不能ノーコスト即死とかつヨ
「んじゃあこの調子でサクサクいこうか」
そうしてディノクは死体を放置して先に進む。
この札幌ダンジョンは最難関ダンジョンであると同時に、旨味が無いダンジョンだ。
出てくるモンスターはどれも氷モチーフなので死ぬとただの氷に戻る。
そのため素材としての旨味が無いのである。
更にモンスターたちも普通に強い。
この世界のダンジョンに宝箱なんていう物は現在見つかってないので宝さがしも出来ないという旨味ゼロダンジョンである。
だがそれでもダンジョン組合が潰さず残しているのは実力試しにはちょうどいいからだ。
少し進むと広間に出た。モンスターハウスだ!
・あかんこれじゃシヌゥ!
・この数は流石に無理か?
視界一杯に広がるのは異形の群れだ。
氷の岩が複数集まり人型になったアイスゴーレム。氷の狼アイスウルフ。浮遊霊の用に上半身だけの氷の生霊だ。
「よし、今度は素手でやろう」
・この数相手にダンジョンスキル縛りとか正気か?
ディノクのダンジョンスキルには一つ欠点がある。
碌に鍛えてないからゆえの欠点で、それは格上や同格相手には攻撃性能が一切発揮されない、という物だ。
故に格下相手には無双の強さを誇るが格上相手にダンジョンスキル何の役にも立たない。
「まぁ見てろ──鏖殺だ」
ドン、と地を蹴り疾走。
そのままアイスゴーレムの腹をぶん殴り爆散させた。
当然能力は意図的に下げている。本気で走ればこのダンジョン自体ぶっ壊れるからだ。
最新鋭のドローンで映像に映る程度まで弱めての行動だ。
そのまま迫りくるモンスターの群れ相手にディノクは殴る蹴るで鏖殺していく。
時折生きたままモンスターをぶん回し鈍器代わりにして攻撃もし、五分経たず百体以上いたモンスターは殲滅された。
・つっよ
・なまいってすんませんした!
「うし、じゃあこのまま最奥まで行くぞ」
■
二時間後。
ディノクは百五十層まで降りていた。
ダッシュで進み分岐路は全て正解のルートだけを選ぶ事でここまで降りて来たのだ。
「ん」
百五十層は雪原だった。特にこれと言った特徴もない雪原である。
しいて言えば──視界を埋め尽くすほどのモンスターの群れが居た。
・モンスターフロアやんけ!
・知ってるのかライデン?!
・モンスターフロアはモンスターしかいない階層で全てのモンスターを倒さないと戻ることも進むことも出来ん!
・つまりは?
・死
「いや死なんが……この程度の雑魚の群れ、どうとでも出来る──そのこと如くを殲滅してやろう」
ディノクは好戦的な笑みを浮かべた。
・ひぇ
・女子がしていい顔じゃない
「行くぞ──鏖殺だ」
そしてディノクはモンスターの群れに突撃した。
モンスターの数は千を超える。
アイスゴーレムやアイスウルフの上位種など上層の変異個体からフロスト・トロールや強化されたホッキョクグマ、サーベルタイガーなんてのも居る。
その種類は数十種類に及ぶ。
近くのフロスト・トロールの腹をぶん殴って消し飛ばし、背後から迫るフロストジャイアントを振り向きざまに蹴りを入れて吹き飛ばす。
そのまま手ごろなモンスターに接近しては殴り蹴ってヘドバンして消し飛ばして行く。
このモンスターたちも弱くはない。日本最難関と呼ばれるダンジョンなだけあって冒険者の上位層とタイマン張れるレベルだ。下手なダンジョンのボスレベルであり、名古屋ダンジョンのボスと同程度はあるだろう。
数でかかれば上位の冒険者でも死ぬだろう。
だがディノクには関係ない。所詮は星に影響を与えることも出来ない雑兵の群れにしか過ぎないのだ。
例え群れではなく軍として行動していたとしても結果は同じだろう。
何せ星の爆発にすら余裕で耐える防御力に大陸すら余裕で砕く攻撃力を併せ持っているのだ。
手加減したとて星や大陸に影響を与えれぬ程度のモンスターではディノクは傷一つつかない。
・無双ゲーやんけこれ
・グロ注意やな
・敵がバッタバッタと死んでくのおもしれーわw
・数の暴力を上回る個ってファンタジーじゃなくなったんやなって
現実──ダンジョン出現前ではどんな達人であっても武装した男五人には勝てない。数と武器とはそれだけ強力なのだ。
だが世界はファンタジーに変わった。強力な個は戦局を一人で変える存在なのだ。
そして十分も経たず千六百体居たモンスターは全て死んだ。
「……これ素材回収無理だな」
モンスターの中には素材が取れる者も居たが、そんなの関係ねぇとばかりに暴れた結果死体がぐちゃぐちゃになって回収出来なくなった。
異世界時代は素材の回収なんて一切してなかったので意識から抜け落ちていたのだ。
・まぁ手加減する余裕がなかったって事で
・いや余裕ありまくりだろ。ノーダメージだし
・ディノクさん最上位層以上に強くね?
「まぁ嘆いても仕方なし。このまま最奥まで行くぞー」
■
三時間後。
ディノクは札幌ダンジョンの最奥──二百階層まで来ていた。
最奥は雪原になっており、その中央には最強格のモンスターの一角、竜が居た。
・アイエエエエドラゴンドラゴンなんで?!
・最強種出てて草
・これは流石に死んだか?
竜はどちらかというと蛇に近い姿をしていた。
鱗の色は青白く美しさを感じさせる。
竜らしく翼を持ち、手足も当然ある。
全長二十メートルほどの巨大な竜であった。
「でかいな」
ディノクは呼吸をしていない。そのため息は白くなかった。
竜がディノクを睨み、口に魔力を貯めた。
・あかんブレス来る!
・これ"死"ぞ
「問題ない──"魔神の防壁"」
数少ないダンジョンスキルとの合わせ技の魔法だ。
魔法に名という意思を与える事でその効果を強める使い方だ。
ディノクの前に夜の闇より暗い丸い大きな盾が生成された。
ドラゴンブレス──氷の吐息が盾によって防がれる。
ドローンも盾の背後にあるので当然防げる。
・ドラゴンブレスやべぇぇぇ
・見る感じクソつよドラゴンのブレス難なく防ぐ魔法とかヤバ
・魔法も鍛えればこんぐらいの事出来るんやなー
普通の人間にはまず鍛えても無理だ。
と言っても普通の、と言ったように千年に一人の天才レベルが馬鹿みたいに魔力を持っていれば可能だろうが、実質それは不可能に近い。
ディノクは魔神と名のつくだけあって魔法関連の技能は非常に高いのである。
「今度はこっちだ」
そういうとディノクは防壁を消し、突撃した。
カメラにすら映らない超スピード。
だが竜はそれに対応してきた。
この竜は上位の竜だ。単独で国一つ凍土に変えれるような竜である。
故にこそ対応でき、腕をクロスさせ防御の構えを取り、魔法で防御力を上げ障壁を張り防御の構えを取った。
「ふん!」
ディノクがその防御の上から一発殴った──それだけで竜は死んだ。
上半身が消し飛び、下半身がドさりと倒れ落ちた。
・つっよ
・ドラゴンって上位モンスターの一角なのにそれワンパンとかマジ?
・ワンパンマンかよ
「うし、ダンジョンボス倒したしこれでクリアだな」
竜の死体が一つに固まっていく。
そして溶けて行き、一つの氷で出来た剣に変わった。
「おぉ、結構強そうな剣だな」
・ダンジョンボスのドロップはこうなるのか
・これで最低でも一千万とかヤバいな
・これだけのダンジョンクリアで一千万は逆に少なくね?
「まぁ俺は既に武器持ってるからこれは売るとして……能力は、と。おぉ、強いな」
看破の魔眼で見るとこの剣には時間停止能力があるとわかった。
だがディノクには効かないし、何なら自力で時間停止ぐらいできる。時間操作に対する耐性を持つのはラスボスの常識だ。
「んじゃあ、ダンジョンクリアしたしここまで! 長時間の視聴ありがとうな!」
・乙
・面白かった
・まさか初配信で最難関ダンジョンクリアとは思わんかったわ
・おつしたー!
こうして企業勢としての初配信は平和に終わったのであった。