異世界から帰ってきた魔神ですが、ダンジョン攻略を始めます 作:Revak
数日後。
ディノクはダンジョン組合本部に呼び出されていた。
本部の客室でコーヒーを飲みながら本部長のディと話す。
「んで話ってなんだ?」
「うん。実はね……アメリカの方できな臭い動きがあるんだけど、知ってる?」
「いや知らんが。俺は一介のに──ンンッ。ワーカーだぞ。そんな政治的な事知る訳ないだろ」
「……異世界帰りの魔神をただのワーカー扱いは出来ないよ。まぁ、ともかく問題が起こりそうなんだけど……その原因が、ダンジョン組合が軽視されてきてることにある」
「お前らを軽視? よくもまぁできるな」
ダンジョンが出現した五年前の二千二十五年。
その時はロシアとウクライナで戦争していた。
そして当然、ダンジョンに入るだけで手に入る超能力を手し、ロシアとウクライナは自国の戦争を有利に進めようとし──ダンジョン組合に吹っ飛ばされた。
吹っ飛ばしたのは円卓の一人魔王ディアブロだ。
ダンジョン組合はダンジョンスキルを使った侵略、戦争は止める立場にある。
それこそ相手国を物理的に消し飛ばしてでも戦争を阻止というか無くす。
だが、ダンジョンスキルをある程度使わない戦争には関わらない。
ある程度、と言ったのは自国の発展──それこそエネルギーや技術発展をダンジョンスキルでする分には放置する。
だが戦場で直接補給系やバフ系のダンジョンスキルを使うのは阻止してくるなど、面倒な組織である。
しかしダンジョンスキルを使わないのならそれこそ核を使おうが干渉しない。
それゆえロシアはダンジョンスキルを禁止し再度ウクライナへ侵略しているが、そのことにはダンジョン組合は何も言わないししない。
「ただね。アメリカがダンジョンスキルを手にして世界を手にしよう──そんな動きがある」
「ふぅん。ならぶっ飛ばして終わりだろ」
ディノクは茶菓子のクッキーをかじりながら言った。
「単純に国を亡ぼすだけなら一日あれば出来る。だけどそれだと関係のない人たちまで不幸になる。それは私達の望むところではない。故に示威行為を行おうと思ってね。そのために協力して欲しい」
「……強力ねぇ、報酬次第だな」
「報酬は厳禁一括五千万円でどう?」
その大金を聞いてディノクは口からコーヒーを拭いた。
まだギリ庶民的感覚なのでそんな大金を手にすると思っていないのである。
「ンン……まぁ、それぐらいなら妥当か。いいぜ、受けてやる……んで内容は?」
「うちの円卓の一人──【呪い】の禍津と戦ってもらう」
「戦うだけでいいのか?」
「あぁ。今回は戦闘を全世界に公開することでダンジョン組合の強さを示すんだ」
「それなら身内で完結させた方が余計な出費ないんじゃないか?」
「いや。それだとやらせだとか言われるからね。外ざまと戦う必要がある。そして、強さを見せつけるのなら相手にも相応の強さがないと駄目だ。だから君に頼むんだ。泰葉君」
「ディノクって呼んでくれ……まぁそれなら納得だ。いつやる?」
「来週の日曜──六月二日にカルフォルニアの荒野で戦ってもらう。これは全世界同時中継かつ、ネット配信もする。と言っても君のチャンネルで配信は出来ないが……動画のアップロードは出来る。此方で編集したのを後で渡そう」
「わかった。んじゃあアメリカ行くか……まずはパスポート作らないとな」
「そう思って既に作ってある」
「……お前らの権力凄いな」
■
そして六月二日当日。
カリフォルニアのある荒野でディノクは異形と対峙していた。
そして既にテレビ中継されている。
これは円卓の一人【翻訳】が全世界同時翻訳中継しているので誰でも言葉がわかる。
撮影しているのは不壊の特性を持つ超スピード撮影可能撮影ドローンだ。形は配信用ドローンそのままである。
これもカメラ性能がクソ高くマッハ百まで通常通り撮影可能なカメラである。
「あんたが禍津か。今日はよろしく頼む」
「あぁ。よろしく」
禍津は異形の男だ。
身長は二メートル。上半身裸の格好をしている。
というのも脇の下にもう一対腕が生えている為普通の服を着れないからだ。
眼の下にももう一対目があり四つ目になっている。
腹には口が付いている。体の所々には鱗が生えているという四つ腕四つ目の異形だ。
これは禍津の種族が異形種──という訳ではなくダンジョンスキルによる物だ。
禍津のダンジョンスキルは【呪い】あらゆる呪いのスペシャリストだ。
故に自分自身を呪い、異形の怪物へと変える事で本体の戦闘力を底上げしたのである。
そのほかにも【不老不死】や【正気】などの呪いを自身にかけている。
「それじゃあ、やろうか──クク。この俺がチャレンジャーになるとはな」
そうニヤリと禍津は笑みを浮かべた。
「あぁ。かかってこい、人間。もてあそんでやろう」
ディノクも異世界時代の感覚でロールした。
瞬間、禍津の足元が爆発し禍津は超スピード──マッハ三で走った。
これは足元で爆破魔法を使うことによる高速移動だ。
初速からマッハ三。駆け出せば最終的にはマッハ五にまで達する。
ディノクにとってみれば遅すぎる速度だ。
ディノクは右手で禍津の殴打を防いだ。
禍津が四つ腕で殴りまくる。
それをディノクは最小の動きで回避する。
ソニックブーム、拳の余波で地面が抉れていく。
拳もまた当然音速を優に超えている。人間のこぶし大の物でも音速を乞えれば周囲に被害を出す。
ディノクは回避し続け──禍津が距離を取った。
そして不可視の斬撃を放つ。
これもまた【呪い】の力だ。
己に異能を与える呪いだ。
ダンジョンスキルは己の理解と拡大解釈によって幾らでも能力を変える。
例えば【疫病神】のスキルだ。
ある者は自分自身を疫病神にしあらゆる疫病を己に与えた。
ある者は他者を疫病神にし、相手を呪った──という二通りの使い方が出来る。
それは使用者側の理解と拡大解釈によって使い方が変わってくるのである。
故呪いと言っても使用者である禍津の理解と拡大解釈によっては『いやそれは呪いではないだろ』みたいな使い方が出来るのである。
不可視。だが確実にそこにはある。
だからディノクは確認できる──だがあえてノーガードを選択した。
斬撃が当たる。だが、ディノク本体にダメージはない。
代わりに服が破けた。
この服も材木の代物で非常に強度が高い。核に当たっても無事でいられるぐらいには。
それほどの服を斬り裂いた──その時点で禍津の力が非常に高いとわかる。
「今度はこちらから行こう」
そう言ってディノクは地面を蹴って移動した。
魔法の爆破だとかそういう個細工は一切使わない。
ただそれだけで禍津に匹敵するスピードを叩き出す。
勿論これも手加減している速度だ。本気を出せばマッハ八十万──光に近い速度で走れるがゆえに。
禍津も駆け出し途中で衝突。拳同士がぶつかり合う。
互いにノーガード戦法。禍津にダメージが蓄積していく。
だが悲しいかな。ディノクは格が違う。禍津の打撃は一切の痛痒を与えずカスダメージすら与えない。
禍津は下の口を開き、魔力によるレーザー砲を放った。
ダメージ量よりもノックバックに重きを置いたレーザーはディノクを吹っ飛ばした。
禍津は空を数度蹴り空へと上がる。
そして四つの腕に青紫色の槍を生成し、ディノクに向かって放った。
着弾──と同時に大爆発を起こす。
それこそ小さな街なら一発で消し飛ぶ爆破だ。
しかも一度ではない。何度も槍を形成し百近く放つ。
何度も続く爆炎の中から翼を生やしたディノクが飛翔した。
空中でもディノクに槍を当て爆破させるが、それでもディノクは止まらない。
ディノクが殴り掛かる──が禍津は槍で防いだ。この槍は攻防一体なのだ。特に名などはないが。
槍と四本腕というリーチで攻撃し、ディノクの服を削っていく。
だがディノク本体には一切のダメージが無い。
ディノクは更に拳で殴打を入れるも、それも全力で手加減している。
ほんの少しでも本気なら一撃で消し飛んでいるからだ。
「チッ!」
禍津が舌打ちをし、自身を中心に大爆発を起こした。
槍による爆発よりもさらに大きい爆発だ。
これで両者距離をとった。
「「来い、駒共」」
互いの台詞が被った。
お互いの背後から異形の軍勢が産み出される。
片方は呪いの力で。片方は魔神の権能で生み出された異形だ。
その数は優に千を超え──それらは衝突し合った。
ディノクと禍津は空に浮かび、魔法合戦を行う。
あらゆる属性魔法が放たれる。
炎、闇、水、銀、光、風などだ。
空中で相殺し合うが、幾つかは抜けてディノクや禍津に着弾する。
禍津はそれでダメージを受けるがディノクは受けなかった。
禍津が空を蹴りながらディノクに急接近──したかと思えば消えた。
背後からディノクは殴られ、吹っ飛ばされた。わざとだ。
そして空中で回転し禍津を迎え撃つ。
再度四本腕によるラッシュが始まる。ディノクは拳で迎撃する。
余波で地上の異形たちが消し飛んで行った。
「カァッ!」
ディノクが口を開け魔力砲を放った。魔力弾が禍津に命中し爆散する。
「なんのぉ!」
禍津は皮膚の表面が焼けただれるも不死の力で再生させ攻撃を辞めない。
禍津が下の手でディノクの足を掴んだ。
そのまま地面に放り投げると同時に上からダブルスレッジハンマーを放ち、地面へ叩き落とす。
追撃せんと禍津が地上に向かって飛ぶ。
地面に落下しクレーターを残したディノクに向かってパンチを放った。
ディノクは禍津の殴り掛かった右の上の手を掴み。ねじ切った。
だが禍津は痛覚を感じていないかのように残る手で殴打を追加し、再生を始める。
地面が更に陥没していく。
「煩わしい!」
ディノクが漆黒の魔力を放ち周囲を吹き飛ばした。
禍津も吹き飛ばされるも空を蹴って移動し距離を取る。
その瞬間にディノクが急接近し顔面をぶん殴り吹き飛ばした。
吹っ飛んで行く禍津の背後にディノクは回り、かかと落としで禍津を地面に叩きとおす。
急降下し、ディノクは拳を禍津に突き立て──禍津の姿が消えた。
誰も居ない地面に向かってディノクは拳を放ち、超が付くほど巨大なクレーターを形成した。
「ちっ。どこに──」
「後ろだよ!」
いつの間にかディノクの背後に居た禍津が下の手でディノクの腰を掴み、そのままジャーマンスープレックスを放った。
背後の地面にディノクが陥没する。
しかしすぐさまディノクが起き上がり、禍津に向かって格闘戦を披露する。
殴打。締め技、回避など多種多様な技を披露していく。
だが相手は四本腕。締め技などはうまく決まらずそれどころかカウンターを受けてしまう。
ディノクは舌打ちと共に距離を取り、右手を突き出した。禍津もまた右の上の手を突き出す。
「"魔神の閃光"」
「呪いの波動」
多種多様な呪い──単純な衰弱などの弱体化から命を奪い殺し踏みにじる呪いが混じった黒い閃光が放たれる。
ディノクはそう言った特殊効果は一切ない単なる魔力によるレーザー砲だ。それが空中でぶつかりせめぎ合う。
数秒の拮抗の末、勝ったのは禍津の波動だ。
禍津の波動がディノクの身体を被う──しかしその呪いは届かない。
単純に格上過ぎてデバフが通じないのだ。こういったデバフは同格か格下にしか通じない。故圧倒的格上であるディノクには一切の効果を発揮しなかったのだ。
戦闘は続く──